雨音
明日の数学で当たることを思い出し、夜は観たいテレビがあるので今のうちに片付けてしまおうと嫌々ながら教科書とノートを広げた。日曜の午後はただでさえ憂鬱だというのに。
さっさと片付けてしまいたいが、もともと数学は苦手だ。参考書とにらめっこしながらどうにか解いていく。
机にかじりついてしばらくすると、さー、と、雨の音が聞こえてきた。
雨が降ってきたのか、と顔を上げないまま思った。
朝から晴れていたのに、明日は雨だろうか、と頭の片隅でとりとめなく考えながらノートに式を書き込んでいく。
雨音はだんだん強くなっていった。さー、から、ざー、へと変わり、やがてざあああと土砂降りの音に変わった。
(すごい雨だなあ……)
ノートに目を落としたまま、高石は雨の音を聞いていた。
ようやく予習を終えて、高石は肩を鳴らしながら椅子から立ち上がった。
壁の時計を見ると四時をすぎたところだ。思ったより時間が経っていなかった。
窓の外を見ると、太陽はまだ沈んでおらず、明るい白い空が広がっていた。
今日は雲ひとつない青空だったので、夕暮れ前の時間帯でも随分明るい。
雨などまったく降っていない。
では、今でも聞こえるこの「ざあああああ」という土砂降りの音はなんだろう。
雨など降っていないのに、高石の耳には雨の音が聞こえる。
まさか、これは耳鳴りだろうか。もしかして突発性難聴というやつなのでは、と高石が焦って耳を押さえた時、彼の目の前で窓の外を青い傘を差した小学一、二年生くらいの男の子がたたたっと駆け抜けていった。
その途端、雨の音はぴたっと止まった。
高石の部屋は二階にある。当然、窓の外を人が走れる訳がない。
高石はしばらくその場に呆然と立ち尽くしていたが、やがて我に返ると恐る恐るカーテンを閉めて電気をつけた。
まだ明るいのにもったいない気もしたが、とりあえず今日のところはこれ以上窓の外を見ていたくなかった。
その後は雨の音が聞こえることもなく、カーテンを閉めた窓にもなんの異常も起きなかったが、高石は翌日になってからふと気になった。
雨の音が聞こえていた間、高石が顔を上げずに机にかじりついていた間に、もしかして何人もの人が窓の外を通ったりしていたんじゃないかと想像してしまい、傘をさして走り抜けていく人の姿のイメージがしばらく頭から離れなくなってしまった。




