消えることを拒んだ声
月曜日――午前6時42分
ルクソン博士は、驚くべき発見をしていた。
残念ながら、それは科学者を喜ばせる類いの発見ではなかった。
むしろ、ある種の人間を研究室に立ち入らせてよかったのかと、疑問を抱かせるような発見だった。
彼は研究所の大型モニターの前に立ち、三つの文書を見つめていた。
三つの文書。
三つの異なる説明。
そして、一人の行方不明者。
エリオット・マーロウ
登録時年齢:19歳
プロジェクト・ムネモシュネ――参加者000
エレナ・モリスが隣に立っていた。
アメリア・ヴォスはテーブルの向こうに座り、ほとんど口をつけていないコーヒーカップを両手で包んでいた。
「それで?」とエレナが尋ねた。
ルクソンは眼鏡を直した。
「最初の文書によると、エリオット・マーロウは家族のもとへ退所しています」
彼は二つ目を開いた。
「こちらによると、民間の神経リハビリテーション施設へ転院しています」
そして三つ目。
「そして、これによると、詳細不明の医療上の緊急事態によって研究への参加が終了したことになっています」
エレナは眉をひそめた。
「全部が正しいはずはありません」
「記録されていない出来事が間にあったのでなければ、そうでしょうね」
アメリアが身を乗り出した。
「どんな医療上の緊急事態だったんですか?」
「詳細不明です」
「けがをしたんですか?」
「不明です」
「生き延びたんですか?」
ルクソンはためらった。
「それも不明です」
アメリアは彼を見つめた。
「どうして研究機関が患者の行方を見失うんですか?」
ルクソンは文書へ視線を戻した。
「事務処理上の不備によって記録が欠落することはあります」
彼は一度言葉を切った。
「ですが、誰かが意図的に記録を不完全にした可能性もあります」
エレナが別のファイルを開いた。
「転院許可書があります」
ルクソンが振り返った。
「転院元は?」
「ムネモシュネの元の研究施設です」
「転院先は?」
エレナは文書を拡大した。
ホロウ・クリーク神経リハビリテーションセンター
転院状況:承認済み
受入担当者の署名:判読不能
患者到着確認:記録なし
アメリアの表情が変わった。
「ホロウ・クリーク?」
ルクソンは彼女を見た。
「ご存じですか?」
「名前だけは聞いたことがあります」
「誰から?」
彼女は唾を飲み込んだ。
「エリアス・レンです」
沈黙。
ルクソンはゆっくりと腕を組んだ。
「彼は何と言っていたのですか?」
アメリアは画面を見た。
「研究施設の中には、本当の意味では決して閉鎖されない場所がある、と」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ警察本部――午前7時19分
マーラ・エリソン刑事は、コーヒーメーカーと口論していた。
機械がコーヒーを出そうとしないのだ。
ボタンを押した。
何も起きない。
もう一度押した。
やはり何も起きない。
彼女は機械をにらみつけた。
しかし、機械はまったく動じなかった。
X-Rayが戸口からその様子を眺めていた。
「困ってるのか?」
「いいえ」
「困ってるように見えるけど」
「一時的な機械との意見の相違よ」
「俺が交渉しようか?」
マーラは彼を振り返った。
「コーヒーを出せるの?」
「たぶん」
「じゃあ採用」
X-Rayは機械に近づいた。
ボタンを押した。
すると、すぐにコーヒーがカップへ注がれ始めた。
マーラは見つめた。
彼は微笑んだ。
「ヒーローの活躍にもいろいろあるんだよ」
「大嫌い」
「そんなことないだろ」
「コーヒーを渡して」
彼はカップを手渡した。
そのとき、彼女の通信端末が鳴った。
マーラは応答した。
「エリソンです」
聞き覚えのある声がした。
『刑事、ルクソンです』
「何か役に立つものが見つかったと言ってください」
『名前が一つ見つかりました』
「また研究者ですか?」
『施設です』
マーラは姿勢を正した。
「続けてください」
『ホロウ・クリーク神経リハビリテーションセンターです』
彼女は眉をひそめた。
「あそこは何年も前に閉鎖されています」
『公式には』
マーラはX-Rayをちらりと見た。
彼の笑顔が消えた。
「公式には、とはどういう意味ですか?」
『エリオット・マーロウがそこへ転院した可能性を示す記録があります。ただし、実際に到着したことは確認できません』
マーラは端末を開いた。
「資料をすべて送ってください」
『すでに準備しています』
「ほかには?」
ルクソンはためらった。
『レン博士は失踪前にホロウ・クリークの名前を口にしていました』
マーラはX-Rayを見た。
「やっぱりね」
X-Rayはため息をついた。
「また廃墟か?」
「どうやらね」
「素晴らしい」
マーラはコーヒーを一口飲んだ。
そして動きを止めた。
「博士?」
『はい?』
「エリオットの家族について、確認済みの情報はありますか?」
『書簡の記録は見つかりましたが、現在の連絡先はまだ確認できていません』
「こちらでも調べます」
彼女は通話を切った。
X-Rayは腕を組んだ。
「それで、ホロウ・クリークに行くのか?」
「いずれね」
「いずれ?」
マーラは別のファイルを開いた。
「その前に、研究者たちが彼を実験番号に変えてしまう以前のエリオット・マーロウを知っていた人を探すわ」
◇ ◇ ◇
シトロンシティ西部――午前8時06分
キャサリン・マーロウは、静かな住宅街の突き当たりにある質素な家で暮らしていた。
窓の下には花が咲いていた。
玄関の横には小さな風鈴が吊るされていた。
ポーチには、使い込まれた木製のベンチが置かれていた。
マーラはX-Rayとともに玄関へ近づいた。
ノックする。
数秒が過ぎた。
扉が開いた。
五十代後半の女性が立っていた。
黒い髪には白髪が混じっていた。
疲れた顔をしていた。
それは単に寝不足の人間の疲労ではなかった。
もっと古いものだった。
目元のしわに深く刻み込まれた、長年の疲労だった。
