なーんか、修羅場に巻き込まれそうな気がしてきた
動けば汗が滲むくらいの気温の中、少し薄暗い竹林の中は何処かひんやりしていて居心地が良い。空へと真っ直ぐに背を伸ばしていた物体が重力に従い倒れていくの横目に、握っていたノコギリから手を離し小さく息を吐いた。
やっほいやっほい、ふかふかの土を踏み締めながら伸び過ぎた筍を折ったり切ったりしている私です。リンファやリィタのお陰で、休憩することなく一気に減らしていけるのはほんと有難い。
筍はねぇ、成長が早いからさ。1日で1m伸びるんだったかな。生えてきた時はこんな小さいのに、30日も経てば竹になっちゃうし。柔らかい外側も内側も、あっという間に固くなってしまうからね。その前に片付けようって事で、スパスパ切り落としてるんだ。
産毛のある茶色い皮が落ちてしまう、ほんの少し前辺りの筍かな、コレは。まだ柔らかいからノコギリで簡単に切れるし、獣人なら腕力と爪でスパーンと折れちゃう。スライムは……あれ、どうやってんだろ。何となく気になってリィタに目を向けたら、何かあれ溶かして倒してるっぽい? えっ、何の液体出してるの? 気になるから後で詳しく聞いてみよう。
「みゅっ!?」
「あ、」
リンファが視界から消えた。あちゃー、もしかして嵌っちゃったかな。竹林には足がちょっと嵌るみたいな穴があるんだよね。竹の根……地下茎だっけな、それが腐って空洞化して地表が沈み穴のようになる事があるんだ。何の前触れもなく、リンファが姿を消した事を考えると、恐らくそれが原因だろう。
竹林の隙間から視線を少し横に移動してみると、穴にすっぽり嵌ったリンファの姿があった。何とか抜け出そうとジタバタしてるけど、あれじゃ抜け出せないよなあ。もふもふがただ揺れ動いているようにしか見えない。意外と深いんだよ、竹林のひょっこり穴。
「リィター、おねがーい」
『ハァイ!!』
私が言わんとする事をリィタは瞬時に理解してくれる。リィタは直ぐに人型となりリンファを軽々と持ち上げパパッと救出していた。うん、お見事。
ある程度、筍伐採が終わったところでユーリが休憩しろよー、と冷えた氷菓子を持ってきてくれた。おお、ナイスタイミングぅ!
「はぅぅ、おいひい。一仕事した後に食べてるからー、普段より美味しく感じるー」
『ウマウマーイ〜!!』
人一倍頑張っていたリンファとリィタが交互に、ひょいひょいぱくぱくしながら氷菓子を口に詰めていく。食べ過ぎたら腹壊しそうなんだけども、まあふたりのお陰でかなり助かったのもあるしねえ。
確かに冷えた氷菓子、めっちゃ美味しいわ。日本でいうかき氷に近いものなんだけど、なんていうかフルーツを凍らせたシャーベットにも似てる気がする。
いつもなら筍の伐採はリンファがフォラッドと共にやっているらしいんだけど、ここ数年はリンファの獣型の所為でドタバタしてたから、上手くやれてなかったらしい。
……ううん、リンファの獣型ってやっぱり普通ではくて、何か理由があるんだな。聞いていいもんなのかなあ、と有耶無耶にしてたけど、暫く一緒にいる訳だし聞いてみるべきだよねえ。
「にしても、フォラッドは何処行きやがったんだァ。俺達が来たんだから、用事なら後回しにすりゃいいモンを」
残り少なくなった氷菓子を手に取り、それを噛み砕きながらぼやいたユーリにリンファは困った表情を向けた。
「あー、師匠は自分中心に考えてるからー。一度思った事はその通りにやらないと気がすまないんだよねー」
うっわ、扱いにくそう。口に含んだ氷菓子で喉を潤しながら、私は眉を寄せる。スケジュールが変わるのを嫌がるタイプなのか。いや、それでも少しは臨機応変に対応してもらいたいような気がしなくもない。
ユーリと私の視線を受けたリンファは毛についた果汁をペロペロ舐めるの止め、小さく息を吐いた。
「まあ、師匠は扱いにくいのは確かだけども。これでもだいぶマシになったんだよー。昔なんか何も言わずに出掛けてて、行き先も居場所も分かんなくてほんと大変だったんだー。抗議の声あげたらさ、師匠何て言ったと思うー?」
「え、用事があったから仕方ない、とか?」
首を軽く横に振り、リンファは口を開く。
「答えは……、何で言わなアカンの? 自分も決めかねとる行き先、確定しとるわけやないんやから言う必要感じひんしなぁ。何も言わんで出掛けるのが普通やろ……だって」
「えぇっ!? 何それ!?」
思わず声に出した私悪くないよね? これはめっちゃ驚くしかない。普通、出掛ける際誰かに一声かけてから行くものじゃん? えっ、そうするよね?
ユーリに目を向けてみれば、こっくり頷かれたのでユーリも同じ価値観のようだ。良かったー。違ってたらある意味怖いからね。
「すみませーん! 誰かいますかー!」
突如響いた声に互いを見つめ合い目を瞬かせる。来客の予定があったのかと、視線をリンファに向けてみれば彼女は首を勢いよく横に振っていた。
「何の話も聞いてないよー。島の人かなあ」
ちょっと行ってくる!と駆け出すリンファの後を私も慌てて追いかける。フォラッドの来客ならば暴漢ではないだろうけども、獣型とはいえ小柄なリンファが対峙するには些か心配。
リンファの後に続き、敷地内に入ると訪問者の姿が目に入る。鏡合わせのような、瓜二つの姿をした少女達がジッと此方を見ていた。
初対面なのに何故か双子はにこにこ笑っている。何がそんなに嬉しいんだろうか。
「此処に赤毛の」
「変人がいますよね?」
「彼をちょっと」
「ボコりにきました!」
うん? 良い笑顔で言う台詞じゃないよな?
この双子達、何者? 絶対この後修羅場になるの確定じゃんか。
リンファに目を向けてみればピキーンと固まっている。ああ、師匠の尻拭いみたいな流れが見えるもんね。うーん、これは私達だけじゃ対応出来ないわ。ユーリに助けを求めようと、竹林の方へ再び足を向けた。




