第二十話 変わりゆく日常の始まり 月曜日⑥
いきなりですが! エタらないように、ちょっとずつ書き込んるよアピール(汗)
通はプルと軽く打ち合わせをしてから階段を上がり自室の扉を開いた。
中では鋼が床に座って所持していた黒いボディバッグのチャックを開け、駄菓子を取り出している最中だった。
「投げるぞ」
投げ渡された正方形の物を落とさず受け取る。百均で二つ購入できる大衆向けのポピュラーな板チョコだ。
「悪いな鋼」
「いいってことよ! ダンジョンに入る賄賂(入場料)的なもんだと思ってくれ」
えっ? これって賄賂に当たるのと大げさにおどけてみせる通。
「国にバレたら何言われるか分からないのに、ワンコインで収賄される俺の立場は」
「ならいらないのか?」
通の次の言葉が読める鋼は突き返す提案は絶対にしないと安い挑発をする。
「いや、素直に受け取っておくよ」
「だよな! 通は大の甘党派だからいきがけの駄賃としては最適だと確信してたぞ…………ん?」
眉をひそめる鋼。通は笑いを表に出さずポーカーフェイスで対応した。
「いま何か見えたようぉな!?」
体の一部をドアの陰から覗かせていたプルは発見されたとわかると、部屋の中にスルリと潜り込み、騒がしくなるであろう部屋のドアを就寝中の母親のために絶妙な力加減で瞬時に閉めた。
「こ、こ、こ、こっ!」
「どうしたんだ鋼? にわとりのモノマネなんて始めて。まさかデザートに使用するたまごを産もうとしてるのか?」
「んなわけあるか!」
強い口調で反論する鋼をなだめるためにプルが魔法陣を中空に形成させ、そこに天鐘家にある透明のガラスコップをスライム核の力を借りて顕現させる。
「…………」
楽しみにしていた非現実な魔法を前兆なく目の当たりにし無言で固まる鋼。そこでプルはガラスコップをにょっきと生やした触手のような腕で持ち、もう一本生やした触手の先から冷えた綺麗な水をガラスコップに注ぎ、通の客人である鋼に直接手渡した。
コップから伝わるキンキンに冷えきった夏場に嬉しい温度。触手は今は生やしていない異様さを隠したプルをつぶさに観察する鋼。
(コイツ――――できるっ!)
接待を心得ているスライム。走って通の家に来ていたのでこの対応は素晴らしい。喉が渇いていた鋼は感心しながら水を口に含もうとしたとき我に返った。
「とおる。これ本当に飲めるのか?」
謎の生命体スライムが生成した水。人体に悪影響はないのだろうかと考えてでた言葉。失礼だとわかっていても問わずにはいられない。
「心配しなくても数名がプルの魔法でできた液体を少なからず人体に含んでるから検証は終えてる。ちなみに第一被害者はデイジーさん」
最初に検証したのは人体浄化時に溺れた場面。成り行きでプルの体液を飲み込むことになってしまったが、今まで問題になっていないので大丈夫だ。
「さすがデイジー…………って被害者かよ! まったく、安心していいのか悪いのか」
鋼は悪態を吐きながらスライムが厚意をもって注いでくれた水を警戒しながら口につける。
「んっ、寒い季節に飲む水道水と遜色ないな」
「だろ?」
警戒心を解いた鋼は腰に手を当て、男らしく喉元を鳴らしてコップの水を飲み干す。
そして役目を終えたコップをプルが回収して体内に収めすぐさま洗浄してスライム核にしまう。
いまの一連の行動だけで物珍しいプルが欲しくたまらなくなった鋼。当然の反応に通は前もって考えていた妥協点を伝えることにした。
「プルは渡せないけど他のスライムなら融通できるよ?」
「本当か!?」
「ただし、モンスターに対する嫌悪感を持つ人がいることを考えて使役してほしい」
「スライムに殺された身内からしたら増悪の対象だからな。気にとめとく」
取り扱いの助言をした通はトークンスライムの一体を鋼に授けた後、家族は平気なのか尋ねた。
「あー、そのことなんだが通、ちょっと相談があるんだが」