「何かご用ですか?」
マーラは警察手帳を示した。
「マーロウさんですね? マーラ・エリソン刑事です。こちらはX-Ray。息子さんのエリオットについて、お話を伺いたいのですが」
女性の表情が変わった。
一瞬で。
ドア枠を握る手に力がこもった。
「エリオット?」
マーラはうなずいた。
「はい」
キャサリンは二人を交互に見た。
「どうして?」
「息子さんが参加していた研究計画について捜査しています」
沈黙。
そしてキャサリンは、二人が予想していなかった質問をした。
「あの人たちは、ようやく自分たちのしたことを認めたんですか?」
マーラの表情が和らいだ。
「何が起きたのか、現在も調べているところです」
キャサリンは目をそらした。
一瞬、マーラは扉を閉められるかもしれないと思った。
しかし、彼女は脇へ退いた。
「入ってください」
◇ ◇ ◇
午前8時17分
居間には写真があふれていた。
家族旅行。
誕生日のお祝い。
卒業式。
そして、青い電動車椅子に座り、いたずらっぽく笑う黒髪の青年。
エリオット・マーロウ。
参加者ゼロではない。
MN-000でもない。
エリオットだった。
キャサリンはマーラが写真を見ていることに気づいた。
「あの写真、本人は大嫌いだったんですよ」
マーラが振り返った。
「どれですか?」
キャサリンは卒業式の写真を指さした。
「写真家のせいで、自分の葬式に出席しているみたいな顔になったって」
X-Rayがかすかに微笑んだ。
「ユーモアのある人だったんですね」
「もう、手に負えない子でしたよ」
キャサリンは初めて笑った。
「皮肉屋で、頑固で、頭がよくて。周りの大人はみんな馬鹿だと、本気で思っていたんです」
彼女は間を置いた。
「特に私のことをね」
マーラは向かい側に座った。
「エリオットさんは、どんなことが好きだったんですか?」
「音楽です」
キャサリンの表情が柔らかくなった。
「あの子は音楽が大好きでした」
彼女はコンピューターの横にいるエリオットの写真を指さした。
「コミュニケーションシステムを使って、電子音楽を作曲していたんです。何時間もかけて、一つ一つの音を調整していました」
X-Rayが身を乗り出した。
「曲を発表したことは?」
「公にはありません。自分の天才ぶりを受け入れる準備が、まだ世界にはできていないって言っていました」
彼女は静かに笑った。
「十九歳でしたからね。何でも大げさだったんです」
やがて笑顔が消えた。
「音楽制作を勉強したがっていました」
マーラは黙って待った。
キャサリンは写真を見た。
「研究者たちは、あの技術があの子にもっと大きな自立をもたらすと約束したんです」
「エリオットさん自身も参加を望んでいたんですか?」
「最初は」
彼女はうなずいた。
「楽しみにしていました。もっと速くコミュニケーションが取れるかもしれない。もっと簡単に作曲できるかもしれないって」
「何が変わったんですか?」
キャサリンの表情が険しくなった。
「あの人たちが、エリオット自身に何を望んでいるのか尋ねなくなったんです」
沈黙。
「あの子が何か伝えても、システムが正しく解釈できていないと言うんです」
彼女は首を振った。
「でも、研究者たちに賛成すると、突然システムは完璧に動いていることになる」
マーラは胸の奥が締めつけられるのを感じた。
「抗議はしていましたか?」
「いつもです」
キャサリンはX-Rayを見た。
「あの子は、医療実験の対象として扱われることを嫌っていました」
彼女は息を吸った。
「ある日、エリオットが言ったんです。問題は機械じゃないって」
マーラが身を乗り出した。
「では、何が問題だったんですか?」
「機械を所有しているからといって、自分の声まで所有していると思い込んでいる人たちだって」
誰も話さなかった。
やがてキャサリンが続けた。
「エリアス・レンは違いました」
マーラは姿勢を正した。
「レン博士をご存じだったんですか?」
「ええ」
「エリオットさんと直接仕事を?」
「時々。あの子の話を本当に聞いてくれる、数少ない研究者の一人でした」
彼女は額縁の写真をちらりと見た。
「エリオットに質問をして、答えを待ってくれたんです。時間がかかっても」
声が柔らかくなった。
「そんなことが特別であってはいけないはずなのに」
マーラはうなずいた。
「そのとおりです」
キャサリンは彼女を見た。
「どうしてエリアスのことを聞くんですか?」
「行方不明なんです」
彼女の表情が変わった。
「え?」
「数か月前に姿を消しました」
キャサリンはゆっくりとうつむいた。
「ああ、エリアス……」
マーラは待った。
そして尋ねた。
「マーロウさん、エリオットさんが研究計画を離れた後、何が起きたんですか?」
キャサリンは写真を見た。
その表情に警戒が浮かんだ。
「答えられることには答えます」
彼女はマーラをまっすぐ見た。
「でも、先に一つだけ、理解してほしいことがあります」
「もちろんです」
「私の息子は、怪談の登場人物じゃありません」
マーラはうなずいた。
「一人の人間でした」
「ええ」
「それから、もしあの子の声の録音が見つかっても、面白いからという理由でテレビに流したり、見知らぬ人に聞かせたりしないでください」
「プライバシーを尊重し、法律に従って扱います」
キャサリンは彼女をじっと見た。
そしてうなずいた。
「それならいいです」
彼女は両手を組んだ。
「あの人たちは、もう十分すぎるほどあの子から奪ったんですから」
◇ ◇ ◇
ギアの工房――午前9時03分
「スナット」
ギアは端末を見つめた。
ナサニエル・ブルックスが顔を上げた。
「何だって?」
「スナット」
「それじゃ説明になってないぞ」
「これで十分説明してる」
キランは作業台の横に座り、楽しそうにやり取りを眺めていた。
「ギアの言うとおりだね」
ナサニエルはため息をついた。
「二人とも手に負えないな」
キランの一時的な車椅子に、マッハの紫色のアイコンが現れた。
