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大人という大きな蜜

 「私の将来ってどうなるのかな」

 「……………」

 少しの沈黙がこの病室を包む。普通の人なら進路に迷ってるような発言である。それなら僕も軽く返せたであろう。

 しかし、ひかりの場合、そう易々と返すわけにはいかない。白血病という敵が前に立ちはだかっているのは勿論のこと、将来を見据えていた一人の少女があの世へと旅立ってしまったのだから。

 「私的にはさ、病気を治して高校生活をエンジョイして、受験して、大学入って」

 あれ?将来何したいかっていう答えはもう出ている。

 「将来つきたい職業に入って、結婚して、赤ちゃん産んで」

 「じゃあ、そうすればいいんじゃない?」

 「勿論出来るだけの事はするよ」

 そうひかりは言った。だから僕は思った。らしくないって。ひかりっぽくないな、と。

 「つばさはさ、将来どうするの?」

 「どうって、特になにも考えてはない、かな」

 一瞬言葉をつまらせながら僕は言う。違う、僕が言いたいのはこんなことじゃない。これじゃあ、僕もらしくないではないか。

 「アハハ、つばさらしいや。でもさ、私は将来の計画をさ大雑把でも立てているんだけどさ、本当にできるのかな?」

 「……………出来るさ」

 「前言撤回。つばさらしくないよ。ここまで沈黙しながら答えを出すの」

 「それはこっちの台詞だ。ひかりもらしくない」

 「………!」

 驚いた表情をみせた。ひかりはいつも笑顔でいる。しかしこの場合のひかりは無表情で泣きそうである。だから僕は思った。これがひかりの裏の顔。もう一人のひかりだと。

 「はあ。やっぱりつばさには敵わないよ」

 「ひかりってさ、いつもは楽しく光ってたけど、本当は怖がりなんだな」

 「そ、そうだよ。そうだよ!私は弱いんだよ!何が悪い?」

 「いきなりキレるな。ごっちゃになってる。裏と表が」

 「裏と表?違う!どっちも私なの!弱い私と強い私。どっちも私なの」

 「少しは落ち着け!話せばわかる!」

 閑話休題。

 「私はさ、いつもは強いんだよ。けどこうやって疲れちゃうと弱くなる」

 「はいはい、解りました」

 「素っ気な」

 「いやー、子供っぽいなぁって思ってさ」

 「子供だよ」

 「いきなりそう返ってくるとは、さすがの僕もそう思わなかった」

 「心の声がだだもれなつばさ君はもっと子供だね」

 おっと、いけない。深呼吸、深呼吸。

 「自分が子供か大人かなんて考えたことないなぁ。成長すれば大人じゃないのかな」

 自分が大人かなんて分かる人は到底いない。逆に子供だとも思えない。大人と子供の境界線を思春期はぐちゃぐちゃにする。だから僕は曖昧に答えた。

 「んじゃあ、私は子供なのかもね」

 「ひかりはそう思うかもしれない。けれど子供から見ればひかりは立派な大人だと思う。だけど、僕達は子供だけど大人なんだと思う」

 「子供だけど、大人か」

 「それをな、人は何て言うと思う?」

 「何?」

 「思春期っていうんだよ」

 思春期。それは心と身体が急激に成長し、両方が混乱している時期のことである。だから子供と大人の境界線はぐちゃぐちゃになる。そして、それは青春のときに訪れるのだ。

 「そうか、私は少し遅い思春期になったのか。胸とか、大きくなるかな」

 ひかりはぺったんこな胸を見て言った。気にしていたのだろうか。勿論その事は聞かない。それを聞くのはタブーな気がした。

 「あっ、つばさはさ、私のこと胸ないと思ってるでしょ」

 少し拗ねてそう言った。その瞬間ひかりはそっぽを向いた。そしてすぐにこちらを向いて、

 「っ!」

 僕に胸を見せつけてきた。慌てて次は僕が後ろを向く番になった。

 「大丈夫、誰にも言わないから。こっち見て」

