検査
医師の学術大会ーー学会とは、医師を含めた研究者達が、日頃の研究成果を発表し共有する場でもあり、企業が最新の医療機器を展示し、知ってもらう場でもあった
規模は、開催される各学会組織によって左右されるも、医師を目指す学生や、一般人にも発表される事もあり、その内容は本当に様々だ
6月に行われた、日本医療機器学会はある事を理由に注目を集め、急遽開催されたにも関わらず訪れた人間は、数千を超えた
後日、オンラインでの配信なども予定されてはいたが、医師を含めた誰もが、最新の医療機器に興味を示し足を運び、その目で確かめる事を望んだ
それだけに、搭載されている技術は現代の大きな一歩とも言え、注目されている
ーー中央警察病院・カウンセリング室にてーー
5回目のカウンセリングを受けている紾。目の前には、首まである青緑色の髪に、黒のハイネックに白衣姿。金色の瞳に片方しかない眼鏡を掛けた、成人男性ーー狭硯が居た
狭硯 秋悟
「残念ながら私は予定が合わず、学会には参加出来なかったんです。もし、発表された医療機器が実用化されれば、医学的観点から見ても助かる人は増えていくでしょう。本当に喜ばしい限りです」
医師の一員として狭硯も、日本医療機器学会で発表された最新医療機器に興味を示しており、紾の気持ちを解す意味も含め、何気ない世間話として話題にだしていた
蔡茌 紾
「医学に関しては、さっぱりですけど…少しでも助かる人が増えるなら、良いですね」
当たり障りのない返答だったが、最初の頃のように「はぁ」「いえ」「はい」の三パターンと比べると、大分進歩した方だった
狭硯 秋悟
(カウンセリング期間を伸ばして、反応を見てみているけど、苛立ちや怒っている様子は見受けられない)
もし、内面に狂気的な部分や暴力的な面があれば、いつまでも続くカウンセリングに対し、多少の苛立ちを見せるはず。それがないと言う事は、凶暴性はないに等しい事を意味した
狭硯 秋悟
(凶暴性どころか、カウンセリングの度に落ち込み、自信をなくしている様に見える。これは不安の現れか……まぁ、長引いてる訳だし無理もないだろう)
拳銃発砲についての診断と言うのは、普段のカウンセリングとは診る観点が違う。どれだけ紾の気持ちが理解出来たとしても、彼が望む様に簡単に診断結果を出す訳にはいかない
今までも狭硯は、警察官や事件の被害者・加害者のカウンセリングを請け負った事があり、経験としては優秀な方だったが、そんな彼でも今回の紾のケースは特殊と言わざるを得なかった
狭硯 秋悟
(暗がりの中、突然の発砲…その判断は正しかったのかどうか)
状況としては、上司の額に拳銃が向けられ、頭が真っ白になり気がつけば、思わず引き金を引いていた。発砲していた弾丸は当たっておらず、そのまま気絶してしまった
重要となる部分は、拳銃に馴染みがない人間が、咄嗟にだとしても扱い慣れない引き金を容易く引けるものなのか……一般人なら拳銃をまともに持つ事すら出来ないだろう
狭硯 秋悟
(彼は警察官だ。いくら扱い慣れてないといえど、触った事が無い訳でもないし、訓練だってした事がある)
引き金を引くということ自体は、なんら不思議な事ではない
それに日本の警察官は本来、拳銃を攻撃の手段として使用する事は許されておらず、あくまでも牽制や身を守る為に所持するよう、義務付けられている
状況から見ても上司を守ろうとした、とも捉える事ができる。暗がりの中での発砲という部分に関しては、狭硯はさほど重要視していなかった
狭硯 秋悟
(いつ誰が撃たれるか分からない状況下で、精神状態が正常である訳がない)