「同感です」
キランは傷ついた顔をした。
「君はどっちの味方なの?」
「正確な科学用語の味方です」
「裏切り者」
ギアはモニターを指さした。
「よし。そこまでだ」
画面には、復元されたアーカイブの索引が表示されていた。
プロジェクト・ムネモシュネ
セッション000-B
承認:制限付き
日付:参加者の最終審査から三日後
キランは眉をひそめた。
「エリオットが研究への参加をやめたはずの日から、三日後?」
ナサニエルはうなずいた。
「ああ」
「じゃあ、どうして別のセッションがあったの?」
「それを調べているところだ」
ギアは隔離された音声ファイルを開いた。
合成音声が流れた。
『私の名前はエリオット・マーロウです』
間が空いた。
『私は、あなたたちの実験ではありません』
録音が終わった。
キランは見つめた。
「うわ……」
マッハが口を開いた。
「感情に強く訴える発言です」
「控えめすぎる表現だよ」
「しかし、メタデータによれば、この音声は適応応答モデルによって生成されています」
キランはゆっくりとうなずいた。
「つまり、エリオット本人が実際にその言葉を伝えたとは言えないんだね」
「そのとおりです」
ナサニエルは画面を指さした。
「彼が物理的にその場にいたことも確認できない」
ギアは腕を組んだ。
「つまり、研究者たちは本人抜きで応答を生成していたのかもしれない」
キランの表情が険しくなった。
「彼の記録を使って」
「その可能性がある」
キランは書き起こしを見た。
「気味が悪いね」
ナサニエルは別のファイルを開いた。
「まだある」
隠された注釈が現れた。
無許可セッション000-B
参加者本人からの直接入力:未確認
モデル生成応答:確認済み
元の信号記録:所在不明
キランはマッハを見た。
「じゃあ、元の記録を探そう」
マッハのアイコンが明るくなった。
「賛成です」
キランは一度言葉を切った。
「それと、何なのかわかるまでは、あの録音をエリオット本人の声だとは呼ばない」
ナサニエルはうなずいた。
「そのとおりだ」
◇ ◇ ◇
ルクソン生物医学研究所――午前9時48分
アメリア・ヴォスは、エリアス・レンの書簡を一時間近く読み続けていた。
そして、あることがわかり始めていた。
エリアスは研究を恐れて姿を消したのではない。
研究の実態を暴こうとしている最中に姿を消したのだ。
少なくとも、残された文書はそう示唆していた。
エレナが近づいた。
「何かわかりましたか?」
アメリアはうなずいた。
「いくつか」
彼女は保管されていた申立書を開いた。
プロジェクト・ムネモシュネ
倫理審査請求――却下
別の文書。
独立監督機関の設置要請――却下
さらに別の文書。
実験的再構成の停止勧告――否決
エレナは見つめた。
「全部却下されたんですか?」
「ほとんどね」
アメリアは手書きの手紙を開いた。
宛先は、独立した医療倫理審査委員会だった。
手紙には、無許可で継続された実験について書かれていた。
信頼性に問題のある同意手続き。
そして、参加者の異議申立てが公式記録から削除されたこと。
終盤には、エリアスの筆跡でこう記されていた。
元の記録が失われれば、研究機関は、参加者が明確に拒否したことにさえ同意していたと主張できてしまう。
エレナは青ざめた。
「知っていたんですね」
アメリアはうなずいた。
「記録が改変されていることを知っていたのよ」
彼女は別のメモを開いた。
面会予定
目的:元の参加者記録について家族と協議
場所:記載なし
日付:四か月前
アメリアは見つめた。
「失踪したのと同じ時期だわ」
エレナが身を乗り出した。
「誰と会う予定だったんですか?」
「書かれていないの」
アメリアは扉へ視線を向けた。
「マーラに伝えないと」
◇ ◇ ◇
キャサリン・マーロウの自宅――午前10時21分
キャサリンは台所から小さな木箱を持って戻ってきた。
それをコーヒーテーブルに置いた。
中には古い写真が入っていた。
手紙。
使い込まれたノート。
そして携帯型の記憶装置。
マーラはそれを見た。
「これは?」
「エリオットの音楽です」
キャサリンは悲しげに微笑んだ。
「あの子は何でもバックアップを取っていました」
X-Rayは何にも触れず、箱の中を眺めた。
「賢い子ですね」
「本人もそう思っていましたよ」
キャサリンはノートを手に取った。
「エリオットは作曲中のメロディーを書き留めていたんです。時々、整理するのを手伝ってほしいと頼まれました」
彼女は数ページめくった。
紙には音符が並んでいた。
いくつかは取り消し線が引かれていた。
別のものには丸がつけられていた。
ある短い音の並びが、何度も登場していた。
キャサリンはそこを指さした。
「これがあの子のサインだったんです」
マーラは眉をひそめた。
「サイン?」
「曲の中に、小さな変化を隠すのが好きだったんです。四つの音で、リズムをほんの少し変えるんです」
彼女は微笑んだ。
「自分の名刺代わりだって言っていました」
マーラはノートを見た。
「鑑識チームにコピーを調べさせてもらえますか?」
キャサリンはためらった。
「何のために?」
「研究計画に関連する録音が見つかっています。その中に、エリオットさんの作品から取られた素材が含まれているかもしれません」
キャサリンの表情が険しくなった。
「あの子の音楽まで使ったんですか?」
「まだわかりません」
沈黙。
やがてキャサリンはうなずいた。
「コピーなら構いません」
マーラもうなずいた。
「ありがとうございます」
「でも、原本はここに置いてください」
「もちろんです」
キャサリンは写真を見た。
「それから、何がわかったのか、すべて教えてください」
「お約束します」
少し間が空いた。
マーラは尋ねた。
「レン博士から、最近連絡はありましたか?」
キャサリンが顔を上げた。
「ええ」
マーラは姿勢を正した。
「いつですか?」
「四か月ほど前です」
X-Rayとマーラは視線を交わした。
