3話 その名は『機人族』
唐突なんだが、俺は服を盗まれた村人、という設定にしようと思う。
……ここら辺に村があるのかは知らないけど。
何故そんな事をだって?
……そんなの決まってる。現在俺が身につけてるのは、腰布一枚だけという現実。……つまり服を着ていないという事実。
作戦はこうだ。人に会って怪しまれたらまず「服を盗賊に盗まれてしまったんです!」と言う。
……盗賊がいるかは知らん。
そして次に言われる言葉は「それは可哀想に! さぁ、気にせず町に入って!」と言われると予想する。
……以上が俺の考えた無謀な作戦だ。笑ってくれる人はいないな? 当たり前だ。
「そもそもこの世界が地球じゃなかったら、別に捕まらないよな? ……多分。そうだろ? えーっと」
そこで言葉を切った。
あの声の主は、なんて呼ぼうか。
……なんとなく女性っぽかったし、可愛い名前でもつけたらいいのか?
いやいや、もしかしたら既に名前を持ってるかもしれないな。よし、そこんとこ聞いてみるか。
「おーい。聞こえてるかー?」
『お呼びですかマスター』
お、反応してくれた。
「アンタ……っていうのは失礼か。君って名前とかあるの?」
なんとなく女性っぽいし口調を改めておくか。
俺は紳士だからな……!
傍から見ると独り言を言っている変人だな、俺。
まぁ今はあたりに人がいないから……よし、問題なしだな。
『個体名ですか。……特にはありません。私はただの機人アシストAIですから』
「そ、そうなんだ」
機人アシストAI? なんとも聞いたことないが単語だな。いや、AIはわかるよ? あれだろ? コンピューターがなんちゃらだろ? いやごめん、やっぱわからんわ。
……けど、名前はないってことでいいんだよな? ……そっかそっか。
じゃあ、俺がつけてもいいよな? 俺をアシスト? するAI? みたいだし。
……なんだろう。初めてペットか何かに名前つける時ってこんな感じなのか? ちょっとワクワクするっていうか……言葉に言い表せないな、これは。
「よかったら名前をつけようか? 呼び出す時わかりやすい名前があったほうが俺としても助かる」
『それは是非。私のマスターはあなたです。決定権はあなたにあります』
だそうだ。そうなるとなんて名前つけようかな。
花子、とか? それとも鉄子とかかな? え?古い?まさかぁ……。
でも、日本風の名前はなんか似合わないな。……うーん、俺ってセンスないからなぁ。
――そこでふと思い出した。子供の頃にプレイしていた、RPGゲームのヒロインの名前を。
……よし、決めた。
「ーー君の名前は今日からメアリーだ。よろしくメアリー」
『メアリー……私は、メアリー……。こちらこそ、よろしくお願いします、マスター』
機械音声だが、なんとなく喜んでいる気がしなくもないな。
メアリーというのは、俺が好きだったRPGに存在するヒロインの名前なんだが、気に入ってくれたようだ。
良かった良かった。とりあえず名前は決まったし、なんだかいい気分だ。
「よっこいしょ。……いつつ」
作戦考えてたから道に座ってたんだよな。腰の布越しだったけど、ちょっと尻が痛い。
けど、名前がついたおかげで話しかけやすくなったな。
「なぁメアリー。ここってどこかわかる?」
俺は漠然とした質問をする。
もしかしたら知ってるかもしれない。知らなかったらまぁそれでもいい。
そんな期待を込めて聞いてみたのだが、予想以上な質問が返ってくる。
『ここ、とはどこでしょうか? この世界の事ですか? それとも付近の地名の事でしょうか?』
歩き出そうとした足を止めてしまう。
……その訊き方だとメアリーさん……どちらも答えられる言い方では?
そう思って俺は訊いてみた。
「どっちも教えてもらっていい?」
『了解です――まずこの世界の呼称は『カバルーン』。太古の昔、六人の神が創った世界……と言われています。そして次にこの付近の地名ですが、現在保有しているデータと一致しないため不明、と言っておきます』
メアリーはそう答えた。
……へぇ、カバルーンね。カバルーン……。
そして地名はわかんなかったと。まぁ問題ない。
それに現在保有しているデータね……。結構物知りだったりするのかな? この子は。
まぁそれものちのち聞けばいいか。それよりも……
「やっぱりここ、『地球』じゃなかったな……」
ガックシと擬音が付きそうな勢いで膝突き、手は地面を叩いた。
「オオ…オオオ……!」
薄々そんな気がしてた。ゴブリンなんてもんがいるし、そもそも見たことがない数字? を見た時点で察するべきだった。
それに一番の問題はーー母さんの御飯がもう食べれないってことだ!!!
