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「奏は、看病されるという経験に乏しいんですよ」
解熱のための冷却シートを張り替えていると、呟くような声で理人が言った。
呼吸は乱れがちだがしっかりと会話できるほどには回復してきている。あとは滋養のつくものを食べさせて薬を飲めれば。などと考えながら、ルイスは相づちを打った。
身じろぎもせずに熟睡する奏を眺めて、理人が独白を続ける。
「家族との折り合いがあまりよくなくて……。体調を崩したら隔離されて、そのまま放っておかれたと言っていました。もちろん薬や食事は与えられたけど、逆に言えば接触はそれだけだった。静かなる放置です。親にとっては子どもより、自分たちの健康の方が大事だったのでしょう。まるでバイキンを見るような目で遠巻きにされていたと言います」
だから、と理人が熱に潤んだ瞳でルイスを見上げた。
「奏は本当に、風邪でも人は死ぬと思っているんです」
死ぬよ! と激昂した奏を思い返して、ルイスは理人を見下ろした。
「物心ついた時から、ずっとそうだったようです。具合が悪くて心細い中、手を握ってもらうことも、体を拭いてもらうこともなく、ただじっと布団の中で孤独に耐えていなければならなかった。側にいて看病してくれる人なんかいなかったんです。苦しくて死ぬかもしれないと思った事は一度や二度じゃなかったはずだ」
今でさえ若い奏が、更に幼かった頃から病床の孤独を経験していたのかと思うと心が痛んで、ルイスは知らず顔を歪めた。それはどんなに寂しくて、恐ろしいことだったろう。
疲れたように目を閉じて、理人が息を吐く。
「そういう不安から遠ざけようと側にいたのに……僕が倒れたせいで、結局奏を怖がらせてしまった」
だめだなあ、と気配だけで少し笑って、理人が再び眠りに落ちた。
はっきりしていると思った意識は、半ば混濁していたようだ。
奏が眠らなかったことを知っていたからには、理人もまた、ここ数日満足に眠っていなかったに違いない。
不器用な若い九々重とその連れを見比べて、ルイスはやれやれと肩を竦めた。