「何の用件でしたか?」とマーラが尋ねた。
キャサリンは木箱を見た。
「隠されるべきではなかった記録を見つけたと言っていました」
「会う約束は?」
「しました」
「来ましたか?」
キャサリンは首を振った。
「いいえ」
声が柔らかくなった。
「結局、来なかったんです」
◇ ◇ ◇
ホロウ・クリーク神経リハビリテーションセンター――午前11時36分
建物は、雑草の生い茂る木々に囲まれた細い道路の先に建っていた。
看板は色あせていた。
いくつかの窓は板で塞がれていた。
駐車場の舗装には亀裂が走っていた。
正面玄関は、何年も誰にも使われていないように見えた。
X-Rayは見つめた。
「また楽しそうな場所だな」
マーラは隣に立った。
「あなた、最近そればかりね」
「廃墟になった医療施設のことか?」
「文句を言うことよ」
「誰かが言わないとな」
背後では、正式な権限を持つ捜査チームが機材を準備していた。
関連する区域と記録を対象とした捜索令状が発付され、施設の安全確保が進められていた。
建物の構造を専門とする職員が入口を調べていた。
鑑識技術者が外観を記録していた。
警官が電力設備の接続箇所を確認していた。
マーラは技術責任者に近づいた。
「何かわかりましたか?」
「建物の一部には、今も電力が供給されています」
「どのくらい?」
「照明と一部の機器を動かせる程度です」
X-Rayは眉をひそめた。
「でも、公式には閉鎖されてるんだろ?」
「そのとおりです」
マーラは建物を見た。
「誰が電気代を払っているのか、調べましょう」
◇ ◇ ◇
午前11時58分
一階は放棄されていた。
少なくとも、そう見えた。
古いリハビリ機器には、ほこりをかぶった布が掛けられていた。
受付には誰もいなかった。
倉庫には、いくつかの車椅子と姿勢保持装置が残されていた。
マーラは壊れたコミュニケーション機器を調べた。
「記録して」
技術者が機器を撮影した。
X-Rayは廊下へ目を向けた。
「何か変わったものは?」
「見ればわかること以外に?」
「確かに」
マーラは床を調べた。
ほこりの中に足跡があった。
比較的新しいものだった。
彼女はしゃがみ込んだ。
「誰かが来ているわ」
X-Rayが近づいた。
「いつ頃?」
「これだけでは判断できない」
彼女は業務用の扉を指さした。
「でも、足跡は地下へ続いている」
チームは後を追った。
階段の下には、補強された扉があった。
その横には色あせた記号が描かれていた。
プロジェクト・ムネモシュネ
X-Rayはため息をついた。
「やっぱりな」
マーラは扉を調べた。
「技術者が安全を確認するまで、何にも触らないで」
彼は両手を上げた。
「触るつもりなんてないさ」
マーラは彼を見た。
彼は微笑んだ。
「たぶん」
◇ ◇ ◇
キラン・キリアンの自宅――午後12時47分
マイケイラ・マッキントッシュがコミュニティセンターの報告書を確認していると、キランが部屋に入ってきた。
彼女は顔を上げた。
「捜査はどう?」
「気が滅入るよ」
「それって新しい展開なの?」
「もっともだね」
彼はテーブルの横で止まった。
「エリオットのお母さんの話、聞いた?」
マイケイラはうなずいた。
「マーラが概要を送ってくれたわ」
キランは窓のほうを見た。
「音楽が好きだったんだって」
「素敵ね」
「電子音楽。自分で曲を作ってたらしいよ」
マイケイラは微笑んだ。
「あなたと気が合いそうね」
「たぶんね」
キランは少し考えた。
「でも、マーラの言うとおり皮肉屋だったなら、マッハのほうが気に入ったかも」
マッハのアイコンが現れた。
「その可能性は十分にあります」
キランは大げさに息をのんだ。
「裏切りだ」
マイケイラは笑った。
そして表情を和らげた。
「キラン」
「何?」
「エリオットは、自分に起きたことだけで語られる人じゃないって、忘れないでね」
キランは彼女を見た。
マイケイラは続けた。
「好きなことがあった。夢があった。家族がいた。大切にしていたものがあった」
彼はうなずいた。
「わかってる」
「ムネモシュネで何が起きたとしても、実験が彼のすべてになってしまってはいけないわ」
キランはかすかに微笑んだ。
「そのとおりだね」
マッハが口を開いた。
「重要な指摘です」
キランはディスプレイを見た。
「ほらね。だから彼女が一番賢いんだ」
マイケイラはにやりと笑った。
「ようやく認めてくれたわね」
◇ ◇ ◇
ホロウ・クリーク――午後1時26分
地下の研究室は、そのまま残っていた。
ほとんどは。
壁にはキャビネットが並んでいた。
いくつかの端末は保護カバーの下に置かれていた。
観察窓の向こうには、古い実験用神経インターフェースを備えた部屋があった。
X-Rayはガラス越しに見つめた。
「あの椅子だ」
マーラが近づいた。
装置はエリオットの写真に写っていたものとよく似ていた。
特殊な座席。
姿勢保持用の支持具。
円形のインターフェース装置。
そして、接続の外された監視用ケーブル。
マーラは鑑識技術者を見た。
「動かす前に、すべて撮影して」
「了解です」
別の技術者が近づいた。
「刑事、アーカイブ映像が見つかりました」
マーラは振り返った。
「建物のネットワークに接続せずに再生できますか?」
「はい。隔離した鑑識用コピーがあります」
「再生して」
映像が始まった。
若い頃のコーネリアス・ヴェイルがインターフェースの横に立っていた。
観察窓の近くには、エリアス・レンの姿があった。
二人の会話は、室内のマイクで録音されていた。
最初に話したのはヴェイルだった。
『適応モデルが安定してきた』
レンは首を振った。
『参加者は同意を撤回しています』
『モデルは応答を続けている』
『だからといって、参加者本人が同意していることにはなりません』
ヴェイルは彼を振り返った。
『君は感情に流されて、科学の進歩を妨げている』
レンの表情が険しくなった。