「ヌアアアアアアッ!!!」
っそんなのただの拷問じゃないか!
ちくしょうっ!……絶対に元の世界に帰ってやる……! 絶対だ! 母さんの御飯が食べれないなんて、考えられない!
確固たる強い意思を心に刻み、俺は立ち上がる。全ては、母さんの御飯のために。
『どうしたましたかマスター? 一瞬生命反応が乱れ、奇声が聞こえましたが……』
「いや、なんでもないよ。……それでさ、他にも色々聞きたいんだけど、いい?」
『もちろんです。なにを知りたいのでしょうか?』
「えっと……」
それから俺は歩きながら気になったことを色々訊いてみた。
結果、半分教えてもらえて半分不明だった。
主に地名が不明だ。
聞くところによると、メアリーが作られたのは今から五千年も前らしい。そんなに昔なの? と驚いたのはご愛嬌。
さっき言ってた保有データと一致しないっていうのはそういうことだ。時が経ちすぎて現在と昔の地形が一致しないってことだな。
それについては納得した。
……けどな、これだけは納得いかない。
俺の種族だ。普通はこの見た目で人間だと思うだろう? けど違うんだよ。いや、もう九割くらいわかってたんだけどね?
「俺の種族が機人ってなんだよ!?」
とりあえず、叫びたい気分だったんです。
俺、自分の事人間だと思ってました。
……なんて、すいません嘘です。
実はゴブリンの頭を消しとばした時点で割と疑ってました。はい。
体を改造された、とかそういうことじゃなくて、最初からこういう身体の種族らしい。つまり、どういうことか?
「転生……」
それしか思い浮かばない。友達から借りた小説にそんな設定があった気がした。……まあなんにせよ別世界に来たってことだな。
……でもまぁ、まさか人をやめていたとは驚きだ。
とにかくもっと詳しく聞かないといけないな。
まだ俺については種族名と体のことしか聞いてなかった。
「で、その機人のこと詳しく聞いてもいい?」
『はい。――機人とは、それぞれの神々が創造されたと言われる種族の一つです。この世界には六つの種族が存在してます。人族。土人族。森人族。獣人族。竜人族。そして、マスターの種族である機人族です。尤も、私が作られた時代のデータですので、現在の状況は変わっているかもしれません』
「へぇ~。他にも結構色んな種族がいるんだ。なんか……ゲームみたいだな」
まぁ正直に言うと、普通の人族がよかったな。なんでかって? もし元の世界に帰れたら苦労しないからだな。……こんな体で帰ってもいつかバレるだろ!
『説明を続けてもよろしいですか?』
「あ、ああごめん。話の腰を折ってしまった」
いかんいかん。落ち着け俺。母さんの笑顔を思い出せ…………うん、最高。
『はい、問題ないです。続けますね。マスターの種族、機人族についてですが一言で言うなら、一騎当千の力を持つ、戦闘種族です。外見は人族にそっくりなのですが、その内部はまるで違います。魔導機械で体のほとんどを形成されているため、頑丈かつパワフルな身体になっております。ですが、その身体を維持するためのエネルギーも、他の種族より必要となります』
うん? エネルギー? それ以外にも聞きなれない言葉が出てきたが……要するに人間やめたってことだな。
そういうことにしよう。考えるのが面倒だ。
あ、ちなみに途中から立ち止まって聞いている。わからないことだらけだし、集中して聞くために。
『その必要なエネルギーというのはどの種族の体内に絶対と言っていいほどに存在しているエネルギー……つまりは『魔力』です。機人は魔力で動いていると言っても過言ではありません。そのため、魔力を補充するには定期的な栄養摂取と定期的な休息が必要なのです』
……栄養摂取と休息?