見定めるべき場所は、精神状態ではなく蔡茌 紾と言う人物が、今後も拳銃を持つに相応しい人物なのかどうかと言う所だった
狭硯 秋悟
(彼は今回、上司や周りの人質達を守る為に使用したに過ぎない)
拳銃使用については正常に判断していたと診断しても構わないだろう
狭硯 秋悟
(彼自身は気づいてないだろうけど、状況下から見てもそれは"守る"事への執着……いや、正義の心とでも言うべきなのか)
どんな人間も、あらゆる予測不能な事態の前では、多少なりとも判断力が鈍る
例えるなら、突然ライオンが目の前に現れたら、大抵の人は足がすくみ動けなくなるか、本能的に逃げるかの二択だろう。咄嗟にライオンに立ち向かおう、なんて考えられる者は先ずいない
もちろん目の前に居る、彼も例外ではないだろう。でも、そのライオンが自分以外の誰かを襲おうとしていたなら、話は別だ
狭硯 秋悟
(彼は迷わず、ライオンの前に飛び出せてしまう)
要は、人を救う為に迷わず動く事ができる。という事…警察官として見れば、これ以上信頼のおける人物は、そうはいないかもしれない
ふとそんな風に思った狭硯は、不安そうに見ている紾へと声を掛けた
狭硯 秋悟
「無謀と言われてしまえば、それまでですが、私は恐ろしく勇敢でもあると思います。足りないモノがあるとするなら、知識と経験でしょう。自分の身を守ってこその人助け、ですからね」
蔡茌 紾
「??は、はぁ」
何の話か分からない紾は、とりあえず相槌を打つ
狭硯 秋悟
「今のままでは、双方ともライオンに食べられてしまいますよ」
急に真剣な眼差しで言われても、紾には何の事だか、全く話が見えない
蔡茌 紾
(ライオンって、何の話だ?さっぱり、分からないぞ)
明らかに混乱している紾の反応に、狭硯はクスリと笑みを向けた
狭硯 秋悟
「失礼。貴方があまりにもカウンセリングに消極的なものなので、少し意地悪を言いたくなっただけです」
顔は笑っているが、目から伝わる微かな本音に、紾は「はぁ」と言いながらも、本当の事なので少し頭を下げ、気まずそうに苦笑いをするしかなかった
狭硯が見せた"全てを見抜いている"と言うような、視線に居心地が悪くなる
蔡茌 紾
(狭硯先生、正直に言えば…苦手…なんだよな…)
紾は、狭硯からは見えない壁のようなものを感じていた
心理士としては、患者に対しては必要以上の感情を抱かせない為に、ある一定のラインを引くのは当然なのだが、それが狭硯の雰囲気と相まって、紾にとっては苦手な存在となってしまっていた
蔡茌 紾
(曳汐に、似てるというか…淡々としていて、どう話せば良いのか、分からなくなるんだよな)
曳汐は、表情は柔らかく雰囲気も穏やかだが、どこか感情が一定だ。それに、自分を犠牲にする事に躊躇いがない
紾は、狭硯にも似たような雰囲気があると思うと、どうしても上手く話せなくなってしまう
そんな事を、悶々と考えている紾に対して、狭硯は内心意地悪を言い過ぎたな、と反省しながら、安心させる為に柔らかい声音で話す
狭硯 秋悟
「少々話しが逸れましたが、発砲した件に関しては問題ないでしょう。状況だけを見るなら正常な判断だと思いますよ」
念願の診断結果を、狭硯の口から聞く事ができた紾は、分かりやすく表情を明るくさせる
そんな彼に「ですが」と狭硯は、言葉を続けた
狭硯 秋悟
「今後、拳銃を使用する際は慎重に」
拳銃に関して紾は、自分なりに答えを見つけていたが、その事については何も話さず、狭硯の言葉にしっかりと頷く
蔡茌 紾
「はい。ありがとうございました」
感謝を述べ、あとは診断結果の記入を待つ紾だったが、何故かニッコリとしたまま動かない狭硯を見て、不審に思いはじめる
蔡茌 紾
「あ、あのー…先生?カウンセリングは終わったんですよね」