 「うぅ、本当に大丈夫だろうね?」

 僕は恐る恐る後ろを向いた。先程と光景は何一つ変わっていない。なんならひかりは自身の胸を見せつけたいようだ。

 「思春期ってずるいやつだよな。私にこんな、大人の蜜を吸わせるだなんてさ」

 大人の蜜。ここでいう体の成長というべきものだろうか。それをひかりは欲しているのだろうか。そして、よく見れば少し膨らみかけた胸。ひかりの顔が徐々に赤く染まった。

 「大人の密はさ、子供から離れてる気がして少し淋しい。けど、胸が大きくなりたいという願望の方が、もう大きいのかもね」

 「……………」

 「だからつばさに「揉ませてください、お願いします」といわせる具合に成長したいの」

 僕はそんなこと言わないと思うけど。冗談混じりにひかりがそう言う。顔はからかっている無邪気な顔だが、目が笑っていない。それがまた僕は少し引っ掛かった。

 「で、ひかりはそうなる未来を描き、同士を見つけた。しかし、その人が無念にも散ってしまった。それで自分が同じことになるんじゃないかと不安で不安でしょうがない」

 ひかりは沈黙している。目を伏せながら、けど、再び顔をあげると、

 「そうだよ。不安というよりかは、恐怖。私は恐怖で、恐怖で、仕方がない」

 そう言いきった。あの怖いもの知らずと僕のなかで描いていたひかりのキャラクター像は見事に崩壊した。いや、もう最初の時点で壊れかけてたしな。ひかりのこういう一面を見てしまうと、僕は笑わずにはいられなかった。

 「何がおかしいの?」

 真面目な話をしているのに茶化す気と言いたげだ。

 「自分の体に鞭打ってまで明るく振る舞うところ、かな」

 その言葉でひかりはたいそうご機嫌ななめになったようだ。珍しく眉間にシワがよっている。

 「まあ、そんな怒るなって。光りすぎてぼろが出てるとこ悪いけど、これだけ言わせてくれ。あまり無理すんな」

 ひかりは無言を貫く。続きを待っているようだ。

 「ひかりはさ明るく振る舞っていて僕達を楽しくしてくれるのはとても嬉しい。部活入ってくれたときは、嬉しかったよ。海デート、じゃなかった。ひかりと街まわった時は楽しかったよ」

 海デートというワードにひかりが反応しているのは無視しよう。

 「けどさ、こういうの見ちゃうとさ、流石の僕も言いたくなるわけよ。無理しすぎていると影ができてるように見えるって。僕はこんなひかりを見るのは、正直嫌だ」

 ひかりが泣きそうな顔をしている。けれど僕は言わなければならない。だから僕は躊躇なく言葉を紡げれた。

 「だからって将来のことを諦めないでくれよ。今のひかりの説明だと、将来が絶望的になってるぞ。将来っていうのは自分で作るもんだ。けして他に邪魔させない未来くらいひかりには作れるだろ。けれどその余力が今のひかりには残ってない。だからさ無理せずに悩みがあるときは僕だけじゃなくて他の人にも言って。そうして心の光を取り戻して楽しく僕たちの前で振る舞ってよ」

 僕の理想を押し付けているのはよくわかってる。僕がそうであってほしいといっているだけで結局は他人事で済ませてしまう言葉かもしれない。それでもひかりはいつものひかりであってほしい。それが今の僕の本音だった。

 「アハハ、私って本当にバカなんだな」

 そう述べたひかりの目尻には涙を浮かべている。こう思うのはよくないことだがこの姿のひかりはとても美しかった。

 「自分に無理させていつも明るく振る舞う必要なんてなかったんだよね。自分がただやりたいことがあってもこんなことになるなんてさ」

 ポツリポツリと語りだした言葉はいつもとは考えられない弱音を吐き出し始めた。

 「ちょっと前までは、つばさと出会ってからは私の未来が明るく見えたんだよ。こう、何て言うのかな。青春してるって思ったんだよ。けど現実は少し違ってた。ちょっと無理しただけでこのざま。応援団には入れずつばさとかに心配させてさ」

