第十九話 トドメ
投稿頻度もうちょっとがんばります。
進はいつもと違う神聖な魔力に新鮮さを感じていた。
悪魔の力ももちろん使える。なぜかこの神聖な力が目覚めてから悪魔の魔力も回復したため使えるようだ。
(クフフフ。どうやら神の力の覚醒により魔力統合ができるようだったので統合することにより私の魔力の回復もはかりました。その結果魔力は神凶悪聖へとなり、魔力量も大幅に上がり、その量は50万程。クフフフ。これならエステラにもラマックにも勝てるやもしれません)
(50万!? そんな力を俺が持っていいのか? 何も、なしてこなかった。ここでは勿論。元の世界でも、俺はただ怠惰な人生を送ってきただけだ。そんな俺が……お前の力だけでも不相応だって言うのにこんな強大な力を扱う権利なんてあるのか?)
(クフフフ。与えられたのは貴方なのです。賽は投げられました。使いこなすか自滅の道を歩むか。それは貴方次第でしょうねぇ。クフフフフ)
マジかよ……まぁでも今はやるしかない。この力でエステラを、ラマックを、そしてデモゴルゴンを倒す。それは決定事項だ。それが当面の目標であり約束だ。
「散々仲間を傷つけてくれやがったなエステラ。今度はこっちのターンだ。魔力解放! 神凶悪聖!」
進の新たな力がここに解放される。空気がビリビリと震え、その力強さは一目瞭然。
エステラもその姿に思わず震え上がる。
「その力……まさか神人!? いや、しかし悪魔の力を持つ神人など聞いたことがない!」
「神聖なる煉獄に焼かれろ! 神凶煉獄!」
神聖な魔力と地獄の炎が混ざり合いエステラとラマックを襲う。
「クァァァァ!」
「グフッッッッ」
エステラとラマックの唸り声が轟く。
煉獄の業火に焼かれもはや虫の息となり地に伏すエステラとラマック。
するとラマックは力を使い尽くしたのか光に包まれると剣へと姿が戻っていった。
一撃で一気に形成逆転となりパニックになるエステラ。
「こんな力……ありえない……」
エステラはもはや戦える状態ではなかった。
今の進なら以前の進を一撃で葬ることも可能だろう。
それだけの力量差があれば絶望するのも無理はない。エステラは青ざめた顔で焦げてボロボロになったワンピースを纏い膝をつき下を向いていた。
そこに進が追い討ちをかけるように言った。
「こんなものではこれまで苦しんできた人の苦しみには到底及ばない。もっと苦しんで眠りにつけ、悪魔エステラ!」
そして進はさっきよりも魔力を練り、恐らく一国の軍を壊滅させることもできるであろう魔法を構築する。
しかし、その魔法が発動する事はなかった。
進は袖を引かれ魔法の構築を中断する。
「進……お願い……私にやらせて」
ボロボロになった白いプレートをつけた美しい緑髪と深く透き通った緑の眼を持つ美女が苦しそうな声で、しかしそこには確固たる決意と信念を込めて言った。
エステラはリーゼが生まれ育った村の生き残り、恐らくリーゼとエステラ以外には居ないだろう。
つまりエステラを殺してしまえばあの「災厄の始まり」の生き残りはとうとうリーゼのみとなってしまうのだ。思うところがあるのは当然だろう。
「……わかった。もう動けないと思うけど一応気をつけて……」
進もわかっていた。それがどれだけ酷なことか。しかしそれが彼女の望み。ならばそうせざるおえない。
「エステラさん……私はあなたを殺さなくてはいけません……。憑依の解除方法は未だ見つかっていません。なのでそうするしかないのです……」
「なぜだ嘘だこんなこんなはずじゃ! 私は四凶悪魔の一角、最強の悪魔のはずだ!」
もはやエステラは正常な思考ができなくなっていた。
しかしそれを無視する様にリーゼは続ける。
