表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

第一話 反逆の蟹女

挿絵(By みてみん)

 おとぎ話の中にしか存在しないと思われていた海底王国、今はカイサーンと呼ばれていた。

 だが、それは本来の名前ではない。

 玉座を奪ったクラーケンが、海底王国をそう呼ばせていたのだ。


 黒い珊瑚で築かれた城壁。真珠の光が揺れる大広間。そこに、海産物を思わせる異形の怪人たちと、貝殻の鎧をまとった戦闘員たちが集まっていた。


 玉座には、巨大なイカの怪人が座っている。


 十本の触手をゆらめかせ、暗い海よりも深い眼で臣下を見下ろす怪人。


 その名は、クラーケン。


「聞けい、カイサーンの民よ!」


 クラーケンの声が、大広間を震わせた。

「地上人類は、我らの海を汚した。油を流し、毒を流し、欲望の残骸を海へ捨てた。もはや許すことはできん!」


 怪人たちが各々の武器を掲げる。

「地上人類を滅ぼせ!」


「海の怒りを思い知らせろ!」


「カイサーン万歳!」


 クラーケンの背後で、黒い霧のようなものが渦を巻いていた。

 それは彼が召喚した、海の悪魔だった。

 その力を受けたカイサーンの怪人たちは、地上へ上がり、地上人類の言葉を操ることができる。

 海と地上を隔てる言葉の壁を越え、侵略者として人間たちに恐怖を告げるために。


「まずは地上の海辺を血で染める。海水浴に浮かれる地上人どもに、海の怒りを教えてやれ!」


 クラーケンが触手を振ると、棘だらけの怪人が前に進み出た。


 ウニの怪人、ウニドゲスである。


「お任せください、クラーケン様。このウニドゲスが、地上人類どもを串刺しにしてくれます!」


「行け。地上侵攻の第一歩を刻むのだ」


 歓声が上がる。

 だが、その柱の陰で、一人だけ震えている者がいた。

 赤い甲羅に鋏のような両腕。

 人間の少女にも似た姿。

 タラバガニを思わせる女性怪人、蟹女だった。


「カニィ……」


 そこは、本来なら彼女が敬愛する王の場所だった。

 優しい王は、もういない。

 そして、玉座にはクラーケンが座っている。


「カニィ……」


 蟹女は、海の悪魔の力を受けていなかった。

 だから、彼女の言葉は、地上の人間には「カニ、カニィ」としか聞こえない。


 けれど、このまま黙っていれば地上は滅ぼされる。

 地上が戦場になれば、海もまた血で汚れる。

 蟹女は決意した。


 知らせなければならない。


 言葉が通じなくても。

 怪物だと恐れられても。

 父が守ろうとした平和を、守らなければならない。


 蟹女は柱の陰からそっと離れ、戦闘員たちの目を盗んで、大広間の外へ走った。


「カニ、カニィ!」


 暗い海を抜け、地上へ。

 彼女は一心に泳ぎ出した。


     *


 同じ頃。

 日本の海辺では、夏の太陽がまぶしく輝いていた。

 1994年7月13日、海開きの日。


 金城財閥が所有する海辺のリゾートには、招待された客たちが集まり、白い砂浜は華やかな空気に包まれていた。


 その中心に、五人の若者がいた。


 白いパラソルの下、サングラスをかけて海を眺めている青年がいた。

 大財閥の若き総帥、金城豊(きんじょうゆたか)、 彼こそが、フゴーレッド。

 富轟戦隊ダイフゴーのリーダーである。


「海はいい。だが、油断はできん」


 豊は静かに言った。


 隣でノートパソコンを開いていた青年が、画面から目を離さず答える。

「ニューヨーク、ロンドン、東京。どの市場も今日は穏やかだ。海の波より相場の波の方が読みやすい」


 若き金融王、財前守(ざいぜんまもる)、フゴーブルーである。


 少し離れた場所では、黒いシャツを着た青年がギターを鳴らしていた。

 その周囲には、彼を慕う美女たちが笑顔で集まっている。


「夏の海、美女たち、そして俺のギター。完璧なステージだな」


 世界的ミュージシャン、京極怜音(きょうごくれのん)

 一番のイケメンにして、フゴーブラック。


「怜音さん、少し浮かれすぎではありませんこと?」

 涼しい声がした。


 ミニスカートの上品な夏服を着た令嬢が、日傘を傾ける。

 旧家の御令嬢、海宝瑠璃(かいほうるり)