 「……………」

 「そしてやっとなおりそうに見えかけた私の友達もいまやこの世にはいない。もう話もできない。それで、私は思ったよ、現実はそんなに甘くはないって」

 そう、現実ほどうまくいかないものはない。そこに僕達は住んでいる。けどな、甘くないからって悪いことしか起きないかと言われたらそうでもないのがこの世界だ。

 「そっか。ひかりはすごくショックなことに直面しちゃってるんだよ。だから」

 僕はひかりの頭を撫で始めた。おそらくあの看護婦のように。そして、続けてこう言った。

 「最初に僕がこの病室に来たときに明るく振る舞っていた。この気持ちを隠しながら。凄いよ。僕には到底出来ないかな。よく頑張った。よく頑張ったから今日ぐらいはゆっくり休んでくれ。それに、」

 「そ、れに…?」

 「ひかりはもう一人じゃないんだ。僕もいるし、つばめもいるしはやてもいる。こまちもみずほもあさまもね。先生だっている。そして、何よりも心のなかにはひかりの大切な人が微笑みを浮かべながら仁王立ちしてるじゃないか」

 「う、うん…!」

 ひかりの目尻にたまった涙が一気に流れ、止まらなくなった。どんどん流れてくる涙を止めようと目を擦るが、僕が頭を撫で続けたことが影響し、ひかりは涙を止めるのをやめた。顔を歪まると、とうとう嗚咽まで漏れてしまっていた。

 そうした時間が約5分ほど続いた。ようやくひかりは涙を手の甲で拭くと、

 「ありがとう、つばさ。少し気持ち軽くなった」

 少し赤くなりかけた顔でそう言うひかり。頑張って微笑もうとしているが泣き顔が混じり少々変な顔になっている。

 「そりゃ、どういたしまして」

 「私さ、やっぱりやりたいことたくさんあるからさ。ちょっと無理してでもやり通そうかなって思ってる」

 「……………」

 「だから、またつばさに心配かけるかもしれない。だから最初に言っとく、ドンマイ!」

 「僕、もうこれ以上真面目な話やだよ!」

 「それな!」

 それから二人は笑い始めた。真面目な話も終わりを迎えた瞬間だった。ひときしり笑ったあとで、

 「今日はありがとね。つばさに会えて、私楽しかったよ」

 「そりゃどうも。早く戻って僕を楽させてくれ。学級委員はもうこりごりだよ」

 「大丈夫、大丈夫。つばさが倒れるくらいボロボロになるまで学級委員を務めたら戻ってきてやるよ」

 「僕、ひどい目にあってるんだけど!」

 冗談をいうひかりに頬を緩ませながら、僕は病室を出ようとする。

 「じゃあ、また学校でね」

 という声を聞きながら、僕は病室から出た。一階に向かおうとエレベーターに向かう。途中二人の夫婦とすれ違っただけで他の人は誰もいない少し寂しい入院棟の隅のエレベーターまで来ると、僕は一階まで下り、病院を出ようとする。

 「お、つばさじゃん。面会終わった?」

 途中看護婦が僕の前に姿を表した。余裕の笑みを浮かべた彼女に僕は素っ気ないいつもの態度をとっていた。

 「終わりました。では僕はこれで」

 「じゃあね~。私は君の欠落した記憶を取り戻せることを祈っとくよ~」

 今度こそ僕は病院をあとにした。清々しい風が僕の身体をくすぐった。


     *     *     *


 ゴールデンウィークに僕は一体何をしていたか、思い出すものが数少ない。アニメ見たり、ゲームしたり、寝たり、それしかしてない。強いていうなら『令和』という年号に変わったことぐらいだろうか。

