表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

Hopeful – 希望に満ちた

 中学時代にアルコール依存症が原因で、父の実家から通える範囲内の病院に数ヶ月入院した。その頃、同じ苦しみを抱いている人を救いたいという漠然とした思いが芽生えた。アルコールに依存するようになる前、勉強は決して嫌いではなかった。退院する日、思い切って主治医に打ち明けた。

「将来、先生と同じ仕事に就きたいんです。」

 本音では無理だと思っていたが、先生は笑顔で言った。

「優佳さんならきっとできる、学業に励みなさい。」

 先生の言葉を信じて努力したのが報われて、父の実家近くの高校に無事合格した。穏やかな校風の学校で、理解してくれる友人もできた。

 部活は茶道部を選んだ。吹奏楽部の演奏を聞くのはまだ少し辛かったが、悲しい出来事は忘れるのが大切だという友人達のアドバイスに従って、強引に考えを逸らす訓練をした。

 受験生になると学校の授業も含めて毎日10時間以上勉強し、地方の国立大学の医学部に合格できた。

 飲み会に付き合う必要があるのではないかと不安を感じたのでサークルには入らず、趣味として茶道を続けることにした。茶道の先生は少し気難しかったが、アドバイスはいつも的確だった。私は人に恵まれていると、心から感謝して日々を送っていた。

 研修医になって何ヶ月たった頃だろうか、他の研修医が話しかけてきた。

「ねぇ、銀行がハッキングされたの知ってる?」

「知らない。何だか怖いね。」

「犯人、同い年なんだって。」

 その時はあまり興味がなかったが、雑誌記者が私を取材するために病院に押しかけてきた。

「鈴木和海さんをご存知ですか?」

「すみません、どのようなご用件ですか?」

「中学時代にあなたをいじめた加害者の銀行口座をハッキングしたんですよ。」

「申し訳ないんですが、お引取り願えませんか?」

 今更思い出したくもなかった。しばらくの間、記者はつきまとったが病院側が適切に対処してくれたようで、1週間程で治まった。

 ストレスで、またアルコールに手を出したくなってしまった。このままでは自分を律することができなくなるかもしれない。主治医に会う回数も増えた。

「このままでは私はまたアルコールに頼ってしまいそうです。時間を作って鈴木和海に会おうと思うんですが。」

 ある日、主治医にこう相談した。

「精神科医を志す者として、正面から鈴木和海の心の闇に向き合った方がいい気がするんです。」

 それは本当の自分を見つめることでもあったが、主治医は反対した。

「あなたはまだ研修医よね。リスクが高すぎる。」

 それは事実だった。家に帰ってから、鈴木和海に手紙を書くことにした。


拝啓

 暑さ厳しき折、いかがお過ごしでしょうか。

 悲しいこともありましたが、今は中学生の頃が懐かしく思い出されます。

 現在、私は研修医として多忙ながらも希望に満ちた日々を送っています。

 鈴木様が起こした事件のことは最近知りました。私としても、時折復讐とは何か考えることがあります。相手を見返すことでしょうか。事情を知っている大学の指導教官からは、幸せになることだとご助言をいただきました。本当の意味での復讐とは、個性を発揮して、新たな価値を生み出すことかもしれません。可能な限り誠実に、真剣に一人一人の患者の治療に取り組むことが、私にとって最大の復讐と言えます。

 これからも暑い日々が続きますが、どうぞご自愛ください。

敬具


 手紙を書いてみて、自分の目指すべき方向がはっきりと見えた気がした。高校時代の友人からのアドバイスを思い出した。悲しいことは早く忘れて、今、目の前のことに集中しよう。 

 パソコンを起動して、医学論文が掲載されているウェブサイトを開く。気になった論文をいくつかダウンロードして印刷する。英語は少し苦手だが、最新の動向をキャッチしたかった。

 明日からも謙虚に指導医から学び、患者と向き合っていきたいと、心から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