閑話三:鉄の指輪と、琥珀色の新居
「……准尉、いえ藤田隊長。いい加減にしてください」
「……何のことだ、田中」
特殊防衛隊の技術局。田中幸恵は、デスクに突っ伏しながら、目の前の男に力なくツッコミを入れた。
藤田勝は、最新鋭の「対ミネルヴァ用高硬度チタン合金」のサンプルを手に、真剣な眼差しで計測器を見つめている。
「……これでは、山名の指には少し重すぎるか。強度は十分だが、肌触りに欠ける」
「それ、結婚指輪の相談でしょ!? なんで防衛隊の軍事素材で自作しようとしてんのよ!」
勝は至って真面目だった。
「山名は普通の人間より体温が高い。金やプラチナでは変質の恐れがある。……それに、俺が守りきれなかった時のための予備装甲も兼ねている」
「重いわ! 愛が物理的に重すぎるわよ!」
そこへ、エプロン姿の貞子が鼻歌まじりにやってきた。
「勝さーん! 新居のカーテン、琥珀色と鉄灰色、どっちがいいと思いますか?」
「……お前の瞳と同じ色がいい。琥珀色だ」
「きゃあああ! 勝さん、朝から殺傷能力が高すぎます!!」
貞子の頭から、ポワポワと幸せそうな蒸気が上がる。
もはや彼女の「異常な熱量」は、防衛隊の給湯システムの補助エネルギーとして活用されるほど、公式に「平和利用」されていた。
「……田中さん、あのお二人、もう新婚旅行の計画まで立ててますよ」
山本が、少し羨ましそうにコーヒーを啜る。
「山本。お前も昇進したんだ、休暇を取れ。……山名の実家(ミネルヴァの聖域跡地)へ、挨拶に行くぞ」
「えっ、僕もですか!? それ、護衛っていうか……お邪魔虫じゃないですか?」
「気にするな。……お前は、俺の大事な部下だ」
勝が山本の肩を叩く。その手には、不器用ながらも温かな信頼がこもっていた。
「……さて。山名、今日の夕飯は何だ」
「今日は、勝さんが初めて『美味しい』って言ってくれた、あの肉じゃがの改良版です! 隠し味に、田中さんから貰った高級ワイン入れちゃいました!」
「……おい、あれ私が自分へのご褒美に買ったやつ……!」
幸恵の悲鳴が響く中、勝と貞子は顔を見合わせて笑った。
かつては硝煙と鉄の味しかしなかったこの基地に、今は美味しそうな出汁の香りと、絶え間ない笑い声が満ちている。
「勝さん。……私、今が一番幸せです」
「……ああ。俺もだ、貞子」
二人の未来は、琥珀色に輝く朝焼けのように、どこまでも明るく続いていく。




