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16.あの少年


大学寮における学びは、個の才のみで成り立つものではない。

そのことを、改めて知らされる日が来た。

「本日は、組にて課題に当たる」

教師の一言で、場にわずかなざわめきが広がる。

(組、か)

私は内心でそう呟いた。

これまでは、個々の才が試される場であった。

だが今回は違う。

他者と共に考え、結論を出す。

(面倒ではあるな)

正直な感想である。

だが同時に――

(避けては通れぬか)

とも思う。

官として立つ以上、人を扱うことは不可避である。

やがて、組が決まる。

私の組には三人。

そして――

「またあったね」

声がかかる。

振り向けば、あの少年がいた。

「縁があるようで」

私は静かに応じる。

「そういえば、まだ名を告げておらなんだな」

ふと、思い出したようにその少年が言った。

「失礼した。橘清成という」

その名は、静かでありながら、どこか通る響きを持っていた。

(橘、か)

私は内心で小さく頷く。

藤原ほどではないが、確かな家格。

学と官において、軽んじられることはない。

目の前の男の落ち着きも、それを裏付けている。

「道真にございます」

私は簡潔に名を返す。

清成はわずかに笑った。

「知っている」

その一言に、余計な飾りはない。

だが――

(やはり、見ているな)

ただ名を知っているだけではない。

その裏にあるものまで含めて、把握している。

清成は続けた。

「同じ場に立つ以上、遠慮はせぬ」

静かな言葉。

だが、その内には確かな意思があった。

(悪くない)

そう思い、他の二人に目を向ける。

彼らもまた、優秀ではある。

だが、どこか慎重すぎる気配があった。

(この組は……)

すぐに見える。

まとめる者がいなければ、まとまらぬ。

課題が示される。

内容は、ある政の判断。

複数の選択肢から、最善を選べというもの。

(典型的だな)

だが、だからこそ難しい。

「……どうする」

一人が呟く。

視線が、こちらと清成に向けられる。

(来るな)

そう思う。

ここで出るか、引くか。

一瞬、考える。

(これは――使うべき場か)

そう判断した。

私は静かに口を開く。

「まず、条件を整理しましょう」

全体を見る。

論点を分ける。

それだけで、場が落ち着く。

「何を優先するかで、選ぶべき道は変わります」

簡潔に示す。

すると、清成が頷いた。

「その通りだ」

すぐに続ける。

「ならば、三つに分けるべきだな」

(……やはり早い)

理解が速い。

話が噛み合う。

そこからは、早かった。

意見を出し合い、整理し、削る。

無駄な議論はない。

(やりやすいな)

そう感じる。

最終的な結論は、一つにまとまった。

突出したものではない。

だが、確実に筋の通った答え。

発表の場。

代表として、清成が前に出た。

(そこは任せるか)

私は特に異論はない。

清成は簡潔に、そして明確に述べる。

無駄がない。

教師は頷いた。

「よい」

評価は上々であった。

場が解ける。

その時。

「やはりな」

清成が小さく呟いた。

「何がでしょう」

私が問う。

清成はわずかに笑う。

「そなたは、人を使うのが上手い」

(……そう見えるか)

自覚はある。

だが、それを認める必要はない。

「皆の力にございます」

そう返す。

清成は首を振った。

「違うな」

はっきりと言う。

「場を整えたのは、そなただ」

(見ているな)

やはり侮れぬ。

しばしの沈黙。

やがて、清成が言った。

「組む価値がある」

短い言葉。

だが、それは明確な評価であった。

(……味方にしておくべきか)

そう考える。

この男は、使える。

そして――

(恐らく、向こうも同じことを考えているな)

私は静かに頷いた。

「こちらこそ」

それだけ答える。

無難に生きる。

そのためには――

(人もまた、選ぶべきか)

そう考え始めていた。



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