2話 体の異変
本日三話目です。
どれくらい歩いたんだ?
歩けど歩けど森の中。……うむ。都会と違って空気は美味い。都会っ子の俺には中々ない体験だ。
「んで、いつになったら人に会えるんだよッ!」
空に吼えた。……あ、空に鳥が飛んでるなー。
って違う! ホントに、いつになったら人がいるような場所に出るんだ?
ていうか、いまさらだけど俺の恰好ってかなりひどいな。裸に布一枚て。原始人かよ。
こんなんで人に遭遇したら絶対通報もんだぞこれ。人に出会った時の言い訳、考えないとな……。
そんな事をブツブツと呟きながら歩いているが、変わらぬ景色に俺は嘆息する。
「……腹、減った」
ググゥ~……と腹が鳴った。いつもと違う腹の虫だ。空腹感に違いないけど。
「あー……母さんの御飯が食べてぇ……」
腹をさすりながらそう呟く。
あのまま強盗がこなかったら、母さん特製のハンバーグが食べれてたはずなんだよなぁ。
……ちくしょう。強盗に怒りしかわいてこない!
……それにしても、俺ってどれくらい寝てたんだ?
あの後撃たれてから救急車に運ばれて、手術したとして……数ヶ月か? 数ヶ月も意識がなかったって、ヤバくないか?
…… 大体、俺って怪我自体あんましたことなかったからなぁ。ふっ、伊達に体を鍛えてないぜ。
そのおかげか入院なんてしたことなかったし、どれくらいの日数で怪我が治るかなんて、わからんな。
「うーん、無知が嫌になるな」
と、ひとりごちる。なんとも寂しいものだった。
前方に目を向けると、まだまだ森は続いていた。
ウンザリして溜息を吐き、歩くのを再開する。
いい加減、景色が変わらないのは飽きる。
―◇◇◇◇◇◇―
歩いている途中に木の実らしきものが生っている木や、見たことがない花が地面に咲いているのを見つけた。
ここ、外以前に日本か疑わしくなってきたぞ? いや、だってーー。
「ギャッギッャ!」
……俺の目の前にいるこの現在不思議な踊りをしている生物は、一体なんなんだろう。
「グギャ?」
さっきから耳障りな声を出しているのは、目の前にいる背が小さい緑色の皮膚の生物だ。
なんかすげー不細工な顏してるし、人じゃないな、うん。……だからってそこが判断基準じゃないけどね?
それに人はこんなに体に悪そうな皮膚の色してねぇぞ。
それに骨格からして違う気がする。
あと「グギャ」ってなんだ。鳴き声なのか? うん?
「なぁ……。お前なんなの?」
俺は試しに話しかけてみた。
……実はなんとなくこの生物が何か知ってる気がする。主に友達に借りていたゲームで知った知識だが。
そう確信するにはまだ早すぎるか? でもなぁ……。
「ん?」
その緑色の生物は腰の後ろに手をまわし、なにかを取り出した。
「ゲギャギャ!」
腰から取り出したのはお粗末な木の塊。
……棍棒と呼べばいいのか。
そんな武器になりそうなものを取り出し、嗤った。
「……それでどうすんの?」
さっきから言葉が通じているのか怪しいけど、コミュニケーションは大事だ。
その生物は一瞬キョトンとすると、ーーーー俺に向かって飛びかかってきた。
「ッやっぱりそうなるよな!?」
俺はその飛びかかりをバックステップで避け、そのまま距離をとる。
その時、頭の中で機械音声が聞こえる。
『インストール完了。アシストを開始します』
「はい?」
え? なんだ今の声? インストール? アシスト?
頭の中から聞こえてきた?
「ゲギャギャギャギャ!」
……いや、今はこいつに集中だ。
つーか、ゴブリンだろこいつ。
そのゴブリンは俺が避けたのに気づくと再度飛びかかり、さっきと同じ様に棍棒を振り下ろしていた。
それを同じように避ける。二度目の攻撃で仕留められないのを確認したゴブリンは、こちらを睨みつけながら突進してくる。
一挙一動見逃すな! 棍棒で殴られたらまた怪我しちまう!
俺はジッ……とそのゴブリン注視していた。
その時、また機械音声が聞こえてくる。
『種族名<ゴブリン> 個体名<不明>』
お、やっぱりゴブリンじゃん……はい?
……俺、幻聴聞こえるようになっちゃった? もしかして寝てる間に頭弄られちゃった? ……マジで?
そんなことを考えてる間にも、ゴブリンは迫ってきていた。
だがさっきよりかなり遅い。この程度の速さなら……。
俺は『構え』をとってその場で待ち構える。
……打撃が通用するかわかんねぇけど、俺のこの拳をコイツにぶち込むだけだ……!
「来やがれッ」
「ゲギャァ!」
ゴブリンは奇声をあげながら振りかぶる。
それを俺の左足にブチ当てようと振り下ろすが――ちゃんと見えてるぞ。
即座に足をスイッチし、避ける。ゴブリンの棍棒は空振り地面を叩き、砂埃が上がる。
スイッチした軸足を踏ん張り、がら空きの顔面に蹴りを放つ準備をする。
ーその時また機械音声が響く。
『戦闘状態を確認。ーー自動アシストを開始します』
……また幻聴?アシストって聞こえたな……なにを?