「あなたに初めてあった4歳の頃。私が溺れているところを助けていただいた時からあなたは……私の憧れで、目標でもありました……なのに……なのに……どうして……どうして悪魔は! 私から何もかもを奪っても飽き足らずに! 憑依までエステラさんにして私の前に現させるなど! 私はエステラさんの代わりに! 村の全員の想いを背負って奴を! デモゴルゴンの首をとって見せます!」
リーゼは涙目になりつつも、空とエステラに号哭を飛ばすと同時に剣を抜きエステラへと振り下ろす。
エステラの首が宙を舞いリーゼは剣を落とし顔を抱えて静かに顔を濡らす。
(あなたが背負う必要はないわ。あなたは、貴方だけはどうか死なないで。私達の願いはそれだけよ。さようならリーゼ。きっと貴方は強くなれるわ。リーゼ––––)
何かが空で囁いたような気もするが気のせいだろうか。とにかくこれで一件落着だ。まだまだやる事が山積みだけどな。
進はしゃがみ込んで虚ろな雰囲気を醸し出すリーゼの元へと歩みよる。
「顔を上げろ。リーゼ。これからだ、これからが本当の戦いなんだ。泣いてもいい。頼ってくれればいいからさ。デモゴルゴンを倒しても、失ったものは戻らないし、これからも何かを失って得て、また失って。きっと辛い事も楽しいことも多いだろうな。それでも生き続けるんだ。生きて生きて、失って、傷ついたら俺やライカを頼れ。俺達はデモゴルゴンを倒すパーティーだろ!」
進はリーゼに手を差し伸べる。
「なんだか私。進やライカに頼ってばっかりね。口だけはデモゴルゴンを倒すって言ってるけど、今回の戦いで、自分の弱さを否が応でも突きつけられた。何もできなかった」
リーゼは自身の弱さを知った。進の時と同じように。いや、それ以上の本気の殺し合いをして、手も足も出なかった。
するとライカは目を覚ましたのかこちらへ歩いてくる。
「勝ったみたいだね。結局何も出来なかったよ……でも次までに強くなって今度は殺ってやるんだから! 進より強くなっちゃうかもね!」
ライカも同じように感じるものがあったようだ。
「俺ももっと強くなるさ、追いつけないくらい強くなってやるよ!」
「リーゼ、何もできなかったから全て背負う必要なんてない。これから返せばいいんだよ。きっと見てくれてる。天国で、きっと」
ライカもリーゼに手を伸ばす。
「……そうね。もっと強くなってあのクソ悪魔どもを駆逐してやらなければね」
口調が荒ぶってらっしゃるようで何よりです。
すると、王都方面から何やら斥候部隊らしき兵士100名程が馬に乗ってやってきた。
「止まれ!」
この部隊の隊長らしき人物が馬を止める。
「こちらの方で異常な魔力反応が検知されたのだが……君達は国が出した依頼を受注した冒険者かい? ……何が……あったのか、教えてくれるか」
戦闘でさらに荒れ果てた村の惨状とボロボロになった3人を見て隊長が言う。
進はリーゼに言う。
「今回の討伐者はリーゼだ。さぁ、勝ち鬨を上げるんだ」
「いや、一番の功労者は進でしょう? なら進がするべき」
「ここはリーゼにして欲しいんだ。この戦いは。頼む」
進は落ちているリーゼの剣を拾い上げリーゼに差し出す。
リーゼは少し躊躇ったが、剣を手に取り、それを掲げる。
「今! ここに現れた四凶悪魔である白の悪魔エステラを! このリーゼ=フィノラが討ち取った!」
兵士は何を言っているのか理解するのに時間がかかり反応が遅れる。次第に状況を理解すると兵士がざわつく。
そして、
「「「「をおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
100人の兵士が剣を掲げる。
そうしてエステラとの戦いは幕を閉じた。
二章閉幕。
次回もよろしくお願いします。




