求めた見返りは
「く、国を出るって…どうして、」
「…このままここにいれば争いは避けられない。…お前を悲しませる事になる」
「……!」
彼は、私のために国を出ると言っているのだ。争いをしたくない私のために…、一緒にいるために。
「…ただ、この国を普通に出る事は俺達には出来ないだろうな」
…そうだ、ここの世界の事情はわからないけどきっと国を出るのって色々審査とかあるんじゃないの…?国の審査なんてしちゃったらエイジさんだって捕まってしまうし、それに私に至っては国籍すらない訳で得体の知らない女が現れた!って大騒ぎになっちゃう……!
「…国境を越えるにはディスペアウォールを通らないとならない」
「…ディスペアウォール…?」
「この国は軍事国家だ、外から攻め入られないように厚く高い壁が聳え立っている。自力では越えられない高い壁はいつしか絶望の壁、ディスペアウォールと呼ばれるようになった」
彼が言うにはこのアリスちゃんの家でさえ小さく見える壁が国境付近に建っていて、武装した兵士達が沢山見張ってるんだとか。
でもエイジさんなら1人でも超えられそうな気がするんだけど…ただ、私も一緒となると足手纏いになる分戦闘は避けられないかもしれないし…せっかくこうしてみんな助かったのにまた戦闘になったりしたら……
「そんな危険なのに私が居て大丈夫でしょうか…」
足手纏いにしかならない…そう顔を青くした私を見て考えてる事が大体予想出来たのか、彼は安心しろと前起きを置いてから何故か…少し悪どい笑みを浮かべた。
…な、なんでそんな笑みを浮かべているのですかエイジさん…?
「あいつにはそれなりの対価は払ってもらうつもりだ」
「対価…?」
…あ、あいつって一体誰の事だろう?
「詳しくは明日だ。今は少しでも身体を休ませろ」
そう言って彼は私を横にならせた。
…あ、そうだ。色々あって聞きそびれてしまっていた。気を失う前にアリスちゃんのお父さんが目覚めていたのを記憶しているけど…無事だったのか確かめたい。
「あの、エイジさん。アリスちゃんのお父さんはあの後大丈夫でしたか…?」
「ああ、大丈夫だ。今は一時的に筋力が衰えているだろうが問題ない。」
「……そうですか…良かった…」
ホッと息をついて安堵していると私の手を優しく彼の手が包み込んだ。
「……なぁ」
静かな彼の呼び声に返事の代わりとして顔を向けた。
「……他人の事なんて考えなくていい」
「…え?」
「お前は、危うい」
「……、?」
「自分の事だけ、考えればいい」
「エイジさん?」
俯く彼の表情は見えない。だけど、声が少し暗いような気がして…
「…!」
「ふふ、でもそれだと…あなたの事が考えられなくなってしまいます」
思わず彼の頭を撫でれば驚くエイジさんと目が合った。
「でも、心配…してくださったんですよね?…ありがとうございます」
「……お前は本当に…」
困ったように笑う彼。出会った頃には考えられないくらいに待とう空気が柔らかくなったと思う。……表情が出るようになったのもそう、一般的に比べたらそれでも少ない方かもしれないけど…。
最初の頃を知っているから尚のこと嬉しさが込み上げる。
…今こうして彼がそばにいる事は当たり前じゃない。だけど彼は当たり前のようにこうしてそばにいてくれるのだ。私を心配…してくれるのだ。彼の隣は安心出来るしそれこそ国境を越える事も彼が居れば大丈夫だと思えるくらい。物理的に強いのは勿論なんだけど、こう…気持ち的に、彼が居れば安心出来る。この気持ちは何なのか。今はまだわからないけど…
このまま、彼が必要としてくれるまでそばに…彼のこの世界での居場所が出来るまで私はそばに居たい。…もし彼に信頼出来る人が出来て私を必要としなくなる時が来たらその時は…パナケア様に元の世界へ帰れるようにお願いしよう。それまではどうか…許されるまで彼の隣に、
「…エイジさん」
「……どうした?」
「…もし、良ければ…私が寝るまで…一緒についていて欲しいです」
「!」
「……あっ、寝るまで、は少しわがままでした…その、少しの間でいいので……一緒にいて欲しいです…。いい、ですか…?」
…こんな事初めて言ったかもしれない…お母さんにすら言ったことなかった事だけど。…甘えるってこう言う事でいいんだよね…?迷惑になっちゃうかもしれないし、彼にはすぐにでも休んで欲しいと思う。だけど…マーサさんが言ってた私が思った事を素直に言う事だって……私は今、エイジさんにそばにいて欲しいと思った。
「……っ」
「エイジさん…?」
彼が口元を手で覆った。
…えっ…、や、やっぱり迷惑だったかな…?
