身も心も
魔素暴走による人のモンスター化。それは一言でいって、見ていてとても気が滅入るものだった。
俺のパラメータ閲覧、人の場合で言えばステータスの閲覧では、その個々人の細やかな生体情報の数値まで、みてとることが出来る。
その数値から推測するに、魔素暴走によるモンスター化というのは最後の最後まで、人としての意識を有しているようだった。
人としての意識をしっかりと保ったまま、自らの肉体がモンスターへと変異していく。
しかも、その肉体の変異には途轍もない苦痛が付随していた。
人間であれば耐えきれずに死ぬか、少なくとも失神するほどの痛み。
しかし、体がモンスター化していく過程で強化されるようで、変異者は、はっきりと意識を保ってその痛みを全て感じないといけないようだった。
それはまるで、この世の全ての痛みという痛みを、身体中の穴という穴から押し込めるような感覚。
それを経験することで、意識は人から継続するも、精神があまりの激痛に変調していくのも、観測された。当然、悪い方向に。
そうでなくても、モンスター化することで、デフォルトで人の血肉への圧倒的な飢餓感が誘発されるように仕組まれているみたいなのだ。
それに上乗せされる、絶大なる苦痛。
それはまるで、魔素暴走を起こした存在が、生きていること自体をひどく憎むように、仕向けられているようだった。
そんな、人を化け物へと変える課程を俺はまじまじと見せられてしまう。
まあ、気持ちの良いものではない。おれ自身も転生特典の過負荷で、グロッキー気味だ。しかし今は、そんなことは些事だった。
魔素暴走を起こしているのは、俺がそうやって観測していた個体だけではなかったのだ。
俺の観測範囲内でも、数えきれない数の魔素暴走を起こしているのは生命体がいた。
──規則性、が、ある?
歪んだ視界の中、唯一はっきりとわかるパラメータ閲覧点の配置から、俺はそれに気がつく。
どうやら、魔素暴走には基点となる場所が存在するようだった。
そして今まさに裏ボスさんがその基点となっていると推測される場所に向かっていた。