第36話:秘策
「や、やばい。これ絶対帝国解放戦線だ」
「オリハルコンゴーレムを投入した方がいいんじゃないですか?」
「分かってる」
まだ安心はできないが、さいわい今戦ってる連中は左翼、右翼共に5人ぐらいで、1人1人の強さはこの前偵察に来ていた男たちぐらいだ。
だったらオリハルコンゴーレムを両翼に5体づつ送る。
すべてのオリハルコンゴーレムを両翼に送ったところで中央突破をされても困るからな。
押され気味だった両翼が、五体のオリハルコンゴーレムが到着したところで、押し返し始めた。
この前の連中も、オリハルコンゴーレムは3人でなんとかギリギリといっていたし、1人1体は過剰戦力だったか?
だがそのおかげで両翼が徐々に戦線を上げることに成功して、最初は包囲されかけていたのが、逆に包囲し返そうとしていた。
いける。
このまま何事も無ければ……!
そんなあからさまなフラグを無意識に立ててしまったせいか、状況が急変する。
「中央が突破されかけてますよ!」
俺が両翼の様子に見とれていたら突如レイラからそんな報告が。
慌てて中央の様子に目を向けると、中央のミニアイアンゴーレムが帝国解放戦線と思われる連中10人ほどの手によって虐殺されていた。
や、ヤバい。
このままじゃ捕らえた兵を運ぶ用のミニアイアンゴーレムが!
「すべてのゴーレムに次ぐ! 敵兵を捕えて即時撤退!」
俺の命令にすぐゴーレムたちが後退を始める。
そして俺は残ったオリハルコンゴーレム全てを殿として後方に配置した。
本当は自分の身の安全のために数体残しておきたかったが……。
そんなことも言ってられない。
「え、撤退するんですか?」
事態についてこれていないレイラが慌てて駆け寄ってくる。
「いや、撤退とはいったがすぐにトリニの街まで後退するわけじゃない。時間稼ぎはする。だがミニアイアンゴレームは置いておいてもやはり帝国解放戦線に一瞬で殲滅される。だったらもう精鋭であるオリハルコンゴーレムとミスリル加工ストーンゴーレムだけを使った足止めをした方がいいと思ったのだ」
「じゃあ私はここから別行動で、ミニアイアンゴレームをまとめて捕らえた兵を休憩所に送り込む仕事を始めるということですか?」
「そういうこと」
レイラは一つ頷くと、すぐにミニアイアンゴレームをまとめてダンジョンへ向かった。
さて、俺もこいつらがレイラを終えないようにしっかり足止めしないとな。
実際動きはゴーレムの方が遅いが、行軍の速度に関しては変わらない。
兵と言うのは大人数になればなるほど移動が遅くなる。
情報が伝わるのが遅くなるからだ。
そこに奇襲なんかをかけてやればまともに行軍はできなくなる。
俺はこんなすぐに後退することになる未来も想定していた。
もう少し後退したところの森に、少量の伏兵を10体ほど用意しておいた。
こいつらには小棘球ストーンゴーレムを大量に持たせてある。
これが俺の秘策その一。
度重なる奇襲による足止め。
運のいいことに、戦闘開始が夕方だったのでもうしばらくすれば暗くなり、行軍はままならなくなる。
そこに追加でちょこちょこ奇襲をかけてやれば兵の疲労が取れず、行軍も遅くなり、トリニの街までたどり着いたとしても、戦闘力は半減だ。
もともとミニアイアンゴレームが1体当たり1人の兵を持ち帰っていれば、1000人。
そうなれば休憩所に捕らえた人間の合計は1216人となるから、DPは1日で約350万だ。
それだけ手に入れば、数時間の足止めさえ効果が大きくなる。
向こうの兵は削られればもうそれっきりだが、こっちは死んでも死んでも時間がたてばまた増やせる。
こちらが目指すのは相手を倒すことじゃない。
ひたすらひたすら引き延ばすことだ。
今の時点で不利であるのは認めざるを得ない。
だが、俺は必ずこの戦争で勝つ。
そしてこれを世界征服の足掛かりとするんだ。