不安そうな私に気付いたのか、彼は一瞬の間の後握っていた手に力を入れてからとてつもない大きなため息を吐きながら項垂れた。えっ、やっぱり迷惑…?
「あの……」
「……メイドのおかげってのが気に食わないが…」
「?」
私の頬を彼の手が優しく撫ぜる。
「言われなくてもずっとそばに居る」
「!」
彼があまりにも優しく笑うから、私もその言葉に安堵し釣られてふふっと笑った。
_____________...
朝日が差し込む室内、鳥の囀りで目が覚める。
「…起きたか?」
「……、…」
また閉じてしまいそうな瞳を頑張って開けばベッドの隣に座っていた彼が「だいぶ顔色が良くなった」と優しく声をかけてくれる。
窓から差し込む光に、あの後寝てしまったのだと悟った。同時に驚きで目も覚めた。
「……エイジさん……?…もそかしてずっとここにいてくれたんですか…?」
ベッドの横に座る彼は眠る前に見た姿とかわらず、私の言葉にフッと笑いベッドに頬杖を付いて目を細めた。
「ずっと一緒にいるって言ったろ」
「!」
た、確かに言いましたが…!まさか朝まで隣に居てくれるなんて思ってもなかった私は申し訳なさからか冷や汗をかいた。これはダメなやつだ…彼は甘やかしの天才なのかもしれない…!!あとその甘い顔やめてほしい…!私の心臓がもたない…!!まさか…これは巷で言うスパダリってやつなのでは…エイジさん恐るべし…こんな事が続けば本当に彼なしでは生きて行けなくなる。危ない。
これはむやみやたらと彼にお願い、と言うか些細な事で甘えるのはやめた方がよさそうだ。ごめんなさいマーサさん。
私が申し訳ない顔をしていたのか…はたまた考えていた事が顔に出ていたのか、彼は私の思考なんてお見通しなように「俺がしたくてしている」と当たり前のように一言。
「俺の事よりも、お前だ。もう体調は大丈夫そうだな」
「…っあ、は、はい…そばにいて下さってありがとうございます。……だいぶ身体も楽になりました」
「…前回よりも確実に治りが早い…まぁ検討はつく。心当たりがあるだろう?」
「…心当たり…?……あっ」
パナケア様の事だ。だがしかし、彼女に会った事の詳細を伝えてしまって大丈夫だろうか。昨日の事があったためなおさら………って思い出して顔が熱くなってしまった。押し倒されたとか、噛まれたとかその事はとにかく置いておいて…!…コホンッ、…彼はどうにも神様が嫌いなようだからあまり話をしない方がいいのだろうけど…どうしよう、言って良いのだろうか。チラリと伺うように彼を見ればフッと笑う。
「…もう大丈夫だ。夢で何があったのか聞かせてくれ」
「!…はい」
昨日夢の中でパナケア様と話した事をかいつまんで彼に伝える。魔法の起源が神様の力だと言うことはエイジさんも知らなかったようで少し驚いた様子だった。全て話終える頃には彼は何かを考えるように黙ったままで私は首を傾げる。
「……俺も、夢を見た事があった」
「夢ですか…?」
「ああ…夜が明ける事のない世界で神と名乗る者と出会った事があった」
「!…もしかしたら、その神様が黒魔法の起源なんじゃ…!」
「いや、お前が見たような夢じゃなかった。俺の夢は…」
エイジさんが言いかけた時、コンコンとドアを叩く音。慌てて返事をすれば入って来たのはマーサさんだった。私が起きているのを見て目を丸くする。
「レナ様…!!目が覚めたのですね…!」
「あはは…ご心配をおかけしました」
涙ぐみながら駆け足で駆け寄って来た彼女に頭を下げれば「心配しました…!本当にっ!」と半ば怒られつつ言われ、その勢いに少し身を引いた。あ、エイジさんがマーサさんを静止してくれてる。
「………まだ病み上がりだ」
「…っは…!私ったら取り乱してしまい…レナ様申し訳ありません。……もう起き上がって大丈夫なのですか?」
「…はい、おかげさまで」
こうして身体を起こしていても何ら問題もない。ねっと彼に同意を求めれば隣にいたエイジさんが目を細め微笑んだ。
「…エイジ様、ずっとレナ様の看病されておりましたが寝ておられないのではないですか…?」
「……1時間程は仮眠した。そうしないとレナが心配するからな」
「!」
彼は自身のためではなく私が心配するから寝たってこと…?そ、それはそれで良くない気がするんだけど…
「…俺の心配はいい、まずは自分の心配をしろ」
なぜだろうか、彼には全ての思考を見透かされている気がする。…でもやっぱり寝ないのは心配になるのでやめてほしい切実に。
そんな私の不満…と言うか不安が顔に出ていたのか、エイジさんが私の顔を見るとニヒルに笑った。
「お前には何を言っても無駄なようだからな」
「え?」
「他ばかり気にするようならまた''お仕置き''することになるが」
「!」
っお、お仕置きってっ…!!
