第18話 チーパパ
「日頃、ハニ学へのご寄付ありがとうございます。あ、グラス空いちゃいましたね。お注ぎします」
「え~、ゴルフされてるんですか。スコア80なんて凄いですね~」
「あ、グラスに水滴が。ハンカチで拭きますね」
ちょっと薄暗い照明と、かすかに聴こえるジャズのBGMが響くラウンジ内。
豪奢なソファとガラステーブルの上で、俺はにこやかな笑顔をたたえながら、御婦人たちの接遇をしていた。
「橘きゅん、ほんとカワイイ♡ おばさんと結婚して」
「え~。自分の事、おばさんなんて言っちゃ駄目ですよ。まだ綺麗なお姉さんなんですから」
「もう、お世辞言って上手く躱しちゃうんだから♡」
「橘くぅ~ん♡ 私、大きな企業の社長やってるんだけど、お仕事疲れたの~♡ 部下がしでかした事を社長の私が謝ったりして大変で大変で~」
「そうなんですね。社長さんって、自分がしたわけじゃないミスも謝らなきゃいけないから大変ですよね。でも、そうやって社員の責任を背負って矢面に出れるの、カッコ良くて尊敬しちゃいます」
「橘くん、男の子なのに仕事に理解ある~♡ しゅきぃ~♡ 学園への予算、社長権限で倍増しゅりゅ~♡」
この場に集まったご婦人たちは、ハニ学のスポンサー様である。
そんなエライ人たちのご機嫌取りをするのが、今回の目的なようなので、俺の方も前世の高級ラウンジ嬢のごとくヨイショし卓の会話を回す。
前世で営業の仕事をしていた時に度々行っていたキャバクラ接待の経験が役に立ったぜ。
「あら、そっちの男の子もカワイイわね。ちょっと、私の隣に座って酌をしなさい」
「え、えっと……」
お?
卓の端っこで、何やら虎嶺が御婦人にロックオンされている様子。
すかさずここで、チーママもといチーパパの橘知己の本領を発揮させる。
「あ、この子新人なんですよ~。すいません慣れてない子なんで。代わりにボクの方で注ぎますね」
「ダメよ橘きゅん。新人も育てないと」
酔って気が大きくなって、ちょっと声が大きくなりがちな常連客のごとく、虎嶺に絡んでいたご婦人が苦言を呈してきて、卓の空気が少しピリッとする。
「え~、ボクと一緒に飲むの飽きちゃいました? ショック~。やっぱり新しい子がいいんだ……」
「ご、ゴメンゴメン! 私は橘きゅん一筋だから!」
俺が拗ねて見せると、途端にご婦人は慌てふためいて、こちらのご機嫌を取ろうと必死になる。
「……信じていいの?」
「うんうん! ほら、高いボトル何でも入れるから、みんなでまた乾杯しなおそ!」
「ドンペリ1本いただきました~♪」
小悪魔ムーブにより場の空気を強制的に入れかえて、更に売上につなげる。
うん。
まさに理想的なキャストだな、俺。
「今まで高級キャバレーで男性キャストが働くお店に行っても、塩対応しかされなかったのに。女の夢の店はここにあった」
「やばい……。こんな男の子がいるキャバレーがあったら、何があっても週8で通っちゃうわ」
「わたくしは、会社の金を全額横領して、橘きゅんに貢いでしまいそう」
「そう考えたら、ハニ学へ会社の金を寄付して善人面できて、こんな接待まで受けられるなんて、健全でお得過ぎなのでは?」
「また次も、絶対にやってくださいね学園長! 寄付は弾みますので!」
「それじゃあね橘キュン♡」
「は~い。今日はありがとうございました~」
ほくほく顔で帰って行くスポンサー様たちの車が見えなくなるまで手を振る。
最後の高級車が角を曲がって見えなくなったところで、ようやく一息ついた。
「お疲れ様だったね。橘君」
「ああ、真名瀬学園長、どうもお疲れ様です」
お互いに労い合う接待側。
接待が無事に成功して先方の反応的に手ごたえがあった時の安堵感、前世では割と俺はキライじゃなかったな。
「結局は、橘君が全て仕切ってくれたな。もしものために、私も同席してスポンサー様のストッパー役をするつもりだったが、全く出番が無かったよ」
「すいません。つい場が楽しくて。綺麗なご婦人たちで舞い上がっちゃいました」
「本当に上手いね橘君は。一体、真紀奈は息子にどういう教育をしたんだか」
「アハハッ! 母さんには、俺がはしゃいでいた事は内緒でお願いしますよ学園長」
「おかげで、今期の蜜月学園への寄付金額は何倍にも膨れ上がりそうだからね。無論、真紀奈には黙っているよ」
「ありがとうございます。じゃあ、今度、真名瀬学園長とはしっぽり飲みましょうか」
「……コラコラ。未成年だからお酒はダメだぞ」
「は~い、でも、一瞬だけ教育者としての顔が崩れた真名瀬学園長が見れたので、良しとします」
「こ……こら。おばさんを揶揄うんじゃないよ」
「は~い。じゃあ俺が成人した時には、美味しいお酒、教えてくださいね」
そう言って、真名瀬学園長が一瞬だけ、教育者ではなく女の顔をしたのを見てカワイイなと思った。
やっぱり美魔女って最高だぜ。
「それにしても、今日は寝室くんへのペナルティのつもりだったんだがな。まさか、橘君まで一緒に来るとは思わなかったよ」
そう言いながら、真名瀬学園長は俺の後ろで小さくなっている虎嶺を見やる。
「綺麗なご婦人との楽しい社交場に行くと虎嶺から聞いたので強引について来たんですよ」
「ハハハッ! あくまで自分のためだと言い張るか」
言い張るも何も本当なんだよな。
「寝室くん」
「は、はい!」
真名瀬学園長に声をかけられ、ピンッ! と背筋を伸ばす虎嶺。
「君は良い友人を持ったな。学生時代に出来た友は一生ものだから、大事にしなさい」
「は、はい!」
「それが分かっているなら、教育者として君へのこれ以上のペナルティは不要だと考える。本日をもって、君へのペナルティ期間は終了だ」
「あ、ありがとうございます!」
新名瀬学園長の大岡裁きに感激したのか、虎嶺が素直にお礼の言葉を述べる。
あんなに我がままお坊ちゃまだった虎嶺がこんなに素直な子虎になるだなんて、教育って凄いなと思いました。
チーパパって、ちーかわみたいな響きだな
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