9話 従兄弟と共に囲まれました。
「グラス家の現伯爵の孫、ディラン・グラスです。お初にお目にかかります。このような素晴らしい茶会にお誘いいただけた事を光栄に思います。」
ディランがアレク家の伯爵に挨拶をする。礼儀がしっかりと身についており、動きの一つ一つに程よい色気と優美さが滲み出ている。周りの婦人や令嬢はその彼の姿に見惚れてしまっていた。
「こちらは、私の従姉妹です。」
「始めまして、クリエラ・グラスです。宜しくお願いします。」
私はクリエラの唯一お得意の礼をする。角度を研究していただけあって、体はその姿勢を覚えていた。グラス家の顔に泥を塗らないよう気を付けないと。
主催者である二人への挨拶を終え、ディランと共に二人の所から移動する。次に私は、このお茶会へ誘ってくれた張本人のリアン・アレクのもとに行かねばならない。
「(まずは名前を読んで、優しく微笑み、例を告げる。そしてそこから何とか頑張って彼をキープし、好意を持っていただかねば...!)」
ー何とかって、何だ。
前世の頃からモテ期なんて一度も来たことがない私は、男子に好かれる術なんて勿論知らないし分からない。
「クリエラ?聞いてる?」
先程から私に話しかけていたらしい。ディランは返事の無い私に気付いたのか、顔を覗き込んできた。
美しい顔が目の前に来て、思わず顔が赤くなる。誰だって美男子に近付かれたら赤くなるだろう。
「な、何ですか?」
「そのドレス、似合ってるね。」
彼は私が着ている紅色のドレスを見た。これは彼が今回のお茶会用に用意してくれたもので、とても趣味がいい。赤色のドレスは人を選ぶし、どうしても高飛車なイメージに仕上がってしまう。
「(悪役令嬢という立場にいる以上、悪人的なギラギラした見た目になるのは仕方がないと思っていたけれど、そうでもなかったのね。ドレスと髪型は本当に大切だなぁ。)」
「アレク家のお茶会は美しい薔薇を見れる事で有名だったんだ。それに合わせて紅にしたんだけど、正解だったよ。」
彼は少し嬉しそうに微笑んだ。
「そうですね。流石、ディランお兄様です。」
「そう?ありがとう。」
彼の手が私の頭に伸びてくる。あと少しというところで、私達のもとに来る複数の人に気付き、それを伝える。
「ディラン・グラス様、お久しぶりですわ!」
「そちらはもしや例のご令嬢で?!」
令嬢の方々はディランの、男子の方々は何故か私の周りを取り囲んできた。
「(どういうこと?!)」
ー私、さっさとアレクに話しかけたいんですけど!!