新天地という小さな興味
「ねえ、つばさ。明日とかって空いてる?」
「ほぼ全ての休日を暇なまま過ごしてる僕に聞きます?それ」
僕はふてくされながらそんなことを返す。今はとある日の放課後。グラウンドには新入生が加わり和気藹々とした声がこの校舎内にも流れてくる。そんななかこの教室は静けさが漂っていて、二人組の女子の話し声か二人の男子の話し声が聞こえるだけで、他は特になにも音を発してはいない。そんななか一人の少女が僕、徳山つばさに質問を問いかけてきた。165㎝という高身長にロングヘアーがとても似合っている。屈託のないその笑顔はどこから来ているのだろう、それぐらい笑顔満点だ。それとは反対に僕は今ふてくされていた。休日ボッチの僕としてはちょっと切ない質問なのである。だからといって休日無理して疲れるのは嫌ではあるが。
「じゃあ空いてるってことでいいよね?」
先程の僕の返答で少し曇りがかった笑顔は「少しはましな答え方しなさいよ」といいたげだ。実際に不満を露にし僕に腹パンをおみまいしたらどんだけ面白かったことだろう。腹パンされるのは御免だが。
「じゃあ明日付き合って」
ブブーー、ゲホォ、ゲホォ
とはやてが奢られたコーラを盛大に噴き出す。それをあさまがよしよしと背中をさすっている。にしてもはやてはいい反応するなぁ。多分だが誤解している。僕はそれを無視し、
「ん?何処に行きたいんだ?」
と素っ気なく返した。当のひかりははやての誤解に気付きその反応を見て楽しんでいるようにも見えた。そして、
「ふふ、えっとー、ここら辺に来てまだそんなにたっていないからこの街を案内してほしいの」
ようやく意味がわかったのかはやてが冷静を取り戻した、ように見えた。
「別にいいけど、僕でいいのか?」
「つばさならいつでも空いているのでしょう?」
確かにそう言ったのだが僕でもいい理由がいつでも空いていそうだからとはなんだか心外である。
「そ、それだったら他にも誰か誘おうぜ。おーい、つb」
「私はパス」
即行に拒否られた。なら、
「あ、僕もその日は空いていないんで」
「俺も明日三島達と遊ぶ約束してるわ」
「明日はあたしとみずほちゃんとで遊びにいくんだ、だからお二人さんも楽しんで」
なんと全員から質問する前に釘を打たれた。マジかよ~。そしてひかりは僕の方をしっかりと見て、
「じゃあ明日はつばさ、宜しくね」
と、笑顔でそういったのであった。
翌日、4月20日は快晴の日となった。その日の僕は朝八時まですやすやと寝ていた。しかし休日にはほぼかけないスマホのアラームが鳴るのと「いってきます」という声で目を覚ました。一瞬寝ぼけて「何でアラームなんてつけたのだろうか」と疑問を持ったのだが、すぐに今日の約束を思いだし寝たがっている体を無理矢理起こそうとしたが、寝たいと思う体のせいで力が抜けまた横になる。瞼が重くなり意識が遠退き、
♪♪♪~~!