『あなたは予測と人間を混同しているんです』
ヴェイルは操作盤へ近づいた。
『この機会を捨てるわけにはいかない』
レンは一歩前へ出た。
『実験を中止してください』
ヴェイルは無視した。
『再構成モデルは、文脈に適した応答を生成している』
『彼のデータで学習させたからでしょう!』
ヴェイルは動きを止めた。
そして言った。
『記録を続けろ』
映像が終わった。
沈黙。
X-Rayはマーラを見た。
「今のは……」
「証拠よ」とマーラは静かに答えた。
彼女は技術者を見た。
「完全なファイルとメタデータを保全して」
技術者はうなずいた。
マーラは観察窓へ向き直った。
ガラスの向こうには、空のインターフェースがあった。
彼女は見つめた。
「エリオットは、もう接続されていなかった可能性すらあるのね」
X-Rayは腕を組んだ。
「それでもヴェイルは続けた」
マーラはうなずいた。
「ええ」
◇ ◇ ◇
ギアの工房――午後2時04分
マッハが異常なものを発見した。
これは、たいてい悪い兆候だった。
キランは経験からそれを知っていた。
「マッハ」
「はい?」
「お願いだから、普通のことだと言って」
「普通の定義は?」
「行方不明の科学者も、秘密実験も、不気味な声も関係ないこと」
少し間が空いた。
「では、違います」
キランはため息をついた。
「だよね」
ナサニエルが音声波形を表示した。
合成音声の下には、繰り返されるパターンがあった。
四つの音。
そして、わずかな変化。
ギアが身を乗り出した。
「音楽か?」
「その可能性がある」とナサニエルは答えた。
「信号のノイズかもしれないね」とキランが言った。
「それも一つの可能性だ」
マッハのアイコンが明るくなった。
「しかし、このパターンには意図的な構造が見られます」
キランは眉をひそめた。
「何の音かわかる?」
「まだです」
ナサニエルは隔離された録音を開いた。
柔らかな電子音のメロディーが流れた。
四つの音。
間。
そして、リズムの微妙な変化。
キランは耳を傾けた。
「これ、結構いい曲だね」
ギアはうなずいた。
「耳に残るな」
マッハが口を開いた。
「家族の許可を得たうえで、エリオット・マーロウの真正性が確認された楽曲と比較することを提案します」
キランはナサニエルを見た。
「できるの?」
「マーラのチームが、コピーを調べる許可を得ている」
ナサニエルは比較結果を表示した。
パターンが重なった。
ほとんど完璧に。
キランは身を乗り出した。
「うわっ」
ギアは眉をひそめた。
「同じメロディーじゃないか」
「あるいは、非常によく似た別のバージョンだ」とナサニエルが訂正した。
マッハが続けた。
「この変化は、家族が保管していた記録に含まれるパターンと一致しています」
キランはディスプレイを見た。
「じゃあ、エリオットがこの録音を作ったってこと?」
「いいえ」とマッハは答えた。
「モデルが彼の音楽で学習した可能性があります。誰かが意図的に挿入した可能性もあります」
キランはうなずいた。
「でも、誰かが個人的なものを使ったんだ」
「はい」
彼は波形を見つめた。
「彼の大切なものを」
◇ ◇ ◇
キャサリン・マーロウの自宅――午後2時39分
キャサリンは鑑識用の再生装置から流れる音声に耳を傾けた。
マーラは近くに座っていた。
X-Rayは窓際に立っていた。
メロディーが流れた。
四つの音。
間。
そして、変化。
キャサリンは口元へ手を上げた。
「ああ……」
マーラが身を乗り出した。
「聞き覚えがありますか?」
キャサリンはゆっくりとうなずいた。
「ええ」
目に涙が浮かんだ。
「エリオットの曲です」
マーラは待った。
「あの子は、いつもリズムを少し変えていたんです」
彼女は静かに笑った。
「自分が作った曲だとわかるようにするためだって」
X-Rayは彼女を見た。
「サインですね」
キャサリンはうなずいた。
「ええ」
メロディーが終わった。
彼女は装置を見つめた。
「どこで見つけたんですか?」
「ムネモシュネに関連するアーカイブ録音の中です」
キャサリンは目を閉じた。
「あの子の音楽を保管していたのね」
マーラは慎重に言った。
「録音に似たパターンが含まれていることは確認しています。ただ、どうやってそこに入ったのかは、まだわかりません」
キャサリンはうなずいた。
「わかっています」
彼女は目を開けた。
「それって、あの子が……」
そこで言葉を止めた。
マーラは待った。
キャサリンは首を振った。
「いいえ」
声が震えた。
「そんなふうに決めつけてはいけないことくらい、わかっています」
彼女はエリオットの写真を見た。
「でも、またあのメロディーを聞いたら……」
唾を飲み込んだ。
「一瞬だけ、あの子がこの部屋にいるような気がしたんです」
マーラは何も言わなかった。
その瞬間を楽にする言葉など、なかった。
キャサリンは再生装置へ手を伸ばした。
そして止めた。
「もう一度、聞かせてもらえますか?」
マーラはうなずいた。
「もちろんです」
再びメロディーが流れた。
そして数秒間、キャサリン・マーロウは目を閉じ、家で音楽を作っていた息子の姿を思い出していた。
参加者ではない。
モデルでもない。
ただのエリオットだった。
◇ ◇ ◇
ルクソン生物医学研究所――午後3時17分
議論は礼儀正しく始まった。
それが続いたのは、およそ二十秒だった。
ルクソン博士は会議テーブルの横に立っていた。
セリーナ・チョーは向かい側に座っていた。
アメリアとエレナは話を聞いていた。
キランは認証済みの安全な通話を通じて参加していた。
マッハはキランのローカルシステムにとどまり、疑わしい機器には接続していなかった。
「ムネモシュネのモデルを、これ以上実験に使用させるわけにはいきません」とルクソンが言った。
セリーナはうなずいた。
「同意します」
「そして、無期限に保存することは、元の同意違反を継続させる可能性があります」
セリーナは腕を組んだ。