 そう、令和が始まり、新しい時代の幕開けを果たした今の世の中は令和ムードである。ニュースでは令和のニュースを大々的に報道されている。

 そんな僕は朝8時に起きると朝食を食し午前8時30分くらいに出る。勿論写真部の活動なのでこまちも同行する。

 自転車で駅まで行くと駅駐輪場に停めた。その後電車を使うためにICカードをチャージして改札を通った。

 しばらくすると電車は来た。その後揺られること約20分弱、途中乗り換えをしてまた数分、電車は大きな公園のある駅へと到着した。

 そこから運良く改札でつばめとはやてと合流した。

 つばめは眼鏡を外してコンタクトレンズにしているらしい、眼鏡をつけていなかった。そして白のワンピースを着ていて、サンダルを履いていた。

 はやては白のTシャツに青の上着、黒のズボンだ。

 「なにじろじろ見てるのよ、早くいきましょう」

 つばめにそう言われ一行は駅構内から出た。

 にしてもつばめやはやてと会うのは久しぶりな気もする。数日前に学校出会ったばかりなのに、時間の流れは恐ろしや。

 駅の外はすぐに公園が広がっていた。そして、ここにいる人がこう思った。自然豊かだと。さっきまで都会のど真ん中で建物がずらりと並んでいるはずのこの街は自然豊かな場所が存在していた。思わず部員全員が感嘆の息をもらす。

 「もうさ、これポートレートじゃなくてさこの風景を撮るってことで良くない?」

 「つばさ、確かに私はそれに賛成だけど、それよりもまず上田さんと合流しましょう」

 上田みずほ、本当に久しぶりにその人と会う気がする。最近部活で会ったのに。時間の流れは恐ろしや。

 その時携帯が鳴る。見るとあさまから電話が来ている。あさま、君と前話したのっていつだっけ?

 「もしもし、徳山です」

 「もしもし、諫早(いさはや)です。皆さま方は何処にいるのですか?」

 おっと、もうこやつも来ていたらしい。ならば、

 「中に入ってもらって一番自然豊かな場所にいるかな」

 「わかりました。今向かいます」

 おい、こやつ、これだけで僕たちの居場所がわかるの!?冗談半分で言ったつもりなのだが、なんだか申し訳ない。再び電話を掛けようとしたその時だった。

 「すみません。遅くなりました」

 あさまは小走りでこちらに向かってきた。息を整え、話しかけてきた。罪悪感が生まれた。

 「いやいや、こちらこそ意味不明な場所の伝え方でごめんな」

 そうだ、そうだと目で訴えるつばめの視線を無視し、僕達はみずほに指示された場所へと向かう。

 10分ほど歩くと、そこには広い広場がある。いや本当に広い。しかもそこにいる人たちは少ない。せいぜい家族連れがいるくらい。本当に広々とした風景が今僕たちの前に広がっている。そして、そんな広い広場の中からみずほが僕たちを呼んでいる。僕達はそこに向かうと、みずほの横にもう一人誰かいるのがわかる。みずほと同じくらいの身長。帽子を被っていて、どんな人かまでは把握できない。

 「おはよう、みずほ。で、すみません。わざわざお忙しいなかお引き受けしてくださって」

 事実、勝手に引き受けさせたのはみずほなのだが僕は部長としてそう言う。そして、

 「いえいえ、そんなことはありませんよ。お役にたてるだけでも私は嬉しいです」

 はて、この人の声をどこかで聞いたことがある気がする。勿論ある気がするだけで実際には思い出せない。

 「えっと、じゃあ、自己紹介を。僕は部長の徳山つばさ。横のちょっと怖そうな少女が川内(せんだい)つばめ、そこのにこにこしているのがこまさん」

 「怖そうってどういうことよ」「徳山こまちです!」

 うひょ、怖!そしてこまちは今日も元気一杯だ。その元気を少し分けて欲しいくらいだ。

 「で、そこにいる男子が右が一ノ関(いちのせき)はやて、左が諫早あさま」

 二人がよろしく又はよろしくお願いいたしますと言った。

 「よろしくお願いいたします。では私も自己紹介をしましょうかね。私だけ名乗らないのはおかしいですしね」

 そう、彼女は帽子を脱いだ。そして、多分僕とみずほを除く全員が目を剥いたことだろう。

 「初めまして、みずほの友達の橋本(はしもと)のぞみです。今日はよろしくお願いします」

 そう、彼女、のぞみは微笑みながらそう言ったのだった。

後書き

 ども!モグポクです!ここまで読んでくださいました読者の皆様、ありがとうございます。ここまでがfirst sectionということでひかりとの出会い編をお送りしました。次回からはsecond sectionとして学校行事編(仮)をお送りする予定ですのでこれからもよろしくお願いします。感想、評価、ブクマ等よろしくお願いします。

 続きは次回!?それでは~ではまた(@^^)/~~~

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