入らない
高石のクラスメイトの千堂は、学校で一番可愛いと言われる美少女だ。
そんな千堂に告白されたことを高石は誰にも言っていなかったのに、何故かいつの間にか噂になっていた。
「なんで断ったんだよ?」
「いやー……」
河村に訊かれた時は曖昧に笑って誤魔化したが、その他のやっかんだ相手からの根掘り葉掘りの追及にうんざりして、高石は適当な理由を口にした。
「だって、あんまり可愛い子と付き合うと面倒くさそうでさ」
「まあ、嫉妬する奴はいるかもな」
「高石が面倒くさそうって言うの、ちょっとわかるかも。千堂って結構お嬢様っぽいからなぁ」
「付き合ったら口うるさかったりして。高石はそういうの嫌そうだよな」
普段の高石はどちらかというと無気力系の若者なので、「面倒くさい」という言い分は割とあっさり受け入れられた。
けれど、本当の理由はそうではない。
高石が、美しく性格も良い彼女からの告白を断ったのは、見てしまったからだ。
彼女の白い足首に爪を立てて、引きずられていく猫のような塊を。
高石の他には誰も気づいていない——千堂本人も気づいていないようだった。
それは一度だけだったし、別に何か恐ろしいことがあった訳ではない。
けれども、告白された時に真っ先にその時の光景が頭に浮かんだくらいには気になった。
猫のような塊は千堂には何も関係がなくて、偶々あの時だけ千堂にくっついていたのかもしれないが、普段から度々おかしな経験をしている高石はこういう場合関わらないのが一番だと心に決めていた。
告白されてからしばらく経って、放課後に教室で一人、鞄の中身を全て床にぶちまけている千堂をクラスメイトがみつけた。
「ねこ、猫、猫がいるの。鞄の中に入ったの」
千堂はうわ言のようにそう繰り返し、空っぽの鞄の中に手を突っ込んで必死にかき回していたそうだ。
それから少しして、千堂は学校に来なくなった。
小学生の頃、捕まえた野良猫をランドセルに入れて運び、マンションの非常階段から放り捨てたという千堂の噂がほんの一時クラスメイトの間で囁きかわされ、すぐに忘れられた。
噂が消えた頃、高石は街中で千堂を見かけた。
「あ。高石くん」
にこやかに声をかけてきた千堂は相変わらず美しかったが、何故か小さな巾着を二つも三つも手に持って歩いていた。
「鞄に猫が入ってくるから、猫が入らない大きさじゃないといけないの」
にこにこ笑ってそう言われて、高石はなんと返したらいいのかわからず、曖昧に頷いてそそくさと逃げ出すしかなかった。




