10.5 ②
「いいなぁ~。俺も行きたいなぁ~」
「……そうだね」
「お! トウマもそう思う?」
「俺はフミナが心配だから行きたいと思っただけだ」
「俺だってそうだ!!」
「嘘つけ。トウヤは森に入りたいだけたろ」
「ちっげぇーし!!」
「止めろお前ら。こんな所で喧嘩するな」
たくコイツらは……。こう言うのになったら喧嘩になるんだから。ガキの頭に手をおいて喧嘩を止める。
「だってトウマが!!」
「それはお前の日頃の行いのせいだ」
「ぐっ」
「トウマもあまり決め付けて言ってやるな」
「……うん」
「それにフミナは招待されて行くんだ。ま、心配ないだろう」
ゴブリン自ら呼びに来たんだ、きっとそうだろう。それにあの中の一匹が頭をブンブンと縦に振っているからな。……まっ、
「もし娘に何かあった時、その時は……」
ここは脅しておなかいと。
「俺は君達をどうにかしてしまうかもね」
ブワッと広がる殺気をゴブリン達に当てる。ゴブリン達は殺気に耐えている。……ほぅ、耐えるか。
殺気を当てる中、横から「父さん、殺気」と声がしたから即座に止める。後からトントントンと足音が。
「準備、できた!」
危ない危ない。フミナにあんな所見せられない。
フミナはその場で一周して「……へん?」と聞いてくる。……うん、可愛い。さすが俺の娘。
「いいや、よく似合ってるよ」
「エヘヘッ」
……照れるところも可愛い。服を白い長袖に青いオーバーホールに変え、白い肩掛け鞄を掛け、前に届いた緑の帽子を被っている。
「いいかい、ちゃんとお父さんの言ったことは忘れないように」
「はーい!」
「ハンカチは?」
「持った!」
「ちり紙は?」
「持った!」
「小さな救急箱は?」
「持った!」
「後……」
「もういいお前ら。そこまでにしろ」
「「だって」」
そんなに持って行く物なんて無いだろうが。後小さな救急箱ってなんだ?
フミナはゴブリン達に近づき「よろしくお願いします!」と頭を下げ、俺達に「行ってきまーす!」と手を振って森の中に入っていった。
ゴブリンさん達の間に挟まれて森を歩いていると、皆さんその場に止まってしまった。
「どうしたの?」
すると一体のゴブリン(ガキ大将風)が前に出て行く。残りのゴブリンさん達が急いで耳を塞ぐ動作をしたので同じようにしてみる。前にいるゴブリンさんは、大きく息を吸って、
「グオォォォォォォォォォォッ!!」
叫んだ。私達の周りの木々の葉っぱが一瞬にして飛んで行きそうな叫び。耳を塞いでいても耳がダメになりそう。
叫び終えたゴブリンさんはやり切った感を出しながら、腰に手を当てた。……あ、後からゴブリンさん(紳士風)に殴られた。まぁ説明無しで叫んだから、そりゃ、うん殴られるな。
ちょっとした喧嘩が起きたが収まり、叫んだゴブリンさんがこっちに顔を向け、顎でやれと指示。……えぇ~、やるの~。
私も少し前に出て叫んでみた。
「グオー!」
……どう? ゴブリンさん達を見てみると、どうやらダメのようだ。肩をすくめて頭を横に振る。ダメっすか。
次に前に出たのはビビりゴブリンさん。さっきと同じように叫んだ。……ふむ、森全体に届くようにしないといけないみたい。よし、やるぞー。
「グオーー!」
どう? えぇ、まだダメ~。
どうやらお気に召さないみたいでガキ大将風ゴブリンさんがため息をもらす。……なんかイラッとした。
最後に紳士的ゴブリンさんがグオグオ言って見本のように叫んだ。……うん。教えてくれるのは有難いが、何言ってるのか分からない。用は叫べたら何でもいいんだね。だったら……。
「ファァァァァァァァァァッ!!」
これでどう! やり切った感を出してバッとゴブリンさん達を見た。ゴブリンさん達はポカーンとしてたけど、ゲラゲラと笑い出した。ちょ、そこ!
「笑うな!」
ポカポカと叩いて怒ったけど、どうやらこれが良かったみたいで指をぐっと上げてオッケーが出た。よっしゃ!
