第5話:ダンジョンの情報
「あ、そう言えば一つ言い忘れてたことが」
危ない危ない。
これを言い忘れてたらこの町に来た意味がない。
「はい、なんでしょうか?」
「実はこの町に来る途中にダンジョンを見つけまして……。1部屋しかなく、ダンジョンコアもそこにあったので生まれたてのダンジョンかと思いますが……」
いきなり強い冒険者とかに調査に来られても困るしね。
生まれたてであり、害は大してないということをアピールしなくては……。
「ほ、本当ですか!」
ん?
なんか思いのほか食いついてきたぞ。
せいぜい情報に感謝される程度だと思ったのだがこの食いつきようはどういうことだ?
てかさっきの事件を見た後だと怖いから詰め寄らないで。
「え、ええ……」
俺はとりあえずひたすら頷いておく。
「そうですか! ちょうど初心者用のダンジョンがこの街の付近になくて困っていたんですよ。位置はどこあたりですか?」
受付嬢が胸ポケットからメモ帳のようなものを取り出して聞いてくる。
「あぁー、街を出て街道を真っ直ぐ1時間ほど行くと森が見えてきます。その森が終わったところを左にまっすぐ行けば見えてくるはずです」
「ほうほう、情報ありがとうございます。確認部隊を向かわせてそれが真実であると確認できれば情報料として金貨1枚をお支払いします。期限は特にありません」
ほー、情報料なんてのがもらえるのか。
よくよく考えれば貰えても全然おかしくないが、むしろ自分のために情報をばらまいた感じだからそんなこと考えもしなかった。
思わぬ収入と言ったところか。
「そうですか。ありがとうざいます。それでは用事も済んだのでこれで」
その偵察に来る冒険者を迎え撃たなきゃいけない。
さっさと帰らなくては。
「あ、ちょっと」
そう思って踵を返すと受付嬢に引き留められる。
「?」
「ガイドブックにも書いてありますしそもそも分かっていると思いますが今回のような初心者用ダンジョンのダンジョンコア破壊は重罪です。駆け出し冒険者の狩場を奪うことになりますからね。違反した場合は家族全員犯罪奴隷落ちですよ」
「も、もちろん分かってますよ」
はぁ!?
知らねぇよ。
まあ自分のダンジョンコアなんて壊すわけないし他のダンジョンに潜ろうとも考えてないけど。
そもそもDNA鑑定もないこの世界では人に見られたとかでもない限りバレないだろうが。
だが考えてみればこれはありがたい。
ダンジョンコアを守らなくても、ちゃんとしたダンジョンの活動を行っているだけで問題なくなったのだから。
この情報も思わぬ副産物か。
ダンジョンができた当時にもし冒険者が都合よく来ていたら、この情報を知らずに永遠に来るものすべてを返り討ちにしていたのだから。
「それじゃあありがとうざいました」
俺はカウンターに置いてあるギルドカードをポケットにしまうふりをしてアイテムボックスに入れておく。
『よし、無事に人間の街でダンジョンに呼び寄せるように情報操作をするのは終わったようだな』
ギルドを出ようとしていると邪神様から声が届く。
(ちょっ、人がいるときに話しかけてこないでくださいよ!)
ってん?
頭の中で文句言ったらなんか邪神様に話しかけられたぞ。
『安心しろ。俺の声は人間どもには聞こえん。それとそれは念話だ。頭の中で俺に話しかけようとすればできる。まあ人間同士では無理だがな』
へー。
全然知らなかった。
でもこれは便利だな。
これなら人前でも邪神様と会話ができる。
実にありがたい。
『まあ邪神様、そう焦らずともそろそろですから楽しみにして待っててくださいって』
俺は頭の中に組み上がった予定表を思い浮かべてニヤリと口角を吊り上げた。