第一話 反逆の蟹女
おとぎ話の中にしか存在しないと思われていた海底王国、今はカイサーンと呼ばれていた。
だが、それは本来の名前ではない。
玉座を奪ったクラーケンが、海底王国をそう呼ばせていたのだ。
黒い珊瑚で築かれた城壁。真珠の光が揺れる大広間。そこに、海産物を思わせる異形の怪人たちと、貝殻の鎧をまとった戦闘員たちが集まっていた。
玉座には、巨大なイカの怪人が座っている。
十本の触手をゆらめかせ、暗い海よりも深い眼で臣下を見下ろす怪人。
その名は、クラーケン。
「聞けい、カイサーンの民よ!」
クラーケンの声が、大広間を震わせた。
「地上人類は、我らの海を汚した。油を流し、毒を流し、欲望の残骸を海へ捨てた。もはや許すことはできん!」
怪人たちが各々の武器を掲げる。
「地上人類を滅ぼせ!」
「海の怒りを思い知らせろ!」
「カイサーン万歳!」
クラーケンの背後で、黒い霧のようなものが渦を巻いていた。
それは彼が召喚した、海の悪魔だった。
その力を受けたカイサーンの怪人たちは、地上へ上がり、地上人類の言葉を操ることができる。
海と地上を隔てる言葉の壁を越え、侵略者として人間たちに恐怖を告げるために。
「まずは地上の海辺を血で染める。海水浴に浮かれる地上人どもに、海の怒りを教えてやれ!」
クラーケンが触手を振ると、棘だらけの怪人が前に進み出た。
ウニの怪人、ウニドゲスである。
「お任せください、クラーケン様。このウニドゲスが、地上人類どもを串刺しにしてくれます!」
「行け。地上侵攻の第一歩を刻むのだ」
歓声が上がる。
だが、その柱の陰で、一人だけ震えている者がいた。
赤い甲羅に鋏のような両腕。
人間の少女にも似た姿。
タラバガニを思わせる女性怪人、蟹女だった。
「カニィ……」
そこは、本来なら彼女が敬愛する王の場所だった。
優しい王は、もういない。
そして、玉座にはクラーケンが座っている。
「カニィ……」
蟹女は、海の悪魔の力を受けていなかった。
だから、彼女の言葉は、地上の人間には「カニ、カニィ」としか聞こえない。
けれど、このまま黙っていれば地上は滅ぼされる。
地上が戦場になれば、海もまた血で汚れる。
蟹女は決意した。
知らせなければならない。
言葉が通じなくても。
怪物だと恐れられても。
父が守ろうとした平和を、守らなければならない。
蟹女は柱の陰からそっと離れ、戦闘員たちの目を盗んで、大広間の外へ走った。
「カニ、カニィ!」
暗い海を抜け、地上へ。
彼女は一心に泳ぎ出した。
*
同じ頃。
日本の海辺では、夏の太陽がまぶしく輝いていた。
1994年7月13日、海開きの日。
金城財閥が所有する海辺のリゾートには、招待された客たちが集まり、白い砂浜は華やかな空気に包まれていた。
その中心に、五人の若者がいた。
白いパラソルの下、サングラスをかけて海を眺めている青年がいた。
大財閥の若き総帥、金城豊、 彼こそが、フゴーレッド。
富轟戦隊ダイフゴーのリーダーである。
「海はいい。だが、油断はできん」
豊は静かに言った。
隣でノートパソコンを開いていた青年が、画面から目を離さず答える。
「ニューヨーク、ロンドン、東京。どの市場も今日は穏やかだ。海の波より相場の波の方が読みやすい」
若き金融王、財前守、フゴーブルーである。
少し離れた場所では、黒いシャツを着た青年がギターを鳴らしていた。
その周囲には、彼を慕う美女たちが笑顔で集まっている。
「夏の海、美女たち、そして俺のギター。完璧なステージだな」
世界的ミュージシャン、京極怜音。
一番のイケメンにして、フゴーブラック。
「怜音さん、少し浮かれすぎではありませんこと?」
涼しい声がした。
ミニスカートの上品な夏服を着た令嬢が、日傘を傾ける。
旧家の御令嬢、海宝瑠璃。
