第十四話:盗賊と遭遇
ケンたちはスガーモ市へ向かって、イタバーシ平原を馬車で進んでいる。
「ここら辺は治安が悪いそうだ。まあ、東の方のアダーチ大湿原は、モンスターの巣窟で人は通れないようなんで、そっちよりはましみたいだけど」とケンがナオミとハナに説明した。
周囲は木がまばらに生えているだけだ。
ちょっと荒涼とした場所だなあとナオミは思った。
空はどす黒い雲で覆われている。
遠くの方でゴロゴロと雷の音がする。
しばらくして、雨がザーザーと降って来た。
かなり強い雨だ。
三人は筵を被って、雨を防ぎながら馬車を進めていく。
少し近くで雷が落ちた。
「キャ!」と雷が苦手なナオミが悲鳴をあげる。
「雷の音くらいで、悲鳴をあげるなよ」とケンがからかう。
「うるさいわねー! 怖いものは怖いの!」
「ハナは平気な顔をしてるぞ」
ハナは筵をちょっと上げて、空を見ている。
「ハナ、ちょっと斧を立ててみたら」とケンが言った。
何となく仕方が無さそうに、ハナは黙って後ろの荷台で斧を立てる。
「ハナの斧はデカいから雷が落ちるかもしれないな」とケンが笑いながら、ナオミを脅かす。
「ちょ、ちょっと、実際、この馬車に落ちたらやばいじゃん!」とナオミが怯えた表情をする。
「その時は死ぬしかないなあ」とケンがのほほんと答える。
「何言ってんの、死ぬとか縁起でもないこと言わないでよ!」
すると、また少し近くで雷が落ちた。
「ヒイ!」とまたナオミが悲鳴をあげる。
「ハ、ハナちゃん、お願い! 斧を下げて! 早く下げて!」とナオミが叫ぶ。
ハナはまた仕方が無いなあといった表情で、斧を横にして荷台の上に置いた。
「雷ごときで悲鳴をあげるとは、冒険者としての気構えがないぞ、ナオミ」とケンが笑う。
「あー、さっきの仕返しね、この意地悪!」とナオミがケンの頭をポカポカと殴る。
「痛い、痛い」とケンが大げさに痛がった。
ふざけている二人を、後ろからハナが憮然とした顔で見ている。
イタバーシ平原の荒れた道をさらに馬車で進んで行くと、前方から馬に乗った男たちが集団でやって来るのが見える。
間近まで来ると、三十人くらいの男たちの集団だ。
全員、剣や斧を携帯しており、弓矢まで持っている奴もいる。
身なりや雰囲気からすると盗賊らしい感じだ。
ナオミは魔法が使えないし、自分は右脚が本調子じゃない。
ハナは元気だけど、さすがにこの人数はまずいなとケンは思った。
盗賊たちが、馬車の前をふさぐ。
「おい、金目の物を出しな」と先頭の奴が脅してきた。
「貧乏で金なんて、持ってない」と筵を上げて、ケンが言う。
「確かに、こいつら貧乏そうだけど、ボス」
盗賊たちが笑う。
「時間の無駄かな、放っておくか」と後方のボスらしき人物が言った。
このまま、去ってくれればとケンは願ったが、
「お、かわいい娘がいるぞ」と一人の盗賊がナオミを見る。
くそ、目ざとい奴だ。
こうなったら、命がけで挑もうと剣を鞘から抜いた。
「ナオミ、俺が降りて、奴らを引き付けるから、お前はハナを連れて馬車で全速で逃げろ」
「ケンはどうするの」とナオミが不安な顔で言った。
「俺のことはいい」
「そんな、だめよ」
「人数が多すぎる」
「ケンを置いて逃げるなんて嫌よ」
「じゃあ、どうするんだ」
正直、ナオミも盗賊が怖い。
二人が青ざめた顔で相談していると、ハナが斧を持って、ひょいと馬車の荷台から降りた。
そのまま、雨がザーザー降りの中を全身ずぶ濡れで、盗賊の方へパタパタと歩いていく。
「おい、ハナ、どうする!」
「ハナちゃん、戻って!」
ケンとナオミが慌てているが、ハナは盗賊たちの近くまで行くと、
「お前らどっか行け! でないと死ぬ!」と大声で叫ぶ。
「何だ、このちっこいガキは」
盗賊たちがゲラゲラと笑っている。
「あたし、ナガーノ族! 魔法使い! 雷呼べる! これがライチョウ、雷神の使い!」とエプロンのライチョウの刺繍を指さす。
「この斧、雷神呼ぶ! お前ら死ぬ!」と斧を盗賊に向けて見せる。
「ウソつくな、やれるもんならやってみろよ」とますます盗賊が笑う。
「ナガーノ族、ウソつかない!」とハナは怒鳴ると、大雨の中、地面に膝まづいて呪文を唱えはじめた。
ナガーノ語だろうか、変わった発音に盗賊たちも少し不気味な顔をし始める。
突然、ハナが、
「ヤア!」と大声を出して、斧を突き出す。
斧をさした方向にある大きな木に雷が落ちた。
「ウワア!」とその付近の、盗賊たちの馬がいなないて、前足を上げたため、中には振り落とされる奴もいる。
雷が落ちた木が真っ二つに割れて倒れて、燃え始めた。
「次、お前ら! 死ぬ!」とハナが盗賊たちの方に斧を突き出して怒鳴った。
「ボス、やばいかも」と一人の盗賊がボスに話かけている。
「変な奴らには関わらんほうがいいか。退散しよう」
ボスの言葉に、盗賊たちはそそくさとハナの前から逃げ出して行く。
それを見て、ハナは何事も無かったように、斧を担いで馬車に戻って来た。
盗賊たちが遠く離れて行ったのを見て、ケンとナオミはホッとして、ようやくハナに声をかけた。
「凄い、ハナちゃん、魔法使えたんだ!」とナオミが驚いて聞くと、
「使えない」とハナが言った。
「え?」
「斧に魔力があったのか」とケンが言うと、
「斧、魔力ない。ただ頑丈」とハナは平然としている。
「じゃあ、さっきの雷はどうやって落としたんだ」
「たまたま、落ちた」
「えー、じゃあ、呪文は」とナオミが不思議な面持ちで聞くと、
「でたらめ。ヤマモトの真似」
ケンとナオミは少しあきれた顔で見合わせる。
「ハナちゃん、もし、雷が落ちなかったらどうするつもりだったの」
「テキトーにゴマカス。いつか落ちる。あーゆー連中、すぐ逃げる」
「ライチョウは雷神の使いって叫んでたけど、あれは何だ」
ハナは少し考えた後、
「ライチョウはナガーノ族のシンボル。けど、ライチョウと雷、多分、関係ない」と答えた。
はあ~とため息をつくケンとナオミ。
「ハナちゃん、ナガーノ族、ウソつかないとも言ってたけど」
「ウソつかない人、いない」と言って、ハナは少し笑った。
「けど、ハナちゃん、私たち仲間内ではウソはつかないようにしようね」とナオミが言うと、
「わかった」とハナは答えた。