再びアラームがなる。どうやらスヌーズにしていたらしい。僕はアラームを切り無理矢理体を起こしリビングに出た。
「あれ、つばさ。珍しいね。休日にこんなに早く起きるなんて」
母親がそんなことを聞いてくる。それに僕は、
「まあ、高校二年生にも色々あるんだよ。ほら言うだろ、学園系の小説やアニメは高校二年生のキャラが多いって」
「それつばさの偏見じゃん。それに高校一年生や高校三年生の有名キャラもたくさんいるじゃない!例えば、」
と、母親は色々なアニメの登場人物を挙げていく。なんていうか母親と話しているというよりかは仲の良い女子と話している感覚である。それよりも、
「ねえ、母さん。いろんなキャラを挙げてるとこ申し訳ないのだけれども朝食を作るためにちょっと台所を使っていい?」
丁度今母親は料理中であり、そろそろ終わる感じに見えた。
「そんな心配は無用!今日は丁度今なすのが朝御飯作ってるでしょ。だからつばさの分も作っておくから。なーに心配せんでもええよ。二人分なんてちょろいちょろい」
なすのというのは母親の名前である。僕はそれに甘え、
「そ、それじゃ、宜しく」
とお願いした。何だろう、こまちの性格は母親似なのだろうか。
若々しい母親が台所に戻り僕はソファーに座りテレビをつける。つけたところでテレビはCMの途中だった。流れているのは清涼飲料水のCM。みずほと同い年くらいの女の子が学校の屋上で落ち込んでいたとき彼女のほっぺたに清涼飲料水がくっつく。変な声を出し後ろを振り返ると制服は来ているだろうが間違いなく二十代半ばの男が「なーに落ち込んでいるんだよ」とからかっているシーンだ。その後「うっさいな」といった彼女は清涼飲料水を飲み笑顔を見せ『青春の味』とテロップと共に彼女が「青春の味、サイダーレモン新発売」と言って次のCMに移った。それにしても先程の二人は一体だれなのだろう。男の方は多分どこかのアイドルグループの一人だったはずだ。何回か見たことある。確か白鷺和人という名前だったと思う。しかし、女の子の方は多分めちゃくちゃ見てるはずなのに名前がわからない。いや、見ていたところで多分すぐ忘れたんだろうとは思うけど。
「どうした?つばさ。さっきからテレビに釘付けになって」
そう声をかけたのは父親だ。父親は土日は仕事がお休みなので家にいるのだ、じゃなくて、
「さっきサイダーレモンのCMあっただろ。それに出ていた女の子って誰だったかな~と思って」
「ああ、あの娘ね。確か橋本のぞみ、だったと思う」
橋本のぞみ、確かに聞いたことあるかもしれない。
「それがどうしたんだ?」
父親がそんなことを聞いてくる。なので、
「いや、別に。誰なんだろうなと思って」
と、本当の事を言った。が、
「ほんとは好きなんじゃないの?」
と、ニヤニヤしながら聞いてきた。それに僕は素っ頓狂な声を上げ、「んなわけねーだろ!」と全力で突っ込んだのであった。それにしても何故僕は彼女、橋本のぞみに引っ掛かったのだろうか。そんなことを思っているうちに「朝ごはん出来たわよ~」という声がして僕はダイニングテーブルに向かった。
自宅から自転車で約五分。大通り沿いにある大きな公園の目の前で僕はひかりを待っていた。時間にして9時55分、そこの公園の前の噴水には人はあまりおらずベンチに座っているおじさんや親子連れ位しか見かけない。静けさに包まれた公園であるが、横を通る大通りの喧騒とした自動車の往来が聞こえてくる。そんななか僕はただ自転車に座りながらたそがれていた。
数分たっただろうか。南の方から一台の自転車がやって来る。それに乗っている人に僕は見覚えがある。ロングヘアーに女性のなかでも背丈が高く、オレンジ色のキャップを被り、長袖のTシャツにピンク色のカーディガンを羽織っていてジーパンを履いていた。
その少女は僕の目の前で停車させると、
「おまたせつばさ。待った?」
と聞いてきた。爽快な笑顔を浮かばせながら。
「全然待っていないよ。おはよう、ひかり」
と僕は返す。この流れを端から見たらデートみたいだ。そして今日のデートプランは、
「さて、行きますか。僕のセレクトだけどこの街を紹介するよ」
これが本当にデートならいいのに。
自転車を走らせること約五分強、僕達が辿り着いたのは大きなショッピングセンターだ。入り口の前の駐輪場に自転車を止めて、中に入った。
「ここがここら辺でかなりでかいショッピングセンターなんだけど。いろんなものがあるよ。例えば服屋とか雑貨店とか100均とか」