狭硯 秋悟
「いいえ。終わってませんよ」
蔡茌 紾
「え?い、いまなんて」
狭硯の言葉が聞き取れなかった訳ではなかったが、予想外の言葉に思わず聞き返してしまう
狼狽える紾とは対照的に、狭硯は冷静にもう一度、同じ言葉を口にした
狭硯 秋悟
「カウンセリングはまだ終わってません。今回は、あなたの発砲が正常な判断だったのかどうか、このまま警察官として職務を続けても問題ないのか、この二点を診断します。前者は問題ないでしょう……ですが、後者はまだ診断結果を出すに達てませんので」
声音は優しく穏やかだが、紾からしてみればこれ以上、酷な言葉もないのだろう。見るからに肩を落とし、ため息をつく
紾の態度から、薄々と苦手意識を持たれている事は、狭硯にも分かっていた。そして、それは彼の反応を見るに、警察官を続けられるかの診断結果よりも、勝るようだった
狭硯 秋悟
(親しみやすさが定評だったせいか、心理士としてのプライドの部分で、結構傷つくな。意地でも信頼させたくなる)
その態度が、逆に心理士としての狭硯の気持ちに、火をつけている事に紾は、気づいていない
狭硯 秋悟
「急な環境の変化は珍しくありませんが、蔡茌さんの場合、数ヶ月前に刑事課へ移動され、慣れない殺人事件にも関わっていますよね。特殊なケースですから心理士として、慎重に診断したいんです」
自分の心の内を、紾へと打ち明ける。そこには、少しでもカウンセリングに、前向きになって貰えたらと言う思いと、自分への苦手意識を取り除きたいという、二つの意味が込められていた
蔡茌 紾
「そう、ですよね。先生はこんなに考えてくれているのに、すみません」
紾は、狭硯が苦手だと言う理由でカウンセリングに対し、消極的になっていた自分を恥じた
狭硯 秋悟
「気にしないで下さい。それと、聞いておきたいんですが、蔡茌さんのように急な刑事課への移動というのは、よくある事なんですか?」
狙い通り、紾の気持ちがカウンセリングに向き始めたので、狭硯は疑問をぶつけてみた
蔡茌 紾
「部署移動自体はありますけど、刑事課なんかは本人の希望や上司の命令で、移動になる事の方が多いですね」
狭硯 秋悟
「だとすると、やはり…あなたの移動は、稀なケースな様ですね。何か理由でも?」
数ヶ月前に狭硯と同じ疑問を持ち、世瀬管理官の元へ話を聞きに行き、見放された時の事を思い出した紾は、思わず苦笑いを返す
蔡茌 紾
「いえ、特には…」
本当は"誰かが裏で手を回した"と聞かされていた紾だったが、その話をするのは違う気がして、はぐらかしてしまう
もちろん、嘘が苦手な紾がはぐらかした所で、狭硯には簡単に見抜けてしまえるのだが
狭硯 秋悟
「職業柄、守秘義務もありますからね。言える事だけでいいんです。例えば誰かに恨まれているとか、心当たりはないですか?」
蔡茌 紾
「それは、えーと…ま、まぁ…多少は…」
もはや日常になりつつある、恨み言や嫌がらせに苦笑いでうなづく
狭硯 秋悟
「それに関して、どんな風に思ってるのか教えて下さい」
カウンセリングを終わらすには、狭硯の質問に答えていくしかないと思い、紾はゆっくりと口を開いた
蔡茌 紾
「その、正直…最初は色々と考えていたんですけど、だんだんと慣れてきてはいるんです」
狭硯 秋悟
「慣れてきた。という事は、日常的に恨まれているという事ですか」
蔡茌 紾
「ま、まぁ。でも俺じゃなくて…」
ついこの前も、世瀬と話していたように、その恨みは異常調査部でも自身でもなく"黎ヰ"に向いている気がする
再びそんな考えが頭に浮かび、紾はそれを言ってしまいそうになり、慌てて言葉を止めた
