8話 初めての依頼は手助けを。
さて、まずは簡単な依頼をこなしてみようと思う。が……やけに『視線』を感じるな……。
このギルドの一階に戻ってきた瞬間、何人かが俺をチラリと見たり、凝視したりと物凄く気になる。
……まあいいか。おおかた冒険者になりたての新人が気になるとかそんなところだろう。
さて、その『依頼』ってやつはどこで確認するんだろう?
なんとなく受付っぽいとこへ向かおうとしたけど、違うっぽいな。
受付にいる冒険者の人々を見る限り、何か手に紙らしきものを持って行っているように見える。
……ベルナさん、やっぱり説明は端折るとわかりにくいようです……。
まあそれを指示したのはおっさんだからおっさんが悪いな、うん。
「……誰かに聞くのが一番だな」
とりあえず俺は受付とは反対のテーブル側の席に座っている、木のジョッキを片手に一人飲んでいる男性に話しかけた。……強面でちょっと怖いな。
「あの、依頼ってどこで見れるんですか?」
「……あぁん? 依頼をしたいなら受付へ行ってきな」
「あ、いや……依頼を受けたいんですけど……」
「……黒髪にその安っぽい風貌――なるほど、ギルド長をぶっ飛ばした期待の新人ってのはお前だな?」
「えっと……まあ、それは確かに俺ですね」
黒髪だし、おっさんもぶっ飛ばしました。
……まあガード越しで吹き飛ばしただけだけど。
「――おー! やっぱり君が噂の新人くんだったかー!」
「!?」
その男性の言葉が皮切りになったのか、周りから次々と人がこのテーブルに集まってきていた。
俺に声をかけてきたのは皮で出来た軽そうな鎧を着た女性だった。
「訓練場で遠目に見てたけど、君のパンチ凄かったね! あのギルド長を五メートルもふっ飛ばすなんて、私ここにきてから見たことなかったよ!」
「……なに? 俺は十メートルは吹き飛ばしたと聞いたぞ」
「待て待て! ワシらが耳にしたのは吹き飛ばしてから壁にブチ当てたと……」
ワイワイガヤガヤ、と騒がしくなってくる。っていうか噂に尾ひれがついてないか……?
最初の女性が言ったことが事実から一番近い。
あと吹き飛ばされて壁にぶち当たったのは俺ですよ。どうなってんだあのおっさんの腕力。
「――やかましいぞお前ら! 俺ぁいま酒の最中なんだよ! とっとと散れっ! この暇人ども!」
酒を飲んでいた男性の怒号が飛んだ。それに肩をすくめる女性たち。
「はいはーい。……それじゃまたね新人くん!」
「……俺も依頼の完了報告をしてくるか」
「ワシらもあっちで酒を頼もうかのぉ」
最初の軽鎧の女性は、軽く手を振ってギルドの出口へ歩いていった。
次に黒いローブ姿の男性は受付へ。やけに背が低いが、とても通る声をしていた髭面のおじさんは少し離れた席に仲間らしき人達とテーブルについていた。その他にも多数人がいたが、それぞれ解散していった。
「ったく……、騒がしいったらありゃしねぇ」
そう一言言って酒をあおる男性。
「なんか、すいません」
この騒ぎは俺のせいだし、申し訳ない。
「あー……いい、いい。んでだ、依頼を受けたいんだったよな。依頼はあそこにある『依頼ボード』に貼ってるあるから、自分の実力に合った依頼書を見つけて受付へ持っていきな」
「あ、親切にありがとうございます……」
「別に構わん。……ほれ、俺は一人で酒飲みてぇからお前もさっさと行きな」
その人はシッシッという感じで手を振った。
顏に似合わず親切な人だ。
俺はお礼を言ってから強面の男性が教えてくれた『依頼ボード』へ向かった。
その木製のボードには色々な依頼内容が書かれた紙が貼りつけられていた。
ちなみに『依頼ボード』の近くには脚立のようなものが置いてあり、背が低い人でも紙がとれるよう配慮されていて、少し感心した。