昨日の噛まれた時の事を思い出して顔が真っ赤になる。またあんな事になったら私はきっと恥ずかしさで消えてしまうだろう。物理的に。
私は真っ赤になっているであろう顔を両手で隠した。
「……わ、分かりました……」
あまりに私の声が小さかったのか彼は喉で笑った。うう…エイジさん少し意地悪だ…。
でも私だって負けられない、いやそもそも勝負はしていないのだが今や彼は自由の身なのだからしっかりと食べて寝て健やかに過ごして欲しいのだ。まずは寝る事を覚えてほしい。
「……っで、でもエイジさんも寝てくれないと心配なので…その、しっかり寝てください………」
「……クッ…わかった」
「…約束です…」
私の困ったような顔を見て彼は目を細めた。なんだかんだでほっこりな空気が辺りを包むとそれを見たマーサさんが少し驚いたように口元に手を置く。
「あら……これは何か進展があったのかしら…」
彼女は含みのある笑顔でふふふっと笑っていて、何故かエイジさんと見つめ合っている。…いやエイジさんは何処か面倒くさそうにマーサさんを見ている気がする。キョトンとした私に「うふふ、何でもありません」となぜか嬉しそうにマーサさんが答えた。
私が不思議そうに首を傾げていれば今度は廊下の方からダダダっと勢いよく走る音が聞こえる。
「な、何の音…?」
段々と近づいてる気がする。
「レナお姉さん……!!!!」
「わっ!?ア、アリスちゃん…!?」
バタンと大きな音を立てて開いた扉。血相かいて入って来たのは寝起きだろうか寝癖が沢山ついたアリスちゃんで、ベッドで上半身だけ起こしていた私と目が合う。
私が彼女の名前を呼べば次第に目を目をまんまるにした。
「レナお姉さん?」
震えるか細いその声に、驚きと同時に彼女に心配かけてしまったのか…と一瞬で悟った。
ゆっくりと私がいるベッドに歩み寄る、そして震える声で私の名をまた呼んだ。まるで私の存在を確認するかのように。
「レナお姉さん」
「……はい、アリスちゃん」
「起きて大丈夫…?」
「……はい」
「どこも痛くない…?」
「…大丈夫ですよ、私元気です」
「…っレナお姉さん…!」
「ふふ、はい」
涙を溜めていた彼女の目からダムが崩壊したかのようにボロボロと涙が溢れ、ベッドにいる私に向かって勢いよく抱きついた。声をあげて泣く彼女に心配をかけてしまってごめんなさいと頭を撫でながら抱きしめるとさらに声を上げた。
「うわぁぁん!死んじゃったかと思った…!!良かったっ…良かったよぉ…!!」
「心配かけてしまってごめんなさいアリスちゃん。大丈夫です、私生きてます」
「ちがっ、違うのっ…アリスが謝らないといけないの…!!ごめんなさぃっ、ごめんなさいレナお姉さんっ…!!!」
「…アリスちゃん。もう大丈夫ですから…泣かないでください」
背中をポンポンとすれば震えている小さな身体が更に小さく感じた。心配かけたくないが故の事が裏目に出てしまってようで申し訳ない…。
マーサさんが困ったようにアリスちゃんの肩に手を置くも私から離れる様子がなく、顔を見合わせマーサさんと困ったように笑いあった。
「ズビッ…レナお姉さん、まだ無理しちゃダメだからね。」
「ふふ、うん…でももう大丈夫ですから心配しないで」
「……本当…?」
「うん、本当だよ」
鼻水を垂らしながらジト目でこちらを見るアリスちゃんに苦笑いをする。…私、信用されてないよね…?あはは…まぁ、こんな事の後だし仕方ないか…。そんな私達を見兼ねたマーサさんがその空気を切るように言った。
