Prologue 「こうやって世界は巡る」
──冬の夜……寒空の下、いくつもの鉄音が響いている。世界の命運を託された戦士たちが行進する音だ。
「……どうした、足が震えてるぜアイン」
「へっ、寒いからだ……それ以上でも、以下でもねぇよ」
「ははは! 異形相手に足がすくんでいては、シュトラール家の恥だからな!」
俺はアイン・シュトラール。横を歩いている大柄で色黒の男はディラン。共に故郷であるヘスラック村で生まれた、幼馴染だ。村長の1人息子である俺と、優秀な狩人の息子であるディランは勇者に憧れ、幼いころから共に鍛錬をし、今日……勇者隊としてここに立つ。
この日まで……剣を振り、時には喧嘩し、競い合ってきた仲間だ。ああ、大丈夫だ……俺たちなら、勝てる。 右手に出来た硬い瘤や、身体に刻まれた無数の切り傷は、厳しい訓練を乗り越えた証。あの苦しみも痛みも、今は背中を押してくれるような気がした。
「──全員、止まれっ! 顕現の予兆が出ている……戦闘準備ッ!」
指揮官の1人から勇者隊に号令がかかり、武器を構えてその時を待つ。頭上を見ると、空に浮かぶ月は太陽と同化し、赤く不気味な光を放ちながら一面を暗い闇へ落とす……皆既月食になっていた。 この世界、ミズガルズでは一年に一度、皆既月食が起こり……巨大な樹、世界樹の麓に「奴ら」が現れる。
この戦争を終末戦争と呼び、そこで異形と戦う俺たち戦士が……勇者隊だ!
暗い大地を戦士たちが松明を掲げて照らし出す。これは勇者たちが上げた……戦いの狼煙!
揺らめく火は戦士たちの闘志。世界を護り、平和な世をもたらすため……俺たち勇者隊は命を賭けて戦う!
「おいアイン、せっかく化物討伐が始まるんだ。どっちが多く倒せるか競い合おうぜ!」
「そりゃあ面白そうだな! 俺が勝ったら、フィリアを嫁に貰うけどいいか!」
「オレの大事な妹を嫁にもらうだなんて、100年早ぇな! まぁ、本当にオレに勝てるなら考えてやらんこともないがな!」
──突如、地面がぐらりと大きく揺れ、正面に巨大な扉が大地から生えるように現れる。 精巧な銀細工が施された、異界と現世を繋ぐゲートの両扉が開き、そこから「奴ら」が姿を現す!
「──天使だっ! まずは歩行型から仕留めるぞっ! 勇者隊、前進開始っ!」
──天界から侵攻する、この白き銅像のような異形を……天使と呼ぶ。目的や正体も不明で、謎多きこの異形をこの目で見るのは初めてだった。白い体表を持ち、歩行型と呼ばれる人間より少し小さい異形がカタカタと音を鳴らしながら、巨大な口で威嚇をしている。1つだけ理解しているのが、こいつらを野放しにすると大地が白化し、生物が死に絶えるということだけ。この異形を止められるのは、俺たち勇者隊しかいない。
数は……ざっと見積もっても50体はいるだろうか。手足の震えが強くなり、持つ剣を落としそうになる。……故郷や仲間のことを思い、心を奮い立たせて踏みとどまる!
「──全軍、開戦っ!」
──戦士たちが雄たけびを上げながら冬の草原を駆ける。異形を前に、恐怖を抱いているのか少しの静寂がこの場を支配したあと……それを破ったのはディランだった。
「先に行くぞ、アインッ!」
「なっ、ディラン!?」
大柄な男が、大地を蹴って前へ出る! 自分の背丈ほどある巨大な幅広の大剣を引きずりながら、誰よりも速く飛び出していった!? 俺はディランに負けじと走り、ついていく!
──段々と天使どもへ近づく。奴らの目は黒く染まり、大きな口には鋭利な牙が無数に生えている。恐怖に抗え、迷いを捨てろアインッ……ここは戦場だ、迷ったら死ぬ!
あの辛かった訓練を思い出せ! 大丈夫、こいつらは歩行型。街道や迷宮で出現する魔物と何ら変わらない程度の小物じゃないか!
「とおおぉぉりゃあああぁっ!」
筋骨隆々の戦士であるディランが1匹の天使に向かって、目いっぱい大剣を振り下ろした!
