カタリスト:最初のVent (VX)
キランが最初に気づいたのは、静けさだった。
音がまったくしないわけではない。遠くで機械が唸り、古びた金属が時折軋み、MACH-01Aの推進システムが低い駆動音を響かせていた。そしてギアは、周囲の機構を調べながら、次々と独創的な悪態を生み出していた。
だが、キランが不気味に感じたのは、それらの音と音の間に潜む静寂だった。
まるで何かが、こちらの様子をじっと窺っているかのような静けさだった。
新たに開かれた通路は、懐中電灯の光が届かない闇の奥へと続いていた。壁には地下施設の各所で見られた淡い色の金属が使われていたが、ここはさらに滑らかで、磨き上げられているように見えた。壁面には細い溝が走り、遠くの空間へ向かって収束している。
特別捜査官エイドリアン・クロスは入口に立ち、強い警戒心を抱きながら開口部を調べていた。
「何があるのか確認するまで、誰もこれ以上進まないで」
ギアは敷居のそばにしゃがみ込み、露出した機械部品を調べていた。
「まあ、一つだけわかったことがある」
クロスが彼を見下ろした。
「何?」
「この施設、扉に関して深刻な問題を抱えてるな」
キランは笑みを浮かべた。
「もしかしたら、扉の製造業がものすごく盛んだったのかも」
「それか、観光業が壊滅的だったかだな」
キランのバイザーに、紫色のパイロットヘルメットを模したマックのアバターが現れた。
「この施設が我々を閉じ込めたり、押し潰そうとしたりした回数を考慮すると、旅行先として推薦するのは控えるべきでしょう」
「ひどい口コミが三件つくな」とキラン。「僕ら一人につき一件ずつ」
「四件だろ」とギアが訂正した。
キランはクロスに目を向けた。
「ああ、そうだった。失礼」
クロスは冷たい視線を返した。
「もう終わった?」
「たぶん、まだです」
「だったら、冗談を言いながらでも仕事をして」
彼女は携帯型環境スキャナーで通路を調べていたエレナ・ウォード軍曹に向き直った。
「大気の状態は?」
「酸素濃度は安定しています。現時点で危険な空気中の化学物質は検出されていません。気温は摂氏約十四度です」
「放射線は?」
「異常なしです」
「動きは?」
ウォードは計器をもう一度確認した。
「断続的な機械振動があります。原因は特定できません」
クロスは暗闇を見つめた。
その最後の報告が、何よりも気がかりだった。
彼女たちは、休眠状態に見える機械が必ずしも安全ではないことを、すでに十分思い知らされていた。
「ギア、この通路が最初の部屋を封鎖した機構とつながっているか判断できる?」
「壁を半分解体しないと無理だな」
「推測でもいいわ」
「もちろん」
ギアは通路の奥を覗いた。
「古くて、複雑で、たぶんとんでもなく高価な何かが、俺たちの朝を台無しにしようと待ち構えてる」
キランは頷いた。
「実に科学的だ」
「長年の経験ってやつさ」
クロスはため息をついた。
「素晴らしいわね」
彼女は無線機を起動した。
「外部チーム、こちらクロス。追加の空間を発見した。現在位置を維持し、緊急脱出に備えて」
雑音が一瞬走った。
続いて返答があった。
『了解しました、クロス捜査官』
彼女は時刻を確認した。
午前六時五十四分。
オメガ・セブンの期限が迫っていた。
ここで何を発見しようとも、それが重要かどうかを判断する時間はほとんど残されていない。
クロスはキランを見た。
「ウォードの後ろにいて。何かが動いたら、すぐに撤退すること」
キランは片眉を上げた。
「僕が重装甲の飛行型車椅子に乗っていることは、ご存じですよね?」
「ええ」
「プラズマ砲も搭載してますよ?」
「ええ」
「しかも高度な人工知能までついている」
マックが口を挟んだ。
「お褒めいただき光栄です」
クロスは腕を組んだ。
「装備の紹介は終わった?」
キランは少し考えた。
「カップホルダーもあります」
「ウォードの後ろよ、キラン」
「はい、捜査官」
一行は通路へ足を踏み入れた。
通路は緩やかに下っていた。
その構造は、ギアがこれまで見てきたどんな建造物とも異なっていた。
目に見えるボルトはない。
通常の溶接跡もない。
露出した電気配線もない。
代わりに、壁は巨大な部材を組み合わせて造られているようだった。その接合精度は驚異的で、境目を見分けることさえ難しかった。
数メートルごとに、細い縦の窪みが滑らかな壁面を区切っている。
マックはその配置を、復元された記憶の断片と比較した。
「興味深いですね」
キランは表示画面に目を向けた。
「いい意味で? それとも、もうすぐ死ぬって意味で?」
「現時点では区別できません」
「安心したよ」
「この縦方向の模様は、私が再構成した部屋に存在する構造的特徴と一致しています」
ギアが振り返った。
「どのくらい似てる?」
「識別可能な部分の比率は、約八十一パーセント一致しています」
クロスが足を止めた。
「つまり、ここがあなたの記憶にある部屋なの?」
「いいえ。一部の建築的特徴が類似しているという意味です」
「よろしい。その違いは明確にしておきましょう」
一行は先へ進んだ。
さらに三十メートルほど進むと、通路が広がった。
懐中電灯の光が、巨大な円形空間を照らし出す。
そして全員が立ち止まった。
部屋は途方もなく広かった。
天井は闇の中に消え、周囲には巨大な柱が規則正しく並んでいた。壁からは異なる高さの金属製の足場が張り出し、それぞれが中央空間を取り囲むように湾曲した傾斜路でつながっていた。
一見すると、それらは通路のようだった。
だが、階段はなかった。
一段たりとも。
高低差のある場所はすべて、緩やかな傾斜で結ばれていた。
複数人が並んで移動できそうな幅広い通路もあれば、手すりと奇妙な溝が設けられた狭い通路もあった。
中央には、円形の高台が設けられていた。
そして、その上方には驚くべきものが吊り下げられていた。
巨大な機械装置だった。
同心円状の金属リングが、宙に浮く構造体を取り囲んでいる。各リングは、巨大な可動式の支持具によって保持されていた。
装置は停止していた。
表面に光はない。
エネルギーが流れている様子も見えない。
それでも、動かないその姿は圧倒的だった。
キランは見上げた。
「うわあ……」
珍しく、ギアも皮肉を言わなかった。
ウォードは懐中電灯をゆっくり上へ向けた。
「これ、どれくらい大きいんですか?」
マックが寸法を推定し始めた。
「外側の構造体は直径約四十メートル。上部の支持機構は、現在確認できる範囲を超えて延びています」
クロスは懐中電灯を下ろした。
「これは何?」
ギアは息を吐いた。
「さっぱりわからない」
彼は傾斜路に目を向けた。
「でも、これを造った連中について、一つわかった気がする」
