だから魔力ナシなんだってば
正直、ペルーダなんかの封印話なんて私に関係ないなぁ、早く本題話してくれないかなぁ、とか色々思ってたんだけどさ。なんかもうド真ん中にグレイシアがいたとか。自分の知らないところで関わってたのに脱力だわ。ルギィ、私にそんな事、一言も言わなかったじゃないの。
ちらりと後ろを見てみると、アーシアさんも驚いて目を見開いてる。アーシアさんもこの事知らなかったんだ。まさに、アーシアさんの知りたかったこと、その確信ね。
「そ、それで? 私がそれにどう関わるの」
グレイシアが関わっていたことと、私が今ここにいる理由は全くの別物。まさか私の過去を彼らが知るわけもないし。私が連れてこられた理由はもっと別の所にあるはず。
サリヤはにっこりと微笑んだ。
「三日前、君がその精霊と接触したのは知ってるんだよー。だからね? 君なら知ってるかなーってね?」
……なるほど。私がルギィに『お願い』したのは目撃されてるのね。どういうわけか知らないけれど。
「あいにくだけど、私、精霊が見えないの。だから探しようがないわ」
魔法使いのサリヤなら、私に魔力がないことくらいお見通しでしょう。それなのにどうして私に頼むのかしら。
魔法使いは大なり小なり、魔力を感じることができるから。
「見えないの?」
「そうよ」
「え、じゃあなんであの精霊は君の所に現れたの?」
「こっちが聞きたいわよ。あなたが私が精霊と一緒に居たっていうのはいつの話よ」
驚くサリヤに、私はジト目で訴える。そんなに驚くこと? ちょっと集中すれば分かるじゃない。
「暴れた馬が君と男の子を襲ったときなんだけどー……。あの精霊、君の呼びかけに答えたように見えたんだけどな?」
「精霊の見えない私の呼びかけに応えられるものなの精霊って?」
「そんなわけないよ。精霊がこちらが見えるように魂の波長をあわせてくれるか、こっちが魔具使って波長あわせるかなんだけど。面識無い人間を助けるような精霊じゃないんだけどな」
まぁ、ルギィほど自尊心の高そうな精霊は見たこと無いわね。私も最初はルギィの傲慢さに腹を立ててたし。今でも腹が立つときあるけど。それでも、一緒に過ごしていくうちに、彼は人間に合わせてくれるようになったし、丸くもなった。
首を捻っているサリヤには悪いけど、話はここまでかな。ペルーダについてはルギィに別枠で聞いておくことにして、私は立ち上がる。
「私にその精霊を連れてきて欲しいんだろうけど、見えないから理。話がそれだけなら帰って良い?」
「見えれば探してくれるってこと?」
「見えればね。でも無理よ。魔力も魔具もないんじゃ」
まぁ、魔具だって貴重なものだからそんなぽんっと出せるようなものじゃないし、これでもうこの話はお終いね。さぁて、帰りましょ。フィルもそろそろ服を選び終わっただろうしね。
「……そうだね、今は魔具の用意も無いし。仕方ないかー。ごめんねー、こんな話して。言っておくけどこの件は他言無用だよ?」
「言っても信じる人なんていないよ。私も信じてないし」
信じるかどうかはルギィ次第かしら。だからといってこいつらにルギィを差し出すこともしないけど。
とりあえず、ルギィと話す手段を探さないと……フィルに魔具を作ってもらおうかしら。魔具があれば、魔力なしの私でも見れるだろうし。以前、魔力の使えない人のために精霊を見えるようにする魔具を作ったことがあるから、あれの設計図を探さないと。私が見つけちゃうとフィルに怪しまれちゃうし、どうにか誤魔化して。いやまぁ、この三日で十分怪しまれてるけど。
「アーシア、表まで連れて行ってあげてー」
「サリヤ」
「なーにー、カリヤ」
「私は帰すべきではないと思うぞ」
何よ、そんなに信用できないの?
私は立ち上がって背を向けていたのを、振り替えってカリヤを見る。カリヤは直立不動のまま、怖い顔をしていた。やだあの眼光。獲物を威嚇するような目。十五歳のいたいけな女の子に向ける目じゃない。
「こいつがあの精霊と接触したのは事実だ。一瞬だったが、こいつの元から離れていく精霊を見たのは私だ。こいつを野放しにしたままでは、いつまでたってもあの精霊に会うことは叶わないだろう」
「それもそうか。でもさー、どうすんの? このまま家で軟禁しても良いけど、アーシアの鉄拳制裁くらうの僕らだよ?」
軟禁、の辺りでアーシアさん周囲の温度が一気に氷点下に。恐る恐るそちらを振り向いたら、アーシアさんは穏やかに笑っていて。うわーい、それでも気配は怒ってるよ。見た目と雰囲気が噛み合ってない。
さぁ、どうやってこの場を収集するつもりなのかしらね、赤色の騎士様は。
「───私に考えがある」
騎士は悪役同然、不敵に笑った。
 