 名門女子大を卒業したばかりで、金城家へ嫁ぐ準備を進めている豊の婚約者、フゴーイエローである。


 そして、豊の背後に控えるように立つメイド服の女性がいた。

 花園真珠(はなぞのましろ)

 高校生の頃から金城家に住み込みで仕えているメイドであり、フゴーピンクである。


 豊かな胸元を白いエプロンで包み、海辺にもかかわらず、いつものメイド服を崩さない。


「坊ちゃま、冷たいお飲み物をお持ちしました」


「ありがとう、真珠(ましろ)


 豊はグラスを受け取った。


 その一瞬、二人の視線が重なった。

 幼い頃から一緒に育った二人の間には、互いに特別な想いがあった。

 けれど、豊には家同士が決めた婚約者がいる。


 真珠は微笑み、すぐに一歩下がった。


「どうぞ、坊ちゃま」


 瑠璃は、そのわずかな空気の変化に気づいていた。


 だが何も言わず、ただ海を見た。


 水面は、夏の光を受けてきらきらと輝いている。


 その平和な海が、ふいに泡立った。


「ん?」


 守が顔を上げた。


「妙だ。潮の動きが不自然だ」


 ざわり、と海水浴客たちが振り向く。


 沖の方から赤い影が近づいてくる。


 やがて、それは海面を割って姿を現した。


 赤い鋏と甲羅。


 人間の少女のような顔。


 しかし明らかに人間ではない。


 海から、蟹女が上がってきた。


「きゃああああっ!」


「化け物だ!」


「逃げろ!」


 砂浜に悲鳴が広がった。


 人々が浮き輪を投げ捨て、我先にと逃げ出す。


 蟹女は両腕の鋏を振りながら、必死に叫んだ。


「カニ! カニィ! カニ、カニカニィ!」


 彼女は訴えていた。


 カイサーンが来る。


 クラーケンが地上人類を滅ぼそうとしている。


 逃げて。


 備えて。


 海を憎しみで満たさないで。


 けれど、地上の人間たちには、ただの鳴き声にしか聞こえなかった。

「カニ! カニィ!」


 蟹女は、逃げずに立っていた豊を見つけた。

 彼なら話を聞いてくれるかもしれない。

 人々の前に立ち、自分を見据えている。

 この男なら、話を分かってくれるかもしれない。


 蟹女は豊の前へ駆け寄った。


「カニ、カニ、カニィ!」


 豊はサングラスを外した。


「怪物め」


「カニ?」


「この砂浜にいる人々は、俺の客人だ。俺の客人に手を出すことは許さん!」


 蟹女は首を振った。


「カニィ! カニカニィ!」


 だが、豊には通じない。


 豊は砂を蹴り、鋭く跳び上がった。


「富豪流防衛術!」


 跳び蹴りが蟹女の顔面に命中した。


「カニィィィ!」


 蟹女は見事にひっくり返り、甲羅を下にして砂浜に転がった。

挿絵(By みてみん)