名門女子大を卒業したばかりで、金城家へ嫁ぐ準備を進めている豊の婚約者、フゴーイエローである。
そして、豊の背後に控えるように立つメイド服の女性がいた。
花園真珠。
高校生の頃から金城家に住み込みで仕えているメイドであり、フゴーピンクである。
豊かな胸元を白いエプロンで包み、海辺にもかかわらず、いつものメイド服を崩さない。
「坊ちゃま、冷たいお飲み物をお持ちしました」
「ありがとう、真珠」
豊はグラスを受け取った。
その一瞬、二人の視線が重なった。
幼い頃から一緒に育った二人の間には、互いに特別な想いがあった。
けれど、豊には家同士が決めた婚約者がいる。
真珠は微笑み、すぐに一歩下がった。
「どうぞ、坊ちゃま」
瑠璃は、そのわずかな空気の変化に気づいていた。
だが何も言わず、ただ海を見た。
水面は、夏の光を受けてきらきらと輝いている。
その平和な海が、ふいに泡立った。
「ん?」
守が顔を上げた。
「妙だ。潮の動きが不自然だ」
ざわり、と海水浴客たちが振り向く。
沖の方から赤い影が近づいてくる。
やがて、それは海面を割って姿を現した。
赤い鋏と甲羅。
人間の少女のような顔。
しかし明らかに人間ではない。
海から、蟹女が上がってきた。
「きゃああああっ!」
「化け物だ!」
「逃げろ!」
砂浜に悲鳴が広がった。
人々が浮き輪を投げ捨て、我先にと逃げ出す。
蟹女は両腕の鋏を振りながら、必死に叫んだ。
「カニ! カニィ! カニ、カニカニィ!」
彼女は訴えていた。
カイサーンが来る。
クラーケンが地上人類を滅ぼそうとしている。
逃げて。
備えて。
海を憎しみで満たさないで。
けれど、地上の人間たちには、ただの鳴き声にしか聞こえなかった。
「カニ! カニィ!」
蟹女は、逃げずに立っていた豊を見つけた。
彼なら話を聞いてくれるかもしれない。
人々の前に立ち、自分を見据えている。
この男なら、話を分かってくれるかもしれない。
蟹女は豊の前へ駆け寄った。
「カニ、カニ、カニィ!」
豊はサングラスを外した。
「怪物め」
「カニ?」
「この砂浜にいる人々は、俺の客人だ。俺の客人に手を出すことは許さん!」
蟹女は首を振った。
「カニィ! カニカニィ!」
だが、豊には通じない。
豊は砂を蹴り、鋭く跳び上がった。
「富豪流防衛術!」
跳び蹴りが蟹女の顔面に命中した。
「カニィィィ!」
蟹女は見事にひっくり返り、甲羅を下にして砂浜に転がった。
鋏と足をばたばたさせている。
「カニ! カニ! カニィ!」
怜音の周囲にいた美女たちは悲鳴を上げて逃げていく。
怜音はギターを肩に担いだ。
「やったぞ、さすが俺達のリーダーだ!」
守は冷静に蟹女を観察する。
「攻撃の意思があるなら、反撃しないのはおかしい」
瑠璃は豊の横に立った。
「でも、油断は禁物ですわ。怪人であることに変わりはありません」
その時、真珠が蟹女の前に膝をついた。
「坊ちゃま」
「どうした、真珠」
「敵ではなさそうです」
真珠は、ひっくり返ったまま涙目で鳴いている蟹女を見つめた。
「この怪物は、何かを訴えようとしています」
蟹女は真珠の顔を見た。
そして、さらに必死に鳴いた。
「カニ! カニィ! カニカニ!」
真珠は静かにうなずいた。
「ほら、やはり」
豊は腕を組んだ。
「何を言っているか分からん」
守が言った。
「未知の言語だ。録音して解析すれば、何か分かるかもしれない」
瑠璃は不安げに砂浜を見回した。
「ここでは人々が怯えますわ」
豊は決断した。
「よし。コイツを檻に入れて連れて行け」
「坊ちゃま、檻でございますか?」
「このまま放置するわけにもいかん。ダイフゴー基地で調べる」
こうして蟹女は、金城財閥特製の強化檻に入れられ、地下のダイフゴー基地へ運ばれることになった。
檻の中で、蟹女は何度も叫んだ。
「カニィ! カニ、カニィ!」