「それってつまり〜……食事して、寝たらいいのか?」
『はい、その通りです』
いやいや、人としての常識だよ。普通の人間も食べないと生きてけないし、睡眠も必須だ。極々当たり前のことだな。
なんだなんだ。ただ体が機械なだけで(化け物スペック)ほとんど人間と生態は変わらないってことか?……それだと安心だな。
『そのため、機人族のエネルギーである魔力は大量に必要なのです。全力で戦闘するときは膨大な魔力が必要になるため、他の種族より魔力の保有量が圧倒的に多いのも特徴です。ただ一つ、欠点をあげるとすれば『魔法』が使えないことですね。なぜ使えないのかは長年判明しておりませんが、憶測としては体の構造上の問題と言われ続けています』
「ありがとう。なんとなく理解できた」
俺が如何に他の種族よりも変な種族ってことがな! 聞き逃さなかったぞ、一騎当千。……もう知らん。
『どういたしまして。更に詳しく聞きたいのならもっと奥に潜りますがどうしますか?』
「いや、いいよ。……ああ、一つだけ気になったことがある。魔導機械ってなに?」
俺は思い出すかの様に問う。
……え? 魔法? いやいや、だいたい想像つくから聞かなくてもね。
どうせ手から火が出せるとか、傷が治る光が出るとかとかそんなんだろ。知ってるよ。
それより魔導機械の事が気になる。俺の体がほとんどそれで出来てるらしいからな。重要なところだろう。
『では。……魔導機械とは、主に魔導兵器や魔導武器など、強力な武装に使用される核です。それ以外にも日用品に利用されていたり幅広く使われています。……尤も、この時代ではどうなっているかわかりませんが。そして、その核の原本を作ったのが機人族の神ーー機神さまと言われています。幅広く使われている魔導機械のほとんどが原初の魔導機械、原初機械の劣化コピーと言われています。原初機械より性能はかなり劣りますが、コピーでも十分な性能があるため、量産されさまざまな分野で利用されています』
……なるほど、つまりどの魔導道具も魔導武器も全部魔導機械が無いとダメって事か?
核になるってことはそれだけ重要な働きをしてるんだろうな。
けど、ほとんどってことはコピーじゃないのもあるのか?
そこだけ気になった俺は質問してみた。
「原初機械以外にもあるのか? コピーより能力が高いのは」
『はい、その通りです。機人族の研究者たちが集まって作成した魔導機械。六式魔導機械と呼ばれるものがあります。作られた数は六つ。そのどれもがコピー品より性能が高く優秀。そして、それらの魔導機械は大抵は強力な兵器に使われたり、自分自身の体に組み込み戦闘能力を大幅に向上させるなどの方法で利用されています。ちなみに、先ほどマスターの体をスキャンした結果、マスターの体内にも六式魔導機械が組み込まれているようですね』
「うぇ。マジか」
つい自分の体を見てしまう。どこに組み込まれてるんだろう。大事な部位っぽいし、心臓の位置とかかな? 流石に安直すぎるか。
ていうかその説明を聞くとますます不思議になってくるな。なんで死んだ後にこの体に転生したんだ?
誰かの意思で転生したのか?
……強いて言うなら、あの暗闇にいた光の球体くらいだろうが。
疑問が次々と生まれるが、流石にその疑問にはメアリーも答えられないだろう。
「……」
なんか途中からめちゃくちゃ詳しく話されたな。
まぁ楽しそうに話してた気がするし、俺もある程度自分の種族の事がわかったし、万々歳だな。
『魔導機械についてはもうよろしいですか?』
伺うように俺に尋ねてきたメアリー。
……うん、まぁ今聞きたいことはこんなもんだな。
「ああ、もういいよ。ありがとうメアリー」
『はい、どういたしまして』
よし。詳しいことも聞けたし歩くの再開するか。走ってもいいんだが、さっきから腹の音が収まらない。
エネルギーが魔力と言ってたし、その魔力が栄養で補われてるならあんまり走らない方がいいよな、多分。無駄にエネルギー消費しそうだしな。多分。
そうなると、また一つ気になることができた。歩きながらでいいか、簡単な質問だし。
「なぁメアリー。エネルギーが無くなったら俺の体ってどうなるの?」
『死にます』
「え?! 死ぬの!?」
……即答かよ!?
なにか食べ物はないのか…!!
辺りを見渡すが、見渡すばかりの平原だな。
……うん、草しか生えてねぇ!!
そして、腹の虫がまた一つ泣く。
……俺のエネルギー、持つかな。
『あ、すいません。言い間違えました。エネルギーが無くなるとマスターの体は休止状態になります。人間でいうところの仮死状態ですね』
「なんだ仮死状態か……」
……いやいやそれでもダメだよな?
こんな魔物が蔓延ってる? 世界で無防備を晒すなんて……。自殺にも等しいよ!
「おーけー。ならできるだけ急いで町に歩いていこう」
『はい、マスター』
俺はそう言うと早歩きになって町に向かっていく。
持ってくれ! 俺のエネルギー!
必死な形相で歩いている俺を他人が見たら通報待った無しだ。
――後に判明するのだが、歩くのも走るのも一定の速度を超えなければエネルギーの消費はないらしい。
それを聞いたのは、町になんとか入れてからだった。うん、もっと早く聞きたかったな、それ。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。
追記:機人族の見た目はほとんど人族です。
2019 十月五日 加筆や修正しました!