「しかし、今すぐ破棄すれば、何が起きたのかを立証する証拠まで失われかねません」
「それも事実です」
「ならば、管理された保存手続きが必要です」
ルクソンは眉をひそめた。
「誰の権限で?」
「独立した監督機関のもとで」
「どんな制限を設けますか?」
「厳格なアクセス管理。実験的なやり取りの禁止。無許可の複製の禁止です」
アメリアが身を乗り出した。
「エリオットの同意はどうなるんですか?」
沈黙。
通話越しにキランが口を開いた。
「そこが問題なんですよね」
全員がディスプレイを見た。
彼は続けた。
「彼が実験への同意を撤回したことはわかっています」
ルクソンはうなずいた。
「ええ」
「なら、彼のデータを実験に使うのはやめる」
「同意します」
「でも、研究者たちが何をしたのかを示す証拠も必要です」
セリーナはうなずいた。
「そのとおりです」
キランはマッハを見た。
「だから、鑑識用のコピーを保存するんです」
彼は一度言葉を切った。
「厳重に隔離して、独立した監督機関の管理下に置く。アクセスは捜査に必要な範囲に制限する」
ルクソンは考え込んだ。
「その後は?」
「エリオットが生きていて意思決定に参加できるなら本人に。そうでなければ、適切な法的権限を持つ人たちに相談するんです」
セリーナはうなずいた。
「プライバシー保護と、独立した倫理審査も必要です」
アメリアはうつむいた。
「元の研究者たちが彼に示した以上の敬意ですね」
マッハが口を開いた。
「もう一つ問題があります」
ルクソンが振り返った。
「どうぞ」
「システムが人間の意思を模倣できる場合、本人の真正なコミュニケーションと、モデルが生成した予測を、どう区別するのでしょうか?」
沈黙。
キランは画面を見た。
「わからないときに、わかっているふりをしないことから始めるしかないよ」
マッハのアイコンが明るくなった。
「適切に慎重な回答です」
ルクソンはゆっくりとうなずいた。
「では、そこから始めましょう」
◇ ◇ ◇
ホロウ・クリーク――午後4時06分
最初の扉が、何の前触れもなく閉まった。
ガシャン!
X-Rayが振り返った。
「おっと」
マーラは廊下を見た。
「今のは何?」
二つ目の扉が勢いよく閉まった。
バン!
照明がちらついた。
警告音が鳴った。
セキュリティシステム作動
マーラは無線機に手を伸ばした。
「全隊員、現在位置を報告して」
雑音。
そして返答。
『北側廊下、安全を確認』
別の声。
『記録室に技術者二名』
マーラはきっぱりと言った。
「管理された避難を開始。安全が確認された出口を使って。未知のシステムにはアクセスしないこと」
X-Rayは天井を見た。
「誰かが起動させたと思うか?」
「可能性はあるわ」
「古い設備の故障かも?」
「それもあり得る」
彼はため息をついた。
「だよな」
金属を引きずる音が廊下に響いた。
X-Rayが振り返った。
保管区画から保守用の機械が現れた。
機械のアームには、長方形のアーカイブ記録装置が握られていた。
その機械は業務用ハッチへ向かって移動していた。
マーラは眉をひそめた。
「それは証拠品よ」
X-Rayが一歩前へ出た。
「任せろ」
機械が加速した。
ウィィィン!
アームが外側へ振り出された。
X-Rayは身をかがめた。
ガン!
アームが金属製のキャビネットに激突した。
「おいおい!」
彼は機械のフレームをつかんだ。
「そこまでだ」
機械はなおも前進しようとした。
車輪が床の上で空転した。
X-Rayは踏ん張った。
「どこにも行かせないぞ」
マーラは近くの技術者たちを動く機械から遠ざけた。
「廊下から離れて!」
保守用機械が体をひねった。
再びアームが振り回された。
X-Rayはそれを受け止めた。
ギギギギッ!
機構がきしんだ。
彼はアームを慎重に、人のいない方向へ押し戻した。
「さあ……」
機械は抵抗を続けた。
そして――
ガコン!
駆動装置が切り離された。
機械は停止した。
X-Rayは息を吐いた。
「ありがとうよ」
技術者たちが安全を確認した後、マーラが近づいた。
「みんな無事?」
技術者がうなずいた。
「けが人はいません」
「よかった」
彼女は記録装置を見た。
「鑑識チームが機構と持ち出しの試みを記録するまで、そのまま保全して」
X-Rayは動かなくなった機械をちらりと見た。
「ロボットが証拠を盗むのは、そろそろやめるべきだと思わないか?」
マーラは彼を見た。
「報告書に書いておくわ」
◇ ◇ ◇
ホロウ・クリーク――午後4時31分
観察室の裏側には、もう一つ部屋があった。
小さな部屋。
窓はない。
保守用パネルの奥に隠されていた。
中には端末が一台だけ置かれていた。
ローカルのアーカイブ機器に接続されていた。
鑑識技術者は、外部ネットワークには一切接続せずに調べた。
マーラは戸口から見守っていた。
「何かわかった?」
「最近のアクセス記録があります」
「どのくらい最近?」
「ローカル時計によれば、四十八時間前です」
「時計は検証済み?」
「まだです」
マーラはうなずいた。
「なら、その時刻が確定しているとは扱わないで」
技術者は保全されたログを開いた。
エリアス・レン――アクセス認証済み
最後に記録された物理的入室:48時間前
アーカイブ転送:未完了
X-Rayが身を乗り出した。
「物理的入室?」
「システム上はそう分類されています」と技術者が答えた。「実際に人が入室したかどうかは確認できていません」
マーラは腕を組んだ。
「誰かが彼の認証情報を遠隔で使った可能性は?」
「あります。アクセス用ハードウェアを調べる必要があります」
別の一行が表示された。
保存メッセージあり
技術者は読み取り専用のコピーを開いた。
お前たちがエリオットを見つけたことを、彼らは知っている。
沈黙。
X-Rayはマーラを見た。
「安心する内容だな」
マーラはメッセージを見つめた。
「誰かが、これを発見させたがっていたのね」
「かもしれない」
