【閑話】
「皆様、この度は私の洗礼巡礼にご協力いただきまして誠にありがとうございました。簡単ながら、慰労の場を設けさせていただきました。どうぞ、ご堪能いただければと思います」
タワーのように積まれた四皿のパンケーキを前にして、高らかに告げるシスター・セシリア。
「あ、ああ……」
「うざい」
「俺も、参加して良かったのか? 断ってしまったんだが……」
無事に学園へと帰ってきた俺は、シスターからのお礼をしたいという要望で、例のパンケーキの美味しいカフェへと来ていた。
断るかと思ったリニも、なぜだがちゃんと来てくれている。
カノンは帰ってきてから、少し変だった。
それに洗礼巡礼に参加しなかった自分がいって良いのか悩んでいたので、少々強引に連れてきた。
その方が俺の気が楽というのもあった。
──カノン、お前だけが頼りだ。
席の並びは不思議なことに、俺の左側にリニ。右側にカノン。そして正面がシスターだった。
──いや、確かに六人用の長方形のテーブルだけど。明らかにこれ、おかしいよね……
前に来たときとはまた別種の、奇異の視線が周囲の女性のお客さんから向けられている気がする。
「さ、さあ。食べようか」
俺はそれに耐えきれず、提案する。
「シド、お茶」
「あ、淹れ──」
「はい」
手ずから、リニがお茶を淹れてくれる。
その仕草はとてもてきぱきとしながらも優雅で、意外なほどに様になっていた。
しかし、残念なことに二人分だった。
自分の分と俺の分だけ。
それをみて、カノンが苦笑するとリニから引き継ぎ、もう二人分、お茶を淹れている。
「どうぞ、シスター・セシリア」
「ありがとうございます、カノンさん」
「旅はいかがでしたか」
「非常に有意義でした。シドさんがいると、本当に飽きませんね。そしてリニアスタさんのお陰でとても安全かつ楽に移動できました」
朗らかに告げるシスター。
「シド、あーん」
「いや、さすがにその……」
「あーん?」
少し悲しそうに繰り返すリニ。
俺はそんなリニを見てしまうと、もうダメだった。目を瞑り、覚悟を決める。
「あ、あーん……」
喉奥への衝撃に備える。
しかし今回は得物がパンケーキだということもあって、ふんわりとした着地となった。
「……二人は、旅の間はずっとこんな感じだったんですか、シスター?」
そんな俺たちに冷たい視線を向けながら告げるカノン。
「主に帰り道ですね。番ったばかりの男女というのは、とても微笑ましいものですね」
「つがっ! ゴホッ……ゴホッ」
俺はパンケーキが思わず変なところに入ってしまう。
「ふーん」
カノンの冷たい視線と声。
リニはそれらを一切気にした風もなく、新たに俺の口へと放り込む用にパンケーキの切り分けに余念がない。
「いや、その、あれはちが──わなくはないんだけど……」
「何も言っていないぞ、俺は」
そう、告げると淡々と自分のパンケーキを食べ始めるカノン。
「シド、口。空いているなら、次」
「あ、はい」
俺の口元に差し出される、リニのフォーク。
先端にはパンケーキ。
俺はカノンへの言い訳を諦めて口を開ける。
そもそも、別に俺とカノンは言い訳を言わないといけないような関係ではなかったのだが、なんとなく必須に感じられたのだ。
俺の開いた口の前で、ピタリと制止しているリニのフォーク。
あれ、と思って口を開けたままリニをみる。
じっと見返してくるリニの瞳。
俺とリニの瞳が見つめ合う。
フォークは動かない。
どうやら、リニは何かを待っているようだ。
「あ、あーん」
もしかしてこれかと、あーんと言ってみる。
リニがとても嬉しそうに笑う。
パンケーキが勢いよく俺の喉へと押し込まれてくる。
先程とは別の意味でむせる俺。
「見てられんな……シスター・セシリアも大変だったでしょう」
「私はとても楽しかったですよ」
「……そう、ですか」
呆れたように俺たちを眺めるカノン。
天使の微笑みを絶やさないシスター。
むせる俺と、珍しく笑顔をこぼすリニ。
パンケーキはまだまだ沢山、残っていた。




