第九話:ナオミ倒れる
ヒカーワ神殿の事務所に行って、ゴーレムを退治したこと、犯人のヒッキー・ヤマモトを逮捕したことを報告すると、ゴーレムの残骸は事務員が片付けてくれることになった。
帰りの馬車は、ケンが脚を痛がっているので、ナオミが手綱を取ることにした。
荷台には縄でぐるぐる巻きにされて、気絶したままのヒッキー・ヤマモトの上に筵をかけて、ハナが乗る。
しきりに怪我した箇所を擦っているケンを見て、そんなに重傷なのかなあとナオミは少し心配になった。
もう一回、回復魔法をかけようかと思ったが、ケンの顔を引っぱたいてしまった手前、ちょっと気恥ずかしくて、結局、言いだせなかった。
ウラーワ村に戻って、冒険者ギルドで気絶したままのヒッキー・ヤマモトを引き渡す。
「おお、仕事が早いな。こいつは村役場の牢屋に放り込んでおこう」と冒険者ギルドの主人が報酬を支払いながら言った。
ケンたちはいつもそうしているように、報酬から経費を引いた残りを三等分にする。
「お金、お金」とハナがギルドの部屋の中で飛び跳ねて喜んでいる。
「ハナは何で、そんなにお金が必要なんだ」とケンが不思議がっていると、
「弟さんの病気の治療代に必要なんだって」とナオミが教えてくれる。
「そうなんだ、そりゃ大変だなあ」と言いながら、ハナに両親はいないのかなとケンは思った。
冒険者ギルドを出ると、
「ちょっと医者に行ってくる。診療所は村の端っこにあるから、何かあったら呼んでくれよ」と何となく機嫌が悪そうな顔でケンが行ってしまった。
もしかして、本当に重傷なのかなあ、おかしいなあ、ちゃんと回復させたはずなのにとナオミは思った。
宿屋の部屋に戻ると、ハナがナオミを見上げて、
「ナオミ、仲間の顔叩く。良くない」と真面目な顔で言った。
「そ、そうね。良くないことね」と年下のハナにいきなり指摘されて、ナオミは少し動揺してしまった。
ケンが本当に重傷だったら、顔を叩くなんて悪い事をしたなと思ったナオミは、
「そうだ!」と何か思いついたようで、
「ちょっと、出かけるからハナちゃんは留守番お願いね」と部屋から出て行った。
ケンが村の中を歩いていると、偶然、元魔法使いのサトーが診療所から出てくるのが見えた。
「サトーさん」と声をかける。
「ああ、君か」
「今朝方は、突然、押しかけてすみません」
「いや、全然気にしなくていいよ」とサトーの顔色がいい。
髭も剃って、身なりもきれいにしている。
「治ったんですか」
「いや、魔力は戻ってない。けど、体調は良くなった。蜂の子のおかげだな。あの斧を持った女の子に礼を言っておいてくれ」
「わかりました。ところで、サトーさんは冒険者を続けるんですか」
「いや、もう冒険者はやめることにした。ただ、俺、働くことにしたよ。あんな小さい女の子だって働いているんだもんな。実家に戻って農作業を手伝うことにしたよ」
やる気を出しているサトーを見て、蜂の子ってそんなに効果があるのかとケンは思った。
「ヒッキー・ヤマモトを捕まえましたよ」とケンがサトーに言うと、
「おお、それは大手柄だな。そうだ、知合いから聞いたんだが、どうもヤマモトのゴーレムを退治した魔法使いはみんな調子が悪いそうなんだよ。やっぱりヤマモトが悪さしたのかもしれないな」
「そうなんですか」とケンはナオミのことが気になった。
「けど、ヤマモトを捕まえたんなら、もう大丈夫かな」とサトーが言った。
サトーと別れて、診療所に入ると、年を取ったお爺さんの医者が怪我した脚の脛を診てくれる。
「単なる軽い打撲じゃな。たいした怪我じゃない」と塗り薬をくれた。
おかしいぞ、それならナオミの回復魔法でも治せるはず。
ケンは不安になったが、ヤマモトは捕まえたんで、今後、ナオミに悪さは出来ないだろうとも思った。
ナオミは村の食料品店に行って、チョコレートを買う。
ハナの分も含めて三個。
ケンはチョコが好きだから、これで機嫌直してくれればいいなあ。
いつか、手作りチョコをケンにプレゼントしたいとナオミは思う。
ケンにチョコを手渡す自分。
やはり冒険服ではなく、かわいい恰好をしている。
喜ぶケン。
その場で二人は……。
「あの~店の入口で立ち止まらないでほしいんですが」と店員に注意されて、はっと気がつくナオミ。
「す、すみません」
また、妄想してしまった。
その内容を思い出し、ナオミは顔を赤くしている。
「私は妄想癖があるのかなあ」と独り言ちながら、店から立ち去った。
ナオミが宿屋の方まで帰ると、不良っぽい若い男三人がたむろしている。
背の高い奴と、デブとチビ。
「お、カワイイじゃん」と背の高い奴が声をかけてきた。
「胸でかいなあ」とデブが言った。
「俺たちと遊ばないか」とチビがいやらしい目つきでナオミを見る。
無視して、通りすぎようとするが、道をふさがれた。
「どいてよ、さもないと酷い目に遭わすよ」とナオミが威嚇するが、
「ほー、どんな目だよ」と三人組はナオミを馬鹿にする。
このチンピラめ、懲らしめてやるとナオミは三人組の脚に向けて、
「ウィンドアロー!」と魔法を唱える。
しかし、何も起こらない。
「何やってんだよ、お前」と三人組はニヤつきながら、ナオミを取り囲む。
どうして? 魔法が使えないとナオミは焦った。
「おい、俺たちとちょっと付き合えよ、いいことしようぜ」と強引に背の高いチンピラがナオミの腕を引っ張る。
「ちょっと、やめてよ」とナオミが抵抗していると、
「やめろ!」と上から大声がした。
ナオミが見上げると、宿屋の二階の窓からハナが顔を覗かせている。
「あ、ハナちゃん!」とナオミが叫ぶと、
ハナは二階の部屋の窓から、さっと武器も持たずに飛び降りた。
スタッと地面に着地する。
「ナオミ、あたしの仲間。お前ら、どっか行け!」と仁王立ちでチンピラ三人組をにらみつける。
「なんだあ、このチビッ子は」と三人組はゲラゲラと笑う。
三人組が笑っている間に、ハナは一番大きい男の体をひょいと横にして両手で持ち上げる。
「うわあ!」と男が焦っていると、ハナは空高くその男を放り投げ、落ちてくるところを、仰天している他の二人に目がけて蹴り飛ばしてぶつけた。
三人まとめて、ヒューっと遠くに飛んでいく。
三人組は遥か彼方、村の入り口辺りまで飛ばされたあげく、落ちた地面をゴロゴロと転がって、
「ヒイー!」と悲鳴を上げながら、ほうほうのていで村の外へ逃げて行った。
「ハナちゃん、強い!」とナオミが目を丸くしていると、
「仲間、助ける。当然」とハナは腕を組んで、どことなく偉そうな態度でうなずいている。
「ありがとう、助けてくれて……」と言いながら、急にナオミが地面に崩れ落ちた。
それを見て驚いたハナが、
「ナオミ! ナオミ!」と地面に倒れているナオミを揺さぶるが、本人は苦しそうにして立つことができない。
ハナはナオミを担ぎ上げて、急いで宿屋の部屋に戻った。




