再会は花吹雪舞う部屋で
どうやら夜も遅かったからか、私は気づいたらすっかり寝てしまっていたみたい。被せたまぶたを通して明るい光が届いた頃、私はぱちぱちと目を瞬かせて視界を開いた。
「……何これ」
おかしいよね、寝る前の私はこんな光景見なかったよね?
私はグレイシアの部屋で、花吹雪が舞う風景の中に閉じ込められていた。
「ちょ、ちょっとどうなってんのよこれ‼」
フィルは!? フィルは帰ってきてるのっ!?
どうしたのよこの部屋、片付けが大変というか、どこから持ってきたのというか……じゃなくてルギィ!
ルギィはどうなったの!?
ガバッと身を起こしたときに、ふわりとした感触が髪に触れた。それからそっと両目を隠される。
「誰でしょう」
懐かしい声。もう十年以上聞いていない声。声を、姿を、一目でもと望んだ存在。
声が、震える。
「ルギィ」
「正解です。まったく、お前はほっといても良いことに首を突っ込みたがりますね。まぁ、今回はそれに助けられましたし、今後はフィルレインもいるのでタレスのときほど甘く見逃せてはもらえないとは思いますが、自分の力量をこえることはしないように」
「……まさか、会話できるようになって真っ先に小言を言われるとは思わなかったわ」
「当たり前です。魔力のあったグレイシアならともかく、ニカ・フラメルは魔力のないただの小娘です。そんな人間が魔法道具を使って良いと思っているのですか。しかも封印処分級の危険なものを」
「いや、危険コストは底辺レベルのもの使ったし……」
「妖精回廊を使ったこと事態が危険なんです」
あはは、安心して涙でも出るかと思っていたけど、そんなことないわ。まさか、命の恩人に対して小言で返されるとは思わなかったし?
これは、私も嫌みの一つくらい返してあげなくてはならないかしら?
「小言を言うのは勝手だけれど、いいのかしら? 私これでも命の恩人よ? あなた、あのままだと魔力の枯渇で消滅してたわよ?」
「フィルレインがいるでしょう。あれは事実、私の窮地を救ってくれた」
「あーら、そんなこと言ったって、私だって微々たるものでもあなたに魔力の補填をしてあげたのよ? それに感謝の気持ちはないの?」
「そうですね、ありますがそれは頑張ってくれた合成獸にでしょうか。自分の魔力量を越えて頑張ってくれましたから」
「その合成獸を出してきたのは私よ?」
「お前がそこまでする必要は無かったのです。貴女の労力がなくとも、私はあの状態で後、三日は持ちこたえれました」
ああ言えば、こう言う。苛つくけれど、それがルギィだからね。本調子の証なんだろうけれど、腹が立つのは仕方ないわよね?
さらに言い募ろうとすると、ルギィはその前に口を開いた。
「それでも、起きたてなのに動けるのはお前のお陰です。ニカ・フラメル、礼を言います。ありがとう」
ふわりと笑うルギィは、貴い精霊なのかとうかがわせるほど、綺麗だ。私もほだされて、一緒に笑う。
でもふと表情を戻して、ルギィに問う。
「ところでルギィ、聞いてもいいかしら」
「何をですか?」
「この花何」
ひらひらというか、さっきからぶわああああって散っているこの花! すっごいうっとおしいというか邪魔というか、どこからもってきたのよ!!?
「覚えがないのですか?」
「何を?」
「この花は魔力の実の成る花です。蜂との相性が良かったようで、さらなる進化を遂げたようですよ。実だけではなく、花にも風と土とを通じる魔力を感じます」
「え」
え、ちょっと待って、じゃあこれ、私のせい?
「どうにかしても良かったのですが、これはグレイシアのものですから私が勝手に処理しては駄目なのかと思ったので」
うああああああ、完全に私の落ち度じゃないのっ。この花を使うことで、他の作用が起きるかもしれないことをすっかり失念してたわ。
「本当ならば私がやる義務はないのですが、助けてくれたお礼です。ニカ、片付けてほしいですか?」
「お願いします」
うん、さすがにこれを私一人で片付けるには無理があるわ。間を置かずに返事をすれば、ルギィはその綺麗な顔に笑みを称えた。
「それでは一つ、魔法をお見せいたしましょう」
すいっとルギィが音楽を奏でるかのように宙を撫でると、たちまちのうちに風が舞う。ぶわっと散っていた花弁がさらに舞った。
そして風が方向性を持つと、窓の外へと花弁を運んでいく。緩やかな風で、余計なものは飛ばないようにしてくれている心遣いが見てとれる。
ふわふわと花びらが舞うなかで、私はルギィを見つめた。視線に気づいたルギィも、私の方を見る。
互いに視線を交わした。
ルギィと話すことができるなら、まず最初に言わなければと思っていた言葉がある。
きちんと目を交わして、顔を合わせて、伝えなければならなかったこと。
「ごめんなさい、ルギィ。そしてありがとう。私はニカ・フラメル。タレス・フラメルの愛娘よ」
ルギィはちょっと驚いたように眉を上げた。でもすぐに微笑んだ。
「まだ完全に決別してはいないようですが……その心意気は嫌いじゃないですよ。私は水と風に遊ぶ精霊。移り気ですが、気に入ったものは手放しません」
ルギィは私に手を伸ばす。私の体を簡単に抱き上げて、目線を会わさせてくれる。
「ニカ、仲良くしてやってくださいね」
私は、答える代わりに、ルギィにぎゅぅっと抱きついた。
懐かしい精霊、今の私を受け入れてくれてありがとう。




