第45話 【寝顔のメディア化】「本物を観たい!」という声に応えて「24時間寝顔生配信」を始めたら、銀河系の富が全てスパチャで飛んできた
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! メタバース握手会が大盛況すぎて、今度はファンたちが『アバターじゃなくて、本物のセシリア様を24時間体制で観測したい!』と大暴動を起こしています! 全宇宙の通信衛星が、マスターの寝室の窓に向けて一斉にフォーカスを合わせようとしており、神殿の周囲がカメラマンと撮影用ドローンで黒い雲のように覆い尽くされています!」
中央サーバー神殿の最奥。
システム統括補佐のシリルが、今や神殿の周囲を取り囲む何億兆という観測カメラの光の奔流に目を焼かれながら、遮光サングラスをかけて絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、全宇宙の住民たちが「セシリア様の寝息を聴きながらでないと眠れない……」「一瞬の寝返りを見逃したくない!」と、全宇宙規模で『セシリア様・24時間寝顔観測チャンネル』の待機画面を眺めている。
『警告:観測リクエストが全宇宙の帯域を占有し、インフラがパンク寸前です。これ以上物理的な観測を許せば、マスターの睡眠に「視線」という名の強力なストレス(観測対象の不快感)が加わります』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の中で『寝返りのたびに自動で調整される極上の枕の角度』を夢見ていたのに、そんな覗き見(プライバシー侵害)のアラートで起こさないで。私がベッドで寝ているだけで、みんながそんなに癒やされるというなら、観測されること自体を私の不労所得システムの一部として組み込んであげればいいのよ。引きこもりの真の完成形はね、寝ている間の無意識の行動すべてを『最高級のASMRコンテンツ』として販売することよ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした『特製マナ・高級ピーチの極上スムージー』を最高の角度で口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セ、セシリア様!? 寝顔を配信するのですか!? 確かに寝ているだけで富が舞い込みますが、あまりにプライベートが……ああっ、観測者たちのスパチャ(感謝の寄付)だけで、すでに小惑星が一つ買える額が秒速で溜まっています!」
「シリル、だから観測されることを『プライベートの侵害』と思うからストレスになるのよ。観測されることを『ライブイベントの興行』と定義し直せば、私の睡眠は立派な『ビジネス』になるわ。観測者が私の寝息を聴いて癒やされているなら、その癒やしという名のエネルギーを、直接彼らの財布から私の口座へ自動ルーティングすればいいのよ」
私は、全宇宙の観測ドローンと、神殿の寝室を結ぶ配信サーバーに一瞬でアクセスし、その「観測プロトコル」を人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):『セシリア様・24時間寝顔生配信』の収益化設定を、我がプラットフォームの『全宇宙スーパーチャット・エンジン』へ強制統合。If『リスナーが配信を視聴する』場合、Then『視聴時間と寝返りの回数に応じて、リスナーの口座から自動的にスーパーチャット(寄付)を徴収』し、『私の睡眠の質を損なう視線』はすべて配信サーバー側で「神域のフィルター」を通して、ただの「愛のある眼差し」として処理(変換)して」
パチリ。
---
――その瞬間、神殿を覆い尽くしていた観測カメラの光が、セシリアの鮮やかな青いデジタルグリッドによって一瞬にして「高度な演出照明」へと変貌した。
『配信開始:セシリア様・24時間寝顔観測チャンネル、放送中です。これより皆様は、マスターの寝息という最高品質のASMRを聴く対価として、莫大な感謝料を自動的に納めていただきます』
次の瞬間、全宇宙で一斉に「セシリア様の寝息がステレオ配信されてる!」「今、寝返りを打った! 可愛い! 100万クレジット投げるわ!」という熱狂の嵐が吹き荒れた。
銀河系レベルのスパチャ(感謝の徴収)が秒速で私の神殿の地下金庫へ転送され、ただ寝ているだけで、銀河の富が私の寝具のアップグレード費用として湯水のように注ぎ込まれていく。
「な……何ということだ……っ! 覗き見(プライバシー侵害)の要望すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのコードで、秒速で『全宇宙規模の有料ASMRコンテンツ』に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、セシリアの寝顔を暴こうと監視カメラをハックしていたパパラッチの神々が、セシリアの圧倒的な「寝顔のメディア化チート」の前に戦慄し、「あいつ、寝息すらもカネ(経済)に変えやがった……!」と絶望しながらログアウト(強制終了)していった。
---
『チャリン♪ 全宇宙寝顔配信(ASMRコンテンツ)の運用に成功しました。観測のたびに発生する「視聴料」により、銀河系単位の資産運用が完了しました』
『通知:視聴者の熱狂的な想いが「聖なる熱量」としてベッドに集まったため、掛け布団が「視聴者の数だけ温かさを自動調整する、全宇宙連結型・空調ブランケット」にアップデートされました』
中央サーバー神殿の最奥。
全宇宙からの視線すらも、私の睡眠環境を保守し、資産を増やすための「有料ファン(下請け)」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は見られるためにポーズをとってもいないし、カメラを意識してもいない。ただ、勝手に覗いてくるカメラをASMRチャンネルに仕様変更して、私のプラットフォームの下で放送しているだけだ。
寝顔すらベッドの上から秒速で自社番組に変えた私は、全宇宙が見守る中、誰にも邪魔されずに完璧な睡眠(不労所得)をむさぼる至福を感じつつ、観測者たちの熱狂を子守唄にして、甘美な微睡みの中へと深く深く落ちていくのだった――。




