怒ってる……?
ジッと見つめてくるカリヤに対して、フィルの反応はというと。
「その精霊って──」
ゴスッ!!
「痛っ」
「どうかしたのか?」
「いや、何でもないっス……」
棒読みでフィルは返事する。
全く、バカじゃないの? カリヤが探してるのがルギィの事だってことくらいすぐに思い当たりなさいよ。せっかく私がはぐらかしてるのをパァにするつもり?
フィルの背中……というか背骨を思いっきり殴ってやったら、その口を噤んだので良しとする。さすがのフィルもこれで察したわよね?
「分かった。精霊石はニカに持たせる。寄越せ」
「大切なものだ。私から渡す」
「それに他の細工がしてないか調べるんだよ」
疑われていることが分かったんだろう。カリヤは渋々ながらもフィルに紅い石のペンダントを渡した。
フィルはぎゅっと石を握り込んだ。
じんわりと拳の隙間から緑色の光がこぼれる。何かの魔法を使ってるのかしら。
それにしても不思議。普通は魔法陣があってやっと魔法が使えるのに、フィルはそれ無しで魔法を使ってしまうんだもの。まるで精霊みたい。精霊は人間と違って魔力の純粋な塊だから、魔法陣とかまどろっこしい事しなくて済むものね。
私もカリヤも、その緑に魅入る。
「お前は、魔法使いか」
「一応そうだけど」
「身分証は?」
「ごめん、俺、もぐり。あんたんとこみたいな毛並みのいい魔法使いじゃないんでね」
フィルはぎゅっとペンダントを握りしめたまま、答えた。カリヤは何かを言おうとして口を開こうとしたけれど、一瞬早く、フィルの方が先に声を上げた。
「よし、この石には何も仕掛けられてねーな。ニカ、つけとけ」
ぽいっと無造作に投げられるペンダント。カリヤは目をしかめるけれど、それには何も言わない。
改めてカリヤは、フィルに言う。
「お前が魔法使いなら精霊に心当たりは無いか」
「残念。俺もこの町に来たばかりでね。精霊がどーのこーのってのは詳しくないんだよ」
「そうか……。何か分かったら知らせてくれ」
「いいのか、俺を頼っちゃって」
「背に腹は変えられん」
そう言い置いて、カリヤは私たちに背を向けた。元来た道を引き返そうとして、ふと止まる。
背中越しに、突然、謝罪の言葉を述べられた。
「───悪かった。俺もこの町に来た騎士である以上、自分の役目は忘れないように心がける。ニカ・フラメル、お前がユートと呼んでいた少年にも謝っておいてくれ」
え?
あ、馬の件ね。すっごく今更だけど、さすがのカリヤもあのことは気にしていたのかしら。過ぎたことだし、さっきの拉致誘拐の件もあることだし、簡単には許しはしないけど。
「念を押すわ。この町に来た以上は守るべきものを誤らないで頂戴。それで許して上げないこともないわ」
「フッ……上から目線か、娘」
笑った気配がしたけど、そこって笑うところ?
何だか納得できない空気を残して、今度こそ赤い騎士様は去っていく。さてさて、赤色兄弟の魔法使いと騎士はこれからどうするつもりなのかしらね。
とかなんとか思っていると、フィルがくるりとこちらへ向き合った。
「そのペンダントに結界をつけといた。精霊石に干渉しないように仕掛けたから、向こうにも気づかれてはいないはず。これならルギィと近づいても問題ないはずだぞ」
「ありがとう、フィル。助かったわ」
どうやってこのペンダントを処理しようかと思ってたんだけど、フィルが先手を打ってたか。助かるー。
「それで、だ。何で買い物に行ったはずのお前が役人一味と一緒だったんだ? お前、変なことには巻き込まれないはずだって言ってたよな? なんでこんな事になってんだよ。俺、タレス殿と合わせる顔無いんだけど?」
にこやかに告げるフィルだけど、どうしよう、目が笑ってない。
ルギィと喧嘩してる時はあんまり口出してこなかったし、どっちかっていうと心配してくれてる素振りを見せてくれてたから大丈夫かなぁとか思ってたんだけど、駄目だったか。うん、ごめんなさい。
「先に買い物済ませるけど、家に帰ったら説教だからな?」
「え」
「あ゛?」
「……はい」
どうしよう、お説教とか。
もしかしたら今世で初めてかもしれない。
 