「あ、ここなら一回だけ来たよ。本屋もあったよね。で、何でここに来たの?」
その言葉に僕はにやっとした。そして、
「それは見てからのお楽しみさ」
ショッピングセンターの中に入りエスカレーターを乗り継ぐこと数回、ようやく最初の目的地に到着した。そこは、
「ゲームセンター、だよね、ここ」
そう、ここはゲームセンターだ。ひかりはゲームセンターと僕を右に左に見ている。
「このゲームセンターは僕のお気に入りの場所でさ、暇なときに来たりとかするんだよね」
「へぇー。まあ、予想できるけど」
「おいおい、僕が一人でここに来ていることを想像するな」
クスクスとひかりが笑う。僕はそれに苦笑いしつつゲームセンターの中にあるクレーンゲームコーナーのなかの一つ、ゲームのキャラのぬいぐるみがあるところの前まで行き、
「ちょっと一回やってみよー」
と、100円を入れプレイする。結果はアームが空を取り、失敗してしまった。ひかりは苦笑し、
「何やってるのよ。ちょっと私もやるわ」
と言いプレイし始めた。アームを操作し、下に下がる。そして、そのぬいぐるみをつかみ、
「え、ちょ、ウソでしょ、やったー!!!」
見事そのぬいぐるみをゲットした。僕はその光景を呆然と見ていたが、
「ふふーん!どうだ、すごいだろー」
とひかりが自慢しているところで、僕はその横のアニメのフィギュアのところに移動し、
「つ、次こそは…!」
と第二ラウンドを開始したのである。
「あははははwwwwwwあれにまさかきっかり二千円使うだなんて!あはははははww」
「………」
他言無用、僕は二千円でこのフィギアを手にいれた。もー、想定外の出費である。フィギアを手に入れた後、僕達はフードコートのうどん屋で昼ごはんを食した。その後、僕達は再び移動した。自転車に乗ること約15分、僕達は海岸沿いにある公園に到着した。清々しい風が僕たちの身体を包み、ひかりの髪がなびいていた。
気持ちいいなぁ~
「やっと着いた~。お、噴水があるよ!綺麗だね」
ひかりはそんな風にはしゃいだ。噴水はちゃんと稼働していて、水が太陽の光によって反射していて、とても綺麗だ。
僕達は公園内にある駐輪場に自転車を停め二人並んで歩く。チラチラと横を見るが笑顔のひかりを見て、見とれそうになり、前を見た。
「ねえ、ひかり。このシチュを他の人が見たらどう思う?」
「え、つばさってそんなこと考えてたの?」
即座にそう返された。へぇー、ていう声が聞こえる。この時のひかりはからかおうとしてるときだ。
「じゃあ手繋ごうか?」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
と、僕はひかりの手を繋ぐ。恋人繋ぎ。恋人でもなんでもない友人にしたらどうなるのだろう。
「え、え、え!本当に繋ぐの?ここは恥ずかしがる所じゃないの?」
どんどんひかりの顔が赤くなっていく。心拍数が高くなっていくのを感じた。
「あれ?言い出したのはひかりの方だよね?」
実際、僕も恥ずかしい。こんなところ部員にでも知られたら一貫の終わりだ。
芝生に出たところで恥ずかしさが頂点に達し手を離した僕達が見えた景色は、
「う、海だぁ!」
子供のようにはしゃぎまくるひかりが海の方へ駆け出す。僕はひかりの後を人並みを沿いながら追った。そして二人は浜辺までやって来た。海辺には多くの人で賑わっているかと思いきや親子連れや友人同士で来る人がなん組かいるくらいでそこまで多くはない。
「うわー、綺麗!海だよ、海!」
と、ひかりは目を輝かせながら言う。その目はホームセンターのとき以上にキラキラと輝いていた。それもそのはずで、少し離れたところには青々とした大海原が辺り一面広がっており、日光が反射し水面はキラキラと光って見える海は僕の気分を幾分か落ち着かせた。ひかりはその真反対だが。
「よし、近くまで行こ!」
いきなり手をつかんできたかと思うと走り出した。あれだけ走って、しかも手を繋ぐことさえ恥ずかしかったのに。ひかりはそれくらい無我夢中にはしゃぎまくっている。波が触れるくらい近くまで来ると僕の手を離し笑顔を僕に向ける。僕はすぐさまスマホを取り出しその光景を写真に納めた。ひかりも僕のところまで来るとスマホを取り出し、インカメにすると、
「はいチーズ!」
それにつられ僕も笑顔になる。あまり自信のない笑顔。僕とひかりの自撮り。撮った写真を見るや、