ゴブリンさん達とじゃれた後皆と一緒に森の奥へ進んで行く。
どんどん奥に進んで行っているのだが……、さっきから視線を感じる。それも一つや二つじゃない。ほとんどは好奇心や興味などの視線だけど警戒している視線もちらほら。まぁこんな子供かまやって来たからそうなるか。
前を歩いていたゴブリンさん達が立ち止まった。森の中なのにそこだけ木々ななく、ぽっかりと大きな丸い穴が出来ていた。そこから太陽の光が射し込み白く輝いていた。どうやらここが目的地みたい。白い草が生えていて綺麗な場所。その白い草にはみんな蕾がついているのに花は咲いていなかった。ここに連れてこられた私……。何をしたらいいの?
説明を求めゴブリンさん達を見たら、ゴブリンさん達は手を背中で組んで「グオグオグォ~」と歌っている。もしや……。
「歌えと?」
そう聞くと首を縦に振った。……マジっすか? やるんですか? えぇー、と思っていたらゴブリンさん達に背中を押されていく。ちょ、押すな! 心の準備が!
「わ、わかった! わかったから、押さないでー!」
ゴブリンさん達に押され白い草花の前に到着し押した本人達は後ろに下がった。え、一人で歌えと!! うそー! 帽子を脱いで、スーハースーハー……よし! 覚悟ができた。
覚悟ができ大きく息を吸って、歌い出した。この場所を見て前世でしていたゲームの場面が浮かんだ。その時に流れていたBGMを歌う。綺麗に花が咲きますようにと願いを込めて。
----ふぅ、なんとか歌えた。二分ぐらいの歌なのに長く感じた。さて、花はどうなった?
目を開けようとしたら後ろから雄叫びが聞こえる。それもたくさん。うぇ、な、何!? 左右に何か通って行く気配がして目をつむったまま待ち気配が無くなった頃、恐る恐る目を開ける。……すごい。
蕾だった花畑は真っ白な花を咲かせ一面に広がり、雄叫びを上げながらゴブリンさん(大量)が大はしゃぎしていた。この中にははしゃぎながら何か作業をしているゴブリンさんもいる。……何で歌って花が咲いたのか謎だが、
「……眠い」
歌った後にどっと疲れと眠気が襲ってきた。帽子を持ったままふらふらしながら後ろに下がって背中に木があたり、ずるずると座り込んだ。何でこんなに疲れたのかな? よくわからないけど、喜んでくれて、よかっ、た。
ゴブリン達は喜びあっていた。咲かないと諦めていた花が咲いてくれた、今から作業をすれば婚姻の儀ができる。こんなに嬉しいことはない。喜んでいる仲間を見て三体のゴブリンも嬉しくなり、仲間達と喜びあっていた。だがすぐにあの人間のことを思い出してハッとする。あの人間はどこに行った!?自分達が連れて来た人間は!!
急いで辺りを見渡し人間を探した。人間は花畑の近くにある木にもたれ掛かり座り込んでいた。急いで人間に近付き様子を見る。目をつぶり肌は少し白くなっているが寝ているようだ。ほっとした三体のゴブリンに近付く仲間達。仲間達が近付くに気づいた三体のゴブリンは人間を守りながら仲間達に話す。森への挨拶をしてくれて自分達には何もせず、着いてきて来てくれた。無理矢理だっにも関わらず願いを叶えてくれた。どうかこの人間には何もしないでくれ、と。三体のゴブリンは必死になって説得する。
彼らの周りにいたゴブリン達が道を開けるように広がり、一体のゴブリンが現れた。その手には先ほどの白い花でできた花冠が握られていた。ゴブリンはゆっくりと人間に近付いていく。三体のゴブリンもすぐに道を開けた。
人間に近付いたゴブリンは手に持っていた花冠を人間の頭に乗せ、花冠を乗せた人間を見て嬉しそうに頷き花畑に戻っていく。それに付いていくように他のゴブリン達も戻っていった。
三体のゴブリンはとても驚いた。だが仲間達が認めたのでホッとし、嬉しく感じた。作業に取り掛かれる仲間達を見る三体のゴブリンは、願いを叶えた人間を起こさない様に抱え、人間の住み処に送り届けるのであった。
ランドルの森に一つの変化があった。何時もならモンスターの声や木々のささめし、獣の声しか聞こえなかった。だか、いまではモンスターと一緒に一人の人間の声が聞こえる様になったのだった。