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第十二話:再びヒカーワ神殿に行く

 ケンの話を聞き終わった後、

「もう一度ヒカーワ神殿に戻りましょう」とナオミが言う。

「なんで」

「ほら、ハナちゃんと会ったちょうどその日、ヤマモトさんがゴーレムを出現させて、暴れだしたじゃない。ゴーレムが近づいて来たとき、私は魔法を使って攻撃したけど、その時、めまいがしたの。けど、その後すぐにハナちゃんがゴーレムの頭を叩き潰して倒した。確か、その時、黒い石も割れたみたい。そしたら、私のめまいも治った」

「ゴーレムを倒したから治ったってこと」

「いや、違うって。黒い石を手に戻した時、『黒魔石ごとゴーレムの頭部を破壊するとは、信じられん。これじゃあ役に立たん』とかヤマモトさんが言ってた。あの黒い石は魔力を吸収するんじゃないかと思う。だけど、割れると吸収していた魔力が戻るんじゃないかって思ったんだ」

「よく覚えてるなあ」

「記憶力はまかせて」とナオミは少し得意げな顔をする。

「ナオミ、頭いい」とハナが言う。


「とにかく、ヒカーワ神殿に行って、ゴーレムの残骸を調べてみましょう」

「うーん」とケンが悩んでいる。

「なに、私の推理、おかしい?」とナオミがちょっと機嫌悪そうな顔をした。

「いや、お前の体調を気にしているんだけど」

「さっき、約束したじゃない。休むのは午前中だけって」

「わかった、わかった」とケンはあきらめ気味だ。


 ナオミは冒険服に着替えて、宿屋の外に出る。

 明るいところに行くと、ナオミが少しふらついた。

「ほら、やっぱり本調子じゃないよ。宿屋に戻って、寝てた方がいいんじゃないか」とケンが気づかうが

「大丈夫」とナオミは聞く耳を持たない。

 全く、本当に頑固だからなあ、仕方が無い。

 もう、いざとなったら、ナオミを全力で守ってやるとケンを決心した。


 ケンはナオミの体調を考え、再び馬車を借りて来た。

「歩いて行けるじゃない」

「だから、まだ本調子じゃないだろう」

「大丈夫だって言ってるでしょ!」と強気な態度を取るナオミ。

「ダメだ。なら宿屋に戻ってろ!」とケンも強気に出る。

「偉そうに命令しないでよ」

「頑固だなあ、ナオミは」

「ケンだって」

 お前の体を心配してるのにとケンが思っていると、

「ケンカ、だめだめ」とハナがぴょんぴょん飛び跳ねる。

 おっと、これはいかんと、

「あはは、ケンカじゃないよ」とケンが笑う。

「そうそう」ナオミも笑う。

 笑う二人をまたハナは不思議そうに見ている。


 馬車でヒカーワ神殿に向かう。

 例のヒカーワ参道を通る。

 ケンは隣のナオミをちらりと見た。

 何だか沈んだ顔をして、ボーっとしている。

 いつもの活発さがない。

 やっぱり魔力を失ったのは、ショックだったのかな。

 何か元気づける方法はないだろうか。

 うーん、そうだ! デートに誘って見ようかな。

 って、デートってどんな感じで行えばいいんだろう。

 おっと、仕事中なんだからデートのことなんて考えちゃいけないと、ケンは片手で自分の頬を叩いた。

「ケン、どうした?」と荷台からハナが聞く。

「あ、いや、なんでもない、蚊が顔を刺したんで、つぶしただけだ」とごまかす。

 俺なんかとデートしても、ナオミは元気にならないよなあ、だいたい、いつも一緒に行動してんだからなあとケンは思った。

 そんな、ケンを興味深そうにハナは見ている。


 ヒカーワ神殿に到着して、事務員に一箇所に集められていたゴーレムの残骸を見せてもらう。

 調べるとゴーレムの頭部にあった、黒い石が消えていた。

 ただ、割れている黒い石はそのままだ。

