7話 有能なメアリー
俺は訓練所を出てギルドの中に戻ってきた。
すると、戻ってきた瞬間に横から声をかけられた。
「あ、あの……ジンさんでよろしいでしょうか?」
声をかけてきたのは小柄な女性だった。後ろで結ったポニーテールが左右に揺れるのが見えて……可愛い。
なんだろう……見てると安心するというか。心がほっこりするというか。
俺はジッと彼女を見ていると、顏を赤面させて俯いてしまった。
「っと……はい、俺がジンですよ」
いきなり人のことを凝視するなんて、失礼だったな。……この人は俺に何の用があるんだろう?
「よかった~。人違いだったらどうしようかと思いましたよ~」
女性はホッと息をつ、花が咲いたような笑顔を見せる。
かわいい。
「よく俺がジンってわかりましたね」
「はい。ベルナさんに聞いてたんです! 『珍しい黒髪の男性』と聞いていたので、見かけてすぐわかりました! ……それで要件ですが、ジンさんの冒険者登録に伴い、『天職』の判別を行わせてもらいます!」
その女性は成し遂げました! と言った風に胸を張りながらそう答えた。
なんか小動物みたいで可愛い。
……ん? 天職?
「なるほど。……それで天職って――」
「――あ! 私の紹介を忘れてました。こほん……私の名前はクルルと言います。このギルドで受付の仕事を担当しています! よろしくです!」
……クルルさんって言うのか。
「では俺も……改めて、ジンって言います。まだ冒険者になったばかりの新人だけど、よろしく」
一応礼儀正しく自己紹介とあいさつをする。
第一印象は大事だからな。
「……それで天職って?」
さっきクルルさんと言葉が被って聞けなかった事をもう一度問う。
「はい! 天職については専用の部屋に案内するので、私のあとをついてきてください!」
そう言うとクルルさんは前を歩いていく。
その後ろ姿はとても小柄なため、俺の世界の中学生の少女の様だった。可愛い。
クルルさんについていくとギルドの二階のすぐそばにある部屋へ通された。
その部屋は中心にテーブルが一つある以外窓も何もなかった。ただ、その机の上には何かの機械につながれた水晶の玉のようなものが置いてあるのが見える。
「はい! それではこの古代魔具に手を置いてください」
クルルさんはニコっとして手で示す。
この水晶玉、古代魔具って言うのか。見た目は怪しい占い師が使いそうなインチキアイテムに見えるな。
クルルさん指示どうりに俺は古代魔具の玉に手を置いた。
これでいいのかな? と思いながらクルルさんに確認を取ろうとした。
「……おぉ?」
――すると古代魔具が仄かに光を発し点滅をし始めた。最初はゆっくりと点滅し、次第に加速していく。
……ちょっとびっくりした。
数秒もするとその光が収まり、古代魔具に繋がれていた横の機械から紙のようなものがが出てきていた。
「えーっと……天職は…………空欄?――それに種族も空欄? ……あれぇ? おかしいなぁ~、故障したのかな?」
その言葉が気になった俺も横からその紙を覗き見た。
ふむ。確かに、何も書かれてないな。綺麗に白紙だった。
……メアリー曰く、俺は機人族って種族のはずなんだが……天職は知らん。
「……あ、ジンさんには説明してなかったですね。種族も調べられるんですよ、この古代魔具。なんで調べるかと言うと、たまに『魔具』で変装してる人がいたり、身体的特徴を隠す人がいるんです。種族を偽ったまま登録するのはギルドの原則的にダメですからね」
「へぇ~。なんで隠したりするんです?」
そこだけ気になった。隠す意味あるんだろうか?
そう思った俺の質問にクルルさんは少し表情を曇らせ、言いづらそうに口にした。
「――この国は、人族以外への種族的差別が酷いんですよ。この辺りは田舎……辺境なのでそれほど酷くはありません。ですが、王都に近づいていくにつれて種族差別が激しくなります。ですが、種族はどうしてもハッキリさせないと色々と問題が起きますからね」
少し悲しそうに話して顏を伏せた。
…… 差別、か。確かにこのギルドの中を見たけど人族の方が多かった気がする。
正直にいうと、俺は別種族も見てみたい。
主に獣人族だけど。
……だって獣人族とかあれでしょ? 獣の耳生えてるんでしょ? 尻尾もありそうだし。
なんというか、気になる。
「あの、もう一度手を置いてもらっていいですか?」
自分の世界に入っていた俺はクルルさんの声で戻ってきた。
「あ、はい」
言われた通りさっきと同じように手を置く。
――パチっ。
ん? …… 気のせいか、手から小さなスパークが走ったのが見えた。
そして数秒後にまた隣の機械から紙が出てくる。
それを手に取ったクルルさんはさっきと違い笑顔になっていた。
「天職は無しだけど……種族は人族!」
「おお……?」
「よかったぁ……。古代魔具の故障だったらどうしようかと思いました」
はふぅ、と息を吐くその様子は……うむ、小動物だな。かわいい。
……にしても、おかしいな。人族? ……なんで?
