話せないことなの?
まだ私が納得しないうちにルギィは一人で部屋を出ていってしまった。まったくもう、自由なんだから。
ルギィにたいして怒っていると、フィルが頭にぽんと手を置いて、そのまま撫でてくれる。よしよしとあやされてる気分になるんだけど、どうしたのフィル。
「何してるの」
「何となく?」
よしよしされてるのは良いんだけれど、恥ずかしいからやめてくれないかしら。
フィルの手から離れようとすると、フィルがぽつんと言った。
「昼、ちょっとあの失礼な騎士のとこ行ってくる」
ふぅん。あの失礼な騎士のとこね……
「はぁ!?」
自分でもびっくりなくらい素っ頓狂な声が出たけど、え、何でそんなことになってるの。聞き逃そうと思ったら到底無理なことじゃないの。というか、聞き逃しちゃいけないことじゃないの。
「一体何しに行くのよ」
「あー、まぁ、ちょっと?」
お茶を濁すということは私には話したくないことということね。いい加減私も受け身でいることに飽きたのよ。そろそろ正直に話してくれないと。
「私に言えないことなの?」
「ニカに言う必要がないからなぁ。夕方には帰ってくるつもりだし」
「私に隠し事をするの?」
「ほら、魔法の事についてだしニカには分からねーだろ?」
魔力がないからといって、魔法の知識もないなんて一言も言ってないわ。それにフィルは私が魔法学に通じてること知ってるでしょう。
私だけ仲間はずれなんてずるいわ。
ぷくぅ、と頬を膨らませてもフィルは無視するし。
それなら、私にだって考えがあるわ。
「いいもんいいもん、フィルはそうやって私よりルギィと遊んでいればいいんだわ。そうして村の奥様方にフィルはそっちの気の人だって噂されればいいんだわ」
「最後の何」
私なりの報復ですけれど何か?
「というか、ルギィの姿見えるやつなんて早々いないだろ」
「何言ってるの。魔法使いじゃなくても魔力持ち自体はいるわよ。魔力持ちが全員魔法使いになれたら、あなたみたいなもぐりはいなくなると思うけれど」
「……ごもっともで」
はい、私の勝ちー。これくらい、少し考えればわかるでしょう。フィルって思っている以上に馬鹿?
「……なんかすごいニカの中で俺のヒエラルキーが低い気がする」
「すごいじゃない。自己分析って大事よ」
「否定しないところを見ると本当なんだなっ! ちょっとでも否定してくれるかと思った俺が馬鹿でした!」
「今更よ」
つーんと言ってやれば、フィルはがっくりと肩を落として明らかに落ち込む。って、違う違う。
本題ずれてるじゃないの。
駄目ね、ついフィルをからかいだすと楽しくて止められなくなるわ。そうじゃなくて、内緒にしてることを聞き出さないと。
「ねぇ、フィル。私ってそんなに頼りない?」
「は? どうしてそう思ったんだ?」
「だって、フィルもルギィも肝心なことを教えてくれないじゃない。それって私が頼りないから?」
「違うけど……」
「そうよね。私に簡単に言いくるめられるフィルの方がよっぽど頼りないもの」
「その言い方はひどくね?」
本当の事だもの。
真剣な眼差しでフィルを見つめる。ぎゅっとフィルの服の裾を握りこんで、逃げられなくする。答えてくれるまで、徹底抗戦するつもりよ。
そうすると、フィルがしゃがんで私と目を合わせてくる。むっ、子供扱い。
「ルギィがニカには心配かけたくないから黙っとけって言ったんだよ。俺はルギィの意思を尊重する。だからこの件はルギィの口から聞け」
……もう、そう言われたら引き下がるしかないじゃないの。
ただの責任逃れにしか聞こえないけれど、フィルがそう言うならそれが本当なのよね。むかつくけれどフィルが言ってることは正統だし、これ以上食い下がるのはかっこ悪いしみっともないわ。
「仕方ないわね……じゃあせめてあの鬼畜騎士のところに行く理由くらい聞かせなさいよ」
「それもノーコメント。これは俺の独断ですることだから、ニカにもルギィにも関係ないし」
往生際が悪いわね。
「そんなこと言うの? 私にたいして俺たちは家族だーとか恥ずかしいこと言っといて、自分は他人行儀なの?」
「なんでそんなこと覚えてるんだよ……!」
「私、記憶力は良いの」
さすがにここまで言えば白状してくれるかしら?
でもフィルはふるふると首を振って、尚も拒否の姿勢をとった。どうしてよ?
「これはまだ予想の域を越えないからな……ルギィも俺に全部を話してくれた訳じゃないし。不確定要素だらけだから、ちゃんとした裏付けが欲しい。もし俺の杞憂で済むなら、こんなことでニカを煩わせる必要はねーだろ? 俺なりに確証が持てたらニカにも話すから待っててくれ」
理にかなってるけど……。なんかやっぱりはぐらかされた感じがする。まあ、話してくれるって言ってくれてるんだし、今はそれで頷きましょう。
話を切り上げて、私とフィルはやっと階下へ。
私はキッチン、フィルは外へと向かう。
一人で歩く廊下は明るい。なんだろう、別に照明が増えたり廊下の幅か広くなったりしたわけでもないのに、視界が開けた感じがするのは。
気分が開けてるのかしら。おかしいなぁ、フィルとルギィが私に隠し事してるのが気にくわないはずなのに。
うーん、と首を捻ってドアを開ける。ルギィが笑顔で迎え入れてくれた。ああ、そうか。
足りなかった住人が、やっと私の生活の一部になったからかな。
やっぱり、ルギィの姿を見れるのは、すごく安心した。……隠し事云々は置いておいて。