「そうでした。旦那様がレナ様にご挨拶したいと」
「!」
「奥様もぜひレナ様にお会いしたいと言っておりましたので、もう体調が良ろしいのであれば後程お連れいたしますね」
横でエイジさんが眉間に皺を寄せてる。そう言えばアリスちゃんのお母さんと馬が合わなさそうな感じだったもんな…。
そんな彼に苦笑いする。でも場所をお借りしているしお世話になっているからご挨拶はしないとダメだよね。
「そうなの…!!あのねっ、あのね!!レナお姉さん、ママとパパが起きたよ!!2人ともレナお姉さんに会いたいって!!」
「!ふふ、そうなんですね。私も会えるの楽しみです」
「では旦那様と奥様にはその様に伝えておきますね」
マーサさんに分かりましたと伝えれば彼女は一礼してからアリスちゃんの背に手を置いた。
「さぁアリスお嬢様、朝食のお時間ですしお着替えもされませんといけませんから。」
「……うん…。」
「それから、お2人がゆっくりとお食事出来るよう後ほどエイジ様の分とこちらにお運びいたしますので」
「あ、ありがとうございます…!」
マーサさんに連れられたアリスちゃんは納得いっていないようで、後ろ髪引かれるようにこちらを見た。
「レナお姉さん、アリスとも後でお話してくれる?」
「…ふふ、はい。喜んで!」
私の返答にパァと顔を明るくさせて手を振りながら出て行く彼女を見送りながらホッと安堵した。
「……、」
…ただ、理由はどうあれ泣かせてしまった事に胸が痛む。
「……どうした」
「!…えっと…」
本当に、彼は驚くほどに私の些細な変化に気が付いてくれる。いや、彼は本来元々人の変化に機敏な人なのかもしれない。だって凄く優しい人だから。
「…その、良かれと思っていた事でアリスちゃんを泣かせてしまいました…少し罪悪感があって……彼女は本当に優しい子です」
どう、伝えたらいいのか、私は困ったように笑う。
…心身ともに疲れていたであろう彼女に余計な心配をかけたくなかったし、アリスちゃんは…凄く賢くそして優しい。リスクがある事を言えば治してほしいと言えないかもしれないと思った。だからこそ伝えなかったのだがそれが裏目に出てしまうなんて…
「……でも、そんな優しい子だからこそ…彼女の大切な人を助けられて…泣かせてしまったけど、アリスちゃんが1人ぼっちにならなくて…私はそれが凄く、凄く嬉しいです…」
…辛ければしゃがみ込んでもいい、その後にまた立ち上がって笑ってくれるなら。
沢山泣いたっていい、その涙が後悔と悲しみの涙ではないのなら。
でも、そう思えたのも…実際にそうなれたのもエイジさんの協力あってだ。私の力だけでは到底成し得なかったこと。
「……どうした?」
「…ふふ」
彼を見れば目が合う。私が笑った事に対して少し首を傾げた。
「……エイジさん。私と出会ってくれて…力をかしてくれて…本当にありがとうございます」
お母さんを助けられなかった時のような辛い悲しい後悔はない。私でも誰かを助けられる
みんなを助けられたのも彼がいてくれたから、感謝してもし足りない。
そんな私の顔を見て彼は少し目を見張るとすぐに眩しいものを見るように目を細めた。
「……杞憂だな」
「…え?」
杞憂、とは一体何に対してのことだろうか?
フッと笑った彼に首を傾げるとその答えはすぐに返ってきた。
「…お前が、誰かを助けるのは自分が幸せになりたいからだと…言っていた事だ」
「…、?」
「……自分の幸せしか考えてないやつがする顔じゃない」
「!」
私は今、どんな顔をしていたのだろう?