「……にしても、いっぱいあるな。まあ初めてだし、簡単そうなやつからいくか……」
……と思っていたが。貼ってある依頼の紙には、薬草摘み、ゴブリン討伐、ビッグホーネット駆除。……どれもランクⅠから受注可能と書いてある。
内容的には近くに群生している薬草の採取や、俺が散々歩いていた森とかに棲んでいる魔物の討伐といった内容だった。
「にしても、『家の掃除』とか『紛失物の捜索』ってなんだよ」
中にはそういった生活感が漂う依頼もあった。
めちゃくちゃ楽そうだけど、冒険者ってこういうことも請け負うのか? まるで何でも屋みたいだ。
……まあとりあえずこの『ゴブリン討伐』を手始めにこなしてみるか。……一度森の中で相手にしてるしな。瞬殺だったけど。
そうと決まればその依頼書を手に取り、俺は受付へ向かう。
「――ダメってなんだよ!?」
受付へ向かう途中、そんな声が聞こえてきた。
近づいていくと、いくつかある受付の一つでなにやら騒いでいる者がいた。
「なんでだよ! 適正ランクⅡ~Ⅹって書いてある! 俺はランクⅡだぞ!」
「えっとね。その『ゴブリンの群れ討伐』は君には、ちょ~っと早いんじゃないかなぁ? すごく危ないよ? 下手したら死んじゃうよ? ……だからもう少し武器の扱い方を学んでからがいいと、お姉さんは思うな~?」
その少年は受付台に乗り出し、首に下げていた『プレート』を見せつけながらそう怒鳴っていたが、受付嬢は困った表情をしながら諭すようにそう言ってたいた。
ふむ? 俺は持ってないけど、あのプレートにランクとかが刻印でもされてるんだろうか? と少し気になった。
受付嬢は続けて優しく諭し続けていたが、少年はさらにわめき散らす。
「――うっさい! 採取の依頼を繰り返してやっとランクⅡになれたのに……ゴブリンなんて低ランクの魔物だろ! それくらい俺にだって倒せる!」
それでも少年は引かなかった様子。受付嬢はため息を吐いて頰に手をついた。
「はぁ……。あのね、カイル君。私はあなたの心配をしているのよ? その年で冒険者になったこともそうだけど……私も長年受付業をやってきたけどね、カイル君は碌に武器なんて使ったことないでしょ? 私にはわかるの。それに、今言ってた採取の依頼だけを繰り返してやっとこさランクⅡのカイル君には、この依頼は荷が重いの。わかってちょうだい」
図星を突かれたのか、その少年は黙って俯いてしまった。
どうやらこの少年の名はカイルというらしい。
少しくすんだ鉄の胸当てに皮のブーツと手袋。そして背中の鞘に納められた刀身が短い剣。
冒険者の基本……って感じの装備だな。……
まあそれよりも……歳は十二くらいか? こんな子供でも冒険者になれるんだな。
それっきり喋らなくなったカイル少年を一瞥して、受付嬢は手元にある書類に目を通し始めていた
俺はその二人から視線を外し、依頼書をべつのカウンターへ持っていこうと足を動かし始める。
「……母ちゃんの、病気の薬買うために、金が必要なんだよ……」
――俺の耳以外には聞こえないような、小さな呟きを拾ってしまった。
「……」
……母ちゃん、か。
……ふと、母さんの顏が浮かんだ。
しょうがないな――。
俺は踵を返してカイル少年のいる受付へ近づいていく。
それに気づいた受付嬢はニコっと営業スマイルを浮かべお辞儀をしてくる。
「ご用件はなんでしょうか?」
「えっと、この少年と一緒に……コレ、『ゴブリンの群れ討伐』を受けたいんですけど」
俺は近くにいたカイル少年の手から紙を半ば強引にとり――受付のカウンターに置きながらそう言った。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。
2019 十月五日 加筆と修正、改行などしました




