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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
終章

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いつもの毎日

 パーティメニュー。

 これまでないほどカラフルで、これまでないほど可愛らしいメニューが広がっていた。ハルがすごい速さですごい手際で作り上げた。かわいい形にくりぬかれたピンチョス、野菜、クッキー。

 帰りに辻切によって買ってきた色とりどりの飾り紙にクラッカー。それが机いっぱいに広がってる。大きく開けられた窓からは温かい春の夜の風がそよいできて、その向こうには辻切のカラフルなネオンな夜景が広がっていた。

 左目の中で柚ちゃんが大歓声をあげている。


 あれ? でも味わかるのかな

  大丈夫だよ、ぜんぶ伝わるから

 そう? それならよかった


「公理さん、体は完全に大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫。真っ二つになってたからどうかなと思ってけど意外と大丈夫で。ちょっとまだうまく動かないとこも微妙にあるけどすぐ慣れそうな感じ」

「小さい柚は?」

「目の中にいるよ。ほら」

「両眼が別々に動くのは気持ち悪いぞ」


 うーんそうか。

 じゃあ右目を閉じよう。うん真っ暗。左目は柚ちゃんが見ている間は俺は見えない。外いる時はどうしようかな。俺も見えてないとうまく歩けないよね。サングラスにすれば大丈夫かな? 交通事故にあったっていうことにして仕事を休んだから後遺症ってことで。


  公理さん、ありがとう 外ってとっても楽しいね

 大丈夫? おっこちない?

  大丈夫 公理さんは私のお家 入口と出口はちゃんとわかるよ


 戻ってきた左手を見る。ほんのちょっとだけ微妙に違和感があってしばらくは仕事に支障が出るかもしれないけど、基本は右手にハサミが持てれば大丈夫だ。そっちは問題なさそう。よかった。


「それにしてもよくあの場で呪いの中に全撤退するっていう決断をしたな。あそこは呪いの中だぞ。どう影響がでるかわからない。よっぽどイカレてる」

「まあ、よくわかんないけど柚ちゃんと家が守ってくれるって言ってたから大丈夫かなと思って」

「そういえば家は公理さんは呪いに混じってもきっちり分離できるって言っていたな」

「え、そうなんだ」


 そういえば呪いの中でハルは家とどんな話をしていたんだろう。結局秘密ばっかりだ。嘘つき。

 あれ? 何か忘れてる。ああ、そういえば。


「ハルちょっときて?」

「うん?」

「髪切ってあげる。少し伸びてる。切る約束したじゃん」

「ああ、覚えてたのか」

「ちゃんと覚えてるよ。今度友達のあのかわいい女の子もデコらせてね」

「あーまぁ、頑張る」


 風呂場で椅子を出して髪を切る。そういえばうっちーの髪も切らないと。

 ハルはいつもはアップバングで髪をくしゃくしゃして軽く固めてあるけどジェルも何もつけてないと髪質は結構ふわふわしている。全体的にそろえて襟足を短くして。

 本当は柚ちゃんの髪も切ってあげたかったんだけど。


  私は大丈夫だよ

 そう? でも俺は本当は男より女の子の髪の毛切るのが好きなんだよ。可愛くなるし

  じゃあ夢で切って?

 夢で? 夢に入れるの?

  うん 家と同じようにすればいいんでしょう?

 やった! でも夢って覚えてないんだよね?

  私が切ってって言うから大丈夫だよ


 刃が滑るシャキシャキした音が鳴る。こんなもんかな。うーん、やっぱハルは結構かっこいい。あとは流して終了。


「お客様、シャンプーはされますか?」

「馬鹿言うな、ちょっと風呂借りるぞ」

「俺のマッサージ結構気持ちいいって定評あるんたけど」

「うーん、でも幼女に裸を見られる趣味はない」


 幼女? そうか左目に柚がいる。まあ店みたいに倒れる椅子とかないから脱いで風呂入ってもらうしかないよな。あれちょっと待って。俺起きて最初に頭洗ったけど、あれ幼女と一緒に風呂入ったの? まじで? ええ? 字面がやばい。