「政府の役人が回収していきましたよ」と事務員から聞く。

「どんな人でした」

「黒い眼帯した男だよ」

 ヤマモトのところへ来た人かなとケンは思った。


「政府もゴーレムを操っている奴を捕まえようとしているのかな」とケンが言うと、

「おかしいよ」とナオミが言う。

「なんで、黒魔石の割れたのだけ残していったの。犯罪の証拠品なら全部回収するはず」

「もしかして、その黒い眼帯の男が黒幕か」

「冒険者じゃめずらしくないけど、政府のお役人はあんまり黒い眼帯なんて付けないと思う」

 ナオミは一応、割れた黒い石を少し拾ってポケットに入れた。


 ケンは事務所の人に、ヤマモトが言っていたスガーモ神殿についても聞いてみた。

「あの、スガーモ神殿って聞いたことありますか」

「スガーモ神殿? 聞いたことないねえ」

「あと、最近、清掃員の募集とかしましたか」ともう一つヤマモトが言った件を聞いてみると、

「いや、人員は足りているんで、全くしてないけど」と事務員が答えた。

 

 ケンたちは、再び、馬車に乗ってウラーワ村に戻ることにした。

「やっぱりニセの募集をして、集まった人に魔法をかけて操っているんじゃないかなあ」とナオミが言う。

「けど、何でそんなことをするんだろう」

「魔力を集めるためだと思う」

「わざと、ゴーレムを暴れさせて、魔法使いの魔力を奪おうとしているわけか」

「ウラーワ村でも、いつも冒険者ギルドの近くでゴーレムを暴れさせてたみたいだし」

「魔法使いを誘い出してたってことか」

「あと、この黒魔石のことも調べないと。ウラーワ村の、あのスズキって神聖魔法師に聞いてみようと思うの」

 スズキと言うと、治療代が足りないと、怪我したジョージを治してくれなかった治療院の奴かとケンは思い出した。

「聞いてくれるとしても、お金取られるんじゃないか」

「治してもらうんじゃないから、大丈夫じゃない」

 ケンとナオミは意見を交わしながら、馬車を進める。

 その間も、ハナは黙って真面目な顔して、荷台に乗っている。


 ウラーワ村に戻って、神聖魔法師のスズキの治療院を訪ねてみた。

 ケンとしては、以前、ジョージの怪我の件で、あんまり印象はよろしくない。

 ところが、意外にもナオミが割れた黒い石を見せると、ちゃんと応対してくれた。

 応接間に通される。

 ソファに座って、ナオミから黒魔石を受け取ると、

「これは珍しいな、黒魔石じゃないか」と興味深そうに、スズキは石の破片を触っている。

「フジ山という山の麓に広い樹海があるんだが、その樹海にある洞窟で沢山見つかるって話だな」

「スズキさんは行ったことがあるんですか」とナオミが聞く。

「いや、無いよ。その樹海の場所自体、モンスターがたくさん出現するんで危険なんだが、魔法使いが行くと、さらに危ないところなんだよ。洞窟にあるこの黒魔石で魔力を吸い取られて、体を壊してしまう。最初から魔力がない人は大丈夫なようだが」

「この石の性質を利用して、他の魔法使いから魔力を集めようとしている人がいるみたいなんです」とナオミが自分たちの経験をスズキに話した。


「うーん、そいつが魔法使いだとすると、本人にとっても、かなり危険な行為をしていることになるなあ。だいぶ疲弊しているんじゃないか」

「え、なぜですか」とケンたちは驚く。

「そりゃ、黒魔石を集めるたびに魔力が吸い取られてしまうんだから。魔力がその石の容量一杯になっているならいいが、そんな石は少ない。その石に余地があると、集めるたびに魔力を吸い取られてしまう。一般人を操って集めているようだが、それでも、石を受け取る際には多少吸収されるだろう。優秀な魔法使いで魔力を大量に持っている奴でも、集めれば集めるほど、体調不良になっていくぞ」