なんとなく、紾の言葉の続きを読み取った狭硯は、その先を口にする
狭硯 秋悟
「別の誰かに向いていると。その人物は、もしかして刑事課の誰か…例えば上司とか?」
蔡茌 紾
「…えっと、た、多分ですけど、そんな気がする程度の話で」
歯切れが悪い紾に対し、狭硯は少しだけ眉間に皺を寄せ、何かを考え始めた。その場の空気が一瞬にして変わる
蔡茌 紾
(何か、まずい事でも言ってしまったのか)
狭硯の沈黙を別の意味に捉えた紾は、何か言う事もできずその口が開かれるのを、待つしかなかった
1分も経っていないが、紾からすれば5分は絶っていたかのような沈黙の中、狭硯は恐る恐る自身の考えを口にする
狭硯 秋悟
「少し言いにくいんですが、急な部署移動の件は、その恨まれている上司が原因じゃ?そう考えると、辻褄が合うんですよ」
蔡茌 紾
「え…それって、どういう?」
今度は、何を言われているのか理解できずに、そのまま聞き返してしまう。そんな紾に、一瞬躊躇いながらも狭硯は、口を開いた
狭硯 秋悟
「これはあくまでも、私の個人的な見解なんですが、第三者が蔡茌さんを、刑事課へ送り込んだんじゃないですか」
蔡茌 紾
「え、まさか…誰が、何の為に?」
予想しなかった話に、紾は驚きのあまり、敬語を忘れてしまっていた
狭硯 秋悟
「恐らく、刑事課の…つまり貴方の上司を貶める為に、貴方を送り込む事で、何かを得ようとしているとか。心当たりは……あるみたいですね」
紾の顔色が悪くなっている事で、瞬時にその意味を悟った狭硯は、言葉を続けた
狭硯 秋悟
「だとするなら、貴方の現状も利用され兼ねない。充分に気をつけて下さい」
一見、そんな馬鹿なと思える話だったが、狭硯の推理には、妙に納得してしまえる点があったのも事実だった
その後の事は、あまり覚えておらず、紾は次のカウンセリング日を決めると、まだ追い付けない思考と共に部屋を出た
紾を見送った狭硯は、掛けていた片方だけの眼鏡を取ると、疲れた目を指でほぐす
狭硯 秋悟
「つい、口にしてしまったけど、大丈夫だろうか」
正直に言うと、狭硯は最初から、この疑問を持っていた。紾の現状を考えれば、不自然な事ばかりだったからだ
心理士として、警察官を診る事は何度もあったが、紾のようなケースは初めてだった。そもそも、一発の拳銃使用で検査というのが珍しい
それに、彼からは拳銃に対し、後ろ向きな姿勢が見えなかった。あの様子だと、トラウマを抱えている心配もないだろう
それが余計に、このカウンセリングの疑問を膨らませる。最初から彼に、心理カウンセリングは必要ないからだ
狭硯 秋悟
(彼の心理状況的にも、このままカウンセリングを終わらせても、問題はないのかもしれない)
だが、心とは裏腹に狭硯は、気になっていた。一体、誰がどんな意図で蔡茌 紾を利用しようとしているのかを…
それは、単なる好奇心などではなく、彼を利用しようとしている人物の闇に、気づいてしまったからだ。どうやら恨みの対象は、上司だけではない事に…
狭硯 秋悟
「彼もまた、強く恨まれている」
その人物が、世瀬 芯也だと言う事は、本人以外まだ誰も知るよしもなかった
ーー ーー ーー ーー
カウンセリングを終えた紾は、まとまらない思考を抱えつつ、病院の出入り口へ向かって歩いていた
「気をつけて下さい」と言われても、何をどうすれば良いのか、いくら考えても答えはでない
蔡茌 紾
(黎ヰが恨まれてる事や俺の移動の事……狭硯先生の言うとおり、辻褄は合うんだよな。でも、誰が…)
??
「…そろ…そ…白状……ら…う…んだ」
俯きながら、歩いていた紾の思考を遮ったのは、病院に似つかわしくない騒がしい声だった
蔡茌 紾
(なんだ?)