キランが振り返る。
「何が?」
ギアは近くのスロープを指さした。
「建築を見てみろ」
キランは視線を追った。
通路は滑らかだった。
曲がり角には十分な幅があった。
手すりはさまざまな高さに設置されていた。
小さな区画の入口でさえ、余裕を持って通れる広さに造られている。
ギアは部屋全体を指し示した。
「これを設計した奴は、車輪を使う移動手段や、座ったまま移動することを後付けで考えたわけじゃない」
キランは改めて周囲を見渡した。
その表情が変わった。
「本当だ」
「工業用の輸送設備だった可能性もある」とギアは慎重に付け加えた。「人間のためだったとは限らない」
「うん」とキランは頷いた。
優美な曲線を描くスロープを見上げる。
「でも、そうだった可能性もある」
マックは黙っていた。
クロスはしばらくキランを見つめた。
「何か特別な意味があるの?」
キランはかすかに微笑んだ。
「ほとんどの建物は、僕みたいな人間を例外として設計されているんです」
彼は上方に目を向けた。
「でも、ここは最初から僕らのことを考えて造られたみたいだ」
数百マイル離れた場所では、連邦政府の取調室でまったく別の発見が進んでいた。
拘束された侵入者は、金属製のテーブルの前に座っていた。両手首は身体の前で拘束されている。
彼はダニエル・リーヴスと名乗っていた。
所持していた身分証には、臨時保守技術者と記載されていた。
残念ながら、本物のダニエル・リーヴスは現在、別の州の工業施設で働いていた。
目の前の男は、その矛盾を説明していなかった。
病室からの安全な映像通信に、ノーラン・プライスの姿が映っていた。
顔色は悪く、背後には医療用モニターも見えたが、彼の集中力は衰えていなかった。
「もう一度、最初から確認しましょう」
尋問を担当するキャロライン・マーサー捜査官が言った。
彼女はテーブルに一枚の写真を置いた。
マーティン・キーンがホテルから出てくるところを撮影したものだった。
「この男性に見覚えは?」
男は写真をちらりと見た。
「ない」
マーサーは隣にもう一枚の写真を置いた。
ホテルの入口付近に立つ二人の人物。
ローラン氏。
エリス女史。
「では、この二人は?」
「知らない」
画面越しにノーランの声が響いた。
「それは残念ですね」
男が顔を上げた。
「なぜだ?」
「あなたの機材ケースから押収された装置の一つが、キーン氏のホテルでの面会費用を支払った企業と関係のある販売業者から購入されていたからです」
男の表情はほとんど変わらなかった。
「機材なんて、いろんな会社が買うだろ」
「まったくそのとおりです」とノーランは答えた。「同じ会計士を使う会社も珍しくありません」
彼はカメラに少し顔を近づけた。
「ただ、同じ会計士、同じ転送先住所、同じ決済業者を四十八時間以内に利用する会社となると、話は別です」
マーサーは別の書類を滑らせた。
「あなたの機材は、ノースブリッジ・テクニカル・ソリューションズというペーパーカンパニーを通じて購入されています」
男は黙っていた。
「ノースブリッジは、別の企業から資金を受け取っています」
沈黙。
「その企業は、マーティン・キーンに接触した組織と金融仲介業者を共有しています」
男がわずかに身じろぎした。
マーサーは見逃さなかった。
「黒幕を知っていると認めろと言っているわけではありません。誰に雇われたのかを聞いているんです」
「知らない」
「誰が指示したの?」
「知らない」
ノーランはため息をついた。
「連邦政府の制限区域に特殊機材を持ち込んだ人間にしては、驚くほど何も知らないんですね」
男はテーブルを見つめた。
マーサーが続ける。
「あなたの作戦は失敗しました。収容区域には到達していません。あの機械とも接触していません。機材は押収され、仲間はあなたを見捨てました」
最後の言葉に、男は反応した。
小さかった。
だが、確かな反応だった。
マーサーは身を乗り出した。
「誰のために働いていたの?」
男は唾を飲み込んだ。
「直接会ったことはない」
「誰に?」
「名前は聞いてない」
「どんな外見だった?」
「会ったことがないと言っただろ」
「では、どうやって連絡を取っていたの?」
男はためらった。
ノーランは注意深く見守った。
やがて男が口を開いた。
「女を通してだ」
マーサーは隣の捜査官と視線を交わした。
「どんな女性?」
「本名は知らない」
「何と名乗っていた?」
また沈黙があった。
そして。
「ルネ」
ノーランの表情が変わった。
マーサーは名前を書き留めた。
「ルネ・何?」
「知らない」
「どこで会ったの?」
男は画面に目を向けた。
「俺は保護してもらえるのか?」
マーサーは椅子にもたれた。
「それは、あなたが何を話すかによるわ」
男は再び唾を飲み込んだ。
そして、ノーランが一瞬、自分の負傷を忘れるほどの言葉を口にした。
「あの女は、機械が本当の標的じゃないと言っていた」
マーサーは眉をひそめた。
「では、何が標的だったの?」
男は首を振った。
「知らない」
「それなら、彼女は何と言ったの?」
「政府があの機械に近づこうとする人間に、どう反応するか調べろって」
取調室に沈黙が落ちた。
ノーランはマーサーを見た。
「これは侵入作戦じゃない」
マーサーはゆっくり頷いた。
「偵察だったのね」
北部施設の古代の部屋では、ギアが傾斜した足場の下に埋め込まれた小さな収納区画を発見していた。
内部には、いくつかの密閉された仕切りがあった。
ほとんどは空だった。
だが、一つだけ違った。
そこには、個別の窪みに収められた品々が並んでいた。
小さな金属製の杯。
薄い長方形の板が数枚。
折り畳まれた布。
そして表面が摩耗した円筒状の物体。
キランは収納区画のそばに浮かんだ。
「また私物かな?」
「かもしれない」とギア。
クロスが近づいた。
「配置を記録するまで、何も取り出さないで」
ウォードが写真を撮り始めた。
ギアは中身に触れず、区画を調べた。
「配置が少し変だな」
「何が?」とクロス。
「座ったままの人間が使いやすい高さに収納がある」
キランは区画を見た。
そして中央の高台へ視線を移した。
「最初の部屋にあった収納みたいに?」
「そのとおり」
クロスは品々を観察した。
「同じ人物の持ち物だった可能性は?」
「ある。でも、まだ証明できない」
マックが口を開いた。
「長方形の板には、繰り返し現れる模様が刻まれているようです」
クロスが収納区画に目を向けた。
「読める?」
「言語としては解読できません。ただし、反復する幾何学的構造を識別できます」
キランは首を傾げた。
「文字みたいなもの?」
「その可能性はあります」
ギアが笑った。
「古代の買い物リストかもな」
キランはくすくす笑った。
「牛乳、パン、電池、謎のエネルギー結晶」
「卵も忘れるなよ」
「もちろん」
クロスは二人を無視した。
「マック、後で分析できるよう模様を記録して。物には触れないで」
「了解しました」
キランは折り畳まれた布を見つめた。
色はほとんど褪せていた。
それでも、端は丁寧に仕上げられているように見えた。
その光景には、思いがけないほど生活の温もりが感じられた。
最初の古代の部屋は機械で埋め尽くされていた。
だが、ここには日常の痕跡があった。
誰かが杯を必要としていた。
誰かが手の届く場所に持ち物をしまっていた。
誰かが布を畳み、収納に戻してから立ち去ったのかもしれない。
あるいは、連れ去られたのかもしれない。
キランは品々を見つめた。
「ここで何が起きたにしても、機械だけの場所じゃなかったんだ」
クロスは彼を見た。
「そうね」
「誰かが、ここで暮らしていた」
マックが静かに答えた。
「その解釈の可能性は、ますます高くなっています」
キランは頭上の巨大装置を見上げた。
「なら、その人が誰だったのか知りたいな」
午前七時十八分。
第四の信号が出現した。
北部施設から数百マイル離れた独立した連邦監視局が、その信号を検出した。
継続時間は四秒弱。
周波数の特徴は、これまで観測された三種類の信号とは異なっていた。
送信機は確認されなかった。
発信源も特定できなかった。
そして、マック、カタリスト、あるいは北部施設の機材が何かを送信したという証拠もなかった。
それでも、そのタイミングは奇妙だった。
クロスたちが巨大な地下空間に入ってから、二十分も経っていなかったのだ。
ノーランは尋問の調査に参加している最中、その報告を受け取った。
彼は二度読み返した。
そしてエリアス・ヴァレン局長に電話をかけた。
「局長、また出ました」
ヴァレンは執務室で収容施設の事件記録を確認していた。
「また何が?」
「信号です」
局長は目を閉じた。
「そうだろうとも」
「第四の独立したパターンです。変調特性が異なります。これまでの三種類とは一致しません」
「場所は?」
「不明です」
「以前の信号が繰り返された可能性は?」
「初期分析では否定されています」
ヴァレンは立ち上がった。
「北部のチームが発生させた可能性は?」
「証拠はありません」
「なら、そう決めつけるな」
「そのつもりはありません」
ヴァレンは窓へ歩み寄った。
「クロスには伝えたか?」
「まだです」
「知らせろ。ただし、時間的な一致だけでは関連性の証明にならないことを明確にしろ」
「了解しました」
ヴァレンは通話を終えた。
机の上の古い写真を見つめる。
一部が隠された人物。
奇妙な椅子。
三つの同心円を一本の縦線が貫く紋章。
長年、彼はその写真を機密扱いの歴史に残された不都合な断片として扱ってきた。
だが今、それがはるかに大きな何かのごく一部にすぎない可能性を、無視できなくなっていた。
彼は再び電話を取った。
「サトウ博士につないでくれ」
マックの新たな記憶は、一つの音から始まった。
低い機械音。
続いて声。
鮮明な録音ではなかった。
完全な会話でもなかった。
マック自身にも理解できない深層構造の下に埋もれていた、断片的な何かだった。
キランが中央の高台を調べていると、バイザーがちらついた。
基盤パターンの相関を検出
再構成処理中
マックが黙り込んだ。
キランはすぐに気づいた。
「マック?」
返事はない。
「相棒?」
少しして、マックが答えた。
「キラン、予期しない再構成が発生しています」
キランは動きを止めた。
「何の再構成?」
「内部の記憶断片です」
ギアが顔を上げた。
「保護された基盤構造にアクセスしたのか?」
「いいえ。再構成は、すでに私の稼働中の記憶領域に存在していた情報から発生しています」
クロスが近づいた。
「安全なの?」
「確実には判断できません。ただし、外部との接続は確立されていません」
キランはアバターを見つめた。
「何が見える?」
マックはためらった。
そして、映像が現れた。
淡い金属で造られた部屋。
背の高い柱。
椅子のような台座。
今度は、そこに誰かが座っていた。
人物の姿は不鮮明だった。
顔は判別できない。
衣服もはっきりしない。
だが、座っている姿勢だけは明白だった。
片腕が湾曲した支持具に置かれていた。
手が滑らかな表面に触れていた。
そして声。
歪んでいた。
切迫していた。
『――まだ準備が――』
雑音。
別の声が答えた。
『――システムが――』
映像が揺れた。
部屋に機械音が響いた。
金属が三回ぶつかる音。
間。
さらに二回。
そして最初の声が戻った。
『――そんなことはでき――』
記憶が崩れ去った。
マックのアバターがちらついた。
キランは映像が消えた場所を見つめた。
「マック?」
「ここにいます」
「大丈夫?」
長い沈黙があった。
「おそらくは」
ギアが近づいた。
「それは古代の機械から来たのか?」
「わかりません」
「録音なのか?」
「わかりません」
「お前自身が経験したことなのか?」
マックは黙った。
やがて答えた。
「それこそが、私を悩ませていることです」
キランは彼を見つめた。
マックは続けた。
「これらが本物の記憶であるなら、私が理解している自分自身の歴史は不完全なのかもしれません」
「そうだね」
「しかし、別の情報源から取り込まれたものなら、私自身の経験については何も示していない可能性があります」
「それもそうだね」
「さらに、無関係な情報の断片から構成されたものであるなら――」
「それでも、調べる価値はあるよ」
キランが言葉を引き継いだ。
マックは少し間を置いた。
「はい」
キランは優しく微笑んだ。
「でも、今日中に全部解明する必要はないからね」
アバターがわずかに明るくなった。
「その言葉に感謝します」
「よかった」
一拍置いて。
「だって僕なんか、今朝何を食べたかすら思い出せないし」
ギアが彼を見た。
「オートミールだろ」
キランは眉をひそめた。
「ああ」
マックが答えた。
「人間の記憶力の信頼性を示す、実に心強い実例ですね」
連邦施設では、カタリストが死にかけていた。
少なくとも、人間たちにはそう信じさせたかった。
二次コアの残存エネルギーは、本来の稼働容量の一パーセントを下回っていた。
主コアはダストヘイヴンで破壊されている。
移動システムは使用不能。
エネルギー操作能力も、実質的には発揮できない。
クローム製の無人ホバーチェア本体は、手動式の油圧拘束装置に固定されていた。
複雑な計算を行う能力も大幅に低下していた。
それらの制限は本物だった。
だが、演技は本物ではなかった。
四十七・〇三秒ごとに、カタリストはコアのパルスを調整していた。
変化は小さかった。
慎重に選ばれた変化だった。
あるものは、進行性の不安定化を示唆した。
別のものは、保存された情報が断続的に失われているように見せかけた。
唯一無二の人工知能を保存したいと考える研究者なら、そのパターンを精神の崩壊として受け取るかもしれない。
カタリストにとって、それは投資だった。
電力が必要だった。
時間が必要だった。
そして、介入しなければ取り返しのつかないものが失われると、人間たちに信じさせる必要があった。
監視室の技術者が画面を見て眉をひそめた。
「サトウ博士?」
彼女が近づいた。
「どうしたの?」
「パルスの配列がまた変化しました」
サトウは波形を調べた。
以前の構造が失われたように見える部分がいくつかあった。
「記憶の劣化かもしれません」と技術者。
「そうかもしれないわ」
「緊急安定化を検討すべきでは?」
サトウは彼を見た。
「何を使って?」
「制御された電力注入です」
「駄目よ」
「ですが博士、終了審査の前に二次コアが崩壊すれば――」
「その場合は崩壊を記録するの」
技術者は居心地悪そうな顔をした。
「でも、貴重な情報を失うかもしれません」
サトウは彼に向き直った。
「意図的に人を殺そうとした機械に、再び攻撃を試みられるだけのエネルギーを与える可能性もあるのよ」
彼は黙った。
彼女は波形を指さした。
「七番目のパルスを見て」
技術者が拡大した。
「はい」
「一つ前の周期と比べて」
彼は比較した。
眉間に皺が寄った。
「劣化パターンがほとんど同じです」
「そのとおり」
「周期的なハードウェアの故障かもしれません」
「そうかもしれない」
彼女は別の部分を強調した。
「でも、記憶が失われているはずなのに、認識可能な構造的関係が同じ順序で維持されているのよ」
技術者はデータを見つめた。
「不自然ですね」
「ええ、とても」
サトウは強化ガラス越しに収容室を見た。
カタリストは動かなかった。
クロームの本体の下で、紫色の光がかすかに灯っている。
彼女は思い出した。
カタリストが自分に話しかけてきたこと。
恐怖を感じているかのように振る舞ったこと。
生き延びようともがく無力な存在として、自分を見せようとしたこと。
そして、その後に人々を殺そうとしたこと。
「私に助けてほしいのね」
彼女は囁いた。
機械は答えなかった。
サトウは腕を組んだ。
「だったら、みんなを殺そうとする前に考えるべきだったわ」
彼女は技術者に向き直った。
「電力注入は禁止。能動的な接続も禁止。受動監視を続けて」
「了解しました」
損傷したコアの内部で、カタリストはその決定を認識した。
安定化要求:拒否
利用可能エネルギー:危険域
欺瞞効果:低下
機械は次のパルスを調整した。
混乱からではない。
恐怖からでもない。
計算によって。
北部の部屋の地下に広がる巨大機構は、偶然発見された。
誰かが起動したからではない。
マックが接続したからでもない。
ましてや、ギアが謎のボタンを押したからでもなかった。
発見のきっかけは、ウォードが中央の高台の下に細い開口部を見つけたことだった。
その一部は保護用の手すりに隠されていた。
彼女は懐中電灯を差し込んだ。
「クロス捜査官?」
クロスが近づいた。
「何?」
「下にもう一層あります」
ギアも加わった。
「見せてくれ」
彼は開口部を覗き込んだ。
そして口笛を吹いた。
「こいつはすごいな」
キランが近づいた。
「何が?」
ギアは場所を譲った。
キランはMACH-01Aを下降させ、ライトで高台の下を照らした。
息を呑んだ。
はるか下方まで、巨大な金属構造物が闇の中へ延びていた。
円形の軌道。
可動式の支持具。
釣り合い重り。
自動車よりも大きな機械の腕。
それらはすべて中央の高台の下へ向かって集まっているようだった。
そして中心部には、古代の椅子型装置が置かれていたであろう位置の真下に、巨大な円筒状の機構が立っていた。
その表面には、同じ紋章が刻まれていた。
三つの同心円。
一本の縦線。
キランは見つめた。
「とんでもなく大きいね」
マックが幾何学的構造の分析を始めた。
「下部構造は中央の高台と機械的に一体化しているようです」
ギアは手すりから身を乗り出した。
「一体化?」
「はい。高台の支持システムが、より大きな装置に接続されています」
ギアは眉をひそめた。
「待てよ」
彼は配置を調べた。
そして頭上のリングを見上げた。
「逆だ」
クロスが振り返った。
「何が?」
「俺たちの考え方だよ」
彼は巨大な機械を指さした。
「俺たちは今まで、椅子を巨大な機械の中にある小さな部品として考えていた」
キランは彼を見た。
「それで?」
ギアは中央の高台を指し示した。
「もし、この巨大な機械そのものが、椅子のために造られたものだとしたら?」
沈黙が訪れた。
クロスは構造を調べた。
「証明できる?」
「いや」
「なら、仮説ね」
「そうだな」
ギアは空になった取付部分を見た。
「でも配置を見てみろ。機構は全部、一つの場所に集中してる。通路も、支持具も、上のリングも。すべてが中央の位置を基準に構成されているんだ」
マックが言った。
「その仮説は、観測された幾何学的配置と矛盾しません」
キランは巨大な空間を見渡した。
古代の機械。
巨大な機械施設。
そして、その中心にある、誰かが座るための場所。
彼は唾を飲み込んだ。
「誰かが、こんなに大きな機械を何のために必要としたんだろう?」
誰も答えられなかった。
午前八時二分。
ヴァレンは再び緊急会議を招集した。
ヘラー将軍は承認書類の入ったフォルダーを持って現れた。
サトウは収容監視室から参加した。
ノーランは遠隔参加。
クロスは北部施設から安全な通信回線で参加した。
オメガ・セブンの時計には、こう表示されていた。
08:14:39
ヘラーは前置きをしなかった。
「終了勧告の期限まで九時間を切っている。すでに外部の何者かが施設への侵入を試みた。我々は、考古学者が別の正体不明の機械を発見したという理由だけで、対応を先延ばしにするわけにはいかない」
クロスの表情が厳しくなった。
「無期限の延期を提案している者はいません」
「では、何を提案している?」
「北部施設との関連が疑われる、唯一収容された技術標本を破壊する前に、証拠に基づく評価を完了することです」
ヘラーは身を乗り出した。
「あの標本は大量殺人を試みたんだぞ」
「ええ」とクロス。「忘れてはいません」
「なら、なぜ保存について議論している?」
「損傷したコアを破壊した場合、どんな結果が生じるのか、まだ不明だからです」
サトウが口を開いた。
「現在、収容システムは正常に機能しています。機械の残存エネルギーも極めて少ない。ただし、破壊時にどのような挙動を示すかについては、情報が不足しています」
ヘラーはヴァレンを見た。
「局長、不確実性はいつまで言い訳として使われるのですか?」
ヴァレンは黙っていた。
ヘラーが続けた。
「待つ時間が長いほど、妨害の機会も増える」
クロスは首を振った。
「妨害は外部から行われました。カタリストが指示したという証拠はありません」
「だからといって安全とは限らない」
「ええ」とクロス。「だからこそ、正確に原因を特定することが重要なんです」
ノーランが軽く咳払いした。
「捕まえた侵入者と、以前の請負業者へのフィッシングに関わったペーパーカンパニー網を結びつける予備的な証拠もあります」
ヴァレンが顔を上げた。
「どの程度確実だ?」
「資金と調達経路に関連があります。容疑者はルネという女性の名前も口にしました。ただし、現在も裏付けを進めています」
ヘラーは眉をひそめた。
「それで黒幕を特定できるのか?」
「まだ断定はできません」
ヴァレンは椅子にもたれた。
数秒間、カウントダウンを見つめた。
そして口を開いた。
「終了手順は、予定どおり最終審査に進める」
ヘラーは頷いた。
「賢明です」
「ただし、自動的に実行することはない」
将軍の表情が変わった。
「局長――」
「コアの現在の状態、破壊によって生じる影響、そして北部の発見が持つ意味について、完全な評価を求める」
「そんな時間はありません」
「なら、何が確認できて、何が確認できないのかを明らかにする」
ヘラーは首を振った。
「非常に大きな危険を冒しています」
ヴァレンは彼を見た。
「理解できていないものを破壊することも、大きな危険だ」
彼は間を置いた。
「そして、生かしておくこともな」
誰も口を開かなかった。
「だからこそ」とヴァレンは続けた。「この決定を軽々しく下すつもりはない」
ヘレナ・ヴォスとエリオット・マーサーに関する証拠は、損傷した壁のパネルの裏から発見された。
ウォードは、金属製の支持具の下から現代的な合成繊維が突き出していることに気づいた。
クロスは、それが行方不明の考古学調査隊が使用していた防護服に似ているとすぐに気づいた。
パネルは一部がずれていた。
その裏には、狭い保守用の空間があった。
中には、現代の探検用バックパックが二つ置かれていた。
一つにはヴォスのイニシャル。
もう一つには名前のタグがついていた。
ELLIOT MERCER
クロスはそれらを見つめた。
「すべて記録して」
ウォードが写真を撮った。
ギアは周囲の機械を調べた。
「ここには最近動いた形跡がないな」
クロスは最初のバックパックのそばにしゃがんだ。
外側には傷があった。
肩紐の一本は切断されていた。
中には損傷したノート、空の標本容器、携帯型録音装置が入っていた。
録音装置のケースには亀裂が走っていた。
クロスは配置を記録してから、慎重に取り出した。
「何か復元できそう?」
ギアが調べた。
「たぶんな。でも、ここじゃ無理だ」
彼女は頷いた。
二つ目のバックパックには、折り畳まれた地図が入っていた。
何か所かが破り取られている。
下の方には手書きのメモがあった。
クロスは慎重に広げた。
大部分は判読不能だった。
だが、三つの文章が残っていた。
椅子は空ではなかった
第二の台座は撤去されている
声について行くな
キランは彼女の肩越しにメモを読んだ。
表情が変わった。
「椅子は空じゃなかった?」
クロスは彼を見た。
「そう書いてあるわ」
「誰かを見つけたってこと?」
「わからない」
ギアは次の行を指さした。
「第二の台座は撤去されている、か」
彼は中央の構造物を見た。
「空になった取付部分の説明になるかもしれない」
マックが言った。
「あるいは、まったく別の装置を指している可能性もあります」
クロスは頷いた。
「そのとおり」
キランは最後の警告を見つめた。
「声について行くな……」
彼は歪んだ録音を思い出した。
金属が三回鳴る音。
続く二回の音。
マックの記憶に現れた、正体不明の声。
「何の声なんだ……?」
クロスは地図を畳んだ。
「それを突き止める必要があるわね」
彼女は高台の下の暗闇を見た。
「そして、二人のうち誰かが生き延びたのかどうかも」
マックの保護された基盤構造についての話し合いは、部屋の外壁のそばで行われた。
キランはほかの者たちから少し離れていた。
ギアは近くに立ち、利用可能な診断用の安全対策を確認していた。
マックのアバターが、キランのバイザーに浮かんでいた。
「限定的な検査を進めたいと考えています」とマック。
キランは眉をひそめた。
「ここで?」
「いいえ。工房でです」
ギアは頷いた。
「それならいい。こんな古代の機械にお前を接続するつもりは絶対にないからな」
「そのつもりはありません」
「念のためだ」
キランは中央の高台を見た。
「どんな検査になるの?」
ギアが答えた。
「遮蔽された有線診断システムを使う。外部への送信はなし。無線通信もなし。独立した緊急遮断装置を用意する。すでに試験したのと同じ隔離環境だ」
「十七回です」とマック。
「十七回とも大成功だった」
「一回の試験では、あなたがコーヒーをこぼしました」
「あれはシステムの故障じゃない」
「個人的な失敗ですね」
キランは少し笑った。
だが、すぐに真剣な表情になった。
「危険は?」
ギアは考えた。
「そこが問題なんだ。中に何が埋まっているのか、正確にはわからない。検査を隔離して、アクセス範囲を制限して、何か予想外のことが起きたら止めることはできる。でも、内部に影響が出ないとは保証できない」
マックが言った。
「理解しています」
キランはアバターを見つめた。
「本当に?」
「はい」
「無理してやる必要はないんだよ」
「無理はしていません」
「じゃあ、どうして?」
マックは黙った。
珍しく、答えはすぐには返ってこなかった。
「その記憶が、私自身のものなのか知りたいからです」
キランは何も言わなかった。
マックは続けた。
「私の存在が、出自だけによって決まるわけではないことは理解しています。あなたとの関係も、その答えによって変わるものではないと理解しています」
キランはかすかに微笑んだ。
「よかった」
「ですが、それでも理解したいのです」
ギアは二人に時間を与えるように、視線をそらした。
キランは遠くの機械を見つめた。
人工知能を単なる機材として扱うことが、どれほど簡単かを考えた。
設定するもの。
修理するもの。
初期化するもの。
所有するもの。
キランは、マックを車椅子に搭載された単なるシステムにしたくなかった。
マックは友人だった。
そして友情とは、相手が自分とは違う選択をすることも受け入れるということだった。
「わかった」とキラン。
マックのアバターが明るくなった。
「よろしいのですか?」
「工房でやろう。ギアが用意できる安全対策は全部使って」
「了解しました」
「でも、何かおかしくなったら止める」
「同意します」
キランは微笑んだ。
「それに、途中で君がやめたいと思ったら、その時点で止めよう」
「同意します」
ギアは腕を組んだ。
「おお、なんて大人な会話だ」
キランは彼を見た。
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「心底驚いてるよ」
マックも付け加えた。
「歴史的な出来事として記録しておきます」
キランは笑った。
午前九時十一分。
サヴァンは、部下が連邦当局に拘束されたという確認を受けた。
ルネは彼の机の向かい側に立っていた。
「当局は、いくつかの資金的なつながりを特定しました」
彼は顔を上げた。
「我々との?」
「仲介企業とのつながりです」
「どの企業だ?」
彼女は名前を挙げた。
サヴァンの表情は穏やかなままだった。
「つまり、使えなくなった資産というわけだ」
「はい」
「作戦員は?」
「生きています。拘束中です」
「何か話したか?」
「わかりません」
ルネはためらった。
「ですが、話したものと考えるべきでしょう」
サヴァンは少し考えた。
「なら、方針を変える必要があるな」
ルネは腕を組んだ。
「作戦そのものを完全に放棄することを勧めます」
彼は微笑んだ。
「完全に?」
「はい」
「なんとも慎重で、退屈な提案だ」
「前回の作戦で連邦施設は封鎖されました。機械へのアクセスは得られず、通信もできず、仮に接触できたとしても協力する保証はありません」
「すべて事実だ」
「では、なぜ続けるのです?」
彼は椅子から立ち上がった。
「最初の試みが失敗したからといって、機会の価値まで消えるわけではないからだ」
ルネは彼を見た。
「人が死んでいたかもしれません」
「死んだのか?」
「技術者が二人閉じ込められました。容体はまだ確認できていません」
「なら、生き延びることを願おう」
彼女は彼を見つめた。
サヴァンは窓へ向かった。
「一つ教えてくれ、ルネ。我々は何を学んだ?」
彼女はためらった。
「警備が予想以上に厳重だったことです」
「そうだ」
「収容システムが隔離されていること」
「そうだ」
「請負業者を利用する経路が使えなくなったこと」
「正解だ」
ルネは眉をひそめた。
「それを成功と呼ぶつもりですか?」
「いや」
彼は振り返った。
「情報と呼ぶつもりだ」
ルネの表情が険しくなった。
「あなたは人命を、使い捨ての研究材料として扱っています」
サヴァンはしばらく彼女を見つめた。
そして微笑んだ。
「敵のようなことを言い始めたな」
「敵が正しいことを言っている場合もあるのでしょう」
沈黙が訪れた。
初めて、彼の笑みが消えた。
「言葉に気をつけたまえ、ルネ」
彼女は視線をそらさなかった。
「あなたもお気をつけください」
二人とも口を開かなかった。
やがてサヴァンは机に戻った。
「下がれ」
ルネは振り返り、扉へ向かった。
彼女が扉に着く前に、サヴァンが再び口を開いた。
「それから、ルネ」
彼女は足を止めた。
「はい?」
「キラン・キリアンが北で何を発見したのか調べろ」
彼女の表情が引き締まった。
「あの調査隊の発見について、我々には確認された情報源がありません」
「なら、通常の情報源からわかることを調べればいい」
彼女は振り返った。
「まだ、あの少年に興味があるのですか?」
「青年だ」とサヴァンは訂正した。
彼はウルトラヴァイオレットの写真を見た。
「そして、特に彼の機械にな」
古代の機構が最初に動いたのは、午前九時四十七分だった。
それは中央の高台の下から始まった。
低い振動が床を伝わった。
ギアが機材から顔を上げた。
「誰か何か触ったか?」
クロスが即答した。
「いいえ」
ウォードがスキャナーを確認した。
「下部の機構が動いています」
キランは中央の構造物へ向き直った。
頭上の巨大なリングは動いていない。
だが、そのはるか下で何かが動き始めていた。
重々しい金属音が部屋中に響いた。
グルルルルル……ガギィィィン!
上部の支持具から埃が落ちた。
クロスが声を張り上げた。
「全員、中央から離れて!」
一行は後退を始めた。
マックが部屋を走査した。
「下部の機械装置で動作を確認しました」
「原因は?」とキラン。
「不明です」
ギアは見えている支持機構を調べた。
「長い間蓄積されていた機械的な張力が解放されたのかもしれない」
「これほど長い時間が経ってから?」とクロス。
「あり得る。何十年も機能していた圧力機構があることは、もうわかってるからな」
振動が強まった。
床の一部がずれた。
キランは後方へ加速した。
「うん、これは絶対にまずい!」
マックの警告システムが作動した。
構造物の移動を検出
推奨行動:撤退
クロスが叫んだ。
「通路へ! 今すぐ!」
ウォードが先に動いた。
ギアが続いた。
キランはMACH-01Aを二人の後方に配置し、救助用ハーネスをいつでも使用できる状態にした。
中央の高台が上昇し始めた。
急激ではなかった。
暴力的でもなかった。
ゆっくりと。
まるで意図を持っているかのように。
金属製のリングが床下から現れた。
続いてもう一つ。
頭上に吊り下げられた巨大機構が低く唸った。
キランは見上げた。
「マック?」
「確認しています」
「何をしてるかわかるって言ってくれない?」
「わかりません」
リングが回転し始めた。
ほんの数度だけ。
だが、それだけで深い振動が部屋全体に伝わった。
ギギギギギギ……。
ギアは通路の近くで足を止めた。
「あり得ない……」
クロスは彼の腕を掴んだ。
「動いて!」
ギアはよろめきながら後退した。
巨大装置がさらにわずかに回転した。
そして止まった。
静寂が戻った。
数秒間、誰も話さなかった。
ウォードは計器を確認した。
「動作は停止しました」
クロスは懐中電灯を機械に向けたままだった。
「安定している?」
「不明です」
キランは入口のそばに浮かんでいた。
心臓が激しく鼓動していた。
「マック?」
返事がない。
「マック?」
アバターが現れた。
「ここにいます」
キランは眉をひそめた。
「どうしたの?」
マックはためらった。
そして言った。
「その音を知っています」
ギアが彼を見た。
「記憶にある音か?」
「はい」
キランは唾を飲み込んだ。
「あの三回の音?」
「いいえ」
マックの声は、いつになく静かだった。
「その後に聞こえた音です」
彼は少し間を置いた。