「犯人は水の入ったガラス瓶とかに入れてるようなんですが」とケンが聞く。

「それは、この黒魔石から魔力を吸収するのを遮ることが出来るのは水だからだろう」

「ヤマモトが水の入った瓶に魔石を入れていたのはそのためだったんだ」とケンがナオミに言う。

「あと、分厚いコンクリートブロックとかね」

「なんでコンクリートが遮るんですか」と再びケンが聞く。

「コンクリートには水が含まれているんだよ」とスズキが説明してくれた。

 

 黒魔石を集めている人物の目的について、ケンたちがスズキに聞いてみたが、

「うーん、それはちょっと、私にもわからないなあ。魔力を吸収すると、より強力なゴーレムを操れる。ゴーレム軍団でも作って、戦争にでも投入する気かねえ」

「戦争ですか。いくつかの魔石を頭部に付ければ、大きいゴーレムも動かせるんですか」とケンが聞く。

「魔石がある程度きっちりとくっついて一つの塊にならないと無理だな。それに、それを崩されると、大きいゴーレムも崩れるだろうし」

「あの、私、魔力を吸い取られてしまったんですけど」とナオミが少し不安そうな顔で鈴木に言うと、

「そうなんだ。うーん、最近、魔力を失った魔法使いが多いと世間では大騒ぎになっているんだが、何もしなくても、いずれは自然に回復するんじゃないかなと私は考えているんだ」

「え、そうなんですか」とちょっとナオミがほっとした表情を見せる。

「まあ、人によっては何年もかかるかもしれない。ただ、この黒魔石に魔力が封じ込められていた場合、割れた時に近くにいれば、すぐに戻ると思う。あなたの力量に応じた分だけどね」


 ケンたちは、スズキに礼を言って治療院を出たあと、ヤマモトが言っていたスガーモ神殿について、村役場で調べたが、やはりそういう神殿はなかった。

 一応、冒険者ギルドに行って、主人にも聞いてみた。

「スガーモ市という場所はあるが、そこにはスガーモ神殿なんてないぞ」

「そうですか」とケンが落胆していると、

「トゲヌーキ神殿というのはある。かなり有名な神殿だ」と主人が教えてくれた。


「ヤマモトさんが聞き間違えたのかも。スガーモの神殿とか」

「そうかもしれないな」

「とりあえず、スガーモ市に行ってみることにしましょう」とケンとナオミが話し合っていると、

「おい、スガーモ市に行くなら、ひとつ仕事を頼みたいんだが」と主人がケンに依頼してきた。

「どんな仕事ですか」

「たいした仕事じゃない。最近、この村周辺で起きたゴーレム事件に関係した冒険者についての報告書をスガーモ市の衛士隊支部に届ける簡単な仕事だよ。明日までに届けてくれればいい。スガーモ市は馬なら半日で行けるな」

「政府もゴーレム事件に関心を持っているんですか」

「そうみたいだ」

 ケンと主人が話していると、一人の冒険者がギルドに飛び込んできた。

「王宮でもゴーレムが現れたらしいぞ。王様に襲いかかったらしい」

 その場にいる人たちは皆、騒然としている。

「かなり大事になってきたなあ」と冒険者ギルドの主人が驚いている。

 幸い、王様は無事らしいとのこと。

「犯人は捕まえたんですか」

「捕まえたらしいが、本人は魔法使いじゃなくて、清掃員だって言ってるみたいなんだ」とその冒険者は教えてくれた。

 清掃員と聞いて、ケンは、

「やっぱりヤマモトと同様に、このゴーレム騒ぎ、同一人物が黒幕なんじゃないか」とナオミに言った。

「だぶん、そうだと思う」

「しかし、これはもう政府に任せる方がいいんじゃない。と言うか、もう捜査に乗り出しているだろうけど。俺たちの手には負えないんじゃないか。スズキさんの話では、ナオミの魔力もいずれは自然に戻ってくるんだろ」とケンは言いつつ、ナオミを休ませるよう誘導したかったのだが、