「──えっ?」
彼の大剣をもろに身体に叩き込まれた歩行型の1体は……白い石像の身体に少しヒビが入っただけで、ほとんどダメージを与えられていなかった。そんな……そんなわけないだろ!? 仮にも勇者隊一の筋力を誇る、ディランの全力だぞ!?
「……は?」
「ディ……ディラアアァァン!」
────これが夢であればどれほど良かっただろうか。攻撃を受けた天使は、巨大な口でディランの左肩に噛みつき……そのまま左腕ごと喰いちぎられたディランは……意識を失って後ろに倒れた。
「この……バケモンガアアアァァ!!」
全力で片手剣を、ディランに襲い掛かっている天使に向けて斬りつける! ガリッ、という石が砕ける音と共に……何とかこいつの胴体を叩き割れた!
「おいディラン、しっかりしろ! 大丈夫かっ!?」
「ひゅーっ……ひゅっ……ア…………イン……」
「す、すぐに治癒師を呼ぶ、意識をしっかり保て!」
クソ……この傷じゃ治癒師がいても……もう……。
「て……天使……を……倒し…………たん…………だ……な」
「あ、ああ! お前の仇は俺が取ったぞ! お前が、お前があいつの胴体にヒビを入れてくれたから……そ、そうだ! 俺たち2人で天使を倒したんだ!」
「……この……ひゅーっ……勝負……俺の…………負け……だな」
「な、何を言ってんだ!? お前は負けてなんかねぇ! 勇敢に戦ったじゃねぇか!」
そうだ、ヘスラック村で一番勇敢で強い男が俺なんかに……天使なんかに負けるわけがないだろ!
──右手で俺の腕を強く掴み、ディランが懇願する。
「フィリ……ア……を……頼む……」
最後の力を振り絞ったディランの瞳から色が消え……俺の腕を掴んでいた手は力なく地面に……落ちた。
「なぁ……嘘だろ? お、起きてくれよ……」
問いかけても、返事は無い。 さっきまで生きていた幼馴染が、魂の抜けた……物へと変わるその瞬間を目の当たりにして、俺は……俺はもう……戦えなかった。周囲から響くのは、仲間たちの悲鳴だけ。この1年間、勇者として戦うために全てを賭けた俺たちの想いは、あっけなく打ち砕かれた。
「は、ははは……鍛錬なんて……何の意味もなかったんだ……」
行き場のない悔しさと怒りをぶつけるように、目の前の白き異形に吐き捨てる。
「お前たちは何なんだよ!? いったい、何がしてぇんだぁぁぁ!!」
──俺の最期の記憶は、天使たちに群がられ、全身を食いつくされ……何かで心臓を貫かれたところで……途絶えた。
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「……ゼロ隊長、戦果報告です」
無造作に散らばったボサボサの黒髪をかき分けて、その報告書をゼロと呼ばれた男が読む。
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第20回終末戦争戦果報告書
+ 天使討伐数 +
歩行型: 1体
飛行型: 0体
+ 勇者隊被害 +
死亡者: 38名
天使化: 2名
+ 白化被害領域 +
サンクレール領: 白化
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報告書を破り捨て、眠そうにしていた目を閉じ、椅子に身体を寝かして……冷静で、冷徹な声でゼロが言葉を紡ぐ。
「……第20勇者隊は出来が悪かった。所詮、勝てる見込みのない戦に駆り出された捨て駒だ」
「お言葉ですがゼロ隊長、彼らは勇敢に戦い……」
「その結果、死んだ。力も、運も無い奴は生き残れない」
目を開き、鋭い眼光で窓の外を眺める。白い大地は眩いほど光り輝き、不気味なほど……美しい。
「……それがこの、クソッタレな世界だろ」
その言葉には憎しみが込められ、力強く……白き世界へ投げられた。
初めまして、この度小説家になろうでハイファンタジーの投稿を始めました、草食動物です!
実質処女作のようなものなので、かなり粗い部分はあると思いますが、それでも魂を込めて物語を届けようと執筆いたしました。
完結まで書き切っているので(全12万文字ほど)、毎日投稿する予定です。最後までどうかこの旅路にお付き合いいただけると嬉しいです。
★★★★★評価/レビュー/感想/質問/誤字報告など大歓迎ですので、良ければ応援のほどよろしくお願いいたします!