「天職が無いのは残念ですが、裏を返せばなんでもできるということでもあるんです! なのでがっかりしないでください! では、この証明書はギルドで保管させてもらいます! あとは自由にしてもらって大丈夫ですよ」
「あ、おつかれさまです?」
「はい! これから冒険者として頑張ってくださいね、ジンさん!」
クルルは気分がよさそうに部屋を出て行った。
残された俺は水晶と自分の手を交互に見て首をかしげる。
「もしかしてメアリー。あの古代魔具になんかしたか?」
なんとなく俺はメアリーが起こしたことだと予想する。
気のせいじゃなかったら、電気っぽい何かが水晶に流れた気がした。クルルさんには見えてなかったみたいだけど。
『――流石はマスターですね。気づかれるとは』
「まぁな。クルルさんによくバレなかったな」
『はい。マスターにしか見えない微弱な電流を流したので問題ありません。――私が行ったのは魔道具内の情報の改ざんです。マスターの目を介して見ていましたが、単純な魔道具です。なので、情報の改ざんもあの一瞬で済みました――』
「なるほど。だから俺にしか見えなかったのか」
そりゃあの一瞬で起きたことなんてクルルさんはわからないか。ていうか、こっちをそもそも見てなかったな。必死に紙が出てくる機械の方を見てた気がする。
「で、なんで情報の改ざんなんてやったんだ? 機人族って問題あるのか?」
その疑問にメアリーが続けるように答えた。
『――この施設に到着した時から、周りをスキャンしておりましたが、一人として機人族はおりせんでした。そうなると、マスターも差別対象になるかと危惧し、独断で決行しました。お許しください』
「……いや、ありがとう。俺のためにしてくれたことだしな」
別に悪いことじゃない。まあ、見た目は人族だから別に種族を偽ってもいいのか……な? なんかすいません、クルルさん。
「……なぁメアリー」
『なんでしょうかマスター?』
「メアリーってさ。俺の体の中にあるAIって存在じゃなくて、|俺が立ってるこの世界に存在することはできるのか?」
なーんてダメもとで訊いてみたり。
『可能です』
「……マジで?」
『マジです』
その機械音声はいつもより感情が篭っているような気がした。
『――私をインストールするための体を作成してもらえると可能です。ただ、体を構成する物質は魔導機械でないといけません』
魔導機械か……。そんなもの簡単に手に入るのか?
「ふむ。その作成方法ってのは?」
正直、俺にものを作るなんて器用な真似は出来ない。
それも人の形をしたものを作るなんて、素人が作るには至難の業じゃないか?
『作成方法ですが、マスターが魔導機械に触れ、作りたいものをイメージし、魔力を流します。この三工程で作成可能です』
……あれ? 聞いた感じ、意外と簡単そうだな? まあ魔力を流すってところはわかんないけど。
「それじゃあ魔導機械、買いに行くか?」
とりあえず善は急げというやつだ。
はやくメアリーと話してみたい。
『残念ながらマスター。先ほど町の中をスキャンしていましたが、この町には魔導機械が存在していません』
「……一つも?」
『一つもです』
oh……。元になる素材がないんだったらどうしようもないな。
いきなり躓いてしまった……。
『マスター。この町に入ってから私は色々な建造物や魔道具をサーチしましたが、どれも五千年前に比べると文明が劣化しているように見えます』
「文明の劣化……」
五千年前がどれほど栄えた時代だったかは知らないが、メアリーがそう言うならそうなんだろう。
『それらの情報から推測するに、魔導機械が現存しているかすら怪しいと思われます。そして、機人族もマスター以外存在しているかどうかも不明です』
「……そうか」
それは、ちょっと残念だな。
いや、かなーり残念だと思う。
折角メアリーをこの目で見れると思ったんだけどな……。
「とりあえず、この町で生活できるようになってから色々と考えるか。その魔導機械にしてもな」
『はい。私はマスターに従います』
「よし。そうと決まれば依頼ってやつを受けに行くか!」
もしかしたらそのうち見つかるかもしれないしな、魔導機械。……見つかったらいいな。
そうして、俺は新たな決意をし、部屋を出て一階に降りて行った。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。
2019 十月五日 加筆と修正、改行などしました