…自分では見えないからわからない、けど…目の前の彼があまりにも優しく笑ってくれるから。……彼が嘘を言わないことを知っているから、ストンと…その言葉を受け入れられた。
______________
エイジさんと話をしながらほのぼのと時間を過ごしていれば、間も無くしてマーサさんが朝食を運んでくれる。
「…エイジさんもこっちに」
「…俺は…いい」
…エイジさん、森でもそうだったけどあんまり食べることしないんだよね…。でもせっかく今は自由になったんだし呪いもなくなったのだから沢山美味しいの食べてほしい。
「…一緒に食べませんか?」
「……いや、俺は…」
「エイジさん!人は食べて寝ないと不健康になるんですよ!」
「!」
「だから、一緒に食べましょう!それに一緒の方が美味しいです、ね?」
「……ああ、そうだな」
「俺の健康を気にするのはお前だけだ」と呆れたように言うエイジさん。だけどその顔が少し嬉しそうな気がしたので誘って良かったとホッと息を吐いた。
彼もしっかりと食べてくれるようで安心した私は窓際に設置されていたお洒落な丸テーブルに座る。ってあれ…よくよく考えたらここに来て初めてのちゃんとした食事なのでは…?
エイジさんも向かいに座り嬉々として料理を待っていれば続々と運ばれる食事。続々と……続々と…いや…あれ?なんだか……
「エ、エイジさん…これが朝食…なんですか…?凄く豪勢と言うか…」
「貴族の家ならばこれが普通だ」
「す…凄いですね」
マーサさんが「病み上がりなので軽いお食事にしておきました」と言ってたけど…目の前に運ばれて来たのは温かいスープと焼きたてのパン、山盛りのフルーツと何だか朝食のはずなのにとても豪勢で驚く。隣ではマーサさんとは別のメイドさんが美味しそうな紅茶を注いで静かに部屋を後にした。と言うか他にもメイドさんいたんですね…!(地下に閉じ込められてたらしい、と後にマーサさんに教えてもらった)それはそうか、こんなに広いお屋敷にマーサさん1人な訳ないよね。
流石はお偉い様のお家……あ、そう言えば…アリスちゃんがお父さんを「偉い人」って言っていたけど何をやっている人なのか聞いていない。エイジさんがお貴族様って言ってたけど、確か貴族って階級があったよね?あんまり詳しくはないけど…どのくらい偉い人なんだろうか。
「エイジさん、聞きそびれていたんですが…アリスちゃんのお父さんは何をなさってる方なんですか?」
目の前に広げられた美味しそうな食事に手を伸ばしつつ彼に何気なく気になっていた質問をすればさらりと返答が返ってくる。
「…この国の宰相だ」
「なるほど、宰相………」
…………ポトリ、今し方口に運ぼうとしていた物を落としてしまう。
…………え???さ、さいしょう…??
「さ、さいしょうって……国で2番目とかに偉いあの宰相ですか……?」
「そうだ」
「っええ!?」
なんだ、知らなかったのかと言わんばかりの顔。偉い人ってそんなに偉いだなんて思わないですよ…!!アリスちゃんお嬢様って言われてるけど本当の本当にお嬢様じゃないか…!
……え、私今からそんな偉い人に会うの…?
わっ、私…所作とかわからないけど、会って大丈夫なのかな…??って言うかそんな事よりもエイジさんも国の人に会ってしまったらまずいのでは…!?しかも宰相…!!宰相って軍事とかの指揮とかもしたりするよね!?
私の顔があまりにも青かったのか、エイジさんはクッと短く笑った後に「大丈夫だ」と答える。その表情は少し楽しそうな悪い笑みで。
…そ、その自信は一体どこから……
「……本当に大丈夫なんですか…?」
「…ああ」
慌てない彼を不思議に思いながらも豪勢な食事が終われば、良いタイミングでメイドさんが温かい紅茶を淹れてくれた。すっごく美味しい、何これ…香りも良くてホッとする味だ…と言うか食事もだけど本当にレベルが高い。さすが宰相様の屋敷だ…
現実逃避をしていれば食事も終わり一息ついたタイミングでマーサさんが入って来た。
「レナ様、エイジ様。お食事もお済みの様なので旦那様をお呼びいたしますね」
……ほ、本当に大丈夫なんだろうか。宰相様…めちゃくちゃ怖い人とかだったらどうしよう。と言うか素性とかを聞かれたらどうしたらいい??私国籍すらないしっ…この世界の知識何もないし…!!
