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7話 魔族の中のお姫様


「おい。聞いておきたいんだが、ここで本当に最後なんだよな」


「何度も言ってるじゃないっすか。ここが最後っすよ」


「そのセリフを何度もいう事に違和感を覚えてくれ。俺はここ数日でこの質問を二回して、二回も最後があったんだが」


「あー、そりゃ勘違いっす」


しれっと言うラルゴの胸ぐらをつかみ上げる。


「てめぇの勘違いだろうが、このアホウ鳥ッ」


「ギャーッ! なにするんすかっ! ここに住んでるのは魔族の中で一番礼儀正しく上品なお姫様っすよ! さわがないでくれっす」


目の前の、真っ黒な城を見上げる。月夜にぼんやりと浮かぶその城は人間のサイズの城だが、どこか不気味な雰囲気だった。ときおりコウモリが月と俺の間を飛んでいる。それもどこか気味が悪く感じた。

ここに魔族のお姫様が住んでいるらしい。……どんな外見だろうか。俺の貧相な想像力で想像するが、どうも上品とかのイメージの魔族がでてこなかった。

むしろこいつの仲間はどいつもこいつも曲者揃いで、でかいし怖いしでロクなことがなかった。しかも、毎回毎回すごいところに住んでいる上に顔を合わせるまでが非常に大変だった。


「よかったっすね。ここで一日ぐらいなら休めるっすよ。マスターも疲れたことでしょう」


「ああ、本当に死ぬかと思うぐらい疲れた。どこぞのバカが一日だけ付き合ってくれと言われて付き合ったら、当に数日過ぎているという事実に疲れを覚えている。そのうえ、一昨日はベヒモスに食われて死を覚悟して、昨日はレヴィアタンをよびに行くために滝壺に飛び込んで死を覚悟した」


「滝壺には俺っちも一緒に飛び込んでやったじゃないっすか」


「ああ。コイントスに負けたから仕方なく飛び込もうと準備運動をしていたら、ラルゴが後ろから体当たりしてきてその勢いで二人とも滝壺に落ちたやつな」


「……俺っちの目には滝壺を目の前に変な儀式がはじまったかと思ったんすよ」


「だとしても突き落とすなアホウドリッ!」


胸ぐらをつかんでいながら、大きく羽を広げてバタバタと暴れ出す。


「ムキーッ! 滝壺ぐらいなんすかっ! 俺っちは今日、火山で寝てるヨルムンガンドを起こしにいくのにマグマに飛び込まされたんすよ! その熱さと辛さに比べれば大したことないじゃないっすか!」


「飛び込んでねえだろ! ギリギリで飛んでたじゃねえか! つーか、俺とあってから初めて空飛んだろお前。マグマに落ちて生きるか死ぬかのギリギリに追い込まれねえと飛べねえ鳥とか、鳥やめろ」


「追い込まれて飛んだんじゃねえっすよ! マスターが今夜は焼き鳥か、とか俺っちをマグマに投げ入れながら言うから食われてたまるかと必死になったんす!」


「どっちみち寝ぼけたヨルムンガンドに食われてたじゃねえか」


「あれは一生もんのトラウマっす。俺っちは食うか食われるかなら食うほうがいいっす。食われると美味しくないんすもん」


「わけのわからん美学を持ち出すのやめろ!」


バチバチと睨み合って喧嘩になる。

一生懸命走って俺たちを送ってくれたシルバーが、疲れたように鼻を鳴らした。


「すまん。シルバー。一番疲れてるのはお前だな。よく走ってくれた。ありがとう」


大きな体を撫でる。俺とラルゴのために東奔西走してくれたシルバーが一番の功労者だ。

城の大きな門があかないことにラルゴが舌打ちした。


「ッチ。おっせえんすよ。まだあかないんすかね」


「これがさっきお姫様だから礼儀をわきまえろとか言ってたやつのセリフとは思えんな」


「すいません。三歩歩いちまいました」


「都合のいいときだけ鳥のふりすんじゃねえぞ」


再び三歩あるいて、わざとらしく首をふっていた。

そんなとき、ようやく扉が開く。重い扉がひとりでに開き、甲高い金属の擦れる音がしていた。内開きのそれは、来客を歓迎するかのように開いていく。そんな様子に気を良くしたラルゴが言った。


「ふははは! 今までの非礼を詫びよう! 俺っちのために尽くしたその行動に敬意と感謝を示し、汝の罪を許そう!」


その顔がいやに真剣に言っていたことが俺はすごく嫌だった。


「いちいち大げさなんだよ、テメェは!」


クルクルと羽を回転させながら言うラルゴに、ついつい手が出た。


「ぎゃーすっ! いやほら、礼儀ってもんすよ。厳格な城には厳格な態度でっていうじゃないっすか」


「……なるほど。魔族は城で態度決まるのか」


この魔王のデカい城にはデカい態度とか、そんな感じか?