鋼の話を聞くと両親ふたりがノックダウン状態で看病しようと近づいたら凄い剣幕で「近づくな!」と怒鳴られたそうだ。それから一悶着あり、連絡があるまで家の敷居を跨ぐなとまで言われ、荷物をまとめて来たそうだ。
「本来なら格安の宿泊施設に泊まればいいが、ここに向かうまでに点在する近場はどこも満室だったんだよ。それにこの様子だと部屋が空くのも怪しい。だから頼む! 騒動が収まるまで通の家に避難させてくれないか!」
「別に構わないけど、俺の母さんも寝込んでるからできるかぎり静かにお願い」
「悪い、マジで恩に着る」
持つべきものは友。鋼はスライムのことと合わせて通に感謝し、礼を述べたあと当初の目的だった通が掌握したレベル1ダンジョンに入り、直接脳に働きかける声に戸惑いながらも異能スキルを授かった。
鋼が得た能力は『素材把握』。職業は物質管理人。物に対するエキスパートジョブに彼は微妙な顔をした。
「料理人にとって持っていて損は無い能力のはずだけど? 嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいには嬉しいが俺は戦闘関連のスキルを望んでたんだよ」
「例えば?」
「通もご存じの通り、俺の家は来店客に外食を提供するだろ。だから刃物を扱うスキルや炎を自在に操る能力が欲を言えば手にしたかった…………笑うか?」
鋼は前衛向きの身体をしている。きっと前線で壁となり戦闘している己を頭に描いていたに違いない。その証拠にギラギラ視線を発して強面を向けてくる。
「笑わないよ。夢見るくらい自由だし」
「そう、だよなぁ。妄想するくらい良いよな」
「それに……」
口の両端を強く結んでも堪えきれない笑み。唇が震えているのが通自身にもはっきり認識できる。
「なんだよ通。さては何か隠してるな!」
そのとおりとはまだ言えない。しかしステータスを上昇させ、プルのちからを借りることによって裏道解放できるサモナー専用秘密技能【シンクロ兵装】で他人の能力を向上させるバフを付与できる形になれば、非戦闘員でもそれなりに戦えるようになる。
秘密技能を所持していない鋼に伝えることができないもどかしさを抱えながら、通は甘んじて鋼のヘッドロックをくらった。
♤ ♢ ♡ ♧
目的を達成した二人はダンジョンから出戻り、晩御飯を食べていない鋼はメイドスライムこと、プルの用意した食事を頂き、その間にプルが用意してくれた浴槽のお湯に通が浸かりくつろぐ。
しばらくして風呂から上がり、パジャマに着替えてたところに玄関付近に設置してある電話の着信が鳴った。
鋼に風呂が空いたことを告げ、急いで受話器を取る。
「はい。お電話代わりました天鐘です」
「こんばんは天鐘君。夜分に遅くごめんね。担任の大川だけど、体調の方は大丈夫?」
「今のところは平気です」
「それなら良かった。連絡事項だけど、明日の学校はお休みになったから次の人に伝えてくれる」
「わかりました」
「用件はそれだけ。おかしな夏風邪が幅を利かせているから今日は早めに就寝しなさい」
担任の注意喚起を素直に受け止めてから通が連絡する同級生へ電話をして言伝を任したあと、台所に戻ると食卓に置いてある自身のスマホとプルが連動するようにプルルと振動しているのが見えた。
「っ! いったい何してるんだプル? って、かけてきたのはデイジーさん!?」
脳裏に浮かぶ夏風邪にやられたデイジーの姿。彼女は一人暮らしで頭痛被害にあったばかり、もしも両方から責められたりしたら身体的に辛いことは分かりきっている。きっと助けてほしいと身近な人にヘルプを求めるだろう。それに選ばれた先入観から若干テンション高めに受け取りボタンを通はタップした。
「通君。悪いけど今からそっちに泊まりに行ってもいいかな?」
「えっ!?」
前置きが一切なく、ひと突きでとどめを刺そうとする急展開すぎた言葉に動揺する通。だが家の場所をデイジーは知らない。どこで待ち合わせしようか思案しようとしたら、電話先から車の音と何かが地面をゴロゴロと転がる音を発生させていることに気がついた。