「公理さんどうした?」

「なんでもない。ちょっと動揺した」

「おかしなやつだな」


 それから少し騒いで、終電が終わる前にハルは俺の部屋からじゃあな、と言って出てった。

 結局ハルはあの時に一度笑ってくれただけ。もっと笑ってほしかったけれど、それは今後の課題だ。


◇◇◇


 俺は公理さんのマンションを出て新谷坂に戻って、最初に校庭の大きな桜の木を見にきた。

 今年は暖かくて晴れが続いていたせいか、花は全て散って柔らかな黄緑色の新芽がさらさらと風に揺れていた。

 帰還の挨拶をして桜を見上げたら、ゆらゆらと1枚だけ花びらが降ってきたので受け取る。待っていてくれたんだな。この桜も俺にとって友達だ。


 当然ながら俺の帰りは俺の奇妙な友人たちの中でも一番遅く、待ってたら散っちゃったじゃないかと文句を言われながらその週末に緑の桜の下で花見をした。いつも通り弁当を作るのは俺の役目。

 俺のおかしな友人たち、アンリはいつもの大量の薄皮饅頭をお土産と言って差し出し、東矢は大量の菓子を持参した。末井は謎のパーティーゲームを広げ、いつのまにか不法侵入してきたグウェイはライオ・デル・ソルで買ってきたというケーキを摘まんで齧っている。甘味が増えていく。桜にもたれて空を見上げると白い雲が神津湾から吹く風にゆっくりと押し流されていた。

 俺はここに帰ってきた。確かに。


 東矢を見る。春休みの初めと比べて悪化している。グウェイがあまり役に立ってない。いや、あいつは違う方向で対処している。目的も違う。放置したのは俺だ。半月か。責められてしかるべきは俺の方なのかもしれない。俺で止められたのかどうかはわからないが。

 公理さんはなんとかなったが次は東矢をなんとかしよう。東矢は俺の友達だ。諦めない。可能性がある限りは。


◇◇◇


 それから暫くしてゴールデンウィーク頃、北辻のあの家が全焼したと聞いた。

 あれから柚は仕事には行ってなかったらしいと公理さんから聞いた。

 あの家から柚の遺体は見つからなかった。

 遺体どころか、焼け焦げて何本かの柱が残るだけの家の残骸以外はなにも残っていなかった。

 家具も、そのほかに見つかると思われた遺体も何も。

 柚がどうなったのかはわからない。


Fin.

 お読みいただきまして、ありがとうございます。


 この話は『君と歩いた、ぼくらの怪談』の外伝の位置づけです。最後の頁の登場人物は本編の登場人物です(本編6章はまだこの話の半年以上前の時点なので、登場していないのが一人混ざってるけど)。


 北辻の家の呪いはとけましたが、東矢一人をめぐる新谷坂の封印は続いています。この家のお話の約1年前、GWに新谷坂山の怪異の封印を解いた東矢一人はその影響でその半分を新谷坂山の封印に封じ込められてしまいました。その封印をもとに戻そうとする話です。

 本編の主役は東矢一人、末井來々緒、藤友晴希、坂崎安離、赤司れこ、グウェイ(登場順)の6人です。

 来週からは本編2部(6章)の連載再開をします。


 あー超長かった。ぶっちゃけこれまで書いた本編+全ての外伝を合わせたより家は長い。そして家の話はミステリーにしようとして失敗した3章のリベンジマッチでした。謎の整合性を取るのはやっぱり恐ろしく大変だった。まだ落としてる設定はある気はするので、適宜修正の可能性はありますが、ご容赦ください。

 その反動で6~8章は結構ゆるい話が続きます。本編はそもそも家にくらべると大分ゆるふわではあるのだけど。


 長丁場に最後までお付き合い頂きましてありがとうございます。

 感謝を込めて。


Tempp

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつのまにか、ハル君が自分の弟のような気持ちになってしまい、心配しながら読み進めてしまいました。なぜか自分は公理さん目線だったw 最後の最後までどうなってしまうんだろうと、ワクワクしながら…
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