第二十話 神銀と十二神将
この日、湖月と契約した錬は途方に暮れていた。
「これ、秋月さんに何て説明しよう・・・・・」
錬の左腕に巻き付いた湖月は、一応は銀のブレスレット姿をしているが、とにかく
輝きと意匠が現実離れしていて、とてもでは無いが唯のアクセサリーと言い張る事
など出来そうにない。
(何でそんなに変わるんだよ!)
最初に会った時は、やや暗い色をしていたのが今や輝きを内側から放ち透明感さえ
感じる程の銀色をしている。
更に浮き出た鼠の意匠は、生気を感じる程精巧だ。
とてもでは無いが誤魔化せる代物では無い。
《あれは封印の為、ほぼ休眠状態だったからじゃ》
(じゃあ、休眠状態に戻るって事は?)
《あほう、唯の飾りに何が出来ると言うんじゃ》
(だよね~、はぁ・・・・)
《正直に話せば良いではないか》
(それしか・・・・ないかぁ・・・・)
《無いな》
それでもバレる迄は沈黙を守ろうと往生際悪く考えていたが、来院した琴音に間髪
入れずに露見した。
彼女が錬の変化を見逃す筈がないのだ。
「何処の女から貰ったの?」
穏やかな慈愛に満ちた問いかけだが、言葉の裏に般若の影が見えた気がした。
「違う違う、これ、神器だから!」
誤魔化してはいけない、正直に全て話さなければ取り返しのつかない事に、大変な
事になると錬の本能が警報を鳴らし始めた。
それも、非常事態宣言並の警報、当然全て包み隠さず洗いざらい何もかも喋った。
一から十まで、自分の生い立ちも含めて何もかもだ。
「そうですか、神器・・・ですか」
「信じられないかもしれないけど」
「いいえ、錬の言う事を疑ったりしないわ」
琴音にとって錬の言う事を疑うような選択肢は持ち合わせていない、勿論女性関係
は除くとした但し書きは付くが。
「まずは調べてみましょう」
病室に持ち込んでいた仕事用のパソコンから、一般的な物から政府の機関にまでに
アクセスを始めたが成果は得られなかった。
「駄目ね、神銀に関しては何も該当しないわ」
「つまり湖月や十二神将の事は全く知られていないって事?」
「そうとも言い切れないわ、神金に関しては強力なプロテクトが掛かってるの」
「何だか、妙にちぐはぐな気がする」
神金や国器の事は厳重に隠蔽しているのに、その下位互換の神銀や仙器の事には、
全く関心が無い様に感じられる。
上位の物より下位の物の方が情報を得やすいのが普通なのだ。
「一応、想像が付く物が有るわ、神職関係よ」
「神職?でも流石に情報が無いなんて事が有るのかな?」
「それなんだけど、高位の神職に就いてるのは全員がいい歳の爺婆なの」
「それって・・・・・」
「重要な情報や秘匿性の高い物は全部口頭か紙媒体なのよ」
「つまり・・・・・」
「そう、ネットを含む仮想空間に情報が出ないの」
「うへえ・・・・」
《お主も似た様な物じゃろう》
「わっ」
「どうしたの?練」
「湖月がいきなり声を掛けてきた、どうやら会話を聞いていたらしい」
当然だが湖月の声は聞こえないが、錬の全てを肯定する琴音には関係ない。
周囲から見れば錬が一人芝居をしている様にしか見えないのだから、本来なら正気
を疑われても可笑しく無いのにだ。
「なら、彼?に聞いてみたら、その、本体の事とか」
「そうだな」
錬の目の焦点が左手首の上で揺れる。
(お前の本体は何処に有るんだ?)
《口外せぬことを誓えるか?お前の伴侶も》
(誓うけど違う!妻じゃ無い!)
《傍から見てると、そうとしか見えんが?》
(まだ付き合ってもいないし結婚式もしていない!)
《結婚式?下らん、そんな物に何の価値がある》
(へっ?)
《思念の結びつきが薄い番程脆い物は無いぞ》
湖月には錬と琴音の情念の結びつきが見えていた。
やや控えめな憎からずといった錬のささやかな情を、まるで暴風のような琴音の情
が守る様に錬の周りだけ、春のそよ風並に穏やかに流れる様は超巨大な台風とその
目の様な関係にしか見えない。
かなり一方的な様相を呈してはいるが、鍵が鍵穴に嵌る様に、刀が鞘に収まる様に
それなりに安定した関係に湖月には見えていた。
「あのう、秋月さん、湖月が口外しない事を誓えって言ってるんだけど」
「もちろん誓うわ!必要なら殺されても喋らない!」
《別にそこまでは求めておらんぞ》
そう言うと湖月は錬の腕から離れて一匹の銀色鼠になった。
「・・・・・・・・・・話を聞いただけじゃ無理ね、凄い衝撃よ」
「やっぱりそうなるよね・・・・・・」
「ええ、自分の目を信じられないなんて初めてよ」
当たり前である。
自分で動く金属製銀色鼠などの存在を肯定する方が異常なのだ。
「そもそも、こんな理不尽な存在なんて誰も信じないよ」
「確かに真面目に説明出来る気がしないわ、正気を疑われて終わりよ」
《お主ら、言いたい放題じゃな、まあ気持ちは分かるが》
実際、目の前に現実を突きつけられても常識が否定するのだから、神経が整合出来
ずに悲鳴を上げるのだ。
こんな迷惑な存在など、めったに出会える物じゃない。
「理解したなら、とっとと教えてくれ」
《お前・・・・まあいい、我が本体は九州、阿蘇にある》
「へええ、何処の神社なんだ?それとも寺?」
《阿蘇国造神社》
「阿蘇の国造神社?そこに本体が?」
《ああ》
「待って、検索してみるから・・・・・・」
しかし幾ら調べても、画像を確認してみても、神銀に関する事どころか十二神将に
関係する事すら何も確認できない。
当然だろう、そもそも宗教が違う。
自然信仰の象徴である神社に仏教の神が祭られている訳が無い。
「こちらも無理ね、手掛かり無しよ」
《まあ、分からんじゃろうな》
「どういう事なんだ?何故何も出てこない」
《甚だ勉強不足だ、一度神教と仏教の関係を調べてみろ》
「上から目線・・・・・・・・・何だかムカついてきたんだが」
《狭量な男は嫌われるぞ》
「うるさいよ」
《よいか、信仰とは人の思いが寄り集まったもの、時と共にな》
「時と共に?」
《ふう・・・目に見えるものばかり追いかけていては、決して理解出来んぞ》
「そんな事を言われても・・・・・」
《阿呆、お前の仕事は何だ》
「あっ!」
《心の内側を理解できれば自然と認識出来る様になる、精進せい》
封印士自体が空想の産物と言われてもおかしく無い、一般の人間では見る事の出来
無い”呪”を扱っているのだ。
「・・・・・・糸口は人の思い」
幸いな事に退院するまでには、あと一ヶ月は掛かる。
思考に没頭するのに、こんな好条件の場所は少ない。
おまけに今は琴音のサポートを十二分に受けられるのだ。
「絶対に見つけてやる・・・・・・」
この先必ず直面する問題に対して間違いなく助けになる事に錬は気づいていない。




