二体目の指揮官
防御もできないまま、神族は俺の斬撃を受け……その体が、倒れ伏した。次いで神族の体躯が塵へと変じ、消えていく。
これは魔物や魔族と同じような消え方であり、どの程度かわからないが魔族の力を得ていたのだろう……いや、悪魔に魔王の力が存在しているのだ。ここは魔王の力を得ていると考えた方が自然だろう。
そんな推測を、仲間もしたらしく……フィリスが口を開いた。
「悪魔と同質の力を持っていたみたい」
「であれば、魔王の力を神族やエルフに叩き込んだわけか……そんな無茶をすれば、魔物のように塵と化してしまうのも納得できる」
俺はそう答えつつ周囲を見回す――指揮官を失った悪魔は、明らかに動きが鈍りそこへ味方の魔物が攻勢を仕掛けている。みるみるうちに数が減っていき、この周辺では味方側の勝利がほぼ確実な情勢だった。
とはいえ、まだ一局面を打開しただけ……俺は一度後方を見る。そこに魔族の騎士がいるのだが、
「このまま進むか?」
「はい、先ほど次の指揮官の居場所について連絡が入りました。そちらへ向かいましょう」
騎士の言葉に俺は頷き、移動を開始する。まずは神族が消え去ったわけだが……他の指揮官はどうするのか。
目的地へ向かう間に、敵の動き方についても見えてくる。どうやら敵軍は穴が空いた俺達の周辺へ戦力を差し向け、勢いを殺そうとしている模様だ。
ただ指揮官については動いていない様子……つまり、悪魔のみを差し向けて数と突撃によって魔物を倒そうとしている。
これについては成功するか否か不明だが……少なくとも、指揮官がさらに減ればそうした攻撃の勢いも減ることは間違いない。
進路は左方向であり、そこにエルフの指揮官がいる。魔物達が悪魔と交戦する光景を横目に俺達はとにかく指揮官目がけて突き進んでいく。そこで、エルフの指揮官も気付いた。なおかつ、このままただ手をこまねいていては神族の二の舞となるのも理解した。
だからこそ――エルフは、俺達へ向け魔法を行使した。巨大な火球であり、味方であるはずの悪魔すら巻き込もうというくらいのものだった。
戦力が減ってもいいから、俺達の対処を優先した……その考えは正解であり、俺達の行動が戦局に変化を与える以上、早い段階で芽を潰して置く必要があるのは事実。
しかし――エルフの指揮官は明らかに俺だけを見据えている。周辺にいる仲間の強さには、気付いていたかどうか。
火球が迫る。俺は即座に声を上げようとしたが――それよりも先に、フィリスが動いた。
対抗するように、光の魔法が放たれる。巨大な魔法と比べればあまりにも小さな光弾。しかし火球と比べ恐ろしい速度で火球へと向かっていき――直後、轟音と閃光が戦場を満たした。
火球の熱が、周囲に熱風を巻き起こす。だが、本命である火球そのものは飛んでこない……フィリスの光弾が、火球を消し飛ばしたのだ。
魔法の威力は、明らかにフィリスの方が上……そこで閃光が消え、俺の視界にエルフの指揮官が映る。男性かつ茶髪の指揮官は、フィリスの魔法によって魔法を消された事実を目の当たりにして、驚愕しているようだった。
俺はその間に、一気にエルフの指揮官へと詰め寄っていく。驚いている間に仕留める……そういう目論見で身体強化を施し肉薄した俺に対し、相手は……魔法を放つことができなかった。
おそらく、次に何か魔法を使ってもフィリスが対抗していただろう。しかし、万が一の可能性もあるし、態勢を立て直された時点で単純な攻撃魔法とは異なる、搦め手の魔法でも使われたら、どうなるかわからない。
だからこそ俺は、一気に決着をつけるべくエルフに狙いを定めた――そしてこちらの行動は功を奏し、エルフに反撃の機会を与えぬまま、接近することに成功した。
相手が気付いた時、俺は真正面にいた……エルフは驚愕しながら右手をかざす。魔法を放とうと反射的に行動した様子だが、一歩遅かった。
次の瞬間には俺の剣戟がエルフの体を薙ぎ、相手はゆっくりと地面に倒れた。その瞬間、悪魔の動きが鈍り始める。指揮系統が消え去った悪魔は、とにかく近くにいる魔物を倒すべく拳を振りかざすが、明らかにその動きも切れがなくなっていた。
魔物が悪魔に殺到し、一気に蹴散らしていく……さらに指揮官を倒したことで味方側が勢いづき、魔物は悪魔へ突撃を仕掛け、次第に天秤がこちら側へと傾き始める。
「……次はどうする?」
帯同する騎士へ問うと、
「本来なら、さらに次へ……と、いきたいところですがどうやらそうもいかないようですね」
指揮官が動く。俺も気配で理解した。どうやら前線にいた指揮官達が、後方へ退いていく。これ以上滅ぼされれば、戦線の維持ができなくなると判断したのだろう。
「さすがに敵陣奥深くまで攻め込むのは得策ではありません。一度後方へ戻り、ファルビア様の指示を仰ぎましょう」
「わかった」
同意すると、俺達は戦場を離脱するべく移動を開始。その間にも、魔物は悪魔を蹴散らし続けた。




