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ふしぎ体験レストラン『ごまんたる』  作者: ひるき 将
第六章:『MELON HART』

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第十五話「口パク芸人」

ゴールデンウイークが終わり、梅雨(つゆ)の季節にさしかかろうとしていました。そんなこととは(つゆ)しらず、能天気にごまんたるへ足を運びました。その日の私の姿は、ポメラニアンでした。

「がらがら・・・、こんにちは~」と、店内に入ると店主(おやじさん)はワシでした。

「お? ねこた、よく来たな。ゆきおがボックス席で待ってるべ」

「今日は、よろしくお願いします」

「あぁ、どんな対談になるか楽しみだべ」と挨拶をしましたが、気になるものを発見してしまいました。ホルモン氏が壁に向かって、じっと立ち尽くしていました。私は、店主に小声で聞いてみました。

「彼は、何をしているのでしょうか?」

「壁と向き合っているそうだべ」

「それは何故でしょう?」

「あーやって、2時間も3時間も時間を無駄にしているんだべ。向き合い終わったら、『時間が無駄だった』ことに気付くので、その後充実した生活を送れるらしいべ」

「・・・そうですか。何と向き合うかで変わると思うのですが・・・」

「そのことに、アイツが気付くまで500年かかるかも知れないべ。放っておくべ」

「そうします。趣味なのですから。他人がとやかく言えません」私は、ウキウキとボックス席に向かいました。ボックス席では、ゆきおさんが座って私を待っていました。

「今日は、お忙しい中お時間を取って頂いて、ありがとうございます」私は、挨拶をしました。

「どんな内容になるか、私も楽しみです。よろしくお願いします」ゆきおさんが言いました。私は、編集長に『謎の人気芸人の素顔に迫る、特別インタビウ』の記事を依頼されました。ゆきおさんは、快諾してくれました。今日は、ごまんたるで対談をすることになっていたのです。

私は「ディナー・インタビュー」に相応しいメニウを探してみました。


【DINNER INTERVIEW】

「軽めの麦酒(ビール)から始まって、次第にアルコールが強くなり自制が効かなくなる。前後不覚に陥り、誰かれ構わず(ののし)り倒す」と言う飲み会とは無縁の、和やかな食事会のこと。敬意を表した相手との貴重な時間を、ある程度強いアルコールの力も借りて、勇気を出して腹蔵(ふくぞう)なく話すことが目的。


≪ごまんたる・冬に先駆け・半年前だが年越しコース≫

≪銀河系・ステキ体験コース・28光年≫

≪超お得な飲み放題・樽から直接掬(すく)い呑みコース≫

≪超お得な食べ放題・親の仇食い尽くしコース≫

≪ギネス記録に挑戦・ラーメンの寸胴(ずんどう)食い世界記録を更新するまで泊り食いコース≫

≪ゆきお式・大人の(たしな)み・コース≫

≪・・・≫


すでに、親父さんはメニウを考えてくれていました。従って、迷うことなく決まりました。

≪ゆきお式・大人の(たしな)みコース 28回目≫

◎アルコール:

・マケテ~ヨ(しんぐるもい~ど・ちょぺっと・ウイスキー)

・一芸に死す(純米酒・大往生)

◎メイン・メニュー:

・パスタゲッティ(パスタに見えるスパゲッティです)

・カリスマのカニカマ丼(モロ平野で水揚げされたカニを使用しています)

◎一品料理:

・イカの天国揚げ、タコの地獄焼き(伸びやかな味わいをお楽しみください)

・ひっぱりダコ、つっぱりイカ(永遠のライバル関係をお楽しみください)

・鯖だばだ(お楽しみ料理。隠し味にパーパレードを使用しました)

◎デザート:

・ぴーたーパンケーキ(時には、童心に帰ろう)

・DADEVAチョコレート(カカオ未使用なんだでば)

※「せんべいでもくわせんべい」は、おかわり自由です!

料理の方向性が、和風なのか、洋風なのか、良く分かりませんでした。店主の芸風なのかも知れませんが、気にしないことにしました。今日の主役は、ゆきおさんなのですから。


食前酒が運ばれてきました。前菜をかるくつまみながらインタビューを始めました。私は取材内容を書き込むために「閻魔帳」を開きましたが、なんとなくボイスレコーダーをセットすることが躊躇(ためら)われました。悩んだ挙句、ボイスレコーダーを今回は使わないことにしました。

「まず、最近のゆきおさんを取り巻く環境についてなのですが、ゆきおさんの芸を発表する場は、多岐にわたると思います。今の活躍の場は、何処が多いですか?」

「最近は、自分の芸を発表する場が増えました。演芸場やTVはもとより、新聞や雑誌記事などの紙媒体や、ネットの場でも新しい芸を発表することが出来ます」

「ゆきおさんの、取材記事を見たことがありません。取材を引き受けないという噂は本当でしょうか?」

「そうですね。ほとんど取材を受けたことはありません。芸を発表すること以外を求められる場合が多いので・・・」ゆきおさんのことばの余韻が気になりました。

「差し支えなければ教えて頂きたいです。どのようなことを聞かれるのでしょうか?」

「プライベートな話題を広げられることは困ります。私は芸を発表する以外のことに興味はありませんから」

「なるほど、『読者や視聴者が気になっているハズだ』と思われ、拡大解釈されることには抵抗があるということで宜しかったでしょうか?」

「その通りですね。芸人だからと言って、誰しもが自己顕示欲の塊とは限りません。わたしは、いち芸人でありたいと思っています」

「最近、作り上げた『新しい芸』はあるのでしょうか?」

「ありますとも! この日のために作り上げました」

「拝見しても宜しいでしょうか?」

「宜しいですとも、これです」と言って、見せられたのは顔芸でした。

「『ケマゾツ!』」と言って、渾身の一発顔ギャグを披露してくれました。一本筋だった目が合体して一つになり、顔の中央で『くわっ』と見開かれました。目が充血していたので、命がけであることが伝わってきました。タラコ唇のおちょぼ口が『ぐわっ』と開き、歯ぐきを剥き出しにしました。(よだれ)のたれ具合から、本気度が伝わってきました。新ギャグを正面から拝見すると、眼と口だけで顔の面積の90%を占める荒業でした。