「そうだと思う。ただ、私は、じっとしているんじゃなくて、自分の魔力を自分で取り戻したいんだ」とナオミが言って、スタスタと冒険者ギルドを出ていく。

 やれやれとケンは思った。

「なあ、ハナ。お前からもナオミに休めって言ってくれないか」

 ハナは黙って、少し頭をかしげた。


 冒険者ギルドを出て、

「今日は、これで仕事は終わり」とケンが宣言する。

「まだ、昼じゃない」

「だめ、お前の体の方が大切」

「大丈夫だって」

 もう、頑固だなあ、とケンは何度思ったことか。

 ちょっと強気に出る。

「これは命令だ」

「偉そうに。ジョージがいないんだから、今はリーダーはいないでしょ。止めても、私一人で行動する。だいぶ体調が良くなったし」とあくまで言い張るナオミ。

 ええい、この頑固者!

 仕方が無い、作戦変更だ。

「じゃあ多数決にしようぜ」とケンが提案する。

「今日はもう休みたい人!」

 ケンはすぐ手を挙げる。

 ナオミはそのまま。

 ハナは二人を見比べたあと、ちょこっと手を挙げる。

 その手をケンが掴んで、グイっと上に上げる。

「これで決まりだな、さあ、休もう、休もう、働いたら負け!」とケンがハナの手を握ったまま、もう片方の手も取って、ハナの斧を中心にして、フォークダンスのように踊って、おどける。

 ハナは少し迷惑そう顔をしている。

 ナオミは怒った顔で黙って、さっさと一人で宿屋に戻ってしまった。

 残されたケンは、

「ったく、ナオミの体調を考えてのことなのに。ハナもそうだろ」と聞くと、ハナは黙ってうなずいた。


 部屋のベッドに横たわって、ナオミはぼんやりとしている。

 ハナの方を見る。

 ハナは床に正座して、紙ヤスリみたいなもので斧の刃を擦って、手入れをしている。

 小さい女の子が巨大な斧を手入れしている光景は不釣り合いなので、ナオミは思わず微笑んだ。

 ハナちゃんを見ると癒されるなあ。


 ナオミは、頭の後ろに手を組んで、ケンへの自分の態度について考える。

 ケンが自分の体を気づかってくれているのはわかっている。

 だったら、素直にお礼を言えばいいのにと自分でも思う。

 意地っ張りだなあ、私は。

 ああ、この自分の性格が嫌になってきたなあ。

 ケンは私の事をどう思っているのだろう。

 もしかして、嫌な女と思っているかもしれない。

 やれやれ、とナオミは少し落ち込んだ。

 

 夜になって、ハナがパジャマに着替えて、また部屋の隅に寝転ぶと、

「ハナちゃん、今夜は一緒に寝ましょう。気にしなくていいから」とナオミが声をかけた。

 ハナとナオミは一つのベッドで寝る。

 ナオミは黙ったままだ。

「ナオミ、怒ったか」と心配そうにハナはナオミに声をかける。

「え、全然、怒ってないよ」

「ケン、優しい」とハナが言う。

「うん、私もそう思うよ。けど、私、魔法使いなのに魔法が使えないなんて、なんていうか、正直に言って情けないんだ。休んでいるほうがいいって、自分でもわかっているんだけど、このまま、寝ているだけなんて、悔しい。ただ、本当は、ケンとハナちゃんに迷惑かけたくないし、うーん、自分でも感情をうまく抑えられなくて……」

「迷惑でない」

「ありがとう、ハナちゃんも優しいね」

 ハナはちょっと恥ずかしがったあと、

「ナオミも優しい」と言った。

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