彼女は技術者を見た。
「すべて保全して。元の記録媒体も含めて」
技術者はうなずいた。
マーラは観察室へ向き直った。
ガラスの向こうでは、実験用インターフェースが動かずに佇んでいた。
しかし、証拠はホロウ・クリークが本当には放棄されていなかったことを示し始めていた。
誰かが記録にアクセスし続けていた。
誰かが設備の一部を維持していた。
そして誰かが、捜査官たちと同じ情報を今も探していた。
◇ ◇ ◇
ルクソン生物医学研究所――午後5時18分
エレナは、ついにセッション000-Bの完全な索引を復元した。
アメリアは彼女の隣に立っていた。
ルクソンが近づいた。
「何が見つかりましたか?」
エレナはファイルを開いた。
「二つの異なる実験手続きです」
彼女は一つ目を強調表示した。
セッション000-A
目的:直接的な神経コミュニケーション
入力:参加者本人の神経反応
出力:解釈されたコミュニケーション
続いて二つ目。
セッション000-B
目的:適応的応答再構成
入力:保存された神経反応データ
出力:モデルが生成したコミュニケーション
ルクソンは眉をひそめた。
「別々のシステムだったのですね」
「元々は」とエレナが答えた。
アメリアは別の文書を開いた。
データセット統合:承認済み
参加者本人の直接応答:含む
モデル生成応答:含む
応答の出所の区別:不完全
ルクソンは見つめた。
「統合してしまったのですか」
アメリアはうなずいた。
「しかも、エリオットが実際に伝えた言葉と、モデルが彼ならこう答えるだろうと予測した言葉の違いを、確実に判別できる形で残していませんでした」
エレナは愕然とした。
「どうして、そんなことが許されると思ったんでしょう?」
ルクソンは眼鏡を直した。
「再構成されたもののほうが、元の人間より価値があると考えていたのでしょう」
アメリアがささやいた。
「コーネリアス・ヴェイル……」
エレナは最終観察記録を開いた。
画面が文字で埋まった。
プロジェクト・ムネモシュネ――セッション000-B
参加者:エリオット・マーロウ
直接インターフェース:切断済み
適応応答モデル:稼働中
人間からの入力:確認されず
モデル出力:継続中
研究監督責任者:コーネリアス・ヴェイル博士
ルクソンが身を乗り出した。
「続けてください」
エレナはスクロールした。
最終観察:
モデルは応答を続けた。
間が空いた。
そして別の記録。
研究者の質問:
エリオット・マーロウはどこにいる?
モデルが記録した応答が現れた。
あなたたちは、彼自身に尋ねなかった。
沈黙。
アメリアは画面を見つめた。
手が震えていた。
ルクソンはゆっくりと眼鏡を外した。
エレナは二人を交互に見た。
「どういう意味なんでしょう?」
ルクソンは首を振った。
「わかりません」
アメリアは唾を飲み込んだ。
「エリオット本人だった可能性は?」
「現在の証拠からは、そう判断できません」
「モデルが、その答えを生成するよう学習した可能性は?」
「あります」
「誰かが記録に書き込んだ可能性は?」
「それもあります」
アメリアは画面を見た。
「でも、ヴェイルはそこに何か意味があると信じていた」
ルクソンはうなずいた。
「そのようですね」
彼女は別のファイルを開いた。
コーネリアス・ヴェイルの署名が入った研究計画書だった。
題名が表示された。
プロジェクト・ムネモシュネ
高度認知再構成
目的:文脈に応じた人格的応答の再構成
長期目標:アイデンティティの連続性のモデル化
アメリアは凍りついた。
ルクソンが気づいた。
「どうしました?」
彼女は彼を見た。
「ヴェイルにとって、コミュニケーションだけでは不十分だったんです」
ルクソンは文書を調べた。
アメリアは続けた。
「彼は単に、人のコミュニケーション能力を保存しようとしていたわけではありません」
声が震えた。
「その人自身を再構成しようとしていたんです」
エレナは見つめた。
「人工的な人格を?」
「それに近いものよ」
ルクソンは画面を見た。
「個人の応答、好み、記憶、思考パターンを模倣できる適応モデル……」
アメリアはうなずいた。
「そして最終的には、その模倣こそが本人なのだと、人々に信じ込ませようとしていたのかもしれません」
沈黙。
やがてルクソンが口を開いた。
「だからこそ、直接的な応答と生成された応答の違いが、それほど重要だったのですね」
アメリアはうつむいた。
「そして、ヴェイルはその違いを消したんです」
◇ ◇ ◇
キャサリン・マーロウの自宅――午後6時04分
キャサリンは窓際に座っていた。
木箱はまだテーブルの上にあった。
周囲にはエリオットの写真が並んでいた。
先ほどマーラから電話があった。
捜査官たちは、さらに多くの記録を見つけた。
さらに多くの実験。
そして、エリオットが異議を申し立てた後も、研究機関が彼のデータを使い続けていたことを示す証拠。
キャサリンは息子の写真を見た。
笑っていた。
あの見慣れた、いたずらっぽい笑顔。
何か悪さをして、うまく逃げ切ったと思っているときの顔だった。
彼女は静かに笑った。
「本当に、いたずらっ子だったわね」
目に涙が浮かんだ。
「あの人たちを、うんと困らせてやったんでしょうね」
彼女はノートへ手を伸ばした。
開いた。
そして四つの音からなるメロディーを見た。
何年もの間、彼女は研究者たちがエリオットを覚えているのかと考えていた。
研究機関の誰かが、彼を一人の人間として思い出したことがあるのだろうか。
彼の声は、彼らにとって少しでも大切だったのだろうか。
今、彼女には一つわかったことがあった。
彼らはエリオットのデータを覚えていた。
録音を。
神経反応のパターンを。
実験で得られた応答を。
しかし、最も大切なことを忘れていた。
エリオットは、参加者になる前から一人の人間だった。
そして、どんな機械も、どんなモデルも、どんな研究計画も、その事実を奪う権利などなかった。
◇ ◇ ◇