「失礼いたします、お連れしました。」
「!」
「……来たか」
ぐるぐると考えていれば扉が開きひょこりと見知った顔が覗いた。
「レナお姉さん!」
「アリスちゃん」
私を見つけたアリスちゃんが駆け寄ってくる。可愛い笑顔で抱き付いてきた彼女を慌てて受け止めた。……うん、可愛い。
「レナさん…目が覚めたのね!」
「へっ?わっ、」
アリスちゃんに続けてシェリルさんも駆け寄り私の手をぎゅっと握る。ぐいぐいと顔を近づけるシェリルさんの圧に戸惑っていれば無言のエイジさんが間に入ってくれた。
「……レナが困っている、離れろ」
「あらあら、そんな事ないわ…ねぇレナさん?」
「へっ、あ、その…」
どうしてこの2人はこんなにも睨み合っているのだろうか。…シェリルさんもエイジさんも顔が綺麗なので尚更圧が凄い。と言うか怖い。
アリスちゃんが「ママとお兄さんって仲良いね!」と純粋な笑顔を向けてくるのでどうしたものかと困ってしまった。
「2人共、レナさんが困っているだろう。」
「!」
「…初めまして、貴方がレナさんですね。こんな姿ですまない」
「えっ、っは、はい…!」
「ふっ…そんなに緊張しなくても大丈夫だ。」
助け舟を出してくれたのはアリスちゃんと同じ瞳の色をした優しそうな男性。この人がアリスちゃんのお父さん…そしてこの国の宰相。思っていたよりも随分優しそうな人でホッと胸を撫で下ろした。まだ車椅子じゃないと動けないのか…少し頬がこけているがしっかりと喋れている姿を見て重ねて安堵した。「……元気そうで良かった、…」
そうボソリと無意識に呟いた言葉が聞こえたようで彼はフッと笑った。
「話に聞いていた通り、レナさんは優しい方のようだな。」
そう優しく笑うと車椅子から立とうとするマグリットさんをシェリルさんが支えた。
「改めて、私はマグリット・スカーレットだ。」
「わ、私はレナです…!」
「宰相と言う立場であるにも関わらずこの様な無様な姿を晒してしまい重ねて本当に申し訳ない。…それに、本来ならば私は君にも助けられていい存在ではない」
彼はエイジさんに目線を向けた。
……?助けられていい存在じゃないって…エイジさんが国を敵に回したからって、こと…?でもそれにしてはマグリットさんのエイジさんに向ける眼差しが優しいと言うか……どうも敵対しているようには見えない。
「これは、宰相としての立場の謝罪だ。そしてこれはアリスの親として…スカーレット家の主人として……」
そう言い彼は私に手を差し出す。
慌てて握り返せばマグリットさんは深く頭を下げそして両手で私の手を強く握った。
「っ私をっ、アリスとシェリルを…我が家を助けてくれて本当に…っ本当にありがとう……!」
「!」
「君達がいなければ今頃私は死んでいただろう、娘も妻も殺されていたかもしれない…!私達家族を救ってくれて本当に感謝しているっ…!」
____ああこの人は凄く、凄く、真面目で…そして誠実な人なんだ。疑っていた自分が恥ずかしいくらいに、怖い人だなんてとんでもない。エイジさんはきっとその事を分かっていたのかもしれない。
本当に、マグリットさんを…この家族を救う事が出来て純粋に、本当に良かった。
大声を出したからか、まだ本調子じゃないマグリットさんが咳き込む。すかさずシェリルさんが支えて車椅子へと座らせた。ハラハラ見守っていればシェリルさんもその横で頭を深々下げてくれて釣られるように私も慌てて頭を下げる。
「私は君達に何を返せば良いだろうか…、どうすればこの恩を返せる…、何でも言って欲しい。出来るお礼はさせてもらうつもりだ」
そう言われキョトンとした。全然そんなこと考えていなかった、と言うかお礼をもらうつもりで助けた訳じゃ……
「レナお姉さん何でも言って!!アリスも出来ること何でもするから!」
えへん!と胸を叩いて笑ったアリスちゃん。
「ふふ、ありがとう」
……うん、私はこの笑顔が見れたら満足だ。
「マグリットさん。…私は…あなたがその足で立って、前を向いてくれれば…生きてあなた達が笑ってくれたらそれがいいです」
「!」
驚いたようにこちらを見る彼にふふっと笑った。元々私は彼の呪いを解いただけで、エイジさんが居てくれなければ何も出来てない訳だし。
……と言うか恍惚としたようにシェリルさんに見られているのは何故だろうか…!あと後ろで舌打ちしてるの聞こえてますエイジさん…!!