「デイジーさん。もしかしていま外を歩いてる?」
「ええ。渡航用のアタッシュケースを転がしながら通君の家に向かってる最中よ」
遠くから咳をする声が混じってくるが、言いようからして病気に侵されることなく元気に自宅の位置を目指して進んでいるっぽいデイジー。
「通君の住んでる正確な場所は把握しているから心配いらないわ。通君のスマホに内蔵されているGPS機能と電波魔法を使って特定しちゃったから」
笑い声でクスクス話す留学生。犯罪一歩手前のことをしでかしてるなと独りゴチる通。彼女は通信系能力者。電波の能力を使えばストーカー紛いのことは造作もない。加えてデイジーは某有名大学を卒業した才女だ。自身を正当化する方法には長けているだろうし、通自身が柊巡査の件もあり抗議しないことを見越している。食えない人だなぁと心で簡単に許してしまう通。良いようにされているのは分かってはいるが、これまでの人生で形成された性分なのでこればかりは仕方が無いと割り切ることにした。
「それで後どれくらいで到着する予定?」
「あれ? 怒らないの?」
「デイジーさんの身の方が心配だからそんな気になれないよ」
「あはは。私の身を案じてくれてるんだ。通君は見た目は小柄だけど英国紳士の気風があるね」
本場の英国紳士を詳しくは知らない通。けれど、もの柔らかな言葉にトゲが無いことぐらいは分かる。
「実際の話。全学年の女性だけで投票した異性好感度ランキングは通君はいつも上位よ」
「そっ、そんなのあるの!?」
初耳だった。そしてなぜ自分が上位入りしているのか見当がつかない。
「理由はたくさんあるけど、同学年で主なのが誰にでも気軽に話せる雰囲気の笑顔を持った人で、他人が嫌がる仕事を進んでやってくれる」
「ああ――――」
「思い当たる節があるでしょ?」
幼いころにいた曾祖父の教えの「日頃から善行を積んでおくと、巡り巡って自分の徳となり返ってくる。だから嫌な仕事は率先してやれ」と口酸っぱく言われたことを薄っすらと覚えている。
「そんな些細なことが好意に結び付くなんて思ってもみなかった」
「ちゃんと見ている人は見ているものよ。良かったわね通君。ちなみに先輩達は早朝の新聞配達をしている姿に心を打たれたみたい」
「デイジーさん。ちょっと俺にはその乙女心は理解しがたい」
春、夏、冬の長期に渡る嬉しい休日期間。欲しい物を購入するために母親と高一の時に相談して行き着いた最初のアルバイトが新聞配達だった。
軽い気持ちで始めたバイトが先輩方の好感度アップに一役買っていることなど想像できるはずがない。
「先輩達の胸キュン理由は自転車を漕いで疲労があるにもかかわらず可愛い素敵な笑顔で会釈して、颯爽と次の家に配達する後ろ姿がグッとくるそうよ」
答えを聞いても、なお理解に苦しむ通。
「ごめんデイジーさん。全然同調できない。むしろ悪化したような気さえする」
「通君が気にやむことはないわ。頭の作りが根本的に違うから当然よ。私も男子の考えることなんて全くわからないし」
デイジーと話している最中にも近くにいる歩行者がゴホゴホとむせている。悠長に外で通話している場合じゃない。
「ところでさっき聞きそびれたけど」
――――ピン、ポン!
「えっ?」
家に響いたチャイムが左から、スマホに耳を当てた右からもピンポンを拾い、玄関先に設置してある照明器具が人影を闇夜から照らしだす。
通がスマホを握りながら左手で玄関の施錠を外すと、そこには予想した通りの金髪留学生が堂が入った身ぶりで待機していた。
「来ちゃった」
お気楽モードのデイジーに通は思わず深い溜息をついた。
10万文字ほど書きまとめてから続きを掲載しようと決めました。矛盾点の修正等もあるので。
作者が我慢できなくなって投稿開始するかもしれませんが(笑)おそらく次回は7月、8月になると思われます。




