15話 メイドごっこ合戦 (閑話)
王になることを保留した俺、ユート=ゴナン=リリックは幼なじみのシェフィ、メイドのトト、巨乳のクラムと共に旅を始めた。とりあえずはこの国を見て回るつもりだ。食べ歩きが楽しみなのは秘密な。
世界の半分が魔王に支配されてから、魔物はそこらじゅうで飛び出してくるようになった。港を目指し森を走る俺たちの馬車なんかには魔物が集まってくるのだ。
そして俺はキノコと絶賛戦闘中。レベル上げを兼ねて馬車の防衛というわけ。今回の俺の相棒はシェフィ。昔からの付き合いなので連携は完璧だ。
彼女がハンマーで地面を揺らし、俺が剣で最後のキノコを刻んだ。
「うごくキノコの群れ一丁あがりね!」
シェフィの紅い目はよく動く。表情もコロコロ変わる。幼なじみの贔屓目で見ても明るくて良いやつだと思う。
「あ、リリ。キノコの胞子の吸いすぎで、すばやさが32.8%下がってるから薬飲んどいた方がいいよ」
この異常なほどの俺に関する知識を考慮しなければだがな。この世で俺のことを一番知っているのは確実に俺ではなくシェフィだ。
「レベル19までキノコ換算で566体!
キノコ弱いし仕方ないね」
「うごくキノコなんて俺たちの街の辺りにはいなかったよな。倒すのが楽だから別にいいんだけどよ」
「終わりました? じゃあ早く乗ってくださいな。そんなキノコ食べたらお腹壊しますわよ」
こっそり後で食べようと思ってたのに。隠し持っていたうごくキノコの死体がトトにバレてしまった。仕方ないが捨てるか。トトは御者をしている。俺以外は皆、馬を扱えたので交代で操縦しているのだ。
「港まではどれくらいありますの?」
「明後日には着くと思う。とにかく東北に進路をとってれば大丈夫だ」
「かしこまりました。にしても瘴気が薄くてヤになるワ。瘴気だまりにでも突っ込もうかしら......」
「さらっと殺害予告は止めてくれ。ほらさっさと進もう」
俺とシェフィは馬車に乗り込んだ。狭い部屋の中でクラムは鎧を着たまま寝ている。彼女は俺たちが寝ている夜に馬車を走らせ、魔物の警戒もしているのだ。
別に誰かがクラムに押し付けたわけじゃない。彼女が自分でやると申し出てきたんだ。寝ずの番は大変だろうに彼女は文句一つ言わない。そうだ、今晩くらいは休ませてやろう。一晩馬車が進まなくなって誰も困りはしないもんな。
夜、この時間は皆起きている。馬車を走らせているのはシェフィだ。
「そろそろ私の番ね」
クラムが立ち上がった。俺も立った。
「本日はお休みデーとします! 俺が決めたので苦情は受け付けません。シェフィ、馬止めろ。トト、家出せるんだよな? 森を破壊しない程度に展開してくれ」
「でも、王城の人たちがユートの帰りを待ってるんじゃないの? 早く進むべきよ」
几帳面なクラムはどうしても色々なことが気になってしまうようだ。
「俺はあんな奴らどうでもいい。それに、俺はまだ時間が必要なんだ。この中から1人選ぶ、そんな重大なことを軽々しい気持ちで決めたくない。分かってくれ」
「ユートがそこまで言うなら良いわよ! 今日は休んであげる」
クラムは顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。そんな反応をされると俺まで気恥ずかしい。頬が火照る。
俺も顔をそむけるとシェフィがこちらをじいっと見ている。目線があう、二人とも慌てて別の方を向く。トトは手をギュッと握り、うつむいて黙っている。
誰も何も喋ろうとしない。動こうともしない。うう、気まずい、恥ずかしい......
ーーーーーーーー
「はい、用意できましたワ」
「おおー」
しばらくしてなんとか動き始めた俺たち。目の前には我が家の一部が出現している。トトが館を丸ごと飲み込んだってのは本当らしい。
中に入るとランプが煌々と輝き、フカフカの絨毯が敷き詰めてある。なんだか匂いまで懐かしい。安心を形にしたみたいな部屋だ。
座りなれたソファを見つけ腰をおろす。はあぁ。変な声が出てしまった。
「はいユート様。紅茶です」
トトがお盆に乗せて紅茶を持ってきてくれた。最近トトはめっきり小さなメイドが板についてきた。短い黒髪を揺らして駆ける姿はとても可愛い。
「ありがとう。紅茶、あったかい、ほへぇ」
また声を漏らしてしまった。ダメだ、快適すぎる。ここは天国か?