「素晴らしいです! 活字でしかお伝え出来ないのが残念です」

「そう感じて頂けるのは有難いです。映像の媒体で発表する気は微塵(みじん)もありません」

「ゆきおさんは、今や『超』の付く有名人でいらっしゃいます。インスタグラムの登録者数が三桁万人を超え、ネット配信の番組でも再生回数が億を突破する動画もあります。それなのに、5年前から新作動画を発表していません。かたくなまでに何処を目指そうとしているのでしょうか?」

「飽くまでも『芸』の追求ですね。一発ギャグと顔芸は想像力の賜物です。日ごろから磨いておかなければいけません、磨き上げれば『場の空気』を一気に変える必殺技にもなります。芸人として目指す一つのゴールであると考えます」

「知名度の高いテレビ番組に出演することや、自分の冠番組を持ち司会を引き受けることや、ネット配信番組の新作を発表するお考えはありますか?」

「『ありません。』と、きっぱりお答えしておきます」

「それは、何故でしょうか? 差し支えなければ、お教えください」

「スポンサーは構わないのですが、常に好感度に縛られることになります。芸人でありながら、表現することが制限されてしまう『口パク芸人』と化してしまいます。そうなれば芸人としては廃業(パタイ)です。折角そこそこ有名である芸人になれたのですから、私は一芸を極めるか出来るだけ多くの経験をしたいです。固定化された仕事を持ってしまうと、自由が利かなくなります。私は不器用ですから、それだけはお断りします」

「ゆきおさんが、世間に対して伝えたいことはありますか?」

「上手な司会を出来る人間はそこそこいますが、独自のネタを披露できる芸人は貴重だと思います。ですから、出来るだけ話題にしたり、企画で取り上げる回数を増やして(こす)ってあげてください。それが、芸人にとっての『華』なのです。何度もネタを擦ってあげる、こすりーとは歓迎です」

「(愚直なまでに『芸人』なんだな~)」無骨ですらあると私は思いました。ゆきおさんは、お気に入りの日本酒をこくっと飲むと続けました。

「誰しもが、第一線で活躍するために、自分のはたらく業界を決めると思うのですが、自分の成長からなのか、仕事への情熱を失ってしまったためか、現場の第一線から身を引く決断をする人が多いと思います」

「加齢などによる疲労が原因かもしれませんね」

「そうです。それを肯定する気も、否定する気もありませんが、私は共感出来ません。自分の抱いている情熱(パッション)が自分が選んだ業界への尊敬(リスペクト)であると考えております」

「ステキな考え方ですね」

「自分がとことんこだわって、戦い抜いてきた業界ですから。軽んじた瞬間にそれまでの自分が報われなくなると思うのです」

「耳が痛い話です。『誰でも出来ることは他人に任せて、自分しか出来ない表現を追求する』というお考えで宜しいでしょうか?」

「That’s right! You are great!」

「(考えていることは、いちいち尤もだ。誰でも出来ることは、そのうちAIがやっているだろう。自分にしか書けないものを、自分なりの表現で、アレコレと模索しながら書けばよいのだ!)」私は、一杯呑みたくなりました。

「ゆきおさん、自分のはたらいている業界に対して乾杯したいです」

「すばらしい考えです」

「『誰しもが経験することは出来るだけ経験することとして、自分だけが発見したものを自分にしか出来ない表現で伝えること』を、私はゆきおさんから教えて頂いた気がします」

「そこまでは、伝えていません。あなたが自ら学んだのです」

「楽しい時間をありがとうございます」

「こちらこそ」その後、インタビューとは別にプライベートな話で盛り上がりました。私が店を出る時に、店主に帰りの挨拶をしました。時刻は既に丑三つ時を過ぎていました。

「今日は、とても楽しかったです。ありがとうございました」

「楽しんでもらえて、何よりだべ」

「仕込みですか?」

「あぁ、10日後の予約客の分だべ。まだ客がいるんでな。仕方ねぇべ」私は、店主の視線の先を見やりました。果たして、ホルモン氏がまだ壁と向き合ってブツブツぼやいていました。

「(そんなに、反省することがあるのだろうか・・・?)」何を反省しているのだろうと、耳を傾けてみました。

「また・・・、やってもうた・・・。

今日のお昼も診察(しんさつ)(めし)・・・。

2時間ならんで5分で食べる・・・。

味はすっかり忘れたよ・・・。

だって・・・、

そこそこ美味しくたって・・・、

待たされた記憶しかないんだもの・・・。

ごまんたるがいい・・・」

なるほど、内容のある前向きな反省だと思いました。

私は、彼の反省するさまをしみじみと眺めながら、ポメラニアンなのに猫足でその場を立ち去りました。


『地底人家族・妖怪もふもふ』に続く(予定)


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