コレが駄目ならソレでどうだ
うーん、正直この展開は予想していなかったというか。
とりあえず後でフィルに叱られるのは確実というか。
「貴殿の所のこの娘をしばらくの間、我が主の屋敷にて奉公させたいのだが」
「……はぁ?」
服屋の外で待ち惚けをしていたフィルに向かって、カリヤはそう言い放った。どうしてこうなったし。
カリヤは私に、自分の監視下に置けるように、あの屋敷での奉公を提案した。即、却下したけど。フィルが私を雇っている事になってるから、勝手に奉公には出れないときちんと説明した。
そうしたらこんな事に。
「この娘の主は貴殿と聞いた。我が主がこの娘を気に入ったので、是非とも譲っていただきたい」
「……ニカ、あんた、食いもん買ってくるって言ってたよな?」
「……そうね」
「何でこんな謎の展開になってんだよ!?」
いやそれ、私も聞きたい。
やっぱりね、絶対おかしいよね、なんでこんなトラブルメーカーと化してるの私。ああフィル、やめて、そんなジト目で私を見ないで。言外に「あんた買い物くらいへっちゃらって言ってたよな……?」て言うのやめて。びしばし送られる視線がつらい。
「それで返事をお聞かせ願いたい」
そんな私とフィルの遣り取りには目もくれず、淡々とカリヤは話を進める。伏せの出来ない犬か。せっかちすぎるわ。
フィルが私から視線を外して、真面目な顔でカリヤの方を向いた。
「残念ながらそれは出来ないな。こいつの親父さんとの約束で、俺の所でしかこいつを働かせないことになっている」
「ならば、その父君の方に話をつけに行こう」
「やめておけ。あの人、お前ら役人を毛嫌ってる。うっかり畑の肥やしにされても知らねーぞ」
話している間にフィルは私に視線をやる。なんだろ、私に何をしろと……。視線が私に向いたとき、わずかに手が動いた。あのハンドサインからして……あ、そういうこと。
カリヤをちらりと見て様子をうかがう。彼の視線はフィルの方へしっかり向いていた。意を決してパッとフィルの方に飛び出した、けど。
……貴方、後ろに目でもあるの? 後ろ手で制止された。
フィルが顔をしかめる。
「うちの子をどうする気で?」
「何、奉公が無理ならば少しの間お暇は戴けないかとな」
「絶対やらねー」
どうしよう私。割と細い路地だからフィルの方へ行くには、どうやってもカリヤの間合いは抜けられないし。
って、あ、そっか。
フィルの元へ残ろうとするのが間違いなのか。
「フィル、先に戻ってるわね!」
「はい?」
「なっ!?」
前へ進めないので後ろへ逃走。そのまま家に帰っちゃおう。
さすがのカリヤも油断している……わけないわね。私の足だからすぐ追いつかれるのは当然ですよね。肩に手をかけられて強く引き留められてしまった。
でも、私の方へと注意が向いたからか、フィルも動いてカリヤ腕を掴んでいる。
三人仲良く連結してるの図。
……全然、まったく、これっぽっちも、笑えないわね。
「その手を離せ」
「あんたがニカの肩離したらな」
「……仕方ない。ただし、逃げないと約束しろ。平和的手段が望ましいのは双方にとって同じだろう?」
「まぁ、そうね」
頷けば、カリヤは私の肩を離した。それで、フィルもカリヤの腕を離す。
私はフィルの後ろに隠れるようにして立った。
「屋敷に連れて行くのが無理ならば、これを持て」
「……何これ」
「精霊石を使った魔具だ」
飄々としてカリヤは言う。
「私たちはとある精霊を探している。その娘と認識があるのだと疑っているが、その娘は精霊が見えないという。この精霊石は他を寄せ付けるのが嫌いな精霊のものだ。加工していて、他の精霊が近づけは反応する。反応すると、サリヤの持っているもう一つの、それの双子石が共鳴して私たちに伝わる。あの精霊のためにあつらえていた代物だ」
どうだ、と言ってカリヤは一つのペンダントを差し出した。
深紅の石が通してある。ルビーやガーネットのようだけれど違う。宝石の紅よりも温かな色味を持ってる石。透明度はルビーやガーネットより随分高くて向こうが簡単に見通せる。じっと目を凝らせば、宝石の内側でキラキラとした粒子が自由に動き回っているのが見えた。
その粒子こそが、精霊の持つ魔力のエネルギー。ぶつかりあった、そのエネルギーが一瞬だけ可視化された輝き。精霊石はいわば、精霊の魔力を形にした物。これ、私にも見えるってことは相当な魔力が凝縮されてるのかしら……? 想像するだけで、持ってるの怖いんですけど。
「これをニカ・フラメルに預けよう。それだけは譲れん」
カリヤはじっと私たちを見つめた。