 鋏と足をばたばたさせている。


「カニ! カニ! カニィ!」


 怜音の周囲にいた美女たちは悲鳴を上げて逃げていく。


 怜音はギターを肩に担いだ。

「やったぞ、さすが俺達のリーダーだ!」


 守は冷静に蟹女を観察する。

「攻撃の意思があるなら、反撃しないのはおかしい」


 瑠璃は豊の横に立った。

「でも、油断は禁物ですわ。怪人であることに変わりはありません」


 その時、真珠が蟹女の前に膝をついた。

「坊ちゃま」


「どうした、真珠」


「敵ではなさそうです」


 真珠は、ひっくり返ったまま涙目で鳴いている蟹女を見つめた。

「この怪物は、何かを訴えようとしています」


 蟹女は真珠の顔を見た。

 そして、さらに必死に鳴いた。


「カニ! カニィ! カニカニ!」


 真珠は静かにうなずいた。

「ほら、やはり」


 豊は腕を組んだ。

「何を言っているか分からん」


 守が言った。

「未知の言語だ。録音して解析すれば、何か分かるかもしれない」


 瑠璃は不安げに砂浜を見回した。

「ここでは人々が怯えますわ」


 豊は決断した。

「よし。コイツを檻に入れて連れて行け」


「坊ちゃま、檻でございますか?」


「このまま放置するわけにもいかん。ダイフゴー基地で調べる」


 こうして蟹女は、金城財閥特製の強化檻に入れられ、地下のダイフゴー基地へ運ばれることになった。

 檻の中で、蟹女は何度も叫んだ。


「カニィ! カニ、カニィ!」


 それは警告だった。


 だが、まだ誰にも届かなかった。


     *


 金城財閥の海辺の別荘。

 その地下深くに、巨大な秘密基地がある。


 ダイフゴー基地。

 それは富める者の義務を果たし、人々を守る力となるための基地だった。

 基地の中央に、白衣の男が立っていた。


「ほう。海から現れた蟹型の女性怪人か。興味深い」


 水木茂雄博士。四十八歳。


 金城財閥お抱えの天才科学者である。

 水木博士は、檻に入れられた蟹女をじっと見つめた。


「外骨格は甲殻類に近い。だが、骨格構造は人間に似ている。我々とは異なる海底で暮らす人類の一種かもしれんな」


 豊が尋ねた。

「海底人類?」


「古い伝説にはある。地上とは別に、海底で進化した知的生命体がいるという話だ。まあ、学会で言ったら笑われるが」


「現物がここにいる以上、笑い話ではありませんわね」

 瑠璃が檻の中を見つめる。


 蟹女は怯えながらも、必死に訴えている。


「カニ、カニィ、カニ! カニカニィ!」


 水木博士は首をひねった。

「言語らしき規則性はある。だが、地上の言語とはまるで違う」


 守が録音機を置いた。

「解析には時間がかかる」


 豊は蟹女に近づいた。

「お前は何者だ。どこから来た。何を伝えたい」


「カニ! カニィ!」


「分からん」


 怜音がギターを爪弾いた。

「歌なら心で通じるんだがな。カニ語は難しいぜ」


 豊はしばらく考えた。

「やむを得ん。少し脅してみるか」


「坊ちゃま?」


 真珠が不安そうに声を上げた。


 次の瞬間、蟹女は縄で縛られ、巨大な鍋の上に吊るされていた。

 鍋の中には湯が張られ、湯気が上がっている。

 もちろん本当に煮るつもりはない。

 少なくとも、真珠はそう信じていた。

 豊は腕を組み、厳しい声で言った。


「正直に話せ。お前が敵なら、このまま蟹鍋だ」


「カニィ!」


「オマエは何者だ、誰の命令で来た」


「カニ、カニィ、カニ、カニィ、カニ!」


 蟹女は抵抗しなかった。

 逃げようともしなかった。

 ただ縛られたまま、必死に訴え続けた。


 真珠はその姿を見て、胸が痛んだ。

 見た目はバケモノだが、敵だとは思えなかった。


 金城豊が人を守りたいと願うように、目の前の蟹女もまた、何かを守ろうとしているのではないか。


「坊ちゃま」


 真珠は静かに言った。

「この方は、怖がっているのではありません。急いでいるのです」


 豊は蟹女を見た。

「急いでいる?」


「はい。何かが来ると、知らせようとしているように見えます」


 瑠璃も小さくうなずいた。

「確かに、命乞いではありませんわね」


 守は録音波形を見た。

「同じ音の組み合わせが何度も出ている。警告文の反復かもしれない」


