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始まりは、あなた――ライセム視点



 あなたの全ては俺のもの。

 それはもう、俺がこの世界に生まれ落ちた瞬間から決まってたんだよ。

 だからね、姉さん。あなたがどれほど嫌がろうが、どこへ逃げようが、俺は決してあなたを離さないよ。




 母神の胎に宿っているときから、俺の力は異質だった。

 もともと神族とはそういうものなのか、それとも俺が特別だったのかは分からないが、母神の胎内にありながら、俺は神々の治め、存在するこの世界に関する知識を有していた。さらに、はっきりとした意識を持ち、胎外の音を聞き取ることができた。


 そんな状況で、外の声を聴く限り、やはり母神の胎内にあっても、俺の力の桁違いの強大さ、それが創造神である祖父神に次ぐ規模であることは、外のやつらにも分かっているらしい。

 だから、神族のやつらの中には、俺の力が祖父神を脅かし、現在の神族間の秩序を乱しかねないとして、生まれる前に俺を消滅させてしまうべきだと主張する者も多くいた。まあ、そのうちの半分くらいは、俺の能力を面白く思わないだけのようだったが。

 神族だからといって、全てのやつらが清廉潔白に生きているわけではない。腐りきったやつらだっていくらでもいる。母神の胎内で、俺はそんなやつらにうんざりしていた。


 そんな周囲の態度に、父神と母神は困っていたようだったが、俺は別にこのまま消滅してしまっても構わないと思っていた。

 この世界の成り立ちや外の様子、果てはこのまま行った先の未来の状況まで、すでに知ってしまっていたから、ここで生まれ落ちたとしても、何も面白いことは無いだろうと考えていたからだ。

 他の神族のやつらのように、生き物の存在する世界を創り上げて育てていく、なんてことにも特に興味は沸かなかったし、退屈なまま気の遠くなるような時間を怠惰に過ごしていくぐらいなら、面倒事を背負ってまで生まれる必要などないだろう。


 生きることを望まない俺の意識と呼応するように、俺の生命力は徐々に弱まっていき、それに焦る父母神や逆に喜ぶやつらの気配が伝わってきたが、それにも特に心が動かされることはなかった。

 すうっと暗闇の中に還るように、俺という存在が消えていく、その過程をただ他人事のように感じながら、消滅するのを待っていた、ある日。


 ―――げんきに、うまれておいで。

 ―――おねえちゃんが、いろいろおしえてあげるね。

 ―――ふふ、すごくたのしみ。


 今の俺の状況を知らないのか、そう母神の胎内の俺に語りかけてくる声があった。

 舌足らずに話す、生命力に溢れた元気な声。

 けれど、澄んだ鈴音のような、柔らかく優しい声。


 その声を聴いた瞬間、俺は今までのやつらには感じたことの無いような、感情の高ぶりを感じた。


 この声の主は誰なのだろう。どんな子なんだろう。

 そして、その子は俺の何なのだろう。


 体の中に一気に湧き上がった好奇心に釣られて、俺は消えかかっていた力を最大に発揮して、外の様子を必死に探った。

 そうして、外を見ることまでは出来なかったが、聞き取ったやつらの声や、読み取った思考から分かったことは。

 彼女は俺と同じ父神と母神から生まれた姉であり、愛と豊穣の女神としての役割を持っていること。

 そして、その容姿は輝かしいほどに可愛らしく、将来は神族の中でも並ぶ者のないほど美しくなると言われており、そんな彼女を今から狙っている者も多いということだった。


 俺以外の誰かが彼女を手に入れる。そんなこと許せるはずがない。

 彼女は俺の唯一の姉だろう? だったら、彼女は俺のものだ。他のやつらが触れることも、見ることだって許せるはずがない。


 ああ、早く生まれなければ。

 姉さん、俺の姉さん。

 いったいどんな姿なんだろう。どんな顔であの可愛らしい声を発していたのだろう。

 母の胎越しにも伝わる、綺麗で優しい気配。傍にあればどれほど心地よいのだろう。

 知りたい、知りたい、そして、触れたい。


 俺の思考はすでに姉さんのことでいっぱいで、いきなり力を盛り返した俺に、驚く外のやつらの様子も全く意識に入ってこなかった。




 真っ白な光が俺の目を焼く。

 だが、そんなことに構わず、俺は必死に目を開けた。

 神族ゆえの身体能力で、生まれ落ちてすぐ俺の体は思うように動いた。


 寝かされた柔らかなベッドの上で、目を、持ちうる全ての力を使って、懸命に周囲を探る。

 傍にあるのは間違いなく姉さんの力の気配。柔らかで清らかな、恋しい気配。



 そんな俺を嬉しそうに覗き込んできたのは――――。



 ああ、ほら、見つけた。



 ねえ、俺はあなたのために生まれてきたんだよ。

 あなたが、消えようとしていた俺を生かしたんだ。

 だからね、姉さん、責任とってずっと俺の傍にいなよ。俺を退屈させないように。俺が俺自身と共に、つまらない世界を破壊したくならないように。



 ねえ、愛しい愛しい可愛い姉さん。いつだって、あなただけが俺を生かすんだ。



 やはり、ここまで書いておきたかったので……;

 つまりは、筋金入りということです。

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