それは警告だった。
だが、まだ誰にも届かなかった。
*
金城財閥の海辺の別荘。
その地下深くに、巨大な秘密基地がある。
ダイフゴー基地。
それは富める者の義務を果たし、人々を守る力となるための基地だった。
基地の中央に、白衣の男が立っていた。
「ほう。海から現れた蟹型の女性怪人か。興味深い」
水木茂雄博士。四十八歳。
金城財閥お抱えの天才科学者である。
水木博士は、檻に入れられた蟹女をじっと見つめた。
「外骨格は甲殻類に近い。だが、骨格構造は人間に似ている。我々とは異なる海底で暮らす人類の一種かもしれんな」
豊が尋ねた。
「海底人類?」
「古い伝説にはある。地上とは別に、海底で進化した知的生命体がいるという話だ。まあ、学会で言ったら笑われるが」
「現物がここにいる以上、笑い話ではありませんわね」
瑠璃が檻の中を見つめる。
蟹女は怯えながらも、必死に訴えている。
「カニ、カニィ、カニ! カニカニィ!」
水木博士は首をひねった。
「言語らしき規則性はある。だが、地上の言語とはまるで違う」
守が録音機を置いた。
「解析には時間がかかる」
豊は蟹女に近づいた。
「お前は何者だ。どこから来た。何を伝えたい」
「カニ! カニィ!」
「分からん」
怜音がギターを爪弾いた。
「歌なら心で通じるんだがな。カニ語は難しいぜ」
豊はしばらく考えた。
「やむを得ん。少し脅してみるか」
「坊ちゃま?」
真珠が不安そうに声を上げた。
次の瞬間、蟹女は縄で縛られ、巨大な鍋の上に吊るされていた。
鍋の中には湯が張られ、湯気が上がっている。
もちろん本当に煮るつもりはない。
少なくとも、真珠はそう信じていた。
豊は腕を組み、厳しい声で言った。
「正直に話せ。お前が敵なら、このまま蟹鍋だ」
「カニィ!」
「オマエは何者だ、誰の命令で来た」
「カニ、カニィ、カニ、カニィ、カニ!」
蟹女は抵抗しなかった。
逃げようともしなかった。
ただ縛られたまま、必死に訴え続けた。
真珠はその姿を見て、胸が痛んだ。
見た目はバケモノだが、敵だとは思えなかった。
金城豊が人を守りたいと願うように、目の前の蟹女もまた、何かを守ろうとしているのではないか。
「坊ちゃま」
真珠は静かに言った。
「この方は、怖がっているのではありません。急いでいるのです」
豊は蟹女を見た。
「急いでいる?」
「はい。何かが来ると、知らせようとしているように見えます」
瑠璃も小さくうなずいた。
「確かに、命乞いではありませんわね」
守は録音波形を見た。
「同じ音の組み合わせが何度も出ている。警告文の反復かもしれない」
怜音は真面目な顔になった。
「こいつ、俺たちに助けを求めてるんじゃない。俺たちを助けようとしてるのか」
蟹女は涙を浮かべながら鳴いた。
「カニィ……カニ……」
豊は黙った。
言葉は分からない。
だが、目は嘘をついていなかった。
豊は鍋の火を止めた。
「降ろせ」
真珠がすぐに縄を緩める。
その時、基地の警報が鳴り響いた。
巨大モニターにニュース映像が映る。
『臨時ニュースです! 海岸近くの市街地に、謎の怪物が出現しました! 怪物は周囲の建物を破壊しながら進行中です!』
画面には、棘だらけの怪人が映っていた。
ウニドゲスである。
「地上人類ども、聞け!」
ウニドゲスは日本語で叫んでいた。
「我らは海底の支配者カイサーン! 汚れた地上人類を、このウニドゲスが滅ぼしてくれる!」
蟹女が激しく身をよじった。
「カニ! カニィ! カニカニィ!」
豊は蟹女を見た。
「そうか。お前が知らせようとしていたのは、これか」
「カニ!」蟹女は何度もうなずいた。
豊は仲間たちを振り返る。
「行くぞ。地上の人々を守る」
守は大砲のような銃を取り出した。
「被害拡大を防ぐ。合理的判断だ」
怜音はギターを逆さに構えた。斧へ変形する特製ギターだ。
