第十三話:アラ川ダム
次の日、ケンたち三人はスガーモ市に向かうことにした。
今回はウラーワ村から少し離れているので、馬車を使うことにナオミは文句を言わなかった。
自分たちの荷物や、冒険者ギルドの主人から配送を頼まれた報告書もまとめて荷台に置く。
天気があまりよくない。
「今日は曇っているなあ」とケンが空を見上げると、
「もうすぐ、雨」とハナが言った。
「天気がどうなるかわかるの」とナオミが聞くと、
「なんとなく」とハナが答える。
スガーモ市に向かう途中、イワブーチ村付近にあるアラ川ダムの近くを通る。
ウラーワ村の冒険者ギルドの主人が一度見てこいとケンたちに薦めていた場所だ。
巨大なダムが見えてきた。
「こんなでかいものとは思わなかった」とケンたちは驚いている。
両側にある山の中腹くらいまで、コンクリートブロックが積んであり、上部の穴から滝のように水が落ちている。
「ちょっと、馬車を降りて、近くまで見に行こう」
同じ規格の石が正確に積まれている。
「あれがコンクリート・ブロックか」
よく見ると、河川を横断する堤が弧を描くよう緩やかに曲線上に石が積んである。
「凄い技術だなあ」とケンが感心していると、河原に一人の中年男性が立っているのが見えた。
右目に黒い眼帯を斜め掛けをしている。
「ガンタイ」とハナが指さして言った。
「あれ、あの人は、確か、アラ川でサイクロプスに襲われたとき、助けてくれた人だ」
「確か、タナカさんだったわね」
男がケンたちに気づいた。
「こんにちは、先日は助けていただいてありがとうございます」とケンはあらためてお礼をおった。
「ああ、君たちか。奇遇ですね」
なんとなく、この前に会ったときより、顔がやつれているなあとケンは思った。
「観光ですか」
「いや、このダムの設計者なんですよ」
「え、凄いですね」とケンたちが驚く。
タナカは、ハナのエプロンを見て、
「ライチョウか」と呟く。
「このダム、凄いですね。コンクリートのおかげで、こんなに巨大なダムが作れるようになったと聞きましたが」とケンが言うと、
「ただ積み上げるのではなく、中に鉄の棒を入れて積み上げることで、頑丈なものがつくれるようになったんですよ」とタナカが答えた。
「ダム。何?」とハナが聞くと、
「大雨が降ったとき、ダムで水を溜め込み、下流への水量を調節して、周辺の洪水被害を軽減したり、農業用水の安定化のために水量を確保するんですよ」とタナカが説明してくれる。
「って、わかるかな」とタナカがハナに言った。
「うーん、わかんない」とハナが答える。
その様子を見て、皆で笑った。
「この間、コンクリートで出来たゴーレムを私たちは倒しましたよ」ナオミが言った。
「それは凄い、その子が斧でゴーレムを倒したんだな」
「このダムの表面って緩やかにカーブを描いていますね」
「アーチ式コンクリートダムって言うんだ。貯水池からの水圧をアーチ形状を利用して両岸と河床の岩盤に伝えて抵抗力を高める方式で、コンクリートの使用量を少なくすることができるんだ」
「って、わかるかな」とタナカがまたハナに言った。
「うーん、わかんない」とハナが言って、皆でまた笑う。
「これからも、こういうダムを作って行くんですか」とケンが聞くと、
「いや、私はもう関わっていないんですよ、じゃあ、また機会があったら」と立ち去ろうとするタナカ。
「待ってください」とナオミがタナカに呼びかけた。
「ん、何ですか?」
タナカが振り返る。
「私たちがゴーレムを倒したことです」
「それが、何か?」
「なんでハナちゃんが斧で倒したってわかったんですか。私たちはゴーレムを倒したとしか言ってませんよ」
タナカは笑顔を消して、
「ちっ!」と舌打ちをうつ。
「ヤマモトを操っていたのはあなたですか。他の人たちも」
タナカは無言だ。
「ナオミ、あの人、悪い人?」とハナがナオミを見上げて聞く。
「多分、黒幕だと思う」とナオミがハナにささやく。
「悪い人。捕まえる」とハナが斧を持って飛び出した。
「待って、ハナちゃん」とナオミが止めようとするが、タナカが指を少し動かすと、スイッと砂の塊が空中に上がって、ハナの顔にぶつかる。
「フギャ!」まともに、砂の塊が顔面に当たって、ハナは河岸でスッ転ぶ。
タナカはケンとナオミにも砂嵐攻撃をする。
砂が舞い上がって、ケンたちにぶつかって来る。
ケンとナオミは思わず、目をつぶった。
そのすきにタナカは逃げて行った。
地面に正座して、ハナがゲホンゲホンと咳をしている。
「ハナちゃん、大丈夫」とナオミが聞くと、
「目、痛い」と涙を流している。
アラ川に下りて、ハナの目を洗ってやる。
「スガーモ市ついたら、タナカのことを衛士隊に通報しておこう」とケンが言った。
「ところで、ナオミ、なんでわかったんだ」
「ケンがこの前、留置されているヤマモトさんに会った時、黒い石を回収しにきた男に『ゴーレムはエプロンにライチョウの刺繍がしてある怪力の女の子にやられたと報告した』って聞いたんでしょ」
「あれ、そんなこと、ヤマモト言ってたっけ」とハナに聞くと、
「言ってた」とハナが答える。
「ケンが私に報告してくれたんじゃないの」
「アハハ、すっかり忘れてた」と頭をかきながら、ケンはちょっと気まずそうだ。
「ナオミ、頭いい」とハナが言う。
「ありがとう、ところでハナちゃんはケンのことはどう思う」
しばらく、黙るハナ。
「ケン、優しい」と言った。
それを聞いたケンは、
「なんだよー! ハナを使って、俺は頭が悪いって言いたいのかよ」と少し怒る。
「悪いってハナちゃんは言ってないじゃない、優しいって言ったの。私も同意見よ。けど、大事な情報を忘れるなんて、冒険者としての気構えがないぞ、ケン」とナオミがフフンとした顔で言った。
「なんだよ、それ」
「蜂の子のときの仕返しよ、ウフフ」とナオミはいたずらっ子のように笑って馬車を停めている場所に走って行く。
「ひどいぞ!」と追いかけるケン。
しかし、多少、明るさを戻したナオミを見て、ケンは嬉しくなった。
そのナオミとケンを追いかけつつ、ハナは二人を珍しそうな顔で見ている。