 怜音は真面目な顔になった。

「こいつ、俺たちに助けを求めてるんじゃない。俺たちを助けようとしてるのか」


 蟹女は涙を浮かべながら鳴いた。

「カニィ……カニ……」


 豊は黙った。

 言葉は分からない。

 だが、目は嘘をついていなかった。


 豊は鍋の火を止めた。

「降ろせ」


 真珠がすぐに縄を緩める。

 その時、基地の警報が鳴り響いた。


 巨大モニターにニュース映像が映る。


『臨時ニュースです! 海岸近くの市街地に、謎の怪物が出現しました! 怪物は周囲の建物を破壊しながら進行中です!』


 画面には、棘だらけの怪人が映っていた。


 ウニドゲスである。


「地上人類ども、聞け!」


 ウニドゲスは日本語で叫んでいた。


「我らは海底の支配者カイサーン! 汚れた地上人類を、このウニドゲスが滅ぼしてくれる!」


 蟹女が激しく身をよじった。


「カニ! カニィ! カニカニィ!」


 豊は蟹女を見た。

「そうか。お前が知らせようとしていたのは、これか」


「カニ!」蟹女は何度もうなずいた。


 豊は仲間たちを振り返る。

「行くぞ。地上の人々を守る」


 守は大砲のような銃を取り出した。

「被害拡大を防ぐ。合理的判断だ」


 怜音はギターを逆さに構えた。斧へ変形する特製ギターだ。

「美女軍団の前で怪物退治か。悪くないステージだ」


 瑠璃は弓を手にした。

「海も大地も、守るべきものですわ」


 真珠は細身の剣、ピンクサーベルを抜いた。

「坊ちゃま、どこまでもお供いたします」


 豊は二丁拳銃を手にし、力強く叫んだ。

「富轟チェンジ!」


 五人の腕のブレスレットが輝く。


「ダイフゴー!」


 赤、青、黒、黄、桃。


 まばゆい光が弾け、五人は強化服をまとった戦士へと変身した。


 豊が二丁拳銃を構える。


「巨万の勇気! フゴーレッド!」


「相場を制する知略! フゴーブルー!」


「漆黒の旋律! フゴーブラック!」


「気高き黄金の誇り! フゴーイエロー!」


「奉仕の真心! フゴーピンク!」


 五人が並び立つ。

「富轟戦隊 ダイフゴー!」


     *


 市街地では、ウニドゲスが暴れていた。


「ウニニニニ! 地上人類よ、海を汚した罪を思い知れ!」


 カイサーンの戦闘員たちが車をひっくり返し、看板を壊している。


 逃げ遅れた親子が道路の端で震えていた。


 ウニドゲスが棘の腕を振り上げる。


「まずは貴様らから串刺しだ!」


 その瞬間、赤い銃弾が棘を弾き飛ばした。


「そこまでだ!」


 フゴーレッドがビルの上から飛び降りる。


 続いて四人も着地した。


「何者だ、貴様ら!」


 ウニドゲスが叫ぶ。


 フゴーレッドは二丁拳銃を回転させ、構えた。


「人々の平和を脅かす者に名乗る名は一つ!」


 五人が一斉にポーズを取る。


「富轟戦隊ダイフゴー!」


 ウニドゲスは笑った。


「金ぴかの地上人どもめ! 我らカイサーンに逆らうか!」


 フゴーブルーが冷たく言った。


「逆らうのではない。損害を止めるだけだ」


 フゴーブラックがギターアックスを肩に乗せる。


「怪人退治のライブ、開演だ」


 フゴーイエローは親子を背にかばった。


「ここから先へは行かせませんわ」


 フゴーピンクはピンクサーベルを構えた。


「お掃除いたします」


 戦闘員たちが一斉に襲いかかった。


 フゴーレッドの二丁拳銃が火を吹く。


「レッド・ミリオンショット!」


 光弾が戦闘員を次々と吹き飛ばす。


 フゴーブルーは大砲銃を構え、冷静に狙いを定めた。


「ブルー・マーケットキャノン!」


 巨大な弾丸が地面を走り、敵の隊列をまとめて崩した。


 フゴーブラックはギターを逆さに持ち、斧として振るう。


「ブラック・ロックアックス!」


 音波と斬撃が重なり、戦闘員たちが吹き飛んだ。


 フゴーイエローは弓を引く。


「イエロー・ゴールドアロー!」


 金色の矢が空中で分裂し、敵の武器だけを正確に撃ち落とした。


 フゴーピンクは細身の剣で舞うように戦う。


「ピンクサーベル!」


 優雅な剣筋が、戦闘員たちを次々と倒していく。

挿絵(By みてみん)