「…本当に、シェリルの言ったように君は女神のようだな…」
「えっ!?っい、いえ!ただ私はアリスちゃんとの約束を守っただけなのでっ…!それに私は何もしてません、エイジさんが居てくれなければ無理でしたし…!」
ねっ!?っと彼を振り返れば思ったより近くにいて、そのまま手を引っ張られるとエイジさんは不機嫌そうに私を自身の後ろに隠した。
「……レナに聞いた所で見返りを求めたりしない」
「…そうか、なら君には何を返せば良いだろうか」
「……話が早い」
「エ、エイジさん?」
「俺とレナ、この国から出れるようにしろ」
「!」
「……なるほど」
驚く私を他所にエイジさんはさも当たり前のように言い放つ。後ろではシェリルさんとアリスちゃんがショックを受けた様に固まっていた。私もまさかエイジさんがそんな事言うとは思わず驚いて固まってしまう。
……っと言うかそんなことをこの国の宰相様にお願いしてしまって良いのだろうか…?
「……まさか、」
そこで私は昨日夜にエイジさんが言っていた対価を払ってもらう、の言葉を思い出した。こう言うことだったのか……!
ハラハラ見守る私を他所にエイジさんとマグリットさんは見つめ合ったまま動かない。目で会話してるような緊張した空気にゴクリと生唾を呑んでしまった。…エイジさん、流石にそんな願いは聞き入れてもらえないのでは…!
「わかった、君の望むようにしよう」
「…………いっ、良いんですか!?」
どうやら良いらしい。思わず突っ込んでしまった。驚く私にマグリットさんは「もちろんだ」と何故か嬉しそうに笑う。な、何で嬉しそうなんだろう…?と言うか楽しそうと言うか…
「ただ、少し時間がほしい」
「…どれくらいだ」
チラリとマグリットさんがシェリルさんとアリスちゃんに目線をやると何故か2人が悲願するようにマグリットさんを見ている。
「あなた、出来るだけ伸ばすのよ!」
「パパお願い!!」
マグリットさんの近くで2人が何か言っているみたいだけどよく聞こえない。何だか凄く必死なような……あれ、エイジさんの顔がどんどん不機嫌さを増して行く気がするんだけど……
「……ふむ。それでは1週間、はどうだろうか?」
眉間に皺を寄せたエイジさんは「長い、3日だ」と間髪入れずに即答した。
「ふっ…私の妻と娘のわがままは聞き入れてもらえないだろうか?」
「俺が聞き入れると思うか?」
「…君は優しい人間だからね。聞き入れてもらえるかと思っていたよ」
その言葉にエイジさんは不機嫌さを隠さず舌打ちをする。そんな彼をからかうように「冗談だ」と笑ったマグリットさんに私1人だけ会話の意図がわからずに首を傾げた。
と言うか、何だかマグリットさんとエイジさんって思ったよりも関係悪くないのだろうか…?そう言えば前に会った事あるって言ってたっけ…
2人にどんな経由があれど、エイジさんが本当は優しい人間だと言う事を知っている人がいるのは私も純粋に嬉しい。
ニコニコと微笑ましく見守っていれば、はぁ…と深いため息をエイジさんが吐いた。
「……それで」
「ふむ、3日で何とかしよう。2人の安全はこちらで必ず守る、出発までゆっくり休んでくれ」
「あ、ありがとうございます…!」
何はともあれ、私達は無事に国を出られそうです。
大変長らく空いてしまいました…
そして皆様気長にお待ち頂けたら嬉しいです…
次の章の前に番外編を挟みます、見づらいかと思いますが(いまだに使い方分かってないので章区切り出来ない笑)国を出るまでの間の話を挟もうかと思います。良ければ見てやってください。