「美女軍団の前で怪物退治か。悪くないステージだ」
瑠璃は弓を手にした。
「海も大地も、守るべきものですわ」
真珠は細身の剣、ピンクサーベルを抜いた。
「坊ちゃま、どこまでもお供いたします」
豊は二丁拳銃を手にし、力強く叫んだ。
「富轟チェンジ!」
五人の腕のブレスレットが輝く。
「ダイフゴー!」
赤、青、黒、黄、桃。
まばゆい光が弾け、五人は強化服をまとった戦士へと変身した。
豊が二丁拳銃を構える。
「巨万の勇気! フゴーレッド!」
「相場を制する知略! フゴーブルー!」
「漆黒の旋律! フゴーブラック!」
「気高き黄金の誇り! フゴーイエロー!」
「奉仕の真心! フゴーピンク!」
五人が並び立つ。
「富轟戦隊 ダイフゴー!」
*
市街地では、ウニドゲスが暴れていた。
「ウニニニニ! 地上人類よ、海を汚した罪を思い知れ!」
カイサーンの戦闘員たちが車をひっくり返し、看板を壊している。
逃げ遅れた親子が道路の端で震えていた。
ウニドゲスが棘の腕を振り上げる。
「まずは貴様らから串刺しだ!」
その瞬間、赤い銃弾が棘を弾き飛ばした。
「そこまでだ!」
フゴーレッドがビルの上から飛び降りる。
続いて四人も着地した。
「何者だ、貴様ら!」
ウニドゲスが叫ぶ。
フゴーレッドは二丁拳銃を回転させ、構えた。
「人々の平和を脅かす者に名乗る名は一つ!」
五人が一斉にポーズを取る。
「富轟戦隊ダイフゴー!」
ウニドゲスは笑った。
「金ぴかの地上人どもめ! 我らカイサーンに逆らうか!」
フゴーブルーが冷たく言った。
「逆らうのではない。損害を止めるだけだ」
フゴーブラックがギターアックスを肩に乗せる。
「怪人退治のライブ、開演だ」
フゴーイエローは親子を背にかばった。
「ここから先へは行かせませんわ」
フゴーピンクはピンクサーベルを構えた。
「お掃除いたします」
戦闘員たちが一斉に襲いかかった。
フゴーレッドの二丁拳銃が火を吹く。
「レッド・ミリオンショット!」
光弾が戦闘員を次々と吹き飛ばす。
フゴーブルーは大砲銃を構え、冷静に狙いを定めた。
「ブルー・マーケットキャノン!」
巨大な弾丸が地面を走り、敵の隊列をまとめて崩した。
フゴーブラックはギターを逆さに持ち、斧として振るう。
「ブラック・ロックアックス!」
音波と斬撃が重なり、戦闘員たちが吹き飛んだ。
フゴーイエローは弓を引く。
「イエロー・ゴールドアロー!」
金色の矢が空中で分裂し、敵の武器だけを正確に撃ち落とした。
フゴーピンクは細身の剣で舞うように戦う。
「ピンクサーベル!」
優雅な剣筋が、戦闘員たちを次々と倒していく。
ウニドゲスが怒り狂った。
「おのれ、ダイフゴー! ならば、我が必殺のウニ棘ミサイルを受けよ!」
全身の棘が光る。
無数の棘が五人へ向かって放たれた。
「散れ!」
フゴーレッドが叫ぶ。
五人は一斉に跳び、棘をかわす。
だが、一本の棘が逃げ遅れた子供に向かって飛んだ。
「危ない!」
フゴーピンクが飛び込んだ。
ピンクサーベルで棘を弾き、子供を抱きしめる。
「もう大丈夫でございます」
子供が泣きながらうなずいた。
フゴーレッドはウニドゲスをにらんだ。
「弱い者を狙うとは、許さん!」
「黙れ、地上人!」
ウニドゲスが突進してくる。
フゴーレッドは二丁拳銃を構えた。
「みんな、決めるぞ!」
「了解!」
フゴーブルーの大砲銃。
フゴーブラックのギターアックス。
フゴーイエローの弓。
フゴーピンクのピンクサーベル。
そしてフゴーレッドの二丁拳銃。
五つの武器が空中で合体する。
黄金に輝く巨大な必殺砲。
富轟バスター。
五人が力を込める。
「富轟バスター!」
フゴーレッドが叫んだ。
「富は力にあらず!」
フゴーブルーが続ける。
「守るための責任なり!」
