書庫に隠された記録たち
書斎には壁に沿った本棚と中央に机が置いてあるだけだった。視線を動かせば、入り口から向かって右手側の方に例の扉を見つけた。アーシアさんが手を出したので、フィルが預かった鍵を渡した。
「ここに立ち入るものがいないようにこちらにいますので、何かあれば声をかけてください。扉は開けたままにしておきますので」
「別に閉めてもらっても構わないけど」
「ここ、内側からは開けられない仕組みになっているんです。ですから開けたままにしておいて、さらに念のため鍵を持った人が一人外にいなくてはならないので」
「結構厳重なんだな」
勝手に扉が閉じないようにとアーシアさんが下にくさびを置いた。
「窓もないので空気の通しも悪くなりますしね」
くすっとアーシアさんが笑う。
さてさて、目的のものは……と。
「フィル、あった?」
「おう。見つけたぞ」
一緒に書庫へと入り、真っ直ぐに奥の本棚を目指す。フィルに有無を聞くと、ちょうど見つけたところだった。フィルが一冊の本の背表紙に触れた。緑色の粒子が流れて、背表紙に吸い込まれていく。
ガタッと何かが外れる音がした。それと同時に足元が不安定になって……え、足場が消えたっ!?
持ち直そうにも足場が消えてしまってはどうしようもなくて、そのまま落ち───
「……あっぶねー」
「し、死ぬかと思った」
間一髪、すぐに気づいたフィルが魔法で体を浮かせてくれた。間に合わなかったら、確実に頭を打ってたわね。
ふわりと私を軽く持ち上げていたフィルの風は、ゆっくりと足場がちゃんとあるところに私を置いてくれた。
床は板張りだったんだけど、私のいた場所だけ今はくり抜いたかのようにぽっかりと穴が開いている。梯子も何もない。
「明かりがいるな」
グッと拳を握ったフィルの指の隙間から緑の光が漏れて、次に手のひらを見せたときには光の球が現れた。
魔法の光。それを穴に照らす。
あんまり高さはなく、私が一人すっぽりと入るくらいの高さで、横道が見えた。
「浅いわね」
「これが隠し部屋か?」
顔を見合わせて、とりあえずその穴に入ってみる。
私もフィルもあたまをぶつけないようにそろそろと屈んで横道を進む。だんだんと坂道になって、そろそろと上りきると、本に囲まれた円形状の筒のような部屋に出た。高さは二階分くらいかしら。
壁に沿って本棚が作られていて、一定の高さ毎に足場が設けられている。床から数えて三段分。梯子があるからそれで上れるわね。
「多いな……」
「封印周期は三十年って言っていたけれど、その間、膨大な量の研究が行われていたのね……」
知識の蓄積。その偉大な業績を目の前にして、私もフィルも息を飲むことしかできない。
それでも二人で手分けして読むしかない。
几帳面なことに、研究内容やら日記やら分類分けされているから、手をつけるのが簡単だわ。
「私どこから手をつければ良い?」
「んー……研究の類いは俺が先に見始めるから、あんたは先に日記の類いを読んでくれ。あんたはあそこから始めて、俺は反対のあそこから」
「了解。はぁ、これを読むのにいったいどれほどの時間がかかるのかしら……」
「数日では足りないだろうなぁ」
見上げながらため息が出てしまう。確かに着手は簡単だけど、やっぱり時間がね……あまり長く滞在するつもりもないから。ルギィのことが心配だもの。
「焦っても仕方ないから、着実に吸収していくぞ」
「分かったわ」
頷いて、任された区域の本を読みにいく。
部屋に入ってすぐ左の棚の一段目。左上端のものから手をとる。
同じような薄い冊子が十冊程度連続している。それをごそっと棚から引き出してぺらっと中身を確認すると、文字の癖がそっくりだった。たぶんこの本は同じ人が書いたものだと思う。
それを手に取って、壁に背を預けて座る。次からはクッションを持参してこよう。お尻が痛いわ。
フィルも本を適当に引っ張り出して、適当な場所を見つけたみたい。読み始めている。
寝るまでにはまだ時間があるわね。よし、どれくらい読めるかはわからないけれど、今日中にすこしでも読み進めましょう。




