番外編
番外編始めました。
ご感想やリクエストありがとうございます。
取り敢えず、後日談です。
「煽ったの須本くんでしょ」
何のことだか、と嘯く友人に溜息一つ零す。
古賀君と付き合う、という話は笑顔で帰りを待っていた義母に(半ば強制的に)報告済みだ。しかし、その翌日嬉しそうな美波ちゃんからの電話があったときには、思わず頭を抱えた。
因みに、竜司君にも翌日こってり絞られた。どうせ、その日の内にしーちゃん経由で小林君にも話がいっているだろう。
「あの馬鹿、プロポーズしてきたわよ、その場で」
「はぁ?」
ダブルデートと騒ぐ美波ちゃんに応じて、出かけることになった。とはいえ、美波ちゃん以外はバイトもやっている身だ。日程をあわせていたら、結構な日にちがたってしまった。
現在、古賀君の衝撃の告白から(笑)すでに一ヶ月以上たっている。
其れはさておき。
皆で会う前に話したいことがある、と須本君を呼び出したのは私。
それなりに騒がしいファストフード店の片隅で向き合った友人は、私の発言に目を丸くした。
「一応、参考の為に聞いてもいいか?そのプロポーズの言葉」
「同じこと美波ちゃんにしたら、絞めてあげるわ。安心して」
「何言ったんだ、あいつ」
別に今更、好きだのなんだの愛の言葉など期待していないし、古賀君がそれを言えるとも…いや、言えるかもしれない、あの別人モードなら。…兎も角、あの後の爆弾発言は、笑うしかない。
「一番先に連絡が欲しいから、籍入れよう、ですって」
「は?えっと、桐子さん、もう少し分かり易く」
「アンタの親友でしょうが、自分で考えれば」
「いや、俺の考え違いだったら悪いなぁ、と」
「違わない」
「即答かよ」
そう、結婚しよう、ではない。籍を入れよう、なのだ。
「私に万一のことが合った時、一番に自分に連絡が欲しいから籍をいれよう。なんて、ブラボーなお言葉ざましょ」
「どこまでお前に執着しているんだ、あいつ」
「そういう問題?」
流石にこの事は義母にも、勿論竜司君にも言っていない。
「会ってはいるんだろう?」
「二人のオフが合えば、ね。バイト先教えて、シフト教えて。…取り敢えず、私に行動範囲知っていればOKだから今のところ実害はないけど…まぁ下手な事すれば、相応に報復するって言ってあるから大丈夫でしょ」
「報復って…ああ、いや、うん。ま、俺たちに実害が無ければ問題はないな」
君も相当なものだね、とは言わずにとどめておいた。
自分の手の届く範囲に居てほしい。悪い気はしないが、実際問題としては不可能な話である。
「その内、一緒に暮らそうって言ってくるぞ、あいつ」
「もう言われた。だから自力で兄貴たちを説得できたら考える、って答えておいた」
「どんな難関だよ。佐野先輩ですら鉄壁なのに、望月先輩まで加わるんだろう?」
そんなこと私の知ったことじゃありません。
「で、あいつどうしたんだ?」
「聞いてないの?」
お前なぁ、と苦笑いが返る。確かに、親友とはいえ、そういったことを一々報告するタイプではないですな。
「慎兄から電話が掛かってきてね『知らない相手じゃ無いだけましだ』って…因みに兄貴は拗ねて電話にすら出なかったけど」
報告は一応したんだけどねぇ、と笑ってみせる。そのときも保険を込めて慎兄にしたんだけどね。
『やっぱり、そうなったか』という呆れ交じりの反応に、周囲は色々みているんだなぁ、ってしみじみ思いましたよ。
「色々条件付けで、交際は認めるって形になったみたい。『同棲などまかりならん』ってお父さんですら言わなかったわよ」
「条件、ね。参考の為に伺っても?」
「外泊は不可、帰宅は当日内。これが最低のボーダーライン」
「佐野先輩らしい…のか。いまどきそこまで言う親も少ないと思うが」
あの兄貴にしてみれば、相当譲歩したと思うんだけどな。まぁ、慎兄が色々フォローしてくれたんだろうけど。
っていうか、こういう時代だったんだよね。色々モラルが混迷していた時代だよ、バブル絶頂期。その場に居ると余り実感は無いし、あっちに比べれば緩やかっていえば緩やかだし。
「そういえば、お前、雅人の女関係清算しろ、って言っていないんだってな」
「なんで、そこまで私が口出ししなきゃいけないの?」
「…すまん、お前が『佐野 桐子』だって忘れていた」
なによ、それ失礼な。
古賀君のしてきたことの清算は、古賀君がするべきことだ。私がお願いしてやってもらうことではない。ましてや、条件付けすることでも、命じることでもない。
「それでも、躍起になってやっていたぞ。何いったんだお前」
「ん~『あっちのお相手は不自由していないみたいだから、しなくていいよね?』」
「…悪党」
そりゃあ、あの兄ありきですもの。っていうか、何故にまともな対応をしなくちゃならない。それにね。
「それだよ、須本君。悪党は私になる」
「ああ、以前言っていた『悪意は全て女のほうに来る』だっけ?」
しーちゃんの極論だけど、古賀君が相手じゃ否定できない。すでに第一波は来ている。
「来ているって、どうしたんだ?」
うふふ、と笑って見せると須本君が一瞬身体を引いた。愚か者、私を誰だと思っていらっしゃる。伊達に周囲にイケメン率高くないぞ、ってね。
「古賀は…知らないんだろうな」
「多分ね。ひょっとしたら、何か気づいているかもしれないけど、見てみぬ振りくらいはできるでしょ?」
「何をやったか…は、敢えて聞くまい」
うん、それが正解だよ。須本君。
そろそろ、待ち合わせの時間に近いと思ったら、ドアが開いて美波ちゃんの姿が目に映った。
「ほら、迎えに行きなさいよ」
「…ああ。そうだ、キリ」
立ち上がった須本君が小さく笑った。
「あいつのこと、頼むな」
返事の変わりに笑顔を見せると、彼は出入り口へと向かって歩き出した。
年内最後の投稿です。
今年一年、つたない小説にお付き合いいただいてありがとうございます。
来年もお付き合いいただければ、幸いです。
26.6.27ご指摘いただきましたので修正しました。
よいお年をお迎え下さい。