だが考えてる暇なんてないと判断した俺は即座に意識を目の前のゴブリンに戻す。
聞こえてきたのは聞きなれない、機械音。カシャンカシャンと小さな音――ーーそれもそのはず。俺の左足が『機械』の脚に変貌していた。
「ふぁっ?!」
そのまま蹴りを放ち始めていた俺の足が、予想以上の加速を得て蹴り抜かれる。
ゴウッ!
狙い定めていたゴブリンの頭に轟音を上げながら俺の蹴りは飛んでいきーーゴブリンの頭を消しとばした。
頭が無くなったゴブリンの体は、ゆっくりと後ろに倒れていった。
それと同時に、機械に変化していた俺の左足はまたもや機械音を出しながら元に戻っていった。
えーっと……。
「どゆこと?」
俺は目が点になり、ポツリと間抜けな声でそう言った。
―◇◇◇◇◇◇―
「待て待て待て。俺の体、改造されちゃった?」
そんな事を言いながら俺はさっきからシャドウボクシングならぬ、シャドウ組手をしていた。
正拳突き、回し蹴り、後ろ蹴り、膝蹴り。激しくステップを踏みながら仮想の相手に組み手をしている。
空手の技をいくつかしてみたが、さっきみたいに左足は機械にならなかった。
おかしいな~? さっきのは俺の幻覚か?
幻聴が聞こえる、幻覚が見えるしで本格的に俺の体弄られてる? 改造人間デビュー?
シャドウ組手を続けたが、特に変化はなかった。
「うーん、変わらないな……。なんだったんださっきのは」
五分ほど続けていたシャドウ組手を終了した。
なんか体が温まったな。
それにしても頭に響くような声、か。
「よし」
――ものは試しだ。
「おーい。俺の声聞こえてるか?」
誰となく話しかけてみる。これで返事がなかったらただの痛いやつだし、やっぱり頭がイッてる。
……だが、特に返事は来ない。
「はっ……痛いやつになって」
『お呼びでしょうか、マスター』
「――うわぁお!?」
返事が来た。ヘンジガキタ。
「しゃ、しゃべりやがった!?」
『はい、喋ります』
その声は無機質な機械音声だったが、なんとなく女性の声に聞こえた。
幻聴じゃない!? 待て、落ち着くんだ風祭仁!
深呼吸だ。吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸って……
『どうかしましか? 心拍数が上がっていますよマスター』
「うわあやっぱり聞こえる! 俺の幻聴じゃなかった!」
どうする! これは俺の頭が、脳が弄られたと考えるべきか……!?
どこの誰が俺の頭にこんなもん仕込みやがった!? ちくしょう!
俺は心の中で叫びながら頭を抱えた。そこに機械音声は空気を読まずにこう喋った。
『具合が悪いのでしょうか? ……辺りのマッピングを開始します。――マッピング完了。ここから二キロ先に人族が大勢住んでいる町があります。そこで休憩の提案をします。 マスター』
いや、別に具合は悪くないけどさ。ちょっと精神的に錯乱しちゃっただけだよ?
それにしても、こいつが言ってる事本当なのか? 俺を騙そうとしてるんじゃないか?
疑っていくんだ俺! どう考えても怪しさ満点だぞ!
『マスター? 動けないのならアシストしますが』
「いや! 大丈夫だ。普通に歩ける」
アシストってまた足が機械になんの!? やめて!
これ以上変なことされたら流石に俺の処理能力じゃ脳がパンクする!
『そうですか。では、道を視界に表示しておきますね』
機械音声がそういうと、俺の視界に何かが写り始める。
マジか。俺の体、ロボットにでもなったのか?
俺の視界には今、道しるべが表示されていた。
地面に光の線が走っており、なんとなくその線を消えろと意識すると、フッと
消えた。
また、出ろと意識すると出る。
便利だな。これだと絶対に迷わない。まあこれが本物の道標とか限らんけど。
脳が半分思考停止している。なんか今を受け入れ始めてるから、勘弁してほしい。
「よくわからんが、ありがとよ」
聞こえてくる声にお礼を言う。
もうなるようになれだ。
この声がやってくれてることは、今のところ害はないし、寧ろ助けてくれてる……よな?
今いる場所さえわからない俺には心強い味方みたいなもんだな。
『どういたしまして。それではまたお呼び下さい』
そう言うとそれっきり声は聞こえなくなった。
さっきみたいに呼べば話しかけてくるのか?
……まあいいや。
せっかく道を教えてくれたんだ。それに従って進んでくかな。
思考を切っておもむろに歩き出した。
十分ほど道しるべを辿って歩いていくと、森を出た。おお、ナイス道標だな。
そこから先は見渡す限りの広い平原だった。初めて見るその自然に俺は感嘆の声を漏らしてから、後ろを振り返る。
それにしても、かなり広い森だったな。ゴブリンなんて有り得ない生物もいたし、どうにも地球とは思えないなぁ……。
あんないきなり襲ってくる生物がいるなんて、もう間違いないだろう。……町で情報集めて、そん時にしっかり断定するか?
とれあえずまだ続いている道しるべに従って進んでいく。
さらに十分ほどすると、なにか壁に囲まれた町らしきものが見えてきた。どうやらあの声が言った通りだったらしい。
そこで俺は思い出した。
「……言い訳考えるの忘れてた」
着ているものは布一枚きり。完全に不審者な俺はどうやって町へ入るか考えながら歩いていった。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。
2019 十月五日 読みやすいように改行や加筆、修正しました。