刀剣の巫女ー5
ダイアリングの力は絶大だった。
先ほどでやきもきしたやり取りしかしてくれなかった受付嬢が――
「シルビア様がいらっしゃるのでしたら――」
と言ってすんなり別室に通してくれた。今はその別室でお茶を飲みながら、ドラゴン出現の資料を見ているところだ。
「……予想していた待遇とまるで違うのだが――」
ポロっと本音を言うと、メルとクレハが激しく首を振って同意してくれた。
「ふふ、これでも最高位冒険者ですから」
シルビアの持つダイアリングは第10位、最高位の冒険者と言っていいだろう。――聞いた限りブラックダイアは特例中の特例のようだからだ。
「ダイアリングの所有者は扱いが違うと聞いたけど、本当なんだね」
カルナが面白半分という様子で尋ねる。
「はい、そうですね。ギルドにはよくしてもらっていますよ」
にこやかに答えるシルビア。終始笑顔を崩さない彼女だが考えていることはまるで読めない。警戒が必要だ。
「シルビアさんってすごい人なんですね~」
ステラが尊敬のまなざしを向けていた。いつの間にかクレハとステラの心をわしづかみにしているシルビア。油断ならない相手だ。
「そんなに警戒しないでください、これから一緒に戦う仲間でしょう?」
「ム……」
警戒心が表に出ていたらしく、シルビアに注意を受けてしまうシュヴェリア。
一先ず、話を切り替えることにした。
「それで、ドラゴンの目撃情報はどうなのだ?」
「うん、結構入っているよ。大半は居てもおかしくないドラゴンだけど――」
カルナが示した資料に目を落す。内容を読んで驚愕した。
「これは――ハイドラゴンか!?」
「うん、情報通りならだけど――」
「ハ、ハハ、ハイドラゴン!!」
メルが叫ぶ。ハイドラゴンとはその名の通り、ドラゴンの上位種である。凶悪な力を持ち、それ単体で地上を支配できる程度の力を持っている。
流石にハイドラゴン相手ではシュヴェリアの手に余る。一度、魔王に戻って、出直す必要があるだろう。
(しかし、地上にハイドラゴンが出てくるなんてことがありえるのか?)
普通に考えればあり得ない。誰かが故意的に召喚しているなら話は別だが。
では、誰かが故意的に召喚しているとして、誰が――出来るのは魔王でも上位の存在だけだ。そんな人物が、魔界に反旗を翻すことになりかねない行為をするだろうか?
「でも、そのドラゴンが目撃されたのは1度きりのようですね」
シルビアが資料を漁り呟いた。確かに、この目撃情報は一度きり、それも全体像を見たわけではなく、首から上を見ただけのようだった。被害も出ていない。
「目撃者の見間違えかもしれんな」
御琴が呟く。確かにその可能性はゼロではないが――
(だとしたらここまで正確に特徴をとらえているのもおかしな話だ)
何にせよ、ここで何かが起こっていることは間違いない。
シュヴェリアはこの場所の地形を頭に入れると立ち上がる。
「何か起こっているのは明白だ。すぐにこの場所に向かおう」
嫌な予感がしたが、手をこまねいていても仕方がない。シュヴェリアは出発の準備を始めることにした。
――魔界のとある城
「来るのが遅くなり大変申し訳ありません」
1人の悪魔が玉座の間に訪れる。悪魔は深々と頭を下げて玉座の主に忠誠を示す。
「構いません。それで首尾はどうなっていますか?」
「は、例の件共々良好に進んでおります」
「良好ですか、アトライアスの件も問題なく進んでいるという意味でいいのですね」
「は、勿論です」
悪魔は再び深々と頭を下げると、頷く。
玉座の主はにやりと笑うと、手に持ったワイングラスの中身を飲み干す。
「ゴーゴンの時は思ったよりも早く対処されてしまいましたからね」
「申し訳ありません、軍の方はどうにか発見を遅らせることが出来たのですがまさか、アトライアス自信によって倒されてしまうとは……」
「流石に君も予想出来ませんでしたか、おかげでメルシュナがアトライアスの手に渡ってしまいました」
う…… 痛いところを突かれ言葉を呑む悪魔。ただただ、頭を下げる。
「まあ、賢者の近くに配置したのは私なので、私にも責任がある事ですが」
そんな、とんでもない。悪魔の言葉に耳を貸すことはなく、玉座の主は続ける。
「次まで失敗するわけにはいきませんよ、今後の動きに関わってきますからね」
「は!」
覇気のある返事を返し、玉座の間を去っていく悪魔。玉座の主はそれをみて満足そうに笑うと。
「さて、アトライアス、君はどんな回答を私に見せてくれるのかな?」
誰もいない玉座の間に呟いた。