 ウニドゲスが怒り狂った。


「おのれ、ダイフゴー! ならば、我が必殺のウニ棘ミサイルを受けよ!」


 全身の棘が光る。


 無数の棘が五人へ向かって放たれた。


「散れ!」


 フゴーレッドが叫ぶ。


 五人は一斉に跳び、棘をかわす。


 だが、一本の棘が逃げ遅れた子供に向かって飛んだ。


「危ない!」


 フゴーピンクが飛び込んだ。


 ピンクサーベルで棘を弾き、子供を抱きしめる。


「もう大丈夫でございます」


 子供が泣きながらうなずいた。


 フゴーレッドはウニドゲスをにらんだ。


「弱い者を狙うとは、許さん!」


「黙れ、地上人!」


 ウニドゲスが突進してくる。


 フゴーレッドは二丁拳銃を構えた。


「みんな、決めるぞ!」


「了解!」


 フゴーブルーの大砲銃。


 フゴーブラックのギターアックス。


 フゴーイエローの弓。


 フゴーピンクのピンクサーベル。


 そしてフゴーレッドの二丁拳銃。


 五つの武器が空中で合体する。


 黄金に輝く巨大な必殺砲。


 富轟バスター。


 五人が力を込める。


「富轟バスター!」


 フゴーレッドが叫んだ。


「富は力にあらず!」


 フゴーブルーが続ける。


「守るための責任なり!」


 フゴーブラックが叫ぶ。


「響け、正義の重低音!」


 フゴーイエローが声を張る。


「輝け、気高き誇り!」


 フゴーピンクが剣の柄に手を添える。


「すべての命に、真心を!」


 五人の声が重なった。


「ダイフゴー・ゴールドバースト!」


 黄金の光弾が放たれ、ウニドゲスを直撃した。


「ウニィィィ! クラーケン様ぁぁぁ!」


 ウニドゲスは大爆発を起こした。


 戦闘員たちは慌てて海へ逃げ帰っていく。


 人々から歓声が上がった。


「ありがとう、ダイフゴー!」


「助かったぞ!」


 フゴーレッドは海を見つめた。


「カイサーン……本当に海底から来たのか」


 フゴーブルーが答える。


「蟹女の警告は正しかった。少なくとも、敵の存在は証明された」


 フゴーブラックが肩をすくめる。


「言葉が通じない仲間候補ってわけか。難しいな」


 フゴーイエローは静かに言った。


「けれど、あの方はわたくしたちを助けようとしていました」


 フゴーピンクは海の方角を見つめた。


「早く戻りましょう。蟹女様が待っています」


     *


 海底。


 カイサーン城。


 クラーケンは、ウニドゲス敗北の報告を聞き、触手を怒りで震わせていた。


「富轟戦隊ダイフゴー……」


 黒い墨が玉座の周囲に広がる。


「そして、蟹女め。やはり地上人類に知らせたか」


 クラーケンは低く笑った。


「よい。ならば、次はさらに強い怪人を送り込む。地上人類も、裏切り者の蟹女も、まとめて消し去ってくれる!」


 海の悪魔の影が、玉座の背後で不気味にうごめいた。


     *


 ダイフゴー基地。


 戦いを終えた五人は、檻の前に戻ってきた。


 蟹女は中で小さく座っていた。


 縄は解かれている。


 だが、檻の扉にはしっかり鍵がかかっている。


「敵ではない可能性が高い」


 守が言った。


「だが、カイサーンの関係者であることも間違いない」


 瑠璃は腕を組む。


「保護すべきか、監視すべきか、判断が難しいですわね」


 怜音は檻をのぞき込んだ。


「ま、少なくとも今日の勝利はこの子のおかげだろ」


 蟹女は怜音を見て、首をかしげる。


「カニ?」


 豊は静かに言った。


「しばらく檻に入れて飼う」


「坊ちゃま、飼うという表現は少々……」


 真珠が困ったように言う。


「では、保護観察だ」


「それなら、まだ」


 真珠は皿を持って檻の前に膝をついた。


 皿には魚の切り身、小さな海老、野菜が盛られている。


「蟹女様、お食事でございます」


 真珠が檻の中に皿を置いた。


 蟹女は恐る恐る近づく。


「カニ……?」


 そして、這いつくばるようにして餌を食べ始めた。


「カニ! カニィ!」


 嬉しそうな声だった。


 真珠は優しく微笑んだ。


「お気に召したようです」


 豊は檻の前に立った。


「蟹女。お前の言葉はまだ分からん。だが、お前が危機を知らせようとしていたことは分かった」


 蟹女は顔を上げる。


「カニ」


「俺たちはカイサーンと戦う。地上を守るために。そして、海を憎しみから解放するために」

挿絵(By みてみん)

「カニィ……」


 蟹女は静かに目を伏せた。

 自分はひどい扱いを受けている。

 檻に入れられ、鍋で脅され、餌を皿で与えられている。

 けれど、地上人類は彼女の警告で救われた。

 大地と海の平和のためなら、耐えよう。

 父が守ろうとした平和のためなら。


 蟹女は、小さく鳴いた。


「カニ、カニィ……」


 その声の意味は地上人には解らない。

 だが、真珠は少しだけ、何かを感じたような気がした。


 それは、平和を守る決意の声だった。


 こうして、富轟戦隊ダイフゴーと蟹女の奇妙な共同生活が始まった。



=== 次回予告===


 クラーケンの怒りが、海の悪魔を呼び覚ます!

 倒した怪人が巨大化し、街を踏み潰す!

 五体の富豪メカがついに出撃!


 ドゾウー!


 コバンダー!


 キンカー!


 ギンカー!


 ドウカー!


 五つの富が一つになる時、巨大ロボ豪商軍(ゴウショーグン)が立ち上がる!

 大地を守れ、ダイフゴー!


第二話 うなれ豪商軍(ゴウショーグン)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
富豪に海鮮。敵が大破した時にもっとおいしそーな内臓や肉の飛散があったら、なおいいと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