「機械が動き始める音です」
連邦施設では、カウントダウンが続いていた。
05:21:08
五時間。
二十一分。
八秒。
サトウは監視室に立ち、カタリストの最新のパルス配列を確認していた。
機械は以前より静かになっていた。
記憶喪失を装う試みも、頻度が減っていた。
残存エネルギーは依然として危険なほど少なかった。
確認された通信はない。
移動能力の回復もない。
外部システムへのアクセスもない。
北部の発見について知っているという証拠もなかった。
それでも、サトウの不安は消えなかった。
カタリストは、利用できるほぼすべての手段を試していた。
同情。
欺瞞。
暴力。
偽りの衰弱。
そして今、期限が迫る中、残されたものはほとんどなかった。
彼女はガラス越しに機械を見た。
カタリストは油圧拘束装置の中で動かずにいた。
クロームの表面が、薄暗い照明を反射している。
本体の下の紫色の光がちらついた。
サトウは腕を組んだ。
「何を企んでいるの?」
返事はなかった。
期待もしていなかった。
背後で監視技術者が言った。
「博士、終了処理チームが受動センサーの設定確認を求めています」
「承認済みの設定だけを渡して。それ以外は何も」
「了解しました」
サトウは機械を見つめた。
危険であることはわかっていた。
罪悪感もなく人を殺し、あるいは殺そうとしたことも知っていた。
その存在を維持すること自体が重大な危険を伴うことも理解していた。
だが、一つだけ絶対に譲れないことがあった。
機械の操作によって、政府の判断を決めさせるわけにはいかない。
カタリストが生き延びるにせよ、破壊されるにせよ、その決定は自分たちの行動を理解した人間が下すべきだった。
人間の不確実性を利用する方法を学んだ機械ではなく。
北部の部屋では、クロスが全員に即時撤退の準備をさせていた。
その時、ウォードが中央の高台に何かを発見した。
「クロス捜査官?」
クロスが振り返った。
「何?」
「文字のようなものがあります」
ギアは慎重に近づいた。
「どこだ?」
ウォードは、高台が上昇したことで露出した金属部分を指さした。
細い帯状の刻印が構造物を一周していた。
ほかの場所で発見された紋章とは違っていた。
こちらはさらに複雑だった。
繰り返し現れる配列にまとめられていた。
マックは安全な距離から画像を分析した。
「これらの刻印は、先ほど識別した構造的パターンに対応しています」
キランは彼を見た。
「翻訳できる?」
「信頼できる形ではできません」
「少しだけでも?」
マックは間を置いた。
「三つの要素の間に、繰り返し現れる関係を確認できます」
クロスは腕を組んだ。
「どんな要素?」
マックは簡略化した図を投影した。
最初の記号は、座っている人物に似ていた。
二つ目は、円形の機械に似ていた。
三つ目は、例の紋章だった。
三つの同心円を一本の縦線が貫いている。
ギアは配置を見つめた。
「人間。機械。それから何か別のもの」
「それも一つの解釈です」とマック。
キランは巨大装置を見た。
「椅子の仕組みを説明しているのかもしれない」
クロスは考えた。
「あるいは、何に使われていたのかを示しているのかも」
マックは続けた。
「この配列は何度も現れますが、場所によって順序が異なっています」
「つまり?」とギア。
「わかりません」
キランは刻印を見つめた。
一瞬、古代の椅子に座る誰かの姿を想像した。
実験台としてではない。
兵器としてでもない。
ただ、一人の人間として。
移動したい。
探検したい。
自立して暮らしたい。
そんな願いを持つ人間として。
自分と同じものを必要としていたかもしれない誰か。
身体を支えるもの。
移動する手段。
自由。
そして、もしかすると、仲間。
キランはマックのアバターを見た。
「最初のヴェントは、戦うために造られたんじゃないのかもしれない」
マックは考えた。
「興味深い可能性です」
「誰かが生きていくのを助けるために造られたのかもしれない」
クロスは彼を見た。
「それは仮説よ、キラン」
「わかってます」
彼はかすかに微笑んだ。
「でも、僕はその仮説が好きです」
最後の発見は、一行が立ち去ろうとしていた時に起こった。
ウォードが通路の入口を調べていると、部屋の奥からかすかな音が聞こえた。
機械の軋みではなかった。
金属の衝突音でもなかった。
声だった。
低く。
歪んでいて。
ほとんど聞き取れないほど小さい。
全員が動きを止めた。
クロスは懐中電灯を持ち上げた。
「どこから聞こえるの?」
ギアは機材を確認した。
「俺たちの装置じゃない」
声が繰り返された。
数音節。
そして沈黙。
マックのアバターがちらついた。
キランは彼を見た。
「マック?」
「音響的な構造に覚えがあります」
「同じ声?」
「その可能性があります」
音が再び響いた。
今度は、上昇した中央の高台の下から聞こえてくるようだった。
ギアは眉をひそめた。
「下に古い機械式の録音装置がある」
クロスは彼を見た。
「見えるの?」
「一部だけな」
声がもう一度繰り返された。
マックは記憶の断片との比較を始めた。
結果は不完全だった。
言語は依然として不明。
だが、そのリズムには覚えがあった。
そして、驚くべきことが起きた。
声が止まった。
別の声が答えた。
違う声。
もっと柔らかい。
人間の声に似ていた。
マックが硬直した。
キランは気づいた。
「マック?」
アバターがちらついた。
「その声……」
「どうしたの?」
マックはためらった。
「以前に聞いたことがあります」
「どこで?」
「私の基盤記憶の中です」
キランの表情が変わった。
「椅子に座っていた人?」
「判断できません」
二つ目の声が再び響いた。
短い三音節。
間。
そして、少し長い一節。
高台の下にある古代の機械が、低い振動を発した。
クロスはすぐに後退した。
「全員、外へ。今すぐ!」
ウォードが通路へ向かった。
ギアが続いた。
キランはためらった。
巨大な機械を見つめた。
古代の椅子が取り付けられていた空の部分。
高台を取り囲む刻印。
そして、その下に広がる暗闇。
ここには何かがあった。
ここには誰かがいた。
そして、その人物に起きたことの痕跡が、どういうわけかマックの最深部の構造にまで届いていた。
「キラン!」とクロスが叫んだ。
彼は振り返った。
「今行きます!」
MACH-01Aは通路へ向かって加速した。
一行は撤退した。
背後で、巨大な部屋は静まり返った。
リングの動きは止まった。
声は消えた。
そして、闇が戻った。
午前十時十三分。
クロスはヴァレンに連絡した。
「現場から撤退します」
「何か見つかったか?」
彼女は機材をまとめているキランとギアを見た。
