異世界のサムライと異世界のサラリーマン
まず始めに私が居る、この世界について少し説明をさせて頂く。
その前に私の名前は「戸塚哲哉」だった、こちらの世界に来てからはトト・コンドリーという名前をもらった。
トトは陛下が付けてくてた呼び名で「知る人」という意味があるらしい、そしてコンドリーは私のように異世界から来た人間によくつける名前で「余所者」のような意味があるらしく皆からは「トト」と呼ばれている。
この世界はドルモアという中央国家と幾つかの小さな辺境国で構成されている。
小さな辺境国はドルモアに朝貢しドルモアの帰属国として国を成り立たせている。
私がこの世界に転生して来たのはドルモアから一番遠い東の果ての辺境国ガナンがドルモアに対して戦争を始めた頃の事である。
当初ドルモアとガナンの戦力比は20対1で短期間のうちにドルモアの勝利になると誰もが予想していた。しかしガナンは魔族との間に契約を結び魔物を引き連れドルモアに侵攻してきた。
魔物の力は強大で、ドルモアの守備に当たった他の辺境国のチンダイという辺境部隊を次々と打ち倒し、ガナンはドルモアの王都アイギス付近まで迫っていた。がドルモアの誇る騎士団の活躍でガナンの進軍を押し返す事に成功、双方に多大な犠牲を出しながらも、お互いに攻め手に欠き戦局は硬直していた。
ドルモア国女王ハンナマリは硬直した戦局を好転させる為に失われた聖剣を探す勅命を特務部隊に下した。 特務部隊の部隊名は「ヤタガラス隊」現世の日本神話に出てくる鳥の名前なのだがこれには訳がある、特務部隊は最近作られた新しい隊で部隊長は「安兵衛」という戦国時代から転生してきた侍だった。
と言っても隊員は安兵衛と私にアイギスの戦士2人をたして4人、一個分隊にも満たなかった。
安兵衛は年齢でいうと同じ歳なのだが500年の年代差があるので話はあまり噛み合わない、しかしながら現役の武士だけあって背丈は160センチ程で小柄ながら鍛えあげられた身体は現代人がスポーツジムで鍛えた肉体とは異なり鎧のように全身を覆いしかしながらしなやかに四肢を動かし、長年修練してきた人を殺す為の動きを安兵衛の思考と寸分変わることなく再現する。
私はこちらに来て度々安兵衛から剣の稽古をつけてもらっているが、なぜか私には短剣しか使わせてくれなかった。
「安兵衛さん、戦で人を殺す事に罪悪感とか恐怖ってないですか? 俺は殺されるのは嫌だけど殺すのも怖い、剣を使えるようになっても正直言って情けないけどいざというときの覚悟が出来ないかもしれない」
稽古用の木剣を振りながら安兵衛が無表情に答える
「そんなものは無いな」
「正義の戦だから?国の為の?」
「道理だ」
「道理?」
「その戦か正義か悪かは私には関係ない、誰と戦うかはお館様が考える事でどの様に戦って誰を殺すのかは軍師や武将が考える事。
私たち足軽や下級武士は殺せと命令された相手を殺すことだけを考える…… 正義を唱えるのは個人単位が丁度いいと私は思う。
国や民族、特定の団体が正義を唱えると決って制限が無くなり正義の名の元に悪道に陥ってしまう、そして彼らは自分達が正義で正しいと思っているから相手に対してどんな酷い仕打ちでもしてしまう。
だから私は殺す道理を大切にする。
殺せと言われた相手を殺すことに躊躇、罪悪感、後悔、謝罪は無い、だが殺せと言われなかった相手は殺さない、殺す道理が無いからだ、私は殺人鬼ではないからな、道理の無い相手を殺した時に私は罪悪感に潰され死ぬまで後悔をするだろう。」
「道理か」
「トト殿には必要無い道理だ、だからトト殿が殺さなくて良いように、その為に私が居る。トト殿は死なない事を考えていればよい、生きて自分の世界に帰ろう」
「ありがとう、俺は死なない、安兵衛さんも死んではダメだ」
安兵衛さんは上官というよりは兄のような、親友のような付き合いをしていくことになる、それは時代は違えど同じ日本人だからなのかは、未だわからない。