顔をあげてみたが、声の主は見つからない。今だに騒がしい声音に、耳を澄ましてみる
??
「なにが…目的で……る」
蔡茌 紾
(あの角から、聞こえる)
場所を特定した紾は、小走りで進むと曲がり角を曲がった。その先には、二人の男が声を抑えず喋っていた
蔡茌 紾
(何を揉めているんだ)
様子から見て、二人の男達は椅子に座っている誰かを責め立てて居るようだった
村嶋
「君みたいな、異常者は何考えてるか分からない」
羽野
「全くだ。いい加減白状したらどうだ?細菌をばら撒いた犯人ですって」
男達の背中が邪魔で、責められている相手が誰なのかは分からなかったが、雰囲気から見てもただ事ではないのは確かだろう
とりあえず、間に入ろうとした紾は、不意にか細く聞き慣れた声がして、思わず足を止めた
芥 昱津
「……僕、は…何もして…ない、よ」
そこに居たのは、緑色の寝癖だらけの髪にオーバーサイズの上着を着ている人物。顔の半分は黒色のマスクで隠れてはいるが、特徴的な目元のクマとか細い声色からして、間違いなく芥だった
蔡茌 紾
「芥?!」
男達に責め立てられているのが、芥だと知ると紾は思わず、素っ頓狂な声を上げる
芥 昱津
「め、めぐ、る…くん……奇遇、だね…」
対して芥は、状況を理解してないのか、何故か薄ら笑いを浮かべながら、紾へ向かって小さく手を振る
男二人ーー村嶋と羽野は、芥の名前を呼んだ紾を、訝しげに見た
村嶋
「まさか、知り合いじゃないですよね?」
羽野
「ありえない。仮にそうだとしても、声なんて掛けないだろうさ。こんな異常者と知り合っている事自体、恥ずべき事なんだから」
村嶋
「それもそうか。じゃ、通りすがりか」
二人は、暗に紾に"関わるな"と言っているようだ。何が面白いのか、ニヤニヤした嫌な笑みを浮かべている
紾は警察内でも、色んな嫌がらせをされてきたが、今日みたいに目の前で、仲間があからさまに虐められているのを、見たのは初めてだった
胸の中が嫌なモヤでいっぱいになり、紾は真っ直ぐに彼らを見て、強く言い放つ
蔡茌 紾
「そこに居る芥は、俺の仲間だ」
村嶋&羽野
「?!」
まさか、そんな返事が返ってくるとは思わず、不意をつかれた二人は、驚きのあまり黙ってしまう
看護師
「ちょっと、あなた達。院内ではお静かにして下さい!」
あまりの騒がしさに、内科と書かれた診療室から看護師が出て来て、ドアが開き切る前に注意をされる
蔡茌 紾
「……すみませんでした」
結果的に、一番張りのある声を出してしまった紾は、素直に誤った。そんな紾をため息混じりに一瞥すると、看護師は男二人へ向けて声を掛けた
看護師
「村嶋さんも羽野さんも、検査は終わりましたよね?用事がないなら、早く帰って下さい」
二人は、気まずそうに顔を見合わせたあと、紾と芥を睨んで、さっさとその場から居なくなる
看護師
「芥さん、先生から検査結果です。くれぐれも取り扱いには、気をつけて下さい」
何の気無しで、椅子に座っている芥は、看護師から紙を渡される
芥 昱津
「あり、が…とう…ごさいま…す」
看護師
「あなた方も用事が済んだのなら、帰って下さいね。こっちは、まだ患者が居るんですから」
忙しさのせいなのか、看護師は愚痴をこぼすとさっさと内科の診察室へと戻って行く
蔡茌 紾
「えっと、大丈夫か?」
まるで、嵐が去ったかのような感覚だった。紾は、芥を心配して声を掛ける
芥 昱津
「えへへ…僕は、細菌の…検査。紾くん…は、カウンセリングの…帰り?」
あんな事があった後なのに、芥は笑っていた。普段と様子が変わらない事が、なんとなく紾を不安させる