第二十二話 滅星の統治者
ダンジョン製造業も営む滅星さんの登場です。
【時間だ。■■■■】
聞き取れない言語と同時に指を鳴らし、天空に超大型の魔法陣が浮かび上がり発動。はるか遠くに紫色の極太の光が上空から降り注ぎ、中に見え隠れする物質が地から天にかけて構築され、十秒足らずして富士山の少し離れた場所に雲より高くそびえたつ、少なくとも富士山の倍以上ある巨塔がその姿を顕現させた。
建造物が放つ怪しげな紫の光源を目にした周辺住民は息を呑む。すると消えていた電化製品が復旧。自宅、道端の照明が次々点灯し、夜空を明るく照らす。
日本だけの電波が死んだ現状を伝えることができた(何故か)難を逃れた、全国の病院と核施設の働きにより海外メディアは把握していたため、SNSやツイッター、報道機関に矢継ぎ早に情報が駆け巡り、予想より早く現場の生動画が全世界に浸透し流され始めた。
【これは我がいる高次元グリファと繋ぐ交信塔であり唯一の楔だ。星核の正確な座標を絞り込むために必要な処置。これによりお前たちが名称するダンジョン沼の配置効率が格段に上がる】
それはダンジョン沼が今よりも発生する頻度が多くなるということ。
【断言しよう。一年以内に文明の土台となっている全エネルギーは、沼のモンスターから排出される完全クリアなクォーツエネルギーに取って代わるだろう】
来訪者の人外な力を眼前で目の当たりにした地球人は、おとぎ話のような甘い言葉を疑うことはしなかった。
一瞬で巨大構造物を現実のものとする魔法。想像を絶する御業。人類は本能で理解した。空想だったものが現実になるときが近いと。
そして思考が回り始め、エネルギー源の転換期を発表され何も知らない住民たちが騒ぎ出した。そのとき歴史は動いた。を、世界規模で瞬時に拡散、共有され時の流れの速さを実感する。
化石燃料の役目が終わると知り、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に関わる人達などは肩の荷が下りたと諸手を挙げてトリスの来訪に喜んだ。が、反対に化石燃料で多大な利益を出している者達は大混乱し大きく取り乱して反発した。
【それともう一つ、星核に楔を打ち込んだ大きな理由がある】
――――理由? それがどうした!! 頭皮をガシガシと力を入れて掻きむしったりと大いに荒れる投資家や石油王。資源大国の生活基盤が足元から崩れるなら、エネルギー関連に携わっている者は奈落に落ちる。
【宇宙から放射される人類に有害な電離放射線を無害にする魔結界を構築する役目を担っている。我は良き隣人として共に歩んでいきたいのだ】
有害物質の除去。現代の科学力では成し得ることができない偉業。成層圏が徐々に削られ、一部の地域では紫外線量は年々増している。皮膚がんで苦しむことになる生まれてくる未来の子供たちの負担を取り除き、防波堤の役割を買って出てくれたトリスに文句を吐くのなら『人類の恥』と科学者はもとより、様々な人に罵られるだろう。人々の心情が好意で満たされたと見計らい、トリスがある提案を切り出し始めた。
【人類の諸君。我の二つ名は覚えているか】
人々は口々に滅星の統治者と口をそろえる。滅星。訳せばその名の通り滅んだ星を意味する。それを統治する者。不吉な通り名で人々に不安の色が灯る。
【我の仕事は幾千もの滅んだ星の再生。生存不可能な惑星を修復し、この手に取り戻すことである!】
し~んと静まりかえり誰一人口を開かず、ただ黙して耳を傾ける人類。滅んだ星を再生する統治者なら話は違ってくる。嘘をついていないのであれば、彼の行おうとすることは少なくても正道であり人々の明日を照らす光となるだろう。
【だが、この課題は非常に困難を極める。我一人の力では成し得ることはできない。そこで人類諸君の力添えをお願いしたい!! 我が求めることはただ一つ! ダンジョン沼に挑戦し自身の才能を伸ばしていただきたい!! さすれば我が欲する能力に目覚めた者が人類の中から誕生するであろう】
独裁者的に演説するが、トリスの語る言葉の節々に必死さが垣間見える。完全には信用できないが、いずれにしてもダンジョン沼の調査をするにはモンスターと相対しなければならない。否が応にも必ず通らなければならない道。
トリスの心証を良くするなら積極的に狩った方が断然いい。相手は大魔法使いといっても過言ではないのだから。素直に耳を傾けるのがお互いWINWINな関係を築ける、現段階でもっとも賢い選択肢の一つに入るだろう。