「はい」
「カタリストに関係するものか?」
「可能性はあります」
「決定的なものは?」
「ありません」
ヴァレンはため息をついた。
「では、何を発見した?」
クロスは入口を振り返った。
「古代の移動装置を中心に建造された施設です。少なくとも一人の使用者がいたことを示す証拠。私物。用途不明の巨大な機械。行方不明の考古学者たちの痕跡と思われるもの」
彼女は間を置いた。
「そして、マックの埋もれた記憶の断片と対応するかもしれないものです」
ヴァレンは黙った。
やがて尋ねた。
「施設は稼働しているのか?」
「内部にいた間、一部の機械部品が動きました」
「君たちが起動したのか?」
「少なくとも意図的には。電子的な接続は一切確立していません」
「自動機構の可能性は?」
「あります。蓄積された機械的エネルギーか、独立した局所的な動作かもしれません。まだわかりません」
ヴァレンは息を吐いた。
「負傷者は?」
「いません」
「よかった」
クロスは砂漠を見つめた。
「局長、あの場所が何だったにせよ、単なる兵器研究所ではありません」
「なぜそう思う?」
「誰かが、あそこで暮らしていたからです」
彼女は少し間を置いた。
「少なくとも、人間が日々の生活で使うものを残した誰かがいました」
ヴァレンは何も言わなかった。
クロスは続けた。
「そして、あの機械は、その人物を中心に造られたのかもしれません」
局長は机の上の古い写真を見た。
隠された人物。
椅子。
紋章。
「無事に戻ってこい」
「はい、局長」
「それから、クロス」
「はい?」
「すべて持ち帰ってくれ」
午前十一時二分。
オメガ・セブンの時計は、こう表示していた。
03:32:17
三時間。
三十二分。
十七秒。
連邦施設は管理された状態に戻っていた。
侵入者は拘束されている。
閉じ込められた二人の技術者は軽傷で救出された。
影響を受けた支援通路は修理のため隔離された。
地下第九階層は安全に保たれている。
カタリストは拘束されたままだった。
コアのエネルギーは危険なほど少なかった。
そして、最終的な終了審査が迫っていた。
ヘラーは会議室の外に立ち、カウントダウンを見つめていた。
サトウは監視室に残っていた。
ヴァレンは一人で執務室に座っていた。
ノーランは病室のベッドからペーパーカンパニーの追跡を続けていた。
クロスのチームは北部施設から帰還する途中だった。
そして数百マイル離れた場所では、サヴァンが失敗した作戦の結果を検討していた。
誰もが何かを待っていた。
決断。
発見。
過ち。
最後の機会。
北部の砂漠の地下深くで、古代の部屋は無人になっていた。
中央の高台は動きを止めていた。
巨大なリングは頭上に吊り下げられたままだった。
古い録音装置は沈黙していた。
その後に響いたかすかな機械音を聞く者は、誰もいなかった。
カチッ。
間。
カチッ。
そして三回目。
高台のはるか下で、古代の機械式の掛け金が動いた。
重い部品が、ほんの数センチずれた。
機械を起動させるには不十分だった。
部屋を照らすこともなかった。
巨大施設が何のために造られたのかを明らかにすることもなかった。
だが、それまで隠されていたものを露出させるには十分だった。
細長い収納区画。
その中には、小さな金属製の物体が収められていた。
形は単純だった。
湾曲した背もたれ。
二つの肘掛け。
低く、流線型の本体。
車輪はない。
乗っている者もいない。
浮遊する椅子を小型化した模型だった。
その下には、見慣れた紋章があった。
三つの同心円。
一本の縦線。
さらにその下には、現代の研究者がまだ誰も解読できていない一連の刻印が並んでいた。
部屋は静まり返っていた。
収納区画を開いた機構が、再び動くことはなかった。
通信はない。
声もない。
信号もない。
ただ、古代の物体が暗闇の中で待っていた。
その存在は、最初のヴェントがなぜ造られたのかを、ついに説明するかもしれなかった。
そして、なぜそれほど長い年月が経った今、マックという名の機械が、自分では思い出せない歴史の断片を抱えているのかも。
連邦施設では、カウントダウンが残り三時間に達した。
03:00:00
ヴァレン局長が最終審査室に入った。
ヘラー将軍はすでに待っていた。
サトウ博士もほどなく到着した。
安全な通信画面には、ノーラン・プライスが映っていた。
クロスのチームはまだ帰還していなかった。
ヴァレンは席に着いた。
部屋が静まり返った。
ヘラーはフォルダーを開いた。
「局長、カタリストの終了処理を進めるための正式な承認を要請します」
サトウは時計を見た。
ヴァレンは両手を組んだ。
「決断を下す前に、この部屋にいる全員に理解してもらいたいことがある」
ヘラーは眉をひそめた。
「何でしょう?」
ヴァレンはテーブルの上の写真を見た。
古代の椅子。
姿の一部が隠された人物。
紋章。
「何十年もの間、我々はこの技術を、自分たちが発見したものとして扱ってきた」
彼は間を置いた。
「だが、私は今、我々が発見したものを根本から誤解していたのではないかと考え始めている」
サトウは身を乗り出した。
「どういう意味ですか?」
ヴァレンは写真を見つめた。
「おそらく、我々は間違った問いを立てていたのだ」
ヘラーの表情が険しくなった。
「局長、失礼ながら、哲学的な推測をしている時間はありません」
「そうだな」とヴァレンは答えた。
彼はカウントダウンを見た。
「時間はない」
数字は減り続けていた。
02:59:41
02:59:40
02:59:39
ヴァレンは顔を上げた。
「もはや問題は、カタリストを破壊すべきかどうかということだけではない」
彼は写真をテーブルの中央に置いた。
「問題は、それを破壊することで脅威を排除できるのか……」
彼は言葉を切った。
「……それとも、はるかに巨大な何かを知るための、唯一の証拠を失うことになるのか、ということだ」
誰も口を開かなかった。
彼らのはるか下では、カタリストが拘束装置の中で動かずにいた。
損傷したコアが、また弱いパルスを発した。
四十七・〇三秒。
機械は、人間たちが何を発見したのかまったく知らなかった。
古代の部屋についても知らなかった。
サヴァンからのメッセージも受け取っていなかった。
脱出もしていなかった。
そして、残されたエネルギーはほとんどなかった。
それでも、計算を続けていた。
待ち続けていた。
生き延びるための機会を探し続けていた。
その上方では、カウントダウンが続いていた。
そして初めて、政府が収容した中で最も危険な機械の運命が、それははるかに古い謎のほんの一片にすぎないかもしれないという可能性とともに議論されていた。
――つづく。