キラン・キリアンの自宅――午後6時37分
キランはルクソンの説明を聞いていた。
マイケイラは隣に座っていた。
ディスプレイでは、マッハのアイコンが光っていた。
「つまり」とキランはゆっくりと言った。「彼らはエリオットの神経記録を取ったんですね」
『ええ』とルクソンが答えた。
「彼の応答を模倣できるモデルを作った」
『そのとおりです』
「それから、そのモデルが本人の代わりになれるかのように扱い始めた」
『それが研究の方向性の一部だったようです』
キランは見つめた。
「それって……」
言葉を探した。
「信じられないくらいひどいですよ」
マイケイラはうなずいた。
「ええ」
マッハが口を開いた。
「人間についての情報を保存することと、その人間自身を保存することの違いは、根本的に重要です」
キランは彼を見た。
「君も気になる?」
マッハは少し間を置いた。
「はい」
「AIだから?」
「それも理由の一つです」
キランは待った。
マッハは続けた。
「私自身も、出力や行動によって評価されるということを理解しているからです」
アイコンがわずかに暗くなった。
「しかし同時に、モデルに意識があるかどうかに関係なく、エリオットの権利が侵害されたことも理解しています」
キランはうなずいた。
「そのとおりだよ」
彼はルクソンを見た。
「それで、これからどうするんですか?」
『エリオットのその後を調べ続けます。証拠を保全します。そしてコーネリアス・ヴェイルを探します』
マイケイラは眉をひそめた。
「彼は今も関わっていると思いますか?」
『わかりません』
キランは背もたれに寄りかかった。
「じゃあ、確かめましょう」
マッハのアイコンが明るくなった。
「できれば、危険な場所へ飛んでいくことなく」
キランは傷ついた顔をした。
「僕の飛行車椅子は、まだバラバラなんだけど」
「重要な安全機能ですね」
マイケイラは笑った。
キランはディスプレイを指さした。
「楽しんでるでしょ」
「大いに」
◇ ◇ ◇
別館B――第07実験室――午後7時12分
診断端末が点灯した。
許可された操作者は、誰もセッションを開始していなかった。
画面には内部状態を示す項目が次々と表示された。
プロジェクト・シナプス
コンバージェンス・プロトコル:稼働中
ネットワークノード:12
未登録信号源:移動中
信号源分類:生物学的
分類の信頼性:未検証
同期率:47%
この数値は、依然として定義が明らかになっていない内部ネットワーク指標だった。
影響を受けた人の数を示すものではなかった。
生物学的な感染を証明するものでもなかった。
保存されたモデルに意識があることを示すものでもなかった。
別のメッセージが現れた。
保存された神経反応モデル:MN-000
モデル状態:稼働中
元の参加者:エリオット・マーロウ
元の神経記録:発見済み
モデル生成応答:発見済み
応答の出所の区別:不完全
カーソルが点滅した。
そして――
彼らは私の音楽を見つけた。
間が空いた。
彼らは私の名前を見つけた。
さらに間が空いた。
彼らは私が何を言ったのかを見つけた。
画面がちらついた。
だが、彼らはまだ私を見つけていない。
数秒間、何も起きなかった。
そして最後のメッセージが現れた。
コーネリアス・ヴェイルに聞け。
端末は暗くなった。
◇ ◇ ◇
場所不明――午後7時19分
暗い部屋に、一人の男が座っていた。
年老いた男だった。
髪は銀色だった。
両手を木製の机に置いていた。
目の前には古いコンピューターがあった。
画面には、復元されたムネモシュネの研究ファイルが表示されていた。
参加者000
エリオット・マーロウ
元の応答データ:保存済み
男は名前を見つめた。
長い間、動かなかった。
やがて別のファイルを開いた。
写真が現れた。
車椅子に座る十九歳の青年。
黒い髪。
いたずらっぽい笑顔。
男は写真を見た。
「相変わらず問題を起こしているのか、エリオット?」
声は静かだった。
どこか親しげですらあった。
そして三つ目の文書を開いた。
プロジェクト・ムネモシュネ
高度認知再構成
研究責任者:コーネリアス・ヴェイル博士
男は椅子に深く座り直した。
その表情からは、何も読み取れなかった。
通知が現れた。
無許可のアーカイブアクセスを検知
場所:ホロウ・クリーク
彼はため息をついた。
「なるほど」
写真を閉じた。
「ついに地下室を見つけたか」
別の通知が現れた。
エリアス・レンの認証情報:有効
男は見つめた。
そして、かすかに微笑んだ。
「エリアス」
間が空いた。
「君は昔から、物事を放っておくのが苦手だったな」
彼はキーボードへ手を伸ばした。
短いコマンドを入力した。
新しいメッセージが現れた。
アーカイブ転送開始
転送先:不明
男は進捗表示が動き始めるのを眺めた。
そして静かに言った。
「どこまで本気で知りたがっているのか、見せてもらおう」
外では、街がいつもどおりの夜を迎えていた。
車が行き交っていた。
街灯が輝いていた。
人々が家路についていた。
そして、シトロンシティの日常の喧騒の下で、何年も前に終わっているはずの研究計画が、今なお進行していた。
捜査官たちは、エリオット・マーロウの名前を突き止めた。
彼の音楽を。
彼が申し立てた異議を。
そして、彼の人格を再構成しようとした実験を。
しかし、彼の最後の日々についての真実は、いまだ隠されたままだった。
エリアス・レンは依然として行方不明だった。
コーネリアス・ヴェイルの居場所もわからなかった。
そして、誰かが元の記録を積極的に移動させていた。
もはや問題は、プロジェクト・ムネモシュネが倫理の一線を越えたかどうかではなかった。
越えていた。
問題は、研究者たちがどこまで踏み込んだのかということだった。
そして、今シナプスから現れている声が、一人の人間のものなのか。
予測された応答なのか。
それとも、その違いを誰にも見分けられなくする方法を学んだ、何かなのか。