フゴーブラックが叫ぶ。
「響け、正義の重低音!」
フゴーイエローが声を張る。
「輝け、気高き誇り!」
フゴーピンクが剣の柄に手を添える。
「すべての命に、真心を!」
五人の声が重なった。
「ダイフゴー・ゴールドバースト!」
黄金の光弾が放たれ、ウニドゲスを直撃した。
「ウニィィィ! クラーケン様ぁぁぁ!」
ウニドゲスは大爆発を起こした。
戦闘員たちは慌てて海へ逃げ帰っていく。
人々から歓声が上がった。
「ありがとう、ダイフゴー!」
「助かったぞ!」
フゴーレッドは海を見つめた。
「カイサーン……本当に海底から来たのか」
フゴーブルーが答える。
「蟹女の警告は正しかった。少なくとも、敵の存在は証明された」
フゴーブラックが肩をすくめる。
「言葉が通じない仲間候補ってわけか。難しいな」
フゴーイエローは静かに言った。
「けれど、あの方はわたくしたちを助けようとしていました」
フゴーピンクは海の方角を見つめた。
「早く戻りましょう。蟹女様が待っています」
*
海底。
カイサーン城。
クラーケンは、ウニドゲス敗北の報告を聞き、触手を怒りで震わせていた。
「富轟戦隊ダイフゴー……」
黒い墨が玉座の周囲に広がる。
「そして、蟹女め。やはり地上人類に知らせたか」
クラーケンは低く笑った。
「よい。ならば、次はさらに強い怪人を送り込む。地上人類も、裏切り者の蟹女も、まとめて消し去ってくれる!」
海の悪魔の影が、玉座の背後で不気味にうごめいた。
*
ダイフゴー基地。
戦いを終えた五人は、檻の前に戻ってきた。
蟹女は中で小さく座っていた。
縄は解かれている。
だが、檻の扉にはしっかり鍵がかかっている。
「敵ではない可能性が高い」
守が言った。
「だが、カイサーンの関係者であることも間違いない」
瑠璃は腕を組む。
「保護すべきか、監視すべきか、判断が難しいですわね」
怜音は檻をのぞき込んだ。
「ま、少なくとも今日の勝利はこの子のおかげだろ」
蟹女は怜音を見て、首をかしげる。
「カニ?」
豊は静かに言った。
「しばらく檻に入れて飼う」
「坊ちゃま、飼うという表現は少々……」
真珠が困ったように言う。
「では、保護観察だ」
「それなら、まだ」
真珠は皿を持って檻の前に膝をついた。
皿には魚の切り身、小さな海老、野菜が盛られている。
「蟹女様、お食事でございます」
真珠が檻の中に皿を置いた。
蟹女は恐る恐る近づく。
「カニ……?」
そして、這いつくばるようにして餌を食べ始めた。
「カニ! カニィ!」
嬉しそうな声だった。
真珠は優しく微笑んだ。
「お気に召したようです」
豊は檻の前に立った。
「蟹女。お前の言葉はまだ分からん。だが、お前が危機を知らせようとしていたことは分かった」
蟹女は顔を上げる。
「カニ」
「俺たちはカイサーンと戦う。地上を守るために。そして、海を憎しみから解放するために」
「カニィ……」
蟹女は静かに目を伏せた。
自分はひどい扱いを受けている。
檻に入れられ、鍋で脅され、餌を皿で与えられている。
けれど、地上人類は彼女の警告で救われた。
大地と海の平和のためなら、耐えよう。
父が守ろうとした平和のためなら。
蟹女は、小さく鳴いた。
「カニ、カニィ……」
その声の意味は地上人には解らない。
だが、真珠は少しだけ、何かを感じたような気がした。
それは、平和を守る決意の声だった。
こうして、富轟戦隊ダイフゴーと蟹女の奇妙な共同生活が始まった。
=== 次回予告===
クラーケンの怒りが、海の悪魔を呼び覚ます!
倒した怪人が巨大化し、街を踏み潰す!
五体の富豪メカがついに出撃!
ドゾウー!
コバンダー!
キンカー!
ギンカー!
ドウカー!
五つの富が一つになる時、巨大ロボ豪商軍が立ち上がる!
大地を守れ、ダイフゴー!
第二話 うなれ豪商軍