「んなわけないじゃないっすか。っぷ」


「お前後で絶対シバく」


ラルゴが羽を二枚共、口の前で交差させ頬を膨らませてこっちを見上げてくる。

俺は見下すようにそいつを睨んでいた。見るからに憎たらしい表情だった。


「……よくぞ、よくぞお越しくださいました」


透明な声が、耳に届く。

開いた門より、慇懃に礼をして俺たちを迎える人の姿がある。

年のころは少女の出で立ち。銀の長い髪を赤いリボンで二つにくくり、地面に向けて垂らしている。その少女の面が上がった。それを見て、精巧につくられているかのような錯覚を受けた。なにかの手が加わっていると感じるほどに、その趣は整いすぎている。


「大儀であった。長く待たせ、辛い思いをさせたっす。再びあいまみえてくれることに感謝を」


ラルゴが珍しく丁寧に礼儀正しく礼をした。礼には礼をという精神は本当かもしれない。どこもそうかもしれないが王族というのは礼儀や社交に厳しいものだ。こいつも例外では……いや、よく振り返れば例外だった。たった一度のこの態度で騙されてはいけない。俺を滝壺に叩き落し笑うようなやつだ。


「よっと。こちら、俺っちのマスターのラドルフっす。切実にたのみがあるっす。一晩泊めてくれっす」


俺の肩にのってから言う。

礼儀はどこかへいったようで、ずうずうしく要求していた。


「ふふっ。いいだろう」


少女が年配のような言葉使いをすることに違和感を覚えるが、浮かべたその笑いはあどけないものだった。


「ラドルフと申したか。妾はヴラドという。そなたの活躍にはどのように示せばよいかわからぬぐらいだ。まずは、心よりの感謝を申し上げる。ありがとう」


「い、いやっ。俺は、そんな」


「ふむ。なかなかに謙虚だの」


「そうなんすよね。不器用でウブなくせに真っ直ぐな男っす」


ラルゴが言うとただの悪口だ。肩にのっている足を指で弾く。


「ぎゃっ!」


滑って転んだように俺の肩からずり落ちた。ギリギリのところで俺の肩に引っかかっている。


「はっ! 甘く見たっすね! 鳥にはかぎづめがあるんすよ! それは俺っちをして例外じゃないっす!」


ラルゴが、そう恰好よく言った後。


「あーーーーーっ」


俺の服を盛大に破りながら地面に落下した。


「……こいつ、マジでしんじられねえ」


「いや今のは正直、すまんかったっす。マジわりーっす」


「いや、服なんざまた買えばいいんだが。いかんせん金がねえ」


「妾が用意しよう。王のそそうだ。それをどうにかするのが我らが役目よな、白銀の」


「オンッ!」


無能な王を持つ臣下は苦労するらしいが、間違いでは無いらしい。

そうして俺たちは城のなかに招かれて通される。招かれたのは大きなエントランスホールであり、暖炉の前に豪華なソファー

がおいてある。自然の光は嫌いらしく、月の光を少し取り入れるだけで、代わりにロウソクを灯し室内を明るく照らしている。どこか暗いその城は、中もそのようだった。

ソファーに案内されて、ラルゴがソファーの上で羽を広げシルバーがソファーの隣で大きな体を横にした。その体を撫でる。ありがとう、と労った。かわりに舌が俺の腕を舐めた。お互い様らしい。


「マスター。風呂でもかりてくるっすよ。ちったぁみだしなみ整えるっす。明日はやっと人間の街っすよ。下手に似通った顔と体躯のやつばかりいるんで、人とちょっと違う見た目が特徴になるとかいう、見られることに過敏な人間の街っすよ」


そう言われてはっとした。あごに手をやればボサボサで頭に手をやればボサボサで。


「それもそうだな」


「妾もはじめ見た時は雪山のスノーマンかと思ったぞ。ついぞ人へのあこがれを形にして山から出てきたかと」


ヴラドがそう言うと、ラルゴが大笑いする。間違いないっす。そう言いながら腹を抱えて笑っていた。

そう言って小さな背中に案内される。ラルゴが「ゆっくりあったまるっす。疲れとれるっすよ」と、俺は風呂へと見送られた。

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