【もし欲する能力に開花し、みごと昇華して我の力になる一定の水準に達した暁には我が居城に直接招き、宝物空間に眠る神器の中から好きなものをひとつ選ぶ権利を贈呈しよう。人類諸君にわかりやすく簡略的に言えばオーパーツに該当する品物だ】
招待されたら拒否権はない。以後どうなるかはすべてトリスの采配しだい。オーパーツも我々が考えるよりも絶大な効力を持つ物に違いない。夢のような話で様々な思考が混ざり合い人々は大いに戸惑った。
ある程度の頭がある者は皆、同じ推論に達した――――滅星の統治者に認められるほどの力を所持した者は地球上の権力者たちより上の立場になれると。
【如何か? 人類の諸君に譲歩したつもりなのだが? それとダンジョン沼から世界へとモンスターが溢れる心配はない。すべては君たち次第だ】
トリスの問いに対してところどころで声が上がる。
「やってもいいが……子供がいるしな……危ない橋は渡れない」
「仕事で忙殺されてるから…………そんな体力残ってない」
「政府次第だな」
「沼の規制が解除されない限り土台無理な話だ」
「危険そうだけど、僕でも行けるかもしれない」
「得た能力次第だよね」
「夢も希望もないし、いっちょ賭けてみますか!」
などなど、社会に、日常生活に不満を持った者の肯定する声が圧倒的に多い。
【中枢を司る政府なら心配はない。そのために奇病を我が同志の力により発動させているのだからな。来るがいい我が同志クレハよ】
夜空が割れ、その隙間から姿を現したのはトリス同じ背格好をした巨大な影人。両者共に同一人物にも見えるが…………
【私は病神の力を授かった疑似神のクレハと言います】
トリスと似た威厳あるトーンを期待していた人々は、予想より斜め上に乖離した可愛らしい声とのギャップに、一部の人達のテンションが上がった。
【いま蔓延している風邪はすべて私の仕業です】
「「!?」」
脳に直接響く彼女の言に、人々は耳を? 疑った。
【病名は『魔魂水晶化現象』と言いましてダンジョン沼で能力開花していない人間に対して発現する病です。症状は半永久的に風邪の症状となり一度症状が現れた場合、ダンジョン産の薬剤資源で生成された特効薬を服用しなければ改善することは決してありません。そして病との相性が悪い人は『魔魂水晶の彫像』に一週間で変異しますので行動するなら早い方がいいです】
宙に絵を付属させた巨大な式の羅列を表示させ、魔法で生成したデカ棒ペンで説明するクレハ。
人々は突きつけられた病名と予防策までは看過できたが、彫像化は見過ごせない。さっきまで好感を抱いていた彼らの印象が百八十度反転した。
「なにが良き隣人としてだ! ざけんな!」
「しかし、これでダンジョン沼に入出することを政府は強く拒むことはできない。人権問題の生命や自由に対する権利に触れる」
「どうにか発症する前に沼に潜らないと!」
「無理に決まってる! 一日を待たずして全世界で十億感染だぞ!? 今は無事でも数時間すれば絶対に病状が現れてるだろ!」
街中で激しい口論が続くなか、我々を見下ろしているトリスは想定通りの反応に気分を良くしていた。
【さて、我からも一点。謝罪しなければならないことがある】
言い争いを一時中断し、負の感情の視線をそっくりそのままトリスへと向ける現地人。
【通信系能力者に目覚めた者を襲った頭痛は、此度の交信調整によって引き起こされたものだ。現在気を失っているが命を脅かす危険性はないので、そこは安心してほしい】
問題点が次々噴出するなか、絶対的な力を持つトリス自らが正式に謝罪することで、半数以上の不満は影を潜めた。
【では最後に暑中見舞 いとして、全世界のレベル10以上の者にレベル2ダンジョンチケットナンバー0から99番を先行配付する】
レベル10以上。ダンジョン沼に招かれたことのない者には関係のない話なため、一般人達は当選者を羨ましがる。異星人が人類史上初めて渡す物と認識できるチケット。プレミアがつかないはずがない。
【各個人宛てに送付したチケットをどう扱うかは自由だ。願うならば自身の新たなる可能性の一ページをダンジョンを通して模索してほしい】
喋りたいことを一方的に伝え、トリスとクレハの影人は夜の闇に溶けるようにして行方をくらませた。
この話でプロローグ終わりにしようと考えてましたが、やはり再度ダンジョン沼が世界中に広がる描写を入れなければアプローチとして弱いと思い、32話でプロローグを終了させることに決めました。
序章が長すぎかもしれませんがご了承くださいw