「お、よく写ってる。てかつばさのこんな笑顔見るの初めてかも」
大いにはしゃいでいらっしゃった。もうこれはデートと呼んで良いのではないだろうか?会ってから二週間でデートって、どんなカップルだろう。
僕を見てくる屈託のない笑顔。それに僕は笑顔を綻ばせた。
二人は浜辺を後にすると、公園の芝生に出たのだが、その時、僕は人手が部分的に集まっているところに目が行った。大きなカメラのようなものを動かしている人やとても長いマイクを片付けている光景で、何かしらのシーンを撮っていたに違いない。例えばCMやテレビのロケ、ドラマの撮影かもしれない。
「ねえ、あれってテレビの撮影だよね?」
ひかりもそれに気付いたようで僕に聞いてくる。
「そうだろうけれど、もう終わったんじゃね。片付けてるし、キャストさん居ないし」
「そうなんだ。さっき気付いとけばよかったのにね」
いや、流石にさっきのはしゃぎようでは気付いても教えられない気がする。
「ま、過ぎたことは仕方ないさ。逆に近づいても迷惑掛けるといけないし。ま、気を取り直してあそこ行こーぜ」
指差したのは大きな観覧車。この公園には小さな遊園地のような場所があって、大きな観覧車と少しアトラクションがあった。
今日は晴れているため観覧車の頂上からは遠くの景色もよく見えるだろう。
「オッケー、じゃ、そこまで競争ね、レディー・ゴー!」
とひかりは一目散に駆け出した。そこまで走って身体は大丈夫なのだろうか。
僕はそのひかりを追い抜く勢いで、しかし完全に見失わないように追い抜かずに走り続けた。
観覧車のところまで来ると流石に二人の息もあがっていた。近くまで来ると本当にでかい。ゆっくりと動く観覧車の近くには少しではあるが列もできていた。
「ねえ、つばさ先並んでくんない?」
突然ひかりからそんなことを言われた。何故だろう。その答えはすぐにわかった。
「わかった。けどそこまで長い列じゃないから急いでね」
「あ、ありがとう!じゃ、よろしく!」
と、ひかりは一目散に観覧車の目の前にあるトイレに入っていった。そして僕は観覧車に乗るためのチケットを二人分購入し、列に並ぶ。観覧車を見てもいつも通りゆっくりの動いているだけ。前にいる人は親子だろうか?一人は高校生くらいの女の子。もう一人は四十代半ばくらいの女性だった。二人は何かしら話しているがそこまでは聞き取れない。風の音や他の人の声でかすれかすれに聞き取れる程度で内容までは把握できない。そして顔もよく見えなかった。
「おまたせー。いやートイレすると気持ちいいねー」
「手は洗っただろうな?」
「洗ったよ!それにしてもさっきから前の人の方を見て、どうしたの?」
前の人が身体をビクリとさせる。それに僕は、
「いや、なんでもないけれど」
と返した。本当になんでもない。これは本音である。それに前の人はすぐに順番がやって来てゴンドラに乗っていってしまった。
「どうして僕は前の人に気になったかな?」
「顔が可愛かったからとか言ったら殴るよ?」
笑顔でそう言ってきた。僕は首を大きく横に振り、
「可愛かったかもしれないけれど顔を見ていないからわからないなぁ」
「なんだそれ。ほら、順番きたよ!」
二人はすぐきたゴンドラに乗った。すぐさまドアが閉まり徐々に上に上がっていく。
「さて、観覧車のお金渡しとくね」
「あ、いやいや、ここは僕の奢りでいいよ」
「あれ、珍しい。つばさがそんなことを言うなんて」
いやいや、僕を振り回してくれたお礼ですよ。思ったけれど言わなかった。その代わり、
「それより、今日は近場だけだったけど楽しかった?」
「うん!勿論だよ!今日はありがとね!」
「その言葉はまだ早いよ。ほら、周りをよく見てごらん」
「周り?…うわぁ、綺麗!!」
まあまあの高度まで昇ってきたゴンドラから見える景色はとても綺麗なものだった。そしてその光景を写真に撮る。海の写真や公園の写真。周りの建物や小山ひかりの写真を撮った。それはひかりも同じでそれぞれ写真を無我夢中に撮る。我に帰ったとき無我夢中に写真を撮っていたお互いを見て二人は大笑いした。
「ほらほら、あともう少しで頂上だよ!」
ゴンドラはもう少しでてっぺんに着くところだった。
「ほらまた自撮りしようよ。二人で」
「勿論いいよ」
ゴンドラが頂点に達した時、カシャッという音が鳴った。その時二人の笑い声が公園を包んだのだった。