「はいリリ、スコーンだよ。紅茶のお供といったらこれだよね」
「お、ありがと。気が利いてるな」
「今日は戦闘もあったし疲れたでしょ? 特別なヒールをかけてあげるわ。パコール家に伝わる秘術なのよ」
「いや、そこまでしなくても大丈...... あー気持ちいい、ああー」
「あったかい紅茶のお代わりはいかが?」
「クッキーもあるよ! ユートが好きなラン・グドシャだよ!」
「じゃあ次はマッサージしてあげるわ」
「ストップ! ストップ! どうした!? お前らどうしたんだ?」
突然くり出され始めたサービスの荒波に俺は恐れおののく。
「だってトトちゃんが1人だけリリの好感度稼ごうとするんだもん」
「そんな、私に下心なんてありませんワ」
「私たちにだって色んな下心があるわ。あわよくば...... ねえ?」
「気持ちは嬉しいが、俺をもみくちゃにするのはやめてくれ。まだ始まったばかりの旅なんだしもっと気楽に、な?」
「「「はーい」」」
やれやれ。体は休まったが気苦労は絶えないな。まあ彼女たちのための旅でもあるのだし、仕方ないか。
全員が大人しくなった頃。俺は立ち上がって膝を払った。
「そろそろ晩飯かな。今作るから待ってろよ」
前も述べた通りシェフィは料理ができない。聞いてみるとクラムもできない。トトも自信がないという。メイドのくせに。
ということで自信のある俺が普段は料理を作っているのだ。しかし今、彼女たちは情熱に燃えている。
「ユート、今日の晩ごはんはこのシェフィ様にまかせなさい」
「私なんだか料理したい気分なのよね」
「夕飯などメイドにお任せください」
「ああ、うん。全部食べるから好きにしてくれ」
激しく不安だが、これも彼女たちの好意なのだ。断るのも可哀想だろ?
キッチンに3人が消え、少しして戻ってきた。まあまあ良い匂いがする。どうやら最悪の事態は回避できたらしい。
「で、3人は何を作ったんだ?」
まずはシェフィが小さな鍋を開けた。
「私はね、肉と野菜のスープ!」
スープはすぐできるし、簡単に作れるし、不味く作りようがないから良いチョイスだ。
「じゃあ次、クラムは?」
クラムの笑顔がひきつる。そして鍋の蓋が取られた。
「私はや、野菜たっぷり汁よ!」
うん、肉と野菜のスープだな。シェフィと同じだな。飽きるけども、まあいい。問題はトトだ。こいつも小さな鍋を抱えている。3人全員同じスープは流石にキツイぞ。
「お前は違う料理を作ったよな?」
「さあ?」
トトの笑顔が小憎らしい。こいつならわざと他の2人と同じ料理を作る、くらいしそうだ。
「さあ、鍋を見せてみろ!」
運命の瞬間だ。
「私は...... お米を炊きましたワ」
「お米ヤッター! ほら盛り付けろ食べるぞ!」
楽しい食事が始まった。
「こらシェフィ、野菜残すな」
「えー、だってクラムちゃんが入れた野菜嫌いなんだもん」
「このスープ割りとお米と合うじゃない」
「なんかお米だけは上手く炊けるのよネ」
誰と結ばれることになっても、手料理を楽しめそうにはないな。でも皆で一緒に食べる飯は美味しかった。
「ふぅ、食った食った」
「さあユート様、お食事が終わりましたらあちらの部屋のベッドで私と休みましょう。シェフィさんとクラムさんはそこら辺で寝ていただいて大丈夫ですよ」
トトが俺の手を凄まじい力で引く。とても抵抗できない。暗い部屋に連れこまれ、ベッドの上に放り投げられる。俺はか弱い乙女かよ。
「さあ、2人で楽しみーー」
「そんな訳にいくかあ!」
「私も混ぜてよぉ!」
クラム、シェフィが扉を破壊し飛び込んできた。当然の結果と言える。そのまま2人はベッドにダイブしてきた。2人用のベッドがきしむ。4人も乗るには狭すぎるぞ。
「私は昔みたいにリリと一緒に寝るもん」
「トトは目を離すとユートにちょっかいかけるからここで寝るわ。それとも私を床で寝かせるつもり?」
もう好きにしてくれ。トトもそんなに嫌そうな顔をしてないし、このまま寝るさ。
夜、森の中の一部屋、ダブルベットに3人の女と俺。もう3人とも寝息をたてている。少し身を起こして彼女らの寝顔を眺める。
黙ってれば可愛いのに、少しそう思ったが、よく考えれば俺はよく喋るこいつらの方が好きだ。
「しゅき......」
寝ぼけたシェフィが抱きついてくる。寝返りをうったクラムが俺の腕を体の下に敷く。寝相の悪いトトは俺のお腹を枕の代わりしている。やっぱり4人には狭すぎるな。でも、我慢できないほどじゃない。俺は身動きできない代わりに、暖かい気持ちで眠りについた。
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これからはちょくちょくヒロインのうち1人づつにフォーカスした閑話を挟んでいこうと